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そうめんにお呼ばれ
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仕事を終えても三人でバックヤードに留まる。いつもここでしばらく駄弁ってから帰っているのだ。
「ひたがいひゃいからひょうのはんぇひははぁらくもあつくもないのにひよう」
「なんて言ってるのか全然分かんないっす」
「すまん……胸にしゃぶりつかれて、つい殴ってしまって……舌を噛んだみたいなんだ」
「せんぱい、触る時はちゃんと同意を得るっすよ」
「俺は見るだけならって言ったんだ、仕事中はお触り禁止に決まってるだろ」
事情を説明した際はしゅんとしていたのに、レイが味方についた途端に強気になった。歌見のそういうところが好きだ。
「でも殴っちゃダメっすよ」
「……それは本当に悪かったと思ってる」
叱られるとまたしゅんとする。可愛い人だ。ときめきで舌の痛みも忘れてしまう。
「舌噛んじゃったんすよね? 見せてくださいっす」
「ぁー……」
口を大きく開けて舌を突き出す。急にキスでもしてくれないかなと思っていたけれど、レイは真剣な眼差しで俺の舌の具合を見てくれている。
「…………どこ噛んだか分かんないっす」
「傷にはなっていないのか? よかった」
「大袈裟っすよせんぱい」
もうほとんど治っているとはいえ肋骨にヒビが入っているし、この前アキに蹴られた腹のアザは今日のプールで隠すのが大変だった、傷跡が残っている腕の切り傷もあったな、このところ怪我が多い。しかも原因が全て彼氏関連。
「一応今日の晩ご飯は辛くないのにしましょうっす、あんまり熱いのも避けてー……んー、そうめんどうっすか?」
「めんつゆ染みないか?」
「えー……じゃあもうせんぱいはロールケーキでも食べるっすか? 俺もうそうめんの口になっちゃったっす」
「ゃ、そうめんでいいよ。あんまり辛いのとか熱いのじゃなきゃ大丈夫だと思うし」
「そうめんいいなぁ……聞いてたら食べたくなってきた、買って帰るかな……」
俺ももう夕飯はそうめん以外考えられない。
「歌見せんぱい家に来ればいいじゃないっすか。ね、せんぱい。一緒にそうめん食べるっすよ」
「いいアイディアだな、どうですか先輩」
「いいのか? じゃあお呼ばれしようかな……」
笑顔で答えていた歌見が不意に俺の目を見つめる。レイが歌見を家に呼ぶと言い出してからずっと胸を凝視していたのがバレてしまったかもしれない。
「……貞操の危機を感じる」
「何言ってんすか歌見せんぱい、泊まるってことはヤるってことっすよ」
「ま、まだ心の準備が……」
「もう何ヶ月付き合ってると思ってるんすか!」
「だって、水月はまだ十六で……手を出すのはちょっと、抵抗が」
「手ぇ出されるのは歌見せんぱいの方なんすから大丈夫っす! そもそも歌見せんぱいだってギリ未成年なんすからガタガタ言わないで欲しいっす」
流石二十三歳の言うことは違うな。
「覚悟が出来てないなら手は出しませんよ、ぱふぱふくらいはしてもらいますけど」
「……ま、まぁ、さっきのでちょっと……そういう気にもなってるし? 少しくらいなら、いいぞ」
「交渉成立ぅ! 帰るぞレイ!」
「いえっさー! っす! そうめん買って帰るっすよ~!」
レイは俺の手をぎゅっと握って走り出す。歌見が俺の鞄を拾って投げ渡す。スーパーに向かった俺達はそうめんやその薬味、めんつゆなどをカゴに入れた。
「アキくん、そうめんとか食べるのか?」
「アキくんは何でも食べるっすよ。ね、せんぱい」
「あぁ……そうだな、前に納豆出した時も平気で食べてたし」
「俺は納豆ダメなんすけどねー」
ちょうど納豆が売っている棚の前だ。俺もあまり好きなものではないし、今日は買わなくてもいいかな。
「へぇ……外国人は麺すする音嫌いって聞くけど、アレは大丈夫か?」
「俺こないだアキくんの隣でカップ麺ズルズル食べたっすけど別になんも反応なかったっすよ」
「……面倒なことになるのは嫌だが、もう少しこう……文化の違いみたいなのを、なぁ?」
歌見の言いたいことは分かる。俺もカルチャーショックとやらを受けてみたかった、アキは受けているのかな。
「アキはハーフですし、ずっと日本人のお母さんと暮らしてましたから……」
「そうか……まぁ、言葉も結構ペラペラだもんな」
なんて話しながらレイの家に帰ってきた。部屋から飛び出してきたアキは「おかえりなさいです」と可愛い言葉と共に俺を抱き締めてくれた。
「ただいま、アキ。寂しかったか? ふふふ……」
ハグをやめるとアキは次にレイを抱き締め、レイを離すと歌見を見つけた。
「うたー、の、にーさん! 久しぶりー……する、です」
「おぅ、久しぶり……なんだ? 俺にも抱きつきたいのか?」
両手を広げたアキを見て歌見は荷物を床に下ろし、ハグに応えた。アキは機嫌良さげに歌見を抱き締めて胸に頬擦りをしている。
「……可愛いなぁ。あぁ、一つあったな。こんなにハグしたがるのは外国人っぽい」
「あー……確かに。そうかもです」
「うたー、の、にーさん。ごはん食べるする、一緒するです?」
「あぁ、一緒に食べるぞ。ところでな、アキくん……その子供番組に出てそうな呼び方、何とかならないか? 歌見でいいんだがな……」
リュウが何故か歌見のことを「歌見の兄さん」と呼んでいて、アキもそれに引っ張られて「うたのにーさん」と呼ぶようになっている。
「呼ばれ方変えたいならそうお願いすれば変えてくれると思いますよ。アキに分かるようにゆっくり文節区切って言ってあげてください」
「アキくん、俺、呼ぶする……ぁー……ナナで、頼む。ナナ……」
「……?」
「…………俺、そうめん茹でてきますね~」
調理中に周りをうろちょろすることが多いアキを引き付けておいてくれるのはありがたい。俺はアキを歌見に任せ、レイと共にキッチンへ向かった。
「ひたがいひゃいからひょうのはんぇひははぁらくもあつくもないのにひよう」
「なんて言ってるのか全然分かんないっす」
「すまん……胸にしゃぶりつかれて、つい殴ってしまって……舌を噛んだみたいなんだ」
「せんぱい、触る時はちゃんと同意を得るっすよ」
「俺は見るだけならって言ったんだ、仕事中はお触り禁止に決まってるだろ」
事情を説明した際はしゅんとしていたのに、レイが味方についた途端に強気になった。歌見のそういうところが好きだ。
「でも殴っちゃダメっすよ」
「……それは本当に悪かったと思ってる」
叱られるとまたしゅんとする。可愛い人だ。ときめきで舌の痛みも忘れてしまう。
「舌噛んじゃったんすよね? 見せてくださいっす」
「ぁー……」
口を大きく開けて舌を突き出す。急にキスでもしてくれないかなと思っていたけれど、レイは真剣な眼差しで俺の舌の具合を見てくれている。
「…………どこ噛んだか分かんないっす」
「傷にはなっていないのか? よかった」
「大袈裟っすよせんぱい」
もうほとんど治っているとはいえ肋骨にヒビが入っているし、この前アキに蹴られた腹のアザは今日のプールで隠すのが大変だった、傷跡が残っている腕の切り傷もあったな、このところ怪我が多い。しかも原因が全て彼氏関連。
「一応今日の晩ご飯は辛くないのにしましょうっす、あんまり熱いのも避けてー……んー、そうめんどうっすか?」
「めんつゆ染みないか?」
「えー……じゃあもうせんぱいはロールケーキでも食べるっすか? 俺もうそうめんの口になっちゃったっす」
「ゃ、そうめんでいいよ。あんまり辛いのとか熱いのじゃなきゃ大丈夫だと思うし」
「そうめんいいなぁ……聞いてたら食べたくなってきた、買って帰るかな……」
俺ももう夕飯はそうめん以外考えられない。
「歌見せんぱい家に来ればいいじゃないっすか。ね、せんぱい。一緒にそうめん食べるっすよ」
「いいアイディアだな、どうですか先輩」
「いいのか? じゃあお呼ばれしようかな……」
笑顔で答えていた歌見が不意に俺の目を見つめる。レイが歌見を家に呼ぶと言い出してからずっと胸を凝視していたのがバレてしまったかもしれない。
「……貞操の危機を感じる」
「何言ってんすか歌見せんぱい、泊まるってことはヤるってことっすよ」
「ま、まだ心の準備が……」
「もう何ヶ月付き合ってると思ってるんすか!」
「だって、水月はまだ十六で……手を出すのはちょっと、抵抗が」
「手ぇ出されるのは歌見せんぱいの方なんすから大丈夫っす! そもそも歌見せんぱいだってギリ未成年なんすからガタガタ言わないで欲しいっす」
流石二十三歳の言うことは違うな。
「覚悟が出来てないなら手は出しませんよ、ぱふぱふくらいはしてもらいますけど」
「……ま、まぁ、さっきのでちょっと……そういう気にもなってるし? 少しくらいなら、いいぞ」
「交渉成立ぅ! 帰るぞレイ!」
「いえっさー! っす! そうめん買って帰るっすよ~!」
レイは俺の手をぎゅっと握って走り出す。歌見が俺の鞄を拾って投げ渡す。スーパーに向かった俺達はそうめんやその薬味、めんつゆなどをカゴに入れた。
「アキくん、そうめんとか食べるのか?」
「アキくんは何でも食べるっすよ。ね、せんぱい」
「あぁ……そうだな、前に納豆出した時も平気で食べてたし」
「俺は納豆ダメなんすけどねー」
ちょうど納豆が売っている棚の前だ。俺もあまり好きなものではないし、今日は買わなくてもいいかな。
「へぇ……外国人は麺すする音嫌いって聞くけど、アレは大丈夫か?」
「俺こないだアキくんの隣でカップ麺ズルズル食べたっすけど別になんも反応なかったっすよ」
「……面倒なことになるのは嫌だが、もう少しこう……文化の違いみたいなのを、なぁ?」
歌見の言いたいことは分かる。俺もカルチャーショックとやらを受けてみたかった、アキは受けているのかな。
「アキはハーフですし、ずっと日本人のお母さんと暮らしてましたから……」
「そうか……まぁ、言葉も結構ペラペラだもんな」
なんて話しながらレイの家に帰ってきた。部屋から飛び出してきたアキは「おかえりなさいです」と可愛い言葉と共に俺を抱き締めてくれた。
「ただいま、アキ。寂しかったか? ふふふ……」
ハグをやめるとアキは次にレイを抱き締め、レイを離すと歌見を見つけた。
「うたー、の、にーさん! 久しぶりー……する、です」
「おぅ、久しぶり……なんだ? 俺にも抱きつきたいのか?」
両手を広げたアキを見て歌見は荷物を床に下ろし、ハグに応えた。アキは機嫌良さげに歌見を抱き締めて胸に頬擦りをしている。
「……可愛いなぁ。あぁ、一つあったな。こんなにハグしたがるのは外国人っぽい」
「あー……確かに。そうかもです」
「うたー、の、にーさん。ごはん食べるする、一緒するです?」
「あぁ、一緒に食べるぞ。ところでな、アキくん……その子供番組に出てそうな呼び方、何とかならないか? 歌見でいいんだがな……」
リュウが何故か歌見のことを「歌見の兄さん」と呼んでいて、アキもそれに引っ張られて「うたのにーさん」と呼ぶようになっている。
「呼ばれ方変えたいならそうお願いすれば変えてくれると思いますよ。アキに分かるようにゆっくり文節区切って言ってあげてください」
「アキくん、俺、呼ぶする……ぁー……ナナで、頼む。ナナ……」
「……?」
「…………俺、そうめん茹でてきますね~」
調理中に周りをうろちょろすることが多いアキを引き付けておいてくれるのはありがたい。俺はアキを歌見に任せ、レイと共にキッチンへ向かった。
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