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あなたのためのアクセサリー

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休日で開店セール中、当然人は多い。二人で横に並んで店を歩き回るのは邪魔になるだろう、しかしいつの間にか俺と腕を組んでいるハルに「縦に並ぼう」と言うのは心苦しい。

「みっつんみっつん、あっち見に行こ」

しかし、そんな悩みは杞憂だったようで客達はササッと商品棚の隙間に入って俺達に道を譲ってくれた。そういえば母が言っていたな、視線は集めるけれど人には避けられる、度が過ぎる美形とはそういうものだ……って。

(聞いた時は「またママ上がなんか言ってる」とか思って聞き流してましたが、マジなんですな)

電車内はともかく、混雑する駅構内でも歩きやすさを感じるのはそういう訳か。

「……みっつんめっちゃ見られてるね」

アクセサリーショップというだけあって女性客が多い、男性は居ても俺のような恋人の付き添いらしき方ばかりだ。

「可愛い恋人連れてるからかな?」

「みっつんの顔のせいでしょ! 分かってるくせに。ま、優越感あっていいけどね~」

「ふふ……それで、どんなのが欲しいんだ? えっと、部位って言えばいいのかな」

「あはっ、部位って……も~、モンスター狩ってるんじゃないんだからぁ~」

ハルは姉の影響で案外と漫画やゲームにも造詣が深い。俺の専門は恋愛ゲームなので、例のモンスターを狩るゲームはやったことがないけれど、簡単な用語くらいは分かる。オタクの嗜みだ。

「まずはこの辺かな~」

「ピアスか?」

「イヤリング。俺穴空けてないからピアスは無理だよ」

ハルの穴は未開通、と。興奮するなぁ。

「空けないのか?」

「ツイ姉がデカピアス着けててさ、どっか引っ掛けて耳裂けてさぁ……ちょっと怖い」

「なるほど。イヤリングは挟むだけだもんな、落ちやすそうだけど……どれもキラキラしてるなぁ」

目がチカチカしてきた。

「いいよねぇ~。みっつんどれが好き? せっかく一緒に来たんだしさぁ、みっつんの好みのアクセ買ってみたいなぁ~」

ショッピングデートとなれば必ずこの手の試練があるだろうと覚悟はしていたが、いざとなるとやはり悩む。俺のオシャレ知識は付け焼き刃にすらなっていない、デートに着ていく服すら母に選んでもらうレベルのダサ男だ。

「俺の好みでいいのか?」

「うん! ねぇ、どれどれ~?」

服や髪飾りならともかく、イヤリングに似合うも何もないだろう。耳の形なんかみんなほとんど一緒だ。と思いつつもハルの耳をじっと観察する。

「えへへっ、そぉそぉ、ここに着けんの」

ハルの耳たぶは薄めだな、カンナやカミアはもう少し分厚かった気がする。リュウは耳が若干前を向いているし、シュカは逆にぺったり頭に引っ付いている。ほとんど一緒だと言ったのは訂正しよう。

「みっつんはどれ着けてる俺が見たい?」

「…………これ、かな」

俺は三日月モチーフのピアスを指した。自分のセンスに自信がない俺には、こんな小細工しか出来ない。

「これ~? あはっ、可愛いじゃん。買おっかな~」

「俺に買わせてくれよ、俺が選んだんだから」

「買ってくれる~? 嬉しい~。ねぇみっつん、これ、三日月ってさぁ……そういうこと?」

レイのタトゥーの相談がなかったら思い付かなかっただろう。自分の名前に入っている字をモチーフとしているアクセサリーを選ぶなんて。

「う、うん……ちょっと気持ち悪いかな」

「ううんっ、なんか嬉しい。独占欲出されてるみたいな感じぃ? ある種のマーキングだよねぇこれ。ふふふふ……じゃあこれはみっつんに買ってもらって、みっつんに着けてもらおっ」

スーパーで使われているカゴの四分の一程度のサイズの小さなカゴに三日月のピアスを入れたハルは、上機嫌そうにニコニコと笑っている。

「あ、これ夏っぽ~い。買っとこ」

ハルが躊躇なくカゴに入れたのは風鈴のような模様が入った青く丸いガラス玉のイヤリングだ。

(まぁホントにガラスならこんな値段じゃないと思いますが)

夏休みのデート用なのかハルは夏らしいものを探しているようだ。

「これ浴衣に合いそうじゃな~い?」

 「つまみ細工か」

「うん、でもぉ~……俺が持ってる浴衣赤色なんだよね~。どうせなら合わせたいなぁ、赤色ないなぁ~」

布を折り合わせて作られたつまみ細工のイヤリングは数が少ない、しかもあるのは寒色系ばかりだ。

「赤ってメジャーなのにな」

「ね~残念」

「……作ってやろうか? 俺もっと細かい綺麗なの作れるぞ、赤色の端切れも家にあったと思うし」

和物BLのキャラぬいを作った時に髪飾りや服の飾りにつまみ細工を使った、ぬいぐるみ用だからとても小さなものだ。そんな真似が出来たのだから、人間サイズならそれなりの出来になると考えている。

「え、みっつん手芸出来る系男子~?」

「だ、男子~」

「マジ~? 尊敬しちゃ~う。じゃあお願いしてもい~い?」

「あぁ、一緒にデザイン考えよう。リフォーム終わったら家に遊びに来てくれよ」

「何~、それが目的~? ふふふ……」

なんて話しながらヘアアクセのコーナーへ移動。ヘアゴムヘアピンヘアバンドカチューシャ……種類が多いなぁ。

「ハル、浴衣なら簪とかで頭まとめるのか?」

「簪は家にあるのが超可愛いからいいかなぁ~って」

「へぇ? 見せて欲しいもんだな。しかし種類が多いなぁ……」

「髪は自由度高いからね~。みっつんもヘアピンくらいならイケそうな髪してるね~、どうする?」

「しないよ……」

中途半端な髪の長さの男がヘアピンを着けているのは好きだ、具体的に言うなら金髪の子に黒いヘアピンをバッテンにして着けて欲しい。

「せっかく来たんだしみっつんのアクセも買お~よぉ」

「俺のアクセはこれで十分だよ」

俺は誕生日にハルから贈られたバングルを着けた手首を持ち上げた。

「俺があげたヤツじゃん、も~。急にキュンキュンさせないでぇ? それだけじゃまだまだ足りないっての、ネックレスくらいは着けないと~」

「俺はいいよぉー……」

ハルにもらったバングルを見せた直後に、身体に服以外の物を着けておくのは嫌だとは話せず、ネックレスコーナーへとほぼ無抵抗で引っ張られた。
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