443 / 1,971
日当たりのいいレストラン
しおりを挟む
セイカが昼食を食べている間によく顔を合わせる看護師を探し、彼女にセイカをレストランに連れて行っていいかと聞いておいた。アキは許可がなくとも勝手に連れ出してしまいそうだから、こういう裏方の作業は兄の俺がこなさなくては。
「車椅子久しぶりに見たなぁ……」
病院の名前が入った車椅子をベッドの横に運び、ストッパーをかけて置いておく。セイカはまだ食事中だ。
「誰か近しい人が乗っていたのかい?」
「いえ、小五の時に授業であったんですよ、障害理解とか何とか。坂道での注意とか階段の移動方法とか、習ったはずなんですけどぜーんぶ忘れちゃいました」
「あぁ、そういうのなら僕も習ったことがあるよ。でも僕も全部忘れてしまったな。そういうものだよねぇ」
ははは、と笑い合う俺達の横でミフユは呆れた様子でため息をついている。
「お、食べ終わったか? セイカ」
「ん……待たせて悪いな。お前らだけで食ってきてよかったのに」
「アキが嫌がるからさ。じゃあ、えっと……車椅子に」
「自分で乗れる。一応右足はまだあるんだから」
抱き上げて乗せてやろうと思っていたが、ここはセイカの意思を尊重しよう……と引いたのにアキがセイカをひょいっと抱き上げてしまった。
「へっ……?」
「行くするです、せーか」
見事なお姫様抱っこをされたセイカは呆然とし、アキはスタスタと扉へ向かう。
「まっ、待て待てアキ、車椅子あるから! 車椅子! ほら!」
車椅子を押して追いかけ、座面をぽんと叩くとアキはセイカを抱いたままそこに座った。
「…………車椅子って日本の文化でしたっけ」
「他の国にもあると思うよ。よほど気に入ったんだろう、抱っこしたままにさせてあげたらどうだい?」
「アキぃ……セイカはぬいぐるみじゃないんだぞ? 下ろしなさい。お兄ちゃん二人乗った車椅子押すの疲れちゃうからやだな」
冗談のつもりだったのか何なのか、アキはすんなり立ち上がってセイカだけを車椅子に座らせた。どうやら車椅子の使い方は分かっていたみたいだ。
「せーかっ、せーか」
「……なんだよ」
車椅子を押してエレベーターに向かう。アキは車椅子の肘掛けに手を置いて背を曲げ、セイカの名前を呼んで視線を奪っては楽しげに笑った。
「なぁ……鳴雷、お前の弟なんなの」
「さぁ? 俺もアキの考えてることはあんまり分からない、気に入られたみたいだな」
「……なんで、俺なんか」
病院のエレベーターは広い。五人で乗っても狭さを感じない。
「何……? なんか、ペットみたいな感じ? 鳴雷、ぬいぐるみとか言ってたもんな。なんかそんな、人間以下って、そんな感じで可愛がってんの?」
「……アキはそんな子じゃないよ。セイカは俺が好きな人だから、きっといい人なんだって思って、一旦懐いてみてるだけだ。優しく接してやってくれよ、でなきゃ多分、あっさり離れちゃうタイプの子だからさ」
「お試し期間って訳……? あぁ、そう……悪いけど、俺別にお前の弟とまで仲良くなる気はねぇから」
最上階で降りてレストランへ向かう。想像以上に展望のいいレストランだ、壁が全くない、全面が窓だ、それも窓枠がほとんどない。
「うわ……すっごいな、これ本当に病院のレストランかよ。うわぁ……二千円以下のメニューがない……高校生が来る場所じゃない。ワンコインのコンビニ弁当が恋しい」
「む、案外ロープライス…………ここで食べると無理を言ったのは自分だからな、奢らせてもらおう。鳴雷一年生、どれが食べたい?」
「甘えさせてもらいます……」
俺とアキの二人分頼んだら破産してしまう。俺はプライドを捨てて遠慮すら忘れて素直に奢られることにした。
「……おい、秋風? どうした、急に大人しくなって」
「ここ……眩しい、です。眩しい、痛いです」
「鳴雷、鳴雷……秋風が」
「え? あっ、ここ日当たりいいもんな……そこの席にしようか、ちょっと柱の影になってるぞ」
柱の影が差している席を選び、ちょうど影に包まれる椅子にアキを座らせた。
「そうだ、セイカには説明忘れてたな……アキはアルビノなんだよ。髪も目も自前だ。日光が苦手なんだ」
「…………お前オタクだからコスプレしてんだと思ってた」
「それがアキはアニメ見ないんだよ……残念なことにな。そういう訳だから、たまにこういうことがあるんだ。承知しといてくれ」
「……秋風、傘貸せ」
アキの隣に車椅子を移動させたセイカはアキの手首にかかっていた日傘を取り、開いた。それまでは机に日光が反射していたが、日傘によって日光が遮られアキの手元の僅かなスペースだけ薄暗くなった。
「これでどうだ?」
サングラスを外せる照度に落ちたようだ。初めてアキの目を見たセイカは息を飲んだ。
「ありがとー、です! せーか」
「あぁ……いや、目も自前ってそういうことか……すごいな、真っ赤……瞳孔まで赤いのか。なるほどな」
「……ありがとうなセイカ、俺それ思い付かなかったよ。サングラスかけてると色分かりにくいみたいだし、それじゃ何食べても味気ないよな。本当にありがとう」
「俺は、別に……まぁ、俺もう飯食ったし、傘くらい持っててやるよ」
俺達兄弟から何度も礼を言われて照れた様子のセイカは俺から目を逸らし、傘の持ち手をぎゅっと握り締めた。
「…………手、片っぽでも残っててよかった。じゃなきゃお前に傘差してやれなかったもんな」
「……?」
サングラスを机に置いたアキはセイカと目を合わせてニコニコと笑っている。
「なるほどな……お前も目立つ見た目で分かりやすい生き辛さのある障害者って訳だ、俺に懐いてたのは同族だからか?」
「せーか、はんばーぐ、ちーず、たまご、どっちするです?」
「……そんなややこしいこと考えてなさそうだな、お前。つーかチーズと卵ってなんだよ、ハンバーグは肉だろ。ちょっとメニュー見せろ……え、何、ハンバーグに何か乗ってる、何これ、知らないぞこれ。味どうなんのこれ」
「ちーずぃん? 悩むするです」
「ちーじん……? 中華の何かか? 辛い系か? どれのことだ? えっこれ? 何も乗ってなさそうだけど……」
拙い日本語と豪華な料理への無知さが繰り広げる寸劇をもう少し見ていたいけれど、俺もネザメ達も注文を決めてしまったからそろそろ助け舟を出してやろう。
「車椅子久しぶりに見たなぁ……」
病院の名前が入った車椅子をベッドの横に運び、ストッパーをかけて置いておく。セイカはまだ食事中だ。
「誰か近しい人が乗っていたのかい?」
「いえ、小五の時に授業であったんですよ、障害理解とか何とか。坂道での注意とか階段の移動方法とか、習ったはずなんですけどぜーんぶ忘れちゃいました」
「あぁ、そういうのなら僕も習ったことがあるよ。でも僕も全部忘れてしまったな。そういうものだよねぇ」
ははは、と笑い合う俺達の横でミフユは呆れた様子でため息をついている。
「お、食べ終わったか? セイカ」
「ん……待たせて悪いな。お前らだけで食ってきてよかったのに」
「アキが嫌がるからさ。じゃあ、えっと……車椅子に」
「自分で乗れる。一応右足はまだあるんだから」
抱き上げて乗せてやろうと思っていたが、ここはセイカの意思を尊重しよう……と引いたのにアキがセイカをひょいっと抱き上げてしまった。
「へっ……?」
「行くするです、せーか」
見事なお姫様抱っこをされたセイカは呆然とし、アキはスタスタと扉へ向かう。
「まっ、待て待てアキ、車椅子あるから! 車椅子! ほら!」
車椅子を押して追いかけ、座面をぽんと叩くとアキはセイカを抱いたままそこに座った。
「…………車椅子って日本の文化でしたっけ」
「他の国にもあると思うよ。よほど気に入ったんだろう、抱っこしたままにさせてあげたらどうだい?」
「アキぃ……セイカはぬいぐるみじゃないんだぞ? 下ろしなさい。お兄ちゃん二人乗った車椅子押すの疲れちゃうからやだな」
冗談のつもりだったのか何なのか、アキはすんなり立ち上がってセイカだけを車椅子に座らせた。どうやら車椅子の使い方は分かっていたみたいだ。
「せーかっ、せーか」
「……なんだよ」
車椅子を押してエレベーターに向かう。アキは車椅子の肘掛けに手を置いて背を曲げ、セイカの名前を呼んで視線を奪っては楽しげに笑った。
「なぁ……鳴雷、お前の弟なんなの」
「さぁ? 俺もアキの考えてることはあんまり分からない、気に入られたみたいだな」
「……なんで、俺なんか」
病院のエレベーターは広い。五人で乗っても狭さを感じない。
「何……? なんか、ペットみたいな感じ? 鳴雷、ぬいぐるみとか言ってたもんな。なんかそんな、人間以下って、そんな感じで可愛がってんの?」
「……アキはそんな子じゃないよ。セイカは俺が好きな人だから、きっといい人なんだって思って、一旦懐いてみてるだけだ。優しく接してやってくれよ、でなきゃ多分、あっさり離れちゃうタイプの子だからさ」
「お試し期間って訳……? あぁ、そう……悪いけど、俺別にお前の弟とまで仲良くなる気はねぇから」
最上階で降りてレストランへ向かう。想像以上に展望のいいレストランだ、壁が全くない、全面が窓だ、それも窓枠がほとんどない。
「うわ……すっごいな、これ本当に病院のレストランかよ。うわぁ……二千円以下のメニューがない……高校生が来る場所じゃない。ワンコインのコンビニ弁当が恋しい」
「む、案外ロープライス…………ここで食べると無理を言ったのは自分だからな、奢らせてもらおう。鳴雷一年生、どれが食べたい?」
「甘えさせてもらいます……」
俺とアキの二人分頼んだら破産してしまう。俺はプライドを捨てて遠慮すら忘れて素直に奢られることにした。
「……おい、秋風? どうした、急に大人しくなって」
「ここ……眩しい、です。眩しい、痛いです」
「鳴雷、鳴雷……秋風が」
「え? あっ、ここ日当たりいいもんな……そこの席にしようか、ちょっと柱の影になってるぞ」
柱の影が差している席を選び、ちょうど影に包まれる椅子にアキを座らせた。
「そうだ、セイカには説明忘れてたな……アキはアルビノなんだよ。髪も目も自前だ。日光が苦手なんだ」
「…………お前オタクだからコスプレしてんだと思ってた」
「それがアキはアニメ見ないんだよ……残念なことにな。そういう訳だから、たまにこういうことがあるんだ。承知しといてくれ」
「……秋風、傘貸せ」
アキの隣に車椅子を移動させたセイカはアキの手首にかかっていた日傘を取り、開いた。それまでは机に日光が反射していたが、日傘によって日光が遮られアキの手元の僅かなスペースだけ薄暗くなった。
「これでどうだ?」
サングラスを外せる照度に落ちたようだ。初めてアキの目を見たセイカは息を飲んだ。
「ありがとー、です! せーか」
「あぁ……いや、目も自前ってそういうことか……すごいな、真っ赤……瞳孔まで赤いのか。なるほどな」
「……ありがとうなセイカ、俺それ思い付かなかったよ。サングラスかけてると色分かりにくいみたいだし、それじゃ何食べても味気ないよな。本当にありがとう」
「俺は、別に……まぁ、俺もう飯食ったし、傘くらい持っててやるよ」
俺達兄弟から何度も礼を言われて照れた様子のセイカは俺から目を逸らし、傘の持ち手をぎゅっと握り締めた。
「…………手、片っぽでも残っててよかった。じゃなきゃお前に傘差してやれなかったもんな」
「……?」
サングラスを机に置いたアキはセイカと目を合わせてニコニコと笑っている。
「なるほどな……お前も目立つ見た目で分かりやすい生き辛さのある障害者って訳だ、俺に懐いてたのは同族だからか?」
「せーか、はんばーぐ、ちーず、たまご、どっちするです?」
「……そんなややこしいこと考えてなさそうだな、お前。つーかチーズと卵ってなんだよ、ハンバーグは肉だろ。ちょっとメニュー見せろ……え、何、ハンバーグに何か乗ってる、何これ、知らないぞこれ。味どうなんのこれ」
「ちーずぃん? 悩むするです」
「ちーじん……? 中華の何かか? 辛い系か? どれのことだ? えっこれ? 何も乗ってなさそうだけど……」
拙い日本語と豪華な料理への無知さが繰り広げる寸劇をもう少し見ていたいけれど、俺もネザメ達も注文を決めてしまったからそろそろ助け舟を出してやろう。
0
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる