上 下
477 / 1,942

あなたのためのアクセサリー

しおりを挟む
休日で開店セール中、当然人は多い。二人で横に並んで店を歩き回るのは邪魔になるだろう、しかしいつの間にか俺と腕を組んでいるハルに「縦に並ぼう」と言うのは心苦しい。

「みっつんみっつん、あっち見に行こ」

しかし、そんな悩みは杞憂だったようで客達はササッと商品棚の隙間に入って俺達に道を譲ってくれた。そういえば母が言っていたな、視線は集めるけれど人には避けられる、度が過ぎる美形とはそういうものだ……って。

(聞いた時は「またママ上がなんか言ってる」とか思って聞き流してましたが、マジなんですな)

電車内はともかく、混雑する駅構内でも歩きやすさを感じるのはそういう訳か。

「……みっつんめっちゃ見られてるね」

アクセサリーショップというだけあって女性客が多い、男性は居ても俺のような恋人の付き添いらしき方ばかりだ。

「可愛い恋人連れてるからかな?」

「みっつんの顔のせいでしょ! 分かってるくせに。ま、優越感あっていいけどね~」

「ふふ……それで、どんなのが欲しいんだ? えっと、部位って言えばいいのかな」

「あはっ、部位って……も~、モンスター狩ってるんじゃないんだからぁ~」

ハルは姉の影響で案外と漫画やゲームにも造詣が深い。俺の専門は恋愛ゲームなので、例のモンスターを狩るゲームはやったことがないけれど、簡単な用語くらいは分かる。オタクの嗜みだ。

「まずはこの辺かな~」

「ピアスか?」

「イヤリング。俺穴空けてないからピアスは無理だよ」

ハルの穴は未開通、と。興奮するなぁ。

「空けないのか?」

「ツイ姉がデカピアス着けててさ、どっか引っ掛けて耳裂けてさぁ……ちょっと怖い」

「なるほど。イヤリングは挟むだけだもんな、落ちやすそうだけど……どれもキラキラしてるなぁ」

目がチカチカしてきた。

「いいよねぇ~。みっつんどれが好き? せっかく一緒に来たんだしさぁ、みっつんの好みのアクセ買ってみたいなぁ~」

ショッピングデートとなれば必ずこの手の試練があるだろうと覚悟はしていたが、いざとなるとやはり悩む。俺のオシャレ知識は付け焼き刃にすらなっていない、デートに着ていく服すら母に選んでもらうレベルのダサ男だ。

「俺の好みでいいのか?」

「うん! ねぇ、どれどれ~?」

服や髪飾りならともかく、イヤリングに似合うも何もないだろう。耳の形なんかみんなほとんど一緒だ。と思いつつもハルの耳をじっと観察する。

「えへへっ、そぉそぉ、ここに着けんの」

ハルの耳たぶは薄めだな、カンナやカミアはもう少し分厚かった気がする。リュウは耳が若干前を向いているし、シュカは逆にぺったり頭に引っ付いている。ほとんど一緒だと言ったのは訂正しよう。

「みっつんはどれ着けてる俺が見たい?」

「…………これ、かな」

俺は三日月モチーフのピアスを指した。自分のセンスに自信がない俺には、こんな小細工しか出来ない。

「これ~? あはっ、可愛いじゃん。買おっかな~」

「俺に買わせてくれよ、俺が選んだんだから」

「買ってくれる~? 嬉しい~。ねぇみっつん、これ、三日月ってさぁ……そういうこと?」

レイのタトゥーの相談がなかったら思い付かなかっただろう。自分の名前に入っている字をモチーフとしているアクセサリーを選ぶなんて。

「う、うん……ちょっと気持ち悪いかな」

「ううんっ、なんか嬉しい。独占欲出されてるみたいな感じぃ? ある種のマーキングだよねぇこれ。ふふふふ……じゃあこれはみっつんに買ってもらって、みっつんに着けてもらおっ」

スーパーで使われているカゴの四分の一程度のサイズの小さなカゴに三日月のピアスを入れたハルは、上機嫌そうにニコニコと笑っている。

「あ、これ夏っぽ~い。買っとこ」

ハルが躊躇なくカゴに入れたのは風鈴のような模様が入った青く丸いガラス玉のイヤリングだ。

(まぁホントにガラスならこんな値段じゃないと思いますが)

夏休みのデート用なのかハルは夏らしいものを探しているようだ。

「これ浴衣に合いそうじゃな~い?」

 「つまみ細工か」

「うん、でもぉ~……俺が持ってる浴衣赤色なんだよね~。どうせなら合わせたいなぁ、赤色ないなぁ~」

布を折り合わせて作られたつまみ細工のイヤリングは数が少ない、しかもあるのは寒色系ばかりだ。

「赤ってメジャーなのにな」

「ね~残念」

「……作ってやろうか? 俺もっと細かい綺麗なの作れるぞ、赤色の端切れも家にあったと思うし」

和物BLのキャラぬいを作った時に髪飾りや服の飾りにつまみ細工を使った、ぬいぐるみ用だからとても小さなものだ。そんな真似が出来たのだから、人間サイズならそれなりの出来になると考えている。

「え、みっつん手芸出来る系男子~?」

「だ、男子~」

「マジ~? 尊敬しちゃ~う。じゃあお願いしてもい~い?」

「あぁ、一緒にデザイン考えよう。リフォーム終わったら家に遊びに来てくれよ」

「何~、それが目的~? ふふふ……」

なんて話しながらヘアアクセのコーナーへ移動。ヘアゴムヘアピンヘアバンドカチューシャ……種類が多いなぁ。

「ハル、浴衣なら簪とかで頭まとめるのか?」

「簪は家にあるのが超可愛いからいいかなぁ~って」

「へぇ? 見せて欲しいもんだな。しかし種類が多いなぁ……」

「髪は自由度高いからね~。みっつんもヘアピンくらいならイケそうな髪してるね~、どうする?」

「しないよ……」

中途半端な髪の長さの男がヘアピンを着けているのは好きだ、具体的に言うなら金髪の子に黒いヘアピンをバッテンにして着けて欲しい。

「せっかく来たんだしみっつんのアクセも買お~よぉ」

「俺のアクセはこれで十分だよ」

俺は誕生日にハルから贈られたバングルを着けた手首を持ち上げた。

「俺があげたヤツじゃん、も~。急にキュンキュンさせないでぇ? それだけじゃまだまだ足りないっての、ネックレスくらいは着けないと~」

「俺はいいよぉー……」

ハルにもらったバングルを見せた直後に、身体に服以外の物を着けておくのは嫌だとは話せず、ネックレスコーナーへとほぼ無抵抗で引っ張られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

ポチは今日から社長秘書です

ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。 十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。 これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。 サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕! 仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能! 先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決! 社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です! ※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。 ※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。 ※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。 ※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。 ※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。 ※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。 ※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。 含まれる要素 ※主人公以外のカプ描写 ※攻めの女装、コスプレ。 ※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。 ※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。 ※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。 ※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...