冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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いざ、実食!

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美味しそうな匂いが漂ってきた。味噌はやはりいい。

「ほっかほかや……俺、炊きたててあんま食わへんねんな」

「そうなのか?」

「家で食うもん冷やご飯あっため直したんが多ぉてなぁ」

「あー……そっか。じゃあよかったな、炊きたてご飯美味しいぞ」

笑顔で頷いたリュウを見て俺も笑顔になる。しかし、やはり、エプロンと三角巾を着けて一番印象が変わったのはリュウだな。金色の前髪が見えていないだけでここまで変わるとは思わなかった。

「シュカ、ご飯よそってきたぞ」

「ありがとうございます。やっぱりいい匂いしますね、炊きたての香りだけでご飯三杯イケちゃいます」

「ずっとご飯しか食べてないじゃん……あ、シュカって普段炊きたて食べてるのか?」

「え? ええ、しゃもじで食べてますけど、何か」

まさかの茶碗不使用。いや、炊いた分を全て食べるのなら洗い物が減って効率的かもしれない。

「……熱くないのか?」

「熱いですよ。それがいいんじゃないですか」

「ねー、もぉ火ぃ通ったんじゃなーい? 誰かお皿持ってきて~」

サバの味噌煮を入れるための浅い皿を持ってハルの隣に向かい、菜箸で持ち上げたそれを乗せてもらう。それを五回繰り返した。

「この頭何……?」

「私のです」

「あ、あぁそう……他の班捨ててるけど」

「もったいないことしますねぇ」

フライパンに残った煮汁を五等分にしてサバにかけ、汚れたフライパンと菜箸を水に漬けて着席、いざ実食。

「ん……! 美味い! ちゃんと火通ってるし、味も染みてる。調理実習で作ったのって美味しいイメージあんまりなかったよ。流石だな、みんな」

彼氏達からも感想を聞こうとまず一番の食いしん坊のシュカに視線を移すと、彼はサバの目玉をほじくっていた。

「……そこも食うんだ。いや……目玉の周りが美味いって話は聞いたことあるけど、目玉も食うんだ。美味しい……? 目ん玉って」

「目玉そのものよりは目玉の周りの方が美味しいですね。でも身とは食感が違って面白いです。顔の肉は全体的に柔らかくて美味しいですし、捨てなくて正解でしたね」

サバの頭の感想を話し、俺や彼氏達の顔を見回したシュカは眉間に皺を寄せた。

「……何でそんな顔するんです? 別に食ったら死ぬようなものでもないのに、食わないのはおかしいでしょう」

「う、うん……別に食べるのはいいんだよ、始冬ねーちゃんも魚の目ん玉好きだし」

「え、ミフユさんも?」

「うちのねーちゃん、前に会ったっしょ? 副会長のフユさんじゃないからね」

「あ、あぁ……そういえば同じ名前だったな、びっくりしたよ」

そういえばなんて言ってはみたが、ハルの姉達の名前なんて一人も覚えていない。やたらと迫られて怖かった思い出しかない、二度と会いたくない。

「まぁゲテモン寄りっちゃ寄りやわな」

「最近流行ってるけど~……虫とかもイケる感じ?」

「ご、はんっ……食べて……時、にっ、虫の……はな、やめ……よ」

「あっはごめんねしぐしぐぅ~、しぐしぐ魚怖がってたし結構お嬢様だよね~。カミアは釣りたての魚食べて「お口の中でピチピチしてます!」とかリポってたのに~」

カンナは人差し指を立てて口に当て、カミアと関連付けられそうなことを人が大勢居る場所で話すなとハルに怒っている。

「食べたことはないですね。まぁでも、エビとかも足いっぱいありますし……エビ食べる時みたいに足とか外した状態なら多分…………昆虫食って妙に丸々形残したのが多いでしょう? 虫の見た目はあんまり好きじゃないんですよ私。だからアレはちょっと」

「パウダーせんべーとか出てるよ~?」

「本当ですか? それなら大丈夫そうですね、パッケージに写真とか載ってなければ」

「…………リュウとカンナは何か珍しい物好きとか食べたいとかあるか?」

サバの味噌煮の感想が聞きたいのになと思いつつ、虫の話で盛り上がってしまったシュカとハルから逃れるように二人に話しかけた。

「うさ……の、ごは……かじ、た……こと、ある」

「ぷぅ太のご飯を? えー……美味しかったか?」

「草、だった」

 まぁそりゃそうだよな、ウサギのエサだもん。

「ペットのエサは食うてまうよな。俺もちっちゃい頃クラスで買ってた金魚のエサ食うたわ。ペットのエサてなんかええ匂いしよんねんなぁ」

「にお、いも……草、だった」

じゃあ草じゃん。なんで食べたんだろう、可愛いなぁ。カンナにはまだまだ俺の知らない一面があるんだな。

「俺は動物に関わってこなかったから特にないなぁ」

「……ケツゼリーはだいぶ変わったもんやと思うで」

「授業中に話すなよ、興奮するだろ」

「食うてる時にシモの話すんなや言うくらいの常識は持ち合わせといて欲しかったわ」

「あーもうサバの感想言えよサバの、サバが泣くぞ! お前味噌に文句言ってたけどどうだ? 美味いだろ?」

リュウは小さな声で「忘れてた」と呟き、サバの味噌煮を改めて一口食べた。

「うん、美味い」

「だっろ~?」

「せやけど醤油とかみりんとかの方のが好きやわ」

「……そっか」

好みについては人それぞれだから何も言えない。美味いと認めてくれただけでもよしとしよう。

「おい、し……ごはん……合う」

「せやなぁ、ご飯に合うわ。おかわり欲しなってまう」

「二杯分くらいは余裕あったんだけど……」

「ほんまっ?」

茶碗を持って立ち上がったリュウの目はキラキラと輝いている。

「……シュカがもうよそってるからなぁ」

炊飯器の前に立ち、茶碗に山盛りになった米をしゃもじでぺちぺちと叩いて崩れないように成形しているシュカに視線を移すと、リュウは落ち込んだように腰を下ろした。

「はぁ……今日弁当米とちゃうねんなぁ」

「お、今日の弁当は何だ?」

「昨日のお好み焼きの残り」

「お前ん家の夕飯お好み焼き率高いな」

俺の弁当の中身は昼休みになるまで分からない、けれど美味しいことは分かり切っている。ミフユが作ってくれたものなのだから当然だ。

「この間コンビニで肉まん買ったんですけど、カラシ付けてくれなかったんですよ。ムカつきますよね」

シュカとハルの話題は虫から移ったようだ。今なら話に参加してもいいだろう。

「ハル、サバ美味しいか?」

「うん、超美味い! 味噌煮ってほとんど食べたことないんだけど~、俺味噌は何でも白味噌派なんだよね~。でも赤味噌もいいな~って思い始めちゃったかもぉ~」

「あぁ、これ赤味噌なんだ」

「……あなた割と料理するくせに変なところ無知ですよね」

料理を始めたのはレイの家に居候を始めてからだ。まだまだ初心者なので知識量には目を瞑って欲しい。

「ところでシュカ、肉まんに普通カラシはつけないと思うぞ」

「つけた方が絶対美味しいですよ」

「そうかなぁ……まぁ好みはそれぞれだけどさ、コンビニでは付けてくれないもんだからクレームはつけるなよ?」

「……中学の頃行ってたコンビニは付けてくれたんですよ」

子供のようにむくれた顔は珍しい。可愛いと言いたくなるのをぐっと堪え、穏やかにシュカをなだめた。
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