冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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Я тебя люблю

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昼休みにネザメ達と話したことは学校が終わってもバイトが終わってもずっと頭の真ん中に残っていた。

「あっ、アキくん居たっすよ」

自宅の最寄り駅に見舞い帰りのアキを見つけた俺は、レイを見つめ、人差し指を立てて口に当てた。俺はただ一人で居るアキをもう少し観察したいだけだったのだが、こっそり近付いて驚かせようと提案したように思ったのか、レイはイタズラっ子のような笑顔を浮かべて頷いた。

(……アキきゅん)

アキは今スマホを弄っていて視界が狭くなっている。しかも駅の中は人通りが多い、忍び足でない方が気付かれにくい。

(あと数メートルのとこまで来ましたが、気付きませんな)

今アキは無表情だ。やはり他の彼氏達の真顔とは違い、冷たさを感じる。美し過ぎるからだろうか? 本心が分からないと俺が感じているから? 分からない。とりあえず──

(驚かせちゃいますぞ!)

──思った以上に接近出来たので、せっかくだから驚かせてみよう。そう決めた俺は軽く上げた両手をアキに近付けながらワッと大声を上げようとした。

「わっ! ぐふっ……!?」

アキの傍で両手を上げた瞬間、影で気が付いたのかアキが素早く俺の方を向き、俺が大声を上げるとスマホを投げ出して俺の両手首を掴み、俺の腹に蹴りを入れた。

「…………?」

サングラスを持ち上げて首を傾げ、赤い目を見開いた。

「……にーに!? にーにっ、にーにぃ! にーに、にーに、にーにぃ!」

「だっ……だい、じょ……」

俺を蹴ってしまったことに混乱しているのだろうアキをなだめるため起き上がろうとするも、腹筋に力が入らない。

「せんぱい! 大丈夫っすか! なんてことするんすかアキくん!」

まずうつ伏せになってから腕と足を使って起き上がろうとすると、下を向いた瞬間猛烈な吐き気に気付き、咄嗟に口を押さえて身体の動きを止めた。

「ごめん、なさいですっ……」

「ごめんじゃないっすよ! なんで、なんでせんぱい蹴ったりするんすか!」

「……殴るする、思うするです」

「せんぱいがアキくん殴ったりする訳ないじゃないすか!」

「……? このめ……? 分かるしないです、ゆっくり……」

まずい、レイが過剰反応してアキを責めている。なだめないと……早く立て、クソ、吐き気が治まらない、足が震える、嘘だろ? 蹴り一発でこんな……予測していなかったとはいえ俺だって一応身体を鍛えているんだぞ?

「せんぱいが肋骨折ったのっ……本当に踏んじゃっただけなんすか? 意味分かんないんすよ三角飛びして人受け止めてキャッチしてっ、着地点に滑り込んで踏まれたとか! 今みたいに蹴ったりしたんじゃないんすか!?」

「……? 分かる、しなっ……で、す……ゆっくり、言うする、おねがい……です」

アキの声が震えている。その声を聞いた瞬間、全身に力がみなぎった。身体は兄になれているのだと妙な気分になった。

「何泣いてんすか泣きたいのはせんぱいの方っ……」

「レイっ! レイ……大丈夫、大丈夫だから、もう言ってやらないでくれ」

俺を想って怒っていたレイを傷付けてしまわないよう、怒るなとも言い過ぎだとも言わない。全員の機嫌を満遍なく取るのはハーレムを作る上で大切なことだ。

「せんぱい! 大丈夫なんすか? すっごい長い時間蹲ってたっすけど」

レイはすぐに俺の方に振り返った。

「いや、ほら……痛がってたら可愛く心配してくんないかな~って」

嘘だ。今もまだ痛い、ずっと痛い。レイの怒りが収まって安心したら足の震えが戻ってきた。

「…………もう! 紛らわしいっす! アキくん……ごめんなさいっす、怒りすぎたっす……せんぱい何ともないみたいっす。流石に、その……肋骨の話は関係ないっすよね、せんぱい嘘つかないっす、アキくんはホントに三角飛びしたんすよね。ごめんなさいっす……でも、びっくりしたからって蹴っちゃダメっすよ?」

「……?」

レイがペラペラと話すから聞き取れなかったらしくアキは首を傾げていたが、レイは謝ってスッキリしたらしく先を歩いていく。

「ふぅ……アキ、行こう」

手を出すも、アキはいつものように俺の手を掴まない。俺から掴もうとすると腰の後ろに手を回してしまった。

「……アキ?」

「にーに……ごめん、なさい……です。ごめんなさい、です。にーに、ぼく、にーに蹴るする、欲しいする違うです。にーに分かるする、しないです」

「うん、俺だって分からなかったんだよな? びっくりして蹴っちゃったんだよな、大丈夫だよ、怒ってない」

落ちたままにされていたスマホを拾い、アキのポケットに入れてやる。

「…………俺は、大丈夫、分かるな? 大丈夫。俺は、アキが、大好き。大丈夫。行こう。ご飯、買うするぞ」

腰の後ろに回されていた手を握り、引っ張る。アキの足取りはいつもより重かったけれど、腹が痛い俺にはちょうどいい速度だった。



自宅に帰り、部屋着に着替えるついでに腹を見た。青紫色のアザが出来ている、残りそうだからしばらくは着衣プレイだな。

「せんぱーい、フライパンに油引いたっすよ~」

「今行くー!」

絶対に脱がされないようにしなければ。



レイが風呂に入った後、俺は落ち込んでいる様子のアキの隣に腰を下ろした。ソファの上でクッションを抱き締めているアキはとても可愛らしい。

「アキ……」

頭を撫でようと右手を上げた瞬間、赤い瞳がぐりんっとこちらを向いてアキの手がピクンと跳ねたのが分かった。

(…………アッ、視界ギリギリで物が動くと警戒態勢に入るタイプの子ォ~)

俺は詳しいんだ。ちょっとダークなBLも読んできたから。というか、セイカもそのタイプだ。耳よりも後ろから頭を撫でようとするとビクッと震えたり腕で頭を庇ったりする。シュカも分かりにくいが肘を曲げて戦闘態勢に入ったりする。まさかアキまでそのタイプだとは……今までその様子がなかったのは、さっき驚かせたせいでまだ過敏になっているだけと考えていいのだろうか、時が過ぎれば治ってくれるだろうか。

(多分、セイカ様とかならびっくりして払っちゃった程度のことなんでしょうな。あの蹴りは。強過ぎるのでそアキきゅん)

視界の外で素早く動くのを控えて、真正面からのスキンシップを繰り返して警戒が必要ないと分かってもらうしかないかな。

「アキ」

「……?」

「…………Я тебя люблю」

先程翻訳アプリを使って調べ、繰り返し聞いて覚えた言葉を言ってみた。

「合ってた、か……?」

発音が違ったのだろうかと悩んでいると、アキはクッションを離して俺に抱きついた。彼の瞳には涙が浮かんでいる。

「にーにっ……にーにぃ……だい、すきです。にーに、だいすき、です」

アキの背に腕を回し、優しく撫でながら、彼の可愛らしい声に癒された。
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