冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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白い杖と白い瞳

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病院最寄り駅に着き、病院へと向かう途中、ガシャガシャガシャンッ! と大きな物音が聞こえた。車道を挟んだ向こう側の歩道で何台かの自転車が倒れたようだ。

「……あっ」

誰かがぶつかってしまったのかなと思う程度で病院に向かっていただろう、自転車を倒してしまった人の姿がよく見えなければ。

「あのっ、大丈夫ですか?」

信号を渡って自転車が折り重なって倒れている場所へ向かう。自転車は黄色い点字ブロックの上に停められていたようだ。

「……すいません」

自転車の前に座り込んでしまっている人は、ハル以上に長い黒髪を結ぶことなく垂らしていて、地面に触れてしまっている。髪を踏まないように気を付けないとな。

「あなたは悪くないですよ。立てますか? お怪我は?」

「怪我はないけど……杖が、なんか……引っかかって」

白い杖が倒れた自転車のホイールの隙間に挟まってしまっている。この杖が見えたから俺はここまで走ってきたんだ。

「タイヤの隙間に挟まっちゃってます。俺が抜きますから、一旦離してもらってもいいですか?」

「……じゃあ、お願い」

倒れた自転車を起こしてから白杖を抜いた。じっと座って待っている彼に白杖を手渡すと、彼はスっと立ち上がった。気付かなかったが身長が俺より高い、体格もそこそこいい。

(ガタイよくてロン毛って珍しい気がしますな)

前髪には三筋ほど白いメッシュが入っている。後ろ髪は黒一色だ。よく見ると後ろ髪の先はくるんっとカールしている、可愛い。前髪は頬の辺りまであり、右目は完全に隠れている。露出している左目は白っぽい、見たことのない色だ。思わず見つめてしまう。

(うーむ美しい、無気力系美人ですな。ぜひ口説きたいですが……私の顔は見えてらっしゃらない感じですかな、顔一本で彼氏をたくさん作ってきたわたくしには相性の悪い方でそ。諦めますかな)

波のない湖面を思わせる美しい人だ。俺に視覚以外にも効く魅力がないのが残念だな。

「どちらまで行かれるんですか?」

仕方ない。一期一会の美人として今だけを楽しもう。

「この先のロータリー。兄が待ってる」

「ロータリー……? あぁ、俺分かりますよ。俺の目的地そこ通りますから一緒に行きましょう」

「……随分親切だね、今は学校でそういうのも習うの?」

若そうに見えるが、いくつだろう。

「いえ、俺が個人的に綺麗な人に弱いだけですよ」

「綺麗? ボクが? ふぅん……あ、腕掴まっていい?」

「あ、はい。どっちの腕にしましょう」

「利き腕じゃない方」

「左ですね。どうぞ」

彼が伸ばした手に左腕を近付けると軽く掴まれた。

「何かスポーツやってる?」

「え? いえ、帰宅部です」

「そう、その割には筋肉あるみたいだね。帰宅部ってことはやっぱり学生か、声が若いと思った。身長は……185かな、高校生?」

「4です。はい、高校一年です」

目測でも身長をそこまで細かく言い当てるのは難しいだろう。すごい人だ。

「成長期早めだね、ボクは高二の後半まではチビだったなー」

「一気に伸びたんですね、足とか痛くなりませんでした?」

「なったなった。学校休んじゃったよ」

「あはは……あの、お兄さん暑くないんですか? 長袖長ズボンで……今日は真夏並みだって予報ですよ」

近くに寄ってみると彼が着ている長袖のシャツがそれなりに厚みのある物だと分かった、それも彼はボタンを一番上まで留めている。

「暑いのは暑いけど……こうしてないといけないからね」

カンナのように傷があったりするのだろうか、無神経だったかな。

「……目のことは聞きたくない?」

「へっ? 何かお話あるんですか?」

「別にない、生まれつきだもん。大抵の人は一番に聞くから、アンタも聞きたいかなーって」

二人称アンタなんだ……

「そうなんですか。言っちゃなんですけど、俺には別にそれを聞く理由ないので」

「なるほど。暑いかどうかは理由あるの?」

「お兄さん髪が真っ黒で長くて結んでもないので、背中熱くなってそうで、熱中症とか心配だから……です」

「…………ホント優しいねぇ」

よく言われるけれど、俺自身はそうは思わない。美人に丁寧に接するのは微笑みかけてもらいたいという下心からだ。それは優しさじゃないと思う。

「……話すことなくなっちゃった。ロータリーまだ?」

「あと信号二つくらいだったと思います」

「…………高校、可愛い女の子とか居る?」

「男子校なんで女の子は居ないです」

可愛い男の子ははべらせているけれど、なんて初対面の人に言うことじゃない。

「あ、そう。その身長と性格ならモテそうなのに」

「そんなことないですよ。お兄さんだって美人さんですからモテるでしょう?」

「そう見える? どうせ見えないから相手の顔なんかどうでもいいけどね。大事なのは抱き心地、なーんちゃって」

「わ、えっち……大人なジョークですね」

「ホントは顔触るから美醜は分かるよ、どっちにしろあんま気にしないけどね」

超絶美形はやっぱり通じないのか、発言からしてヘテロっぽいし脈ナシだな。

「……アンタはどんな顔してるのかな。次の信号が赤だったら教えてくれる? 暇つぶしとでも思って」

「は、はぁ……いいですけど」

美人にペタペタ触られたい一心で次の信号が赤であるように祈る一方、あんまり触られると惚れてしまうからやめて欲しいなとも思う。俺の半々の祈りに意味があったのかなかったのか、信号は赤く輝いていた。
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