516 / 2,013
お見舞いお開き
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俺は彼ら全員を平等に愛する超絶美形、ぼっちになんてなりようのない存在のはずだ。それなのに今俺は誰とも話しておらず、リュウとハル、アキとセイカという二つの小さなグループが完成している。
(キモオタの限界と言ったところでしょうか)
話しかければ会話に入れてもらえるだろう。きっと歓迎してくれるし、五人で話そうと提案しても上手くいく。俺は超絶美形で彼らの彼氏だから。でも、声が出ない。それがキモオタ虐められっ子というものだ。
ぼっちになっていると意識してすぐはとても悲しい気持ちになっていたけれど、推しカプの傍の壁になりたいと願うタイプのオタクなのですぐに眺める楽しさに順応した。
(でゅふふっ、皆様かわゆいですなぁ~。ふひひひっ)
おっとヨダレが。
「あ、ねぇねぇみっつーん。みっつんどう思う~?」
壁に擬態して身動きを取っていなかったが、唾液が垂れてしまったので口元を手で拭うとハルがこちらを向いた。
「あー、やっぱり彼シャツなら上から下までボタンがあるヤツがいいよ。ボタンなしのTシャツでシャツワンピみたいなのもいいけど、正統派はやっぱりスーツの下に着るちゃんとしたシャツだな」
会話をずっと眺めていたので参加はスムーズに出来る。
「彼氏の仕事着こっそり着ちゃうのが可愛いってのもあるんだもんね~」
「そういうんは普段スーツなんか着ぃへん女の子を対象としたもんとちゃうのん。俺らが水月のシャツ着たところでいつもとさして変わらんで、白シャツは制服やねんから」
「いつもの制服がサイズ合ってないのって可愛くな~い?」
「中学ん時に居ったやろ、背ぇ伸びるから言うてダッボダボの制服買うてもろたチビ。あれ思い出すわ」
《みんな何の話してんの?》
《……さっき言ったフェチの話》
彼シャツ談義は想像以上に白熱し、勉強会どころかセイカとろくに会話が出来ないまま面会時間が終わってしまった。
「お邪魔しました~」
「ほな帰るわな。また明日な、せーか」
「またなー、です」
「今日はあんまり話せなくてごめんな」
手を振って病室を出ていく三人にあえて遅れ、セイカの頬と頭を撫でながら唇を重ねた。初対面の頃からあった唇の裂傷は塞がっており、触れると違和感があるものの簡単に裂けて血が溢れたりはしなさそうだった。
「…………唇、ガサガサだろ。他の彼氏と違って……俺とキスしたって、いいことないだろ」
目に涙を浮かべたセイカの唇を唇で噛む。二度目のキスに驚いたのか一瞬身体が跳ねたが、ゆっくりと目を閉じて俺の舌を受け入れてくれた。
「んっ……ん、ふ……ん、んん……」
両手で顔を包み、口内を丹念に舐め回す。左右の頬の内側の柔らかい粘膜にずりずりと舌を擦り付け、目を閉じているセイカの睫毛の震えを愛でながら舌を上顎へと移す。手前から奥へと舌を進めてやるとセイカは僅かに身体を反らし、呼吸を荒く変えていった。
「可愛い……唇気になるならリップあげるよ、使いかけでよければ」
目を開けたセイカにリップを握らせてやり、ベッドを降りた。キスの余韻に浸ってくれているのか、セイカは少しボーッとした様子だ。
「明日の勉強会で会えるの楽しみにしてるよ」
「……うん」
病室を出て、待ってくれていた彼氏達と合流する。エレベーターへ向かう途中、すっかり顔見知りとなった看護師を見つけて声をかけた。
「すいません、セイカのことなんですけど……明日ちょっと一緒に出かけたいんですけど、申請って出来ますか? セイカ、外出とか出来るんですかね、体調的に」
「外出ですね。一時間以内ならスタッフステーションで札を、一時間以上なら手続きが必要です。彼なら問題なく通ると思いますよ」
「ありがとうございます。手続きっていつまでにとかあります?」
「当日の午前までです。セイカ様に申請書を渡しておきますね」
「ありがとうございます!」
看護師との話を終えて四人でエレベーターに乗る。何となく上を見ていると、ハルが口を開いた。
「仲良さそうだったね~。ナースって男人気高そうな感じだけど~……みっつんはどうなのかな~」
「うーん、俺頭あんまりよくないし、人の命預かる仕事は向いてないと思うんだよなぁ」
「……はぁ?」
「えっ?」
不思議な沈黙を終わらせる鐘のようにポーンと電子音が鳴り、エレベーターの扉が開いた。
「着いたで」
「あ、あぁ、うん……ハル、俺なんか変なこと言ったかな」
「なんか話通じてない気がする~……」
「……ハルがさっきのナースさんと水月が仲良うしてんのヤキモチ焼いとって、それを水月がハルに将来ナース目指しとんのかって聞かれとる思て返事した、っちゅうことやろ?」
俺とハルはほぼ同時に「おぉ~……」とリュウを賞賛する声を漏らした。
「って、別に俺ヤキモチ焼いてた訳じゃないし! ていうかみっつん、ナース男人気高そうって言われて普通憧れの職業の話って思う!?」
「お、女の人を恋愛対象に入れる発想がなかったんだよ!」
「現国100点取れても会話はままならんもんやねぇ」
リュウはハルの少し前を後ろを向いて歩きながら、人の神経を逆撫でする笑顔を浮かべた。
「今のはみっつんがおかしいの!」
「ごめんなハルぅ……」
「いいよもぉ、こっちがバカみたいだし……逆に安心したから」
「好きな人出来たらちゃんとみんなに言うぞ? 最初の頃ハルに怒られちゃったからな、もう懲りてるよ」
「そうじゃなくてさ……女の子と付き合えたらもう、俺らいらないじゃん。結婚とか、子供とか、アレだし」
「…………俺はみんなと添い遂げる気でいるよ。可愛い男の子じゃなきゃ勃たないしな!」
「勃つとか大声で言わないでよ恥ずかしい!」
頬を僅かに赤らめて俺を叱るハルの表情には確かに安心が紛れていた。
(キモオタの限界と言ったところでしょうか)
話しかければ会話に入れてもらえるだろう。きっと歓迎してくれるし、五人で話そうと提案しても上手くいく。俺は超絶美形で彼らの彼氏だから。でも、声が出ない。それがキモオタ虐められっ子というものだ。
ぼっちになっていると意識してすぐはとても悲しい気持ちになっていたけれど、推しカプの傍の壁になりたいと願うタイプのオタクなのですぐに眺める楽しさに順応した。
(でゅふふっ、皆様かわゆいですなぁ~。ふひひひっ)
おっとヨダレが。
「あ、ねぇねぇみっつーん。みっつんどう思う~?」
壁に擬態して身動きを取っていなかったが、唾液が垂れてしまったので口元を手で拭うとハルがこちらを向いた。
「あー、やっぱり彼シャツなら上から下までボタンがあるヤツがいいよ。ボタンなしのTシャツでシャツワンピみたいなのもいいけど、正統派はやっぱりスーツの下に着るちゃんとしたシャツだな」
会話をずっと眺めていたので参加はスムーズに出来る。
「彼氏の仕事着こっそり着ちゃうのが可愛いってのもあるんだもんね~」
「そういうんは普段スーツなんか着ぃへん女の子を対象としたもんとちゃうのん。俺らが水月のシャツ着たところでいつもとさして変わらんで、白シャツは制服やねんから」
「いつもの制服がサイズ合ってないのって可愛くな~い?」
「中学ん時に居ったやろ、背ぇ伸びるから言うてダッボダボの制服買うてもろたチビ。あれ思い出すわ」
《みんな何の話してんの?》
《……さっき言ったフェチの話》
彼シャツ談義は想像以上に白熱し、勉強会どころかセイカとろくに会話が出来ないまま面会時間が終わってしまった。
「お邪魔しました~」
「ほな帰るわな。また明日な、せーか」
「またなー、です」
「今日はあんまり話せなくてごめんな」
手を振って病室を出ていく三人にあえて遅れ、セイカの頬と頭を撫でながら唇を重ねた。初対面の頃からあった唇の裂傷は塞がっており、触れると違和感があるものの簡単に裂けて血が溢れたりはしなさそうだった。
「…………唇、ガサガサだろ。他の彼氏と違って……俺とキスしたって、いいことないだろ」
目に涙を浮かべたセイカの唇を唇で噛む。二度目のキスに驚いたのか一瞬身体が跳ねたが、ゆっくりと目を閉じて俺の舌を受け入れてくれた。
「んっ……ん、ふ……ん、んん……」
両手で顔を包み、口内を丹念に舐め回す。左右の頬の内側の柔らかい粘膜にずりずりと舌を擦り付け、目を閉じているセイカの睫毛の震えを愛でながら舌を上顎へと移す。手前から奥へと舌を進めてやるとセイカは僅かに身体を反らし、呼吸を荒く変えていった。
「可愛い……唇気になるならリップあげるよ、使いかけでよければ」
目を開けたセイカにリップを握らせてやり、ベッドを降りた。キスの余韻に浸ってくれているのか、セイカは少しボーッとした様子だ。
「明日の勉強会で会えるの楽しみにしてるよ」
「……うん」
病室を出て、待ってくれていた彼氏達と合流する。エレベーターへ向かう途中、すっかり顔見知りとなった看護師を見つけて声をかけた。
「すいません、セイカのことなんですけど……明日ちょっと一緒に出かけたいんですけど、申請って出来ますか? セイカ、外出とか出来るんですかね、体調的に」
「外出ですね。一時間以内ならスタッフステーションで札を、一時間以上なら手続きが必要です。彼なら問題なく通ると思いますよ」
「ありがとうございます。手続きっていつまでにとかあります?」
「当日の午前までです。セイカ様に申請書を渡しておきますね」
「ありがとうございます!」
看護師との話を終えて四人でエレベーターに乗る。何となく上を見ていると、ハルが口を開いた。
「仲良さそうだったね~。ナースって男人気高そうな感じだけど~……みっつんはどうなのかな~」
「うーん、俺頭あんまりよくないし、人の命預かる仕事は向いてないと思うんだよなぁ」
「……はぁ?」
「えっ?」
不思議な沈黙を終わらせる鐘のようにポーンと電子音が鳴り、エレベーターの扉が開いた。
「着いたで」
「あ、あぁ、うん……ハル、俺なんか変なこと言ったかな」
「なんか話通じてない気がする~……」
「……ハルがさっきのナースさんと水月が仲良うしてんのヤキモチ焼いとって、それを水月がハルに将来ナース目指しとんのかって聞かれとる思て返事した、っちゅうことやろ?」
俺とハルはほぼ同時に「おぉ~……」とリュウを賞賛する声を漏らした。
「って、別に俺ヤキモチ焼いてた訳じゃないし! ていうかみっつん、ナース男人気高そうって言われて普通憧れの職業の話って思う!?」
「お、女の人を恋愛対象に入れる発想がなかったんだよ!」
「現国100点取れても会話はままならんもんやねぇ」
リュウはハルの少し前を後ろを向いて歩きながら、人の神経を逆撫でする笑顔を浮かべた。
「今のはみっつんがおかしいの!」
「ごめんなハルぅ……」
「いいよもぉ、こっちがバカみたいだし……逆に安心したから」
「好きな人出来たらちゃんとみんなに言うぞ? 最初の頃ハルに怒られちゃったからな、もう懲りてるよ」
「そうじゃなくてさ……女の子と付き合えたらもう、俺らいらないじゃん。結婚とか、子供とか、アレだし」
「…………俺はみんなと添い遂げる気でいるよ。可愛い男の子じゃなきゃ勃たないしな!」
「勃つとか大声で言わないでよ恥ずかしい!」
頬を僅かに赤らめて俺を叱るハルの表情には確かに安心が紛れていた。
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