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こんな身体で喜ぶのだから
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アツアツのチーズによって舌に軽い火傷を負い、若干落ち込み気味のアキとセイカは会話を途切れさせている。
「アキ、セイカ、俺のステーキ一口食べるか? 条件は俺にあーんすることだ」
今しかないと俺は一口大に切り分けたステーキをフォークに突き刺して揺らした。
「俺今空いてる手ねぇんだわ」
「え? 口移ししてくれるって?」
「言ってねぇよ」
傘を持つのを代わり、セイカにあーんされ、あーんをしてやった。アキにも同じようにステーキを食べさせてやり、食べさせられた。
「はぁ……美少年にあーんしてもらうと寿命が伸びるな」
「あと一人分伸ばしてみないかい?」
「伸ばしますぅ~! あーん!」
席に戻るとネザメがスプーンを向けてくれていたので、そこに乗ったほろほろの鶏肉を食べた。クリームのまろやかなコクがたまらない。
「僕も寿命を伸ばしたいなぁ」
「はいただいま! どうぞ、あーん……」
ネザメにもステーキを一口食べさせてやり、いつもミステリアスに妖艶な笑みを浮かべている彼の純粋な笑顔を楽しむ。
(美味しいもん食うとやっぱ人間いい顔しますよなぁ)
「しかし水月くんは面白いことを言うよねぇ、寿命が伸びるだなんて……ふふふ、言い得て妙だ。楽しい子だねぇ、もっとそう言うの聞かせて欲しいな」
「えっ」(ただのオタク語なのに)
「何も今羅列しろなんて言わないよ、思い付いたら口に出して欲しい」
「……善処します」
あまり気持ち悪くない言い方を日頃から考えなければな、と思いつつネザメから視線を外す。
「美しいものを見ると気分が良くなる。こういった日々の幸福は確かに免疫系にいい働きがあるはずなんだ。それにもっと美しいものを見ていたいからと長生きを目指すようにもなり、将来設計や摂生などへの影響も──」
ミフユと目が合った。彼はほんのりと頬を赤らめ、フォークに巻いたパスタを持ち上げて揺らした。
「──だから水月くんの言う「美少年にあーんしてもらうと寿命が伸びる」は──」
ミフユもあーんしてくれるつもりなのだろうか。あの照れた表情は間違いない、そうであって欲しい。
「──嬉しさを表現するだけでなく案外理にかなっていると……おや?」
立ち上がり、ミフユの元へ。ミフユは何も言わず俺に自分のパスタを一口食べさせてくれた。クリームの濃厚さとほうれん草の苦味が何とも言えぬハーモニーを……っと、ネザメの話し癖がうつったかな。
「ありがとうございます、ミフユさん。美味しいです」
「…………早く席に戻れ」
「はい」
着実に好感度が上がっている。彼がちゃんと俺の彼氏になってくれる日も近いかもしれない。
最上階のレストランでの昼食を終え、セイカの乗った車椅子を押して病室へ戻る。セイカが昨日のように泣き喚かないのは精神が安定しているからなのか、人前だと恥ずかしさを感じるのか……まぁ、落ち着いていているならどっちでもいいか。
「はぁ……ベッド慣れしちまったのか他のに座ってたの疲れたな」
「身体弱ってるんじゃないか? ちゃんと運動しないと」
「リハビリはしてるぞ」
「でも体力だいぶ落ちてそうだし……昨日だって三回、いや四回だっけ? そのくらいで声枯れてたじゃん」
「……急に何思い出させんだよ」
俯いて目を逸らしたセイカの頬が赤くなっていくのを見て、俺はベッドの上に乗った。
「鳴雷……?」
「食欲満たしたら、次に満たすのは何欲だ?」
「………………睡眠欲」
ネザメはいつもの余裕そうな微笑みを、ミフユは呆れた顔をしている。
「食べてすぐ寝たら牛になっちゃうぞ」
「食ってすぐ運動したら腹痛くなるぞ」
「運動するのか?」
「お前……」
頬を撫で、首へと手を下ろす。脱がしやすい入院着の中へと手を入れると、セイカは気まずそうにネザメ達に視線を向けた。
「気分じゃないなら我慢するよ」
「あっ……」
離れようとするとセイカは俺の服を掴んだ。
「……自分達のことは気にするな、鳴雷一年生が他の恋人の目の前で別の男を抱くことなどよくあることだ。鳴雷一年生と付き合っていくなら羞恥心は早めに消すべきだな」
「…………っ、イカれてる……!」
「セイカ……見られてってのはやっぱり嫌かな? もしそうなら今日も、この先も、セイカとする時は二人きりになれるよう努力するよ」
「……………………鳴雷の好きにしていい」
「セイカ……それはダメだ、セイカの心を教えてくれ」
目を逸らすセイカの顎に手を添え、顔を持ち上げて目を合わせる。それでも視線を逸らすセイカの視線の先に顔を動かす、それを何度か繰り返すと彼は観念したように口を開いた。
「……俺は、鳴雷の好きなようにして欲しい」
「セイカ……」
「俺はっ! 俺は……鳴雷に、喜んで欲しい……俺で、喜んで欲しい……だけ、で……それだけ、だから…………そんな、そんな、何したいとか何がいいとか言われてもっ、分かんない、思い付かない……! 別にないもん……! どうしても見られるの嫌って訳でもないし、でも見られて平気かって言われると躊躇いあるし! でも、でも鳴雷が見られながらしたいなら全然するし! 鳴雷が、鳴雷がぁ……鳴雷が、俺の……全部、だから」
「…………うん、よく話してくれた。嬉しいよ」
涙目になってまで自分の気持ちを話してくれたセイカの頭を撫で、艶のない髪にキスをする。
「デート先やランチなど何から何までどこに行きたい何食べたい……と聞いてくる男はすぐフラれると聞くぞ、鳴雷一年生」
「確かにそういう男はウザいでしょうけどっ、俺とセイカはまた別でしょ! セイカはちゃんと聞かないと嫌なことでも我慢しちゃいそうで……だから選択権投げて機嫌取ろうとするような男とは俺は違います!」
「そうだよミフユ、水月くんはしたいって言って、いいかって聞いているだけなんだから……」
「む……それもそうですね。悪かったな、鳴雷一年生」
ミフユは主導権を渡してくるような男は嫌いだということだろうか、彼をデートに誘う時はプランを完璧に立てておかないとな。
「アキ、セイカ、俺のステーキ一口食べるか? 条件は俺にあーんすることだ」
今しかないと俺は一口大に切り分けたステーキをフォークに突き刺して揺らした。
「俺今空いてる手ねぇんだわ」
「え? 口移ししてくれるって?」
「言ってねぇよ」
傘を持つのを代わり、セイカにあーんされ、あーんをしてやった。アキにも同じようにステーキを食べさせてやり、食べさせられた。
「はぁ……美少年にあーんしてもらうと寿命が伸びるな」
「あと一人分伸ばしてみないかい?」
「伸ばしますぅ~! あーん!」
席に戻るとネザメがスプーンを向けてくれていたので、そこに乗ったほろほろの鶏肉を食べた。クリームのまろやかなコクがたまらない。
「僕も寿命を伸ばしたいなぁ」
「はいただいま! どうぞ、あーん……」
ネザメにもステーキを一口食べさせてやり、いつもミステリアスに妖艶な笑みを浮かべている彼の純粋な笑顔を楽しむ。
(美味しいもん食うとやっぱ人間いい顔しますよなぁ)
「しかし水月くんは面白いことを言うよねぇ、寿命が伸びるだなんて……ふふふ、言い得て妙だ。楽しい子だねぇ、もっとそう言うの聞かせて欲しいな」
「えっ」(ただのオタク語なのに)
「何も今羅列しろなんて言わないよ、思い付いたら口に出して欲しい」
「……善処します」
あまり気持ち悪くない言い方を日頃から考えなければな、と思いつつネザメから視線を外す。
「美しいものを見ると気分が良くなる。こういった日々の幸福は確かに免疫系にいい働きがあるはずなんだ。それにもっと美しいものを見ていたいからと長生きを目指すようにもなり、将来設計や摂生などへの影響も──」
ミフユと目が合った。彼はほんのりと頬を赤らめ、フォークに巻いたパスタを持ち上げて揺らした。
「──だから水月くんの言う「美少年にあーんしてもらうと寿命が伸びる」は──」
ミフユもあーんしてくれるつもりなのだろうか。あの照れた表情は間違いない、そうであって欲しい。
「──嬉しさを表現するだけでなく案外理にかなっていると……おや?」
立ち上がり、ミフユの元へ。ミフユは何も言わず俺に自分のパスタを一口食べさせてくれた。クリームの濃厚さとほうれん草の苦味が何とも言えぬハーモニーを……っと、ネザメの話し癖がうつったかな。
「ありがとうございます、ミフユさん。美味しいです」
「…………早く席に戻れ」
「はい」
着実に好感度が上がっている。彼がちゃんと俺の彼氏になってくれる日も近いかもしれない。
最上階のレストランでの昼食を終え、セイカの乗った車椅子を押して病室へ戻る。セイカが昨日のように泣き喚かないのは精神が安定しているからなのか、人前だと恥ずかしさを感じるのか……まぁ、落ち着いていているならどっちでもいいか。
「はぁ……ベッド慣れしちまったのか他のに座ってたの疲れたな」
「身体弱ってるんじゃないか? ちゃんと運動しないと」
「リハビリはしてるぞ」
「でも体力だいぶ落ちてそうだし……昨日だって三回、いや四回だっけ? そのくらいで声枯れてたじゃん」
「……急に何思い出させんだよ」
俯いて目を逸らしたセイカの頬が赤くなっていくのを見て、俺はベッドの上に乗った。
「鳴雷……?」
「食欲満たしたら、次に満たすのは何欲だ?」
「………………睡眠欲」
ネザメはいつもの余裕そうな微笑みを、ミフユは呆れた顔をしている。
「食べてすぐ寝たら牛になっちゃうぞ」
「食ってすぐ運動したら腹痛くなるぞ」
「運動するのか?」
「お前……」
頬を撫で、首へと手を下ろす。脱がしやすい入院着の中へと手を入れると、セイカは気まずそうにネザメ達に視線を向けた。
「気分じゃないなら我慢するよ」
「あっ……」
離れようとするとセイカは俺の服を掴んだ。
「……自分達のことは気にするな、鳴雷一年生が他の恋人の目の前で別の男を抱くことなどよくあることだ。鳴雷一年生と付き合っていくなら羞恥心は早めに消すべきだな」
「…………っ、イカれてる……!」
「セイカ……見られてってのはやっぱり嫌かな? もしそうなら今日も、この先も、セイカとする時は二人きりになれるよう努力するよ」
「……………………鳴雷の好きにしていい」
「セイカ……それはダメだ、セイカの心を教えてくれ」
目を逸らすセイカの顎に手を添え、顔を持ち上げて目を合わせる。それでも視線を逸らすセイカの視線の先に顔を動かす、それを何度か繰り返すと彼は観念したように口を開いた。
「……俺は、鳴雷の好きなようにして欲しい」
「セイカ……」
「俺はっ! 俺は……鳴雷に、喜んで欲しい……俺で、喜んで欲しい……だけ、で……それだけ、だから…………そんな、そんな、何したいとか何がいいとか言われてもっ、分かんない、思い付かない……! 別にないもん……! どうしても見られるの嫌って訳でもないし、でも見られて平気かって言われると躊躇いあるし! でも、でも鳴雷が見られながらしたいなら全然するし! 鳴雷が、鳴雷がぁ……鳴雷が、俺の……全部、だから」
「…………うん、よく話してくれた。嬉しいよ」
涙目になってまで自分の気持ちを話してくれたセイカの頭を撫で、艶のない髪にキスをする。
「デート先やランチなど何から何までどこに行きたい何食べたい……と聞いてくる男はすぐフラれると聞くぞ、鳴雷一年生」
「確かにそういう男はウザいでしょうけどっ、俺とセイカはまた別でしょ! セイカはちゃんと聞かないと嫌なことでも我慢しちゃいそうで……だから選択権投げて機嫌取ろうとするような男とは俺は違います!」
「そうだよミフユ、水月くんはしたいって言って、いいかって聞いているだけなんだから……」
「む……それもそうですね。悪かったな、鳴雷一年生」
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