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心の機能回復の兆し
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美味しいそうめんを食べ終えて食器を片付け、キッチンを覗いていたアキの頬をつつく。
「終わったよ、どうしたんだ? アキぃ」
「にーに……」
「ん?」
あまり元気がないように見える。少し前に俺が居ないと痛いだの俺に依存してしまうだのと話してくれたばかりだ、今日はセイカのところへも行っていないらしいし、かなり寂しかったのだろう。
「おいで」
腕を広げるとすぐに抱きついてきてくれる。首に腕を絡めてきたアキの脇の下に腕を通して抱き返すと、彼は何かを呟いた。
《…………セイカに、来て欲しくないって言われて……今日ずっと一人で、今晩はコノメに頼んで兄貴独り占めしようと思ってたのに、彼氏連れてきて……タイミング悪ぃよ兄貴ぃ……》
日本語ではない。俺は日本語しか分からないことをアキも分かっているだろうから、独り言に近いと思われる。返事は必要ないだろう。
《しかもアイツ、シルエットが親父にちょっと似ててさぁ……他は全然違うんだけど、でも、なんか……心がザワザワする。前に会った時はそうでもなかったのに……なんで今はダメなんだろ》
「おっ、アキくん、お兄ちゃんに甘えてるのか? 可愛いなぁ……」
キッチンを覗いた歌見がアキの頭を撫でようと手を伸ばす。俺は咄嗟に左足をアキの足に巻きつけ、アキを抱き締める両腕の力を強めた。歌見の指が髪に触れた瞬間アキは素早く振り返って歌見の手首を強く掴んだ。
「……っ、す、すまない、驚かせたか? ごめんな」
「すいません先輩、アキ……死角から触られるの苦手みたいで。アキ、ほら、手ぇ離せ、なでなでしてくれるだけだぞ」
アキの手首を掴んで軽く引っ張ってみるが、アキは歌見の手を離さない。不安げな歌見の視線はアキに注がれている、俺も釣られてアキの顔を覗いてみると、アキは俺が今まで見ることのなかった顔をしていた。
「アキ……?」
目を見開いて、呼吸をブレさせて、瞳を震えさせて──怯えているのか? もしくは極度の興奮状態にも見える、エロくない意味の興奮の方の。
「отец……」
「お茶? お茶飲みたいのか?」
声を張って話しかけるとアキはハッとしたような反応を見せた後、歌見の手を離して気まずそうにダイニングに戻っていった。
「……お茶持ってくべきですかな?」
「お茶って言ってたか? 最初の文字はアに聞こえたけどな」
「ふむ……? アキきゅんお茶もジュースも全部水って言いますしなぁ」
「アチャ、いや、アチェ……うーん、小声だったし分からん、もっかい聞きたいな。っと、俺お茶もらいに来たんだ」
歌見は左手に持っていた空のコップを俺に見せた。俺はそこに氷とお茶を注ぎ、アキにもあげようかとペットボトルを持ってダイニングに向かったが、彼のコップにはまだお茶が残っていた。
(やっぱお茶じゃなかったんですな)
ペットボトルを冷蔵庫に戻し、ソファの上でレイを膝に乗せているアキの隣に座った。
「よ、レイ。いい椅子だな」
「ちょっと遠慮しちゃうっすよぉ……なのにアキくんすっごい抱き締めてきてくれて、体重かけざるを得なくてぇ……」
「アキは鍛えてるから平気だよ、レイ軽いし。な、アキ」
レイを抱き締めながら俺に微笑みかけたアキの頭を撫で、柔らかい髪の触り心地を堪能した。
「……レイ、今日アキちょっと調子悪いみたいでな、悪いけどこのまま甘えさせてやってくれるか。多分、今は俺よりレイの方がいいんだと思う」
「せんぱいより俺がいいなんてことあるんすか!? えぇー……ちょっと嬉しいっす」
最初は俺に甘えてきてくれたのだが、俺ではダメだったのか歌見に遠慮しているのか今はレイを選んでいる。ならその意思を尊重しよう、甘えさせてやるからと追い詰めるのはよくないだろう。
「アキくん、俺そろそろお風呂入りたいんすけど。おーふーろ」
「おふりょ……?」
「一緒に入るっすか?」
「おんせん、です?」
「温泉? 入浴剤入れちゃうっすか? 歌見せんぱいも来てるっすし、奮発しちゃいましょーっす」
童顔の美少年二人の絡みはいつまででも見ていられる、内一名が成人済みであることなんて些細な問題だ。
「……ちょ、アキくん? その、お尻……ひゃっ!?」
清らかな戯れだと思って見ていたけれど、アキがレイの大きめの尻を揉み、首筋に唇を這わせると二人の間に流れる空気が一変した。
「お、お風呂で……色々、したいんすか? 俺はいいっすけど、えっと……」
レイの目は俺に向いている。
「俺の顔色伺わなくていいよ、本命が俺で本番が俺だけなら彼氏同士の絡みはバンバン見せつけてくれていい。風呂場じゃ見れないけど……事後の空気感を出されるのもいいもんだ、やっちゃってくれ」
「……はい! アキくん、お風呂に持ってく玩具選びに行くっすよ」
「いくっすー」
どこまでも可愛らしい二人が去ると、ダイニングの椅子に座っていた歌見がソファに移ってきた。俺からはあえて目を逸らしているように感じる。
「……彼氏同士のを眺めるのも好きだなんて、つくづく変態だな。嫉妬とかしないのか?」
「しますぞ、本番は禁止してまそ」
「禁止するのは本番だけでいいのか……」
「ええ、それ以外なら興奮の方が勝ちますしな。家に帰るとベッドの上で彼氏達が互いの穴をほぐし合い、わたくしを見て「準備出来てるよ」「どっちから抱く?」「ぼくだよね」「俺から!」なんて言ったりして……これもハーレムの醍醐味でしょう」
「あー……まぁ、分からなくも……ない、かな」
理解してもらえて嬉しい。歌見は以前アキと絡んでいたけれど、他の子とはまだ馴染んでいないのだろうか? 話す機会の少なさや歳の差からして仕方のないことだが、少し寂しいな。
「ところでパイセン、わたくしの隣に来たということは……パイセンのぱいぱいをぱいぱいしていいということでしょうか!」
呆れた声を待っていたが、いつまで経っても返事が来ない。無視されるとはとショックを受けたが、歌見の赤くなった顔を見ればそんなショックは消えてしまった。
「パイセン?」
「……二人が風呂から出るまで、なら」
言いながらタンクトップを胸の上までめくり上げてむっちりとした胸筋を晒す。
「ああぁ……!」
日に焼けた褐色の肌は腕や首周りだけ、胴の部分はほとんどが素のペールオレンジの肌のままだ。脇の方から肉を引き寄せるように揉もうと分厚い胸筋に手を添えれば、その肌は俺の手に吸い付いてくるようだった。
「終わったよ、どうしたんだ? アキぃ」
「にーに……」
「ん?」
あまり元気がないように見える。少し前に俺が居ないと痛いだの俺に依存してしまうだのと話してくれたばかりだ、今日はセイカのところへも行っていないらしいし、かなり寂しかったのだろう。
「おいで」
腕を広げるとすぐに抱きついてきてくれる。首に腕を絡めてきたアキの脇の下に腕を通して抱き返すと、彼は何かを呟いた。
《…………セイカに、来て欲しくないって言われて……今日ずっと一人で、今晩はコノメに頼んで兄貴独り占めしようと思ってたのに、彼氏連れてきて……タイミング悪ぃよ兄貴ぃ……》
日本語ではない。俺は日本語しか分からないことをアキも分かっているだろうから、独り言に近いと思われる。返事は必要ないだろう。
《しかもアイツ、シルエットが親父にちょっと似ててさぁ……他は全然違うんだけど、でも、なんか……心がザワザワする。前に会った時はそうでもなかったのに……なんで今はダメなんだろ》
「おっ、アキくん、お兄ちゃんに甘えてるのか? 可愛いなぁ……」
キッチンを覗いた歌見がアキの頭を撫でようと手を伸ばす。俺は咄嗟に左足をアキの足に巻きつけ、アキを抱き締める両腕の力を強めた。歌見の指が髪に触れた瞬間アキは素早く振り返って歌見の手首を強く掴んだ。
「……っ、す、すまない、驚かせたか? ごめんな」
「すいません先輩、アキ……死角から触られるの苦手みたいで。アキ、ほら、手ぇ離せ、なでなでしてくれるだけだぞ」
アキの手首を掴んで軽く引っ張ってみるが、アキは歌見の手を離さない。不安げな歌見の視線はアキに注がれている、俺も釣られてアキの顔を覗いてみると、アキは俺が今まで見ることのなかった顔をしていた。
「アキ……?」
目を見開いて、呼吸をブレさせて、瞳を震えさせて──怯えているのか? もしくは極度の興奮状態にも見える、エロくない意味の興奮の方の。
「отец……」
「お茶? お茶飲みたいのか?」
声を張って話しかけるとアキはハッとしたような反応を見せた後、歌見の手を離して気まずそうにダイニングに戻っていった。
「……お茶持ってくべきですかな?」
「お茶って言ってたか? 最初の文字はアに聞こえたけどな」
「ふむ……? アキきゅんお茶もジュースも全部水って言いますしなぁ」
「アチャ、いや、アチェ……うーん、小声だったし分からん、もっかい聞きたいな。っと、俺お茶もらいに来たんだ」
歌見は左手に持っていた空のコップを俺に見せた。俺はそこに氷とお茶を注ぎ、アキにもあげようかとペットボトルを持ってダイニングに向かったが、彼のコップにはまだお茶が残っていた。
(やっぱお茶じゃなかったんですな)
ペットボトルを冷蔵庫に戻し、ソファの上でレイを膝に乗せているアキの隣に座った。
「よ、レイ。いい椅子だな」
「ちょっと遠慮しちゃうっすよぉ……なのにアキくんすっごい抱き締めてきてくれて、体重かけざるを得なくてぇ……」
「アキは鍛えてるから平気だよ、レイ軽いし。な、アキ」
レイを抱き締めながら俺に微笑みかけたアキの頭を撫で、柔らかい髪の触り心地を堪能した。
「……レイ、今日アキちょっと調子悪いみたいでな、悪いけどこのまま甘えさせてやってくれるか。多分、今は俺よりレイの方がいいんだと思う」
「せんぱいより俺がいいなんてことあるんすか!? えぇー……ちょっと嬉しいっす」
最初は俺に甘えてきてくれたのだが、俺ではダメだったのか歌見に遠慮しているのか今はレイを選んでいる。ならその意思を尊重しよう、甘えさせてやるからと追い詰めるのはよくないだろう。
「アキくん、俺そろそろお風呂入りたいんすけど。おーふーろ」
「おふりょ……?」
「一緒に入るっすか?」
「おんせん、です?」
「温泉? 入浴剤入れちゃうっすか? 歌見せんぱいも来てるっすし、奮発しちゃいましょーっす」
童顔の美少年二人の絡みはいつまででも見ていられる、内一名が成人済みであることなんて些細な問題だ。
「……ちょ、アキくん? その、お尻……ひゃっ!?」
清らかな戯れだと思って見ていたけれど、アキがレイの大きめの尻を揉み、首筋に唇を這わせると二人の間に流れる空気が一変した。
「お、お風呂で……色々、したいんすか? 俺はいいっすけど、えっと……」
レイの目は俺に向いている。
「俺の顔色伺わなくていいよ、本命が俺で本番が俺だけなら彼氏同士の絡みはバンバン見せつけてくれていい。風呂場じゃ見れないけど……事後の空気感を出されるのもいいもんだ、やっちゃってくれ」
「……はい! アキくん、お風呂に持ってく玩具選びに行くっすよ」
「いくっすー」
どこまでも可愛らしい二人が去ると、ダイニングの椅子に座っていた歌見がソファに移ってきた。俺からはあえて目を逸らしているように感じる。
「……彼氏同士のを眺めるのも好きだなんて、つくづく変態だな。嫉妬とかしないのか?」
「しますぞ、本番は禁止してまそ」
「禁止するのは本番だけでいいのか……」
「ええ、それ以外なら興奮の方が勝ちますしな。家に帰るとベッドの上で彼氏達が互いの穴をほぐし合い、わたくしを見て「準備出来てるよ」「どっちから抱く?」「ぼくだよね」「俺から!」なんて言ったりして……これもハーレムの醍醐味でしょう」
「あー……まぁ、分からなくも……ない、かな」
理解してもらえて嬉しい。歌見は以前アキと絡んでいたけれど、他の子とはまだ馴染んでいないのだろうか? 話す機会の少なさや歳の差からして仕方のないことだが、少し寂しいな。
「ところでパイセン、わたくしの隣に来たということは……パイセンのぱいぱいをぱいぱいしていいということでしょうか!」
呆れた声を待っていたが、いつまで経っても返事が来ない。無視されるとはとショックを受けたが、歌見の赤くなった顔を見ればそんなショックは消えてしまった。
「パイセン?」
「……二人が風呂から出るまで、なら」
言いながらタンクトップを胸の上までめくり上げてむっちりとした胸筋を晒す。
「ああぁ……!」
日に焼けた褐色の肌は腕や首周りだけ、胴の部分はほとんどが素のペールオレンジの肌のままだ。脇の方から肉を引き寄せるように揉もうと分厚い胸筋に手を添えれば、その肌は俺の手に吸い付いてくるようだった。
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