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俺にしか分からない似た者兄弟

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ネザメの自宅だというとても大きな豪邸に気圧されながらも、ミフユの叔父だという執事風の男の後を着いていく。本当に踏んでいいのかと疑う上等な玄関用絨毯を越えてスリッパを履き、セイカの方を振り向く。

「来客用の車椅子に用意がございます」

「だってさセイカ、使わせてもらうか?」

「ぁ……は、はいっ、お願いします」

世話を焼き過ぎてもセイカのプライドを傷付けるかと、それとなく手を差し伸べるのに留めた。するとセイカは俺の手を掴んで立ち上がり、俺の胸に頭を寄せた。

「よろけたか? 大丈夫か?」

「…………何でもない」

俺の手を離し、覚束無い歩き方ながらも用意された車椅子に腰を下ろした。

(……まさか今甘えてくれてたんですかな!? うぁああ失敗した失敗した失敗した失敗した)

対応ミスを後悔しつつセイカの車椅子を押していく。もう他人の目がないからかセイカは身体を丸めず背もたれをしっかり活用している。

「あ、叔父様」

ミフユの叔父に案内されていると廊下の向こう側からミフユがやってきた。

「鳴雷様と狭雲様が到着なされました。客間までご案内しています」

「はっ、お客様の一人が空腹を訴え続けているので、軽食をお作りしようかと……しかし到着なされたのであれば昼食を持っていくべきですね」

二人は手短に現在の仕事を伝え合った。

「交代しましょう。私が昼食をお持ちします、ミフユは案内を」

「はっ! では鳴雷一年生、自分に着いてくるように」

ミフユの叔父が踵を返した。他人の顔が見えなくなると俺は少し安心して、先程までより深く息を吸えるようになった。

「さっきぶりですね、ミフユさん。あのー……空腹を訴え続けている客ってまさか」

「鳥待一年生だ。彼奴は優等生に擬態するのが好きなようだが、詰めが甘いな」

「いやホントその通りで……」

ミフユに案内された先は俺の自宅のリビングの三倍はある広い部屋だ。今は当然使われていないが暖炉がある。二人がけのソファがいくつかあり、俺の彼氏達はそれに腰掛けている。ハル以外は制服のままだった。

「いらっしゃい、鳴雷くん、狭雲くん。秋風くんに木芽くん」

「こんにちは、ネザメさん」

「……こんにちは」

「こんにちはっす」

「я хочу жить здесь」

ミフユに誘導され、空いているソファに腰を下ろす。二人がけのソファの隣にはレイが嬉しそうに座り、俺達が座ったソファの隣にセイカが座った車椅子が並べられた。

「秋風、貴様はネザメ様の隣に……」

《一緒に座ろうぜスェカーチカ》

アキはセイカを軽々と抱き上げて空いているソファに座らせ、アキ自身はその隣に座った。テディベアを抱いたまま呆然としているセイカをアキはニコニコと笑顔で眺めている。

「あぁ……秋風くん」

残念そうに眉尻を下げたネザメの隣に気まずそうにミフユが座った。

「自分の叔父が昼食を用意している。暫し待て」

「やったーご飯! あ、ねぇみっつん、うたさんは?」

「大学終わったら来るってさ、昼過ぎになるかな」

「水月もこのめんも歌見の兄さんも居らんで本屋大丈夫なん?」

「他にもバイト居るらしいし大丈夫だろ」

思えばあのサイズの店でバイトを何人も雇っているというのも不思議な話だが。

「……しかしハル、本当に帰ったんだな」

「可愛い服着なきゃやる気出ないも~ん」

「ならば学校ではやる気を出せないということか?」

「髪型とメイクでギリ保ってる感じ~。最近プール始まってそれも制限されちゃってるから、マジ無理、ぜ~んぜんやる気出ない」

「はぁ……嘆かわしい」

「そう言わないの、ミフユ。大事なことだよ、ミフユだって僕の髪を上手く整えられない日は調子が悪いだろう?」

ミフユ自身の髪型ではなく、ネザメの髪型なのか。ネザメは毎朝ミフユに髪を整えてもらっているのか。何それ萌える。

「そ、それは、ミフユはいつもネザメ様を見ていますから、上手く出来なかった結果が常に目に入る訳で……霞染一年生はよく見る訳でもない自分の姿を気にしているんです、ミフユとは違います」

「はいはいじゃあ多数決ぅ~、俺と一緒で髪型失敗した日やる気出ない人~?」

俺を含めて誰も手を上げない。

「……なんでなんでなんで~!? みんなそんな髪気にしてないの!? 寝癖とかぁ!」

「気にしてへん」

「寝癖なんてブラシ通せば治るでしょう」

「しゅー髪質ガチャの勝者だったんだ~……みっつんは? みっつん前はよく髪型変えてたしこだわりあるんでしょ~?」

髪型をよく変えていたのは母が色々と教えてくれていたからで、最近はワックスを使うことすらしていない。

「そういや水月最近髪の毛ふわふわしとんなぁ」

「あー……俺も別に気にしてないかなぁ、どんな髪型でもどんな服装でもこの顔なら問題ないだろ?」

「…………このめんは~?」

小ボケが無視された。これじゃただのナルシストだ。

「俺外出ないっすし、出る時はフード被るっすし、寝癖つけたままにしてたらせんぱいが可愛いって言ってくれるっすから……」

豪邸の中に居るからか今はフードを脱いでいるが、バイト帰りの道やスーパーなどでは常にフードを被っている。俺にはフード萌えもあるのでありがたい。

「はぁ~!? 俺毎朝頑張って治してるのにぃ~! 努力と釣り合ってないのよくないよみっつん!」

「自分はよぉ髪型褒められとるやんけ」

「ぅ~……せーかは入院中だし髪型とか気にしてないよね~?」

「ぁ、うん……してない」

「だよね~。アキくんは~?」

名前を呼ばれたことには気付いたようだが、俺達の今までの会話は聞き取れていなかったらしく、アキは首を傾げている。

《髪型とか服、やる気に影響あるか? って聞いてる》

《ねぇな、どんな髪型でもどんな服装でも俺が超絶美少年なのは変わらねぇから……》

「気にしないってさ」

気にしないと言うだけにしては長かった気がするが、気のせいか?

「えっ、今……狭雲くん、君まさかロシア語が分かるのかい?」

「へっ? ぁ、はい、あの、最近勉強してて、少し」

「へぇ……! すごいねぇ。ふふ、今日は通訳を頼むことになってしまいそうだ、よろしく頼むよ」

「…………あぁ、任せろ」

セイカは一瞬ぽかんとした後、嬉しそうに頷いた。頼られるのが嬉しいのだろうか? 居場所があると安心するとか?

(ふぅむ……わたくしもただ可愛がるだけってのはやめて、何か役割を与えて「頼れる」とか「助かる」とか言って差し上げた方がよろしいのでしょうか)

セイカの長所と言えばその頭脳だ。吸収、理解、応用、教授のコツが分かっている。どの教科もそつなくこなせる彼はテスト勉強の助っ人として最適だ、まずはそう頼らせてもらおう。
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