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大好きな香りと共に
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たった今脱いで渡したブロッキングシャツは長袖でボタンを止めるタイプの服だ、隻腕のセイカには着るのは難しいだろうと思うのだが、実際どうなのだろう──
「……え」
──と思って見ていたらセイカはテディベアにシャツを着せ始めた。
「Симпатичная……!」
暇そうにしていたアキが何かを呟く。セイカはそれに反応することなくボタンを二つだけ留めてテディベアの着せ替えを完了し、それを愛おしそうに抱き締めた。
「可愛い……!」
色々と言いたいことはあるが、とりあえずはこのセリフだ。
「…………お前らホント兄弟だな」
「えっ?」
「同じこと言っただろ。意味分かんねぇ、俺なんか見て可愛い可愛いって……帰りに眼鏡屋行けよ」
いや、テディベアに服を着せて抱き締めるのはあざと過ぎる行動だと思うが……アレが天然? 日々必死に可愛い仕草を学ぶ全国の恋活女子に謝れ。
「アキ、同じこと言ってたんだ……はは、だよなぁ、可愛いよなぁ」
「おかしいんだよ鳴雷は。こんな可愛い彼氏が居るくせに俺なんかに構って」
「えっ俺? 可愛いって俺?」
「こんなツヤッツヤの髪して、顔色も良くて、爪の先まで綺麗に手入れしてて……生まれ持った美貌に胡座かかずに努力してるのが伝わってくるぜ」
「えへへ~……ありがと~。毎日頑張ってま~す」
多少照れながらも謙遜すらしないハルは素直で可愛い。俺の彼氏はみんな可愛い。
「天正も、前に来た紅葉や年積ってヤツも、当然秋風も、みんなみんなめちゃくちゃ美人で健康そうで性格良さそうだ。あんな連中はべらせてるくせになんで俺まで……いらないだろ俺なんか、汚いの持ってないから物珍しいだけだろ、すぐ飽きるんだ、やっぱ綺麗なのがいいってなるに決まってる」
ブツブツと呟きながらセイカはテディベアを強く抱き締める。ハルは俺を急かすような目で見ている、早く慰めろと言いたいのだろう。
「…………昨日言ってくれたこと、本気?」
長い沈黙の後、セイカが不意にそう言った。俺はベッドに乗ってセイカの肩を抱き、頭皮にキスをするように囁いた。
「あぁ、本気だよ。一生俺の傍に居てくれ、幸せにしてみせる」
「………………信じてみる」
「ありがとう、愛してるよ」
「……僻んで、ごめんなさい」
「大丈夫、そういうところも可愛いよ。もちろんセイカがそれで苦しむのは嫌だから、少しずつ治していこうな」
セイカは小さく頷いた後、俺に擦り寄って静かに泣き始めた。震える肩をさすり続けてやると少し落ち着いて、涙を拭かせてくれた。
「鳴雷……」
「ん?」
「…………いつも、寂しい。から……服、着たヤツっ、を……あの」
「俺が着た服もっと欲しいのか? ふふ……可愛いなぁセイカは。分かった、学校に着ていった肌着アキに持たせる……でいいかな?」
「……ごめんなさい、手間かけてばっかりで」
「ありがとうって言ってくれよ」
セイカは僅かに目を見開いた後、不思議そうな顔をしながらも拙く「ありがとう」と呟いた。
「水月ぃ、俺パンツ欲しい。駅での別れ際にちょーだいや」
「ノーパンでバイトしろってのかよ」
「ちゃんと次の日洗って返したるから。最初の日ぃは替え持ってきといて、次の日からは俺が洗ってきたヤツ替えにしたらええわ」
「…………いや、嫌だよ。俺のパンツで何するんだよ」
「そらナニすんねんやがな、言わせんなや」
犬の寝床を飼い主の服で作るという話を思い出し、リュウにしようとしてやっぱりやめた。その妙な無言の時間を不思議に思ったらしくリュウはニヤニヤ笑いをやめて俺を見つめた。
「……? ぁ、なぁ、ハルは何か貰えるんやったら何欲しい?」
「みっつんの服ぅ? えー、別に欲しくない……あ、でも彼シャツやってみたいかな~。ブカブカの服着てさぁ、萌え袖~みたいな~。みっつんそんな俺見たらキュンとしちゃう~?」
「しちゃう~!」
「えへへっ、でも一個問題があるんだよね。かなり重大なヤツ」
「なんや?」
「俺とみっつん身長十センチくらいしか変わんないこと。体格はかなり違うんだけど~……そこまでキッチリ身体に合った服買わないっしょ? 俺らが買ってる服、サイズはほとんど同じだと思うんだよね~」
ハルが持っているのは女性物ばかりじゃないか、とは言わないでおこう。
《みんな何話してんの?》
《……お前の兄貴の服を着てみたいって言ってる》
《へー、なんで?》
《自分より背の低い恋人が自分の服を着てると興奮する、っていうフェチがあるらしい》
《ふぅん……? よく分かんねぇけど、帰ったら試してみるかな。ありがとよスェカーチカ》
せっかくお見舞いに来ているのだからリュウとハルばかりで話さずセイカと話そう……と二人に伝えようとしたが、伝える前にセイカがアキとロシア語で話し始めた。
《…………前から聞きたかったんだけどさ、秋風はなんで俺のことスェカーチカって、その……可愛い呼び方するんだ?》
《スェカーチカが可愛いから》
《……俺の何が可愛いんだよ》
《ぬいぐるみ抱き締めてるのって超可愛くね? 見てると胸がきゅってなんだよ》
《………………それだけ?》
《おぅ》
《……秋風は聞けば分かるからいいな。鳴雷は理解不能の変態だから困る》
よく聞くとアキがいつもよりゆっくり話している気がする。セイカが聞き取りやすいようにしているのだろうか? 気遣いが出来る弟でお兄ちゃん嬉しい。
「しぐとかだったらいい感じに可愛いかも。あとフユさん」
「ちっこい子ぉらな。俺も170はないねんけど……」
「うーん……りゅーはなんかちっちゃくて可愛いって言うか、チビで不格好って感じだからなぁ~」
「なんちゅうこと言うねん」
リュウとハルにセイカと仲良くなって欲しかったのだが、元々仲のいい二人同士で話し込んでしまっている。まぁ、無理強いはよくない。明日の勉強会にセイカも着てくれるらしいし、それに期待しよう。
──という思考が終わると暇になった。あれ? もしかして今寂しいぼっちなのって俺なのか?
「……え」
──と思って見ていたらセイカはテディベアにシャツを着せ始めた。
「Симпатичная……!」
暇そうにしていたアキが何かを呟く。セイカはそれに反応することなくボタンを二つだけ留めてテディベアの着せ替えを完了し、それを愛おしそうに抱き締めた。
「可愛い……!」
色々と言いたいことはあるが、とりあえずはこのセリフだ。
「…………お前らホント兄弟だな」
「えっ?」
「同じこと言っただろ。意味分かんねぇ、俺なんか見て可愛い可愛いって……帰りに眼鏡屋行けよ」
いや、テディベアに服を着せて抱き締めるのはあざと過ぎる行動だと思うが……アレが天然? 日々必死に可愛い仕草を学ぶ全国の恋活女子に謝れ。
「アキ、同じこと言ってたんだ……はは、だよなぁ、可愛いよなぁ」
「おかしいんだよ鳴雷は。こんな可愛い彼氏が居るくせに俺なんかに構って」
「えっ俺? 可愛いって俺?」
「こんなツヤッツヤの髪して、顔色も良くて、爪の先まで綺麗に手入れしてて……生まれ持った美貌に胡座かかずに努力してるのが伝わってくるぜ」
「えへへ~……ありがと~。毎日頑張ってま~す」
多少照れながらも謙遜すらしないハルは素直で可愛い。俺の彼氏はみんな可愛い。
「天正も、前に来た紅葉や年積ってヤツも、当然秋風も、みんなみんなめちゃくちゃ美人で健康そうで性格良さそうだ。あんな連中はべらせてるくせになんで俺まで……いらないだろ俺なんか、汚いの持ってないから物珍しいだけだろ、すぐ飽きるんだ、やっぱ綺麗なのがいいってなるに決まってる」
ブツブツと呟きながらセイカはテディベアを強く抱き締める。ハルは俺を急かすような目で見ている、早く慰めろと言いたいのだろう。
「…………昨日言ってくれたこと、本気?」
長い沈黙の後、セイカが不意にそう言った。俺はベッドに乗ってセイカの肩を抱き、頭皮にキスをするように囁いた。
「あぁ、本気だよ。一生俺の傍に居てくれ、幸せにしてみせる」
「………………信じてみる」
「ありがとう、愛してるよ」
「……僻んで、ごめんなさい」
「大丈夫、そういうところも可愛いよ。もちろんセイカがそれで苦しむのは嫌だから、少しずつ治していこうな」
セイカは小さく頷いた後、俺に擦り寄って静かに泣き始めた。震える肩をさすり続けてやると少し落ち着いて、涙を拭かせてくれた。
「鳴雷……」
「ん?」
「…………いつも、寂しい。から……服、着たヤツっ、を……あの」
「俺が着た服もっと欲しいのか? ふふ……可愛いなぁセイカは。分かった、学校に着ていった肌着アキに持たせる……でいいかな?」
「……ごめんなさい、手間かけてばっかりで」
「ありがとうって言ってくれよ」
セイカは僅かに目を見開いた後、不思議そうな顔をしながらも拙く「ありがとう」と呟いた。
「水月ぃ、俺パンツ欲しい。駅での別れ際にちょーだいや」
「ノーパンでバイトしろってのかよ」
「ちゃんと次の日洗って返したるから。最初の日ぃは替え持ってきといて、次の日からは俺が洗ってきたヤツ替えにしたらええわ」
「…………いや、嫌だよ。俺のパンツで何するんだよ」
「そらナニすんねんやがな、言わせんなや」
犬の寝床を飼い主の服で作るという話を思い出し、リュウにしようとしてやっぱりやめた。その妙な無言の時間を不思議に思ったらしくリュウはニヤニヤ笑いをやめて俺を見つめた。
「……? ぁ、なぁ、ハルは何か貰えるんやったら何欲しい?」
「みっつんの服ぅ? えー、別に欲しくない……あ、でも彼シャツやってみたいかな~。ブカブカの服着てさぁ、萌え袖~みたいな~。みっつんそんな俺見たらキュンとしちゃう~?」
「しちゃう~!」
「えへへっ、でも一個問題があるんだよね。かなり重大なヤツ」
「なんや?」
「俺とみっつん身長十センチくらいしか変わんないこと。体格はかなり違うんだけど~……そこまでキッチリ身体に合った服買わないっしょ? 俺らが買ってる服、サイズはほとんど同じだと思うんだよね~」
ハルが持っているのは女性物ばかりじゃないか、とは言わないでおこう。
《みんな何話してんの?》
《……お前の兄貴の服を着てみたいって言ってる》
《へー、なんで?》
《自分より背の低い恋人が自分の服を着てると興奮する、っていうフェチがあるらしい》
《ふぅん……? よく分かんねぇけど、帰ったら試してみるかな。ありがとよスェカーチカ》
せっかくお見舞いに来ているのだからリュウとハルばかりで話さずセイカと話そう……と二人に伝えようとしたが、伝える前にセイカがアキとロシア語で話し始めた。
《…………前から聞きたかったんだけどさ、秋風はなんで俺のことスェカーチカって、その……可愛い呼び方するんだ?》
《スェカーチカが可愛いから》
《……俺の何が可愛いんだよ》
《ぬいぐるみ抱き締めてるのって超可愛くね? 見てると胸がきゅってなんだよ》
《………………それだけ?》
《おぅ》
《……秋風は聞けば分かるからいいな。鳴雷は理解不能の変態だから困る》
よく聞くとアキがいつもよりゆっくり話している気がする。セイカが聞き取りやすいようにしているのだろうか? 気遣いが出来る弟でお兄ちゃん嬉しい。
「しぐとかだったらいい感じに可愛いかも。あとフユさん」
「ちっこい子ぉらな。俺も170はないねんけど……」
「うーん……りゅーはなんかちっちゃくて可愛いって言うか、チビで不格好って感じだからなぁ~」
「なんちゅうこと言うねん」
リュウとハルにセイカと仲良くなって欲しかったのだが、元々仲のいい二人同士で話し込んでしまっている。まぁ、無理強いはよくない。明日の勉強会にセイカも着てくれるらしいし、それに期待しよう。
──という思考が終わると暇になった。あれ? もしかして今寂しいぼっちなのって俺なのか?
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