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孤独はとても嫌なことだから
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突然泣き出したセイカを慰めて詳しく話を聞いたところ、どうやら連れてきた彼氏達が三人とも綺麗な男だったから俺の恋人としての自信が萎んだだけのようだ。
「こんなっ、綺麗な……ばっか、で、俺……おれ、なんか、なんで」
「泣かないでくれよセイカ……セイカも美少年じゃないか。俺にとってはみんな同じくらい魅力的なんだよ」
「ネザメ様の美しさは頭一つ抜けている」
「秋風くんは特別美人だよ、この星の宝だ」
「すいませんちょっと黙っててください」
確かにネザメは頭一つ抜けて美しいし、アキは誰もが見とれて混乱するくらいの美形だが、俺の愛は平等だ。顔の良し悪しなど一要素にしか過ぎないし、セイカも顔はかなり良い。
「だって、だって……肌も、髪もっ、こんな……ボロボロで、縫い目あちこちにあって、手足なくてっ……!」
「健康的な生活していけば肌も髪も綺麗になるし、不健康な感じも俺はイイと思うよ。縫い目と欠損は個人的には萌え要素だし……」
長さバラバラの艶のない髪も、明らかに栄養不足な色と肌触りの悪い肌も、生気のない瞳や表情も、不憫萌えをしてしまう俺にとっては魅力でしかない。いつか改善させる予定だから今のうちに写真を撮っておきたいくらいだ。
「みんな同じじゃ飽きちゃうだろ? 他と違うのはいいことなんだよ。愛してるよセイカ、そんな些細なことを気にして泣いちゃう繊細ささえも大好きだ」
抱き締めて愛を語り続けるとセイカは次第に呼吸を落ち着かせた。
「……落ち着いたか?」
「鳴雷……」
「ん?」
「…………キス、して欲しい……いい?」
「いいよ。セイカから求めてくれるなんて嬉しいな」
頭を支えて唇を重ねると、セイカの方から舌を伸ばしてきた。恐る恐る様子を伺うように突き出された舌を吸ってやると、セイカはくぐもった声を漏らして身体を跳ねさせた。
「ん……んっ、ん……!」
吸った舌を舐り、離れようとする頭を掴まえ、息が切れたらセイカの口の中に舌を突っ込んだ。セイカの唾液の味を感じなくなるまで粘膜を擦り合わせ、彼の歯並びが綺麗なことを確認した。
「……っ、はぁ……はぁ…………へ、へへ……鳴雷……」
たっぷり時間を使ったキスを終えて唇を離すとセイカは息を切らしながらも嬉しそうに笑い、俺の服をきゅっと握り、俺の胸元に右手の先端を押し当てた。
「…………可愛いな、セイカは」
肩に腕を回して抱き寄せ、もう片方の手で前髪を持ち上げて額にキスをする。
「本当に可愛い……大好きだよ」
幸せそうに緩んでいた顔がまた不安を孕む。可愛いと言い過ぎたか、機嫌を直そうとしているのだとバレてしまったのだろうか、それだけが理由で可愛いと言っている訳ではないのに。
「…………俺も好き」
不安そうにはしているが、俺を疑うようなことは言わなかった。本音を抑え込んでいるとマイナスに考えるべきか、無駄な波風を立てないよう気遣えるようになったのだとプラスに考えるべきか、悩むな。
「鳴雷一年生、そろそろ昼食の時間だ」
「そうですね。セイカのもそろそろ持ってきてくれるよな?」
「多分……」
「俺達はコンビニで買ってくるよ」
「待て鳴雷一年生、ネザメ様にコンビニ弁当など食わせられんぞ」
「えー……」
ネザメが「いい」と言ってくれることを期待して彼に視線を移したが、彼は困ったように微笑むばかりだった。
「……確か、院内にレストランあったと思う。最上階の端っこの方だったかな……洋食の、高い店」
「洋食……ネザメ様、洋食で構いませんか?」
「僕は何でも構わないよ」
「よし。鳴雷一年生、そこに行くぞ」
「いや、待ってください。セイカ一人になっちゃうじゃないですか」
お持ち帰りが出来る店やセイカを連れて行くのならともかく、四人で高級レストランに行ってセイカに一人寂しく病院食を食わせるなんてあんまりだ。
「……気にすんなよ、行ってこいよ」
まずい、詰みだ。俺だけがコンビニ弁当を買って病室に戻ったとしても、セイカは俺に気を遣わせたと落ち込んで自己嫌悪を募らせる。俺もレストランに行けば当然寂しがるし、下手をすれば彼氏達の中で自分の優先順位が低いのだと勘違いしてしまう。
「狭雲もこう言ってくれていることだし……」
「でもっ」
「ご飯食べるするです?」
「最上階のレストランだそうだよ。ハンバーグやオムライスがあるかもしれないね」
「はんばーぐ! ぼく、はんばーぐ食べるする、好きです!」
「ちょっネザメさん、アキを引き入れるのはずるい……」
孤軍奮闘中、ガラガラッと病室の引き戸が開いた。セイカの昼食が届けられたのだ。
「どーも……」
セイカは看護師に会釈をし、右手の先端を見てため息をつき、左手でスプーンを持った。
「せーか、はんばーぐ食べるするしないです?」
「俺の飯はこれなんだよ……お前らだけで行ってこい」
こうなったらもう俺も行った方がいいのだろうか、そっちの方がセイカの精神的ダメージは少なく済みそうだ。どっちにしろ彼は傷付くのだから、俺もいい飯を食べた方が……と食欲にも押されて覚悟を決めたが、アキはベッドの横のパイプ椅子に腰を下ろした。
「……秋風くん? レストラン行くよ」
「нет」
「にぇと……? なんだい?」
「せーか、一緒行くするです。早く食べるするです、せーか。ぼく、はんばーぐ、少しだけです、あげるするです」
どうやらアキはセイカと一緒にレストランに行きたいらしい。病院食をさっさと食べて、五人で行こうと……自分が注文したハンバーグを一口分けてやるとも言っているようだ。我が弟ながら出来た子だ。
「んだよ、四人で行けよ」
「нет……せーか、一緒行くするしない、ぼく嫌です」
「…………なんなんだよ」
迷惑そうに言いながらもセイカはどこか嬉しそうだ。
「……アキはセイカに懐いたみたいだな。ネザメさん、ミフユさん、少しくらい昼食の時間が押してもいいでしょう?」
「僕は構わないよ」
「ネザメ様……まぁ、ネザメ様がそう言うなら。時間のズレ分の摂取カロリーの調整はさせていただきますからね、ネザメ様」
「お堅いねぇ」
特に気にした様子のないネザメと、不服そうなミフユ、いつも通りの光景だ。セイカはミフユの機嫌を気にしているようだが、そんなふうによそ見をしていると──
「あっ、お、おい……お前ハンバーグ食うんだろ」
──アキにオムレツを奪われてしまうぞ、っと、遅かったか。
「せーか、はんばーぐ、少しだけです、あげるするです」
「……俺にハンバーグ寄越す分俺の飯食う気か? 別にいいけどよ」
「…………」
「………………まさかサバも欲しいのか? ったく……好きに食えよ」
無言でセイカの昼食を見つめるアキに、観念したらしいセイカは自身のスプーンを渡した。
「こんなっ、綺麗な……ばっか、で、俺……おれ、なんか、なんで」
「泣かないでくれよセイカ……セイカも美少年じゃないか。俺にとってはみんな同じくらい魅力的なんだよ」
「ネザメ様の美しさは頭一つ抜けている」
「秋風くんは特別美人だよ、この星の宝だ」
「すいませんちょっと黙っててください」
確かにネザメは頭一つ抜けて美しいし、アキは誰もが見とれて混乱するくらいの美形だが、俺の愛は平等だ。顔の良し悪しなど一要素にしか過ぎないし、セイカも顔はかなり良い。
「だって、だって……肌も、髪もっ、こんな……ボロボロで、縫い目あちこちにあって、手足なくてっ……!」
「健康的な生活していけば肌も髪も綺麗になるし、不健康な感じも俺はイイと思うよ。縫い目と欠損は個人的には萌え要素だし……」
長さバラバラの艶のない髪も、明らかに栄養不足な色と肌触りの悪い肌も、生気のない瞳や表情も、不憫萌えをしてしまう俺にとっては魅力でしかない。いつか改善させる予定だから今のうちに写真を撮っておきたいくらいだ。
「みんな同じじゃ飽きちゃうだろ? 他と違うのはいいことなんだよ。愛してるよセイカ、そんな些細なことを気にして泣いちゃう繊細ささえも大好きだ」
抱き締めて愛を語り続けるとセイカは次第に呼吸を落ち着かせた。
「……落ち着いたか?」
「鳴雷……」
「ん?」
「…………キス、して欲しい……いい?」
「いいよ。セイカから求めてくれるなんて嬉しいな」
頭を支えて唇を重ねると、セイカの方から舌を伸ばしてきた。恐る恐る様子を伺うように突き出された舌を吸ってやると、セイカはくぐもった声を漏らして身体を跳ねさせた。
「ん……んっ、ん……!」
吸った舌を舐り、離れようとする頭を掴まえ、息が切れたらセイカの口の中に舌を突っ込んだ。セイカの唾液の味を感じなくなるまで粘膜を擦り合わせ、彼の歯並びが綺麗なことを確認した。
「……っ、はぁ……はぁ…………へ、へへ……鳴雷……」
たっぷり時間を使ったキスを終えて唇を離すとセイカは息を切らしながらも嬉しそうに笑い、俺の服をきゅっと握り、俺の胸元に右手の先端を押し当てた。
「…………可愛いな、セイカは」
肩に腕を回して抱き寄せ、もう片方の手で前髪を持ち上げて額にキスをする。
「本当に可愛い……大好きだよ」
幸せそうに緩んでいた顔がまた不安を孕む。可愛いと言い過ぎたか、機嫌を直そうとしているのだとバレてしまったのだろうか、それだけが理由で可愛いと言っている訳ではないのに。
「…………俺も好き」
不安そうにはしているが、俺を疑うようなことは言わなかった。本音を抑え込んでいるとマイナスに考えるべきか、無駄な波風を立てないよう気遣えるようになったのだとプラスに考えるべきか、悩むな。
「鳴雷一年生、そろそろ昼食の時間だ」
「そうですね。セイカのもそろそろ持ってきてくれるよな?」
「多分……」
「俺達はコンビニで買ってくるよ」
「待て鳴雷一年生、ネザメ様にコンビニ弁当など食わせられんぞ」
「えー……」
ネザメが「いい」と言ってくれることを期待して彼に視線を移したが、彼は困ったように微笑むばかりだった。
「……確か、院内にレストランあったと思う。最上階の端っこの方だったかな……洋食の、高い店」
「洋食……ネザメ様、洋食で構いませんか?」
「僕は何でも構わないよ」
「よし。鳴雷一年生、そこに行くぞ」
「いや、待ってください。セイカ一人になっちゃうじゃないですか」
お持ち帰りが出来る店やセイカを連れて行くのならともかく、四人で高級レストランに行ってセイカに一人寂しく病院食を食わせるなんてあんまりだ。
「……気にすんなよ、行ってこいよ」
まずい、詰みだ。俺だけがコンビニ弁当を買って病室に戻ったとしても、セイカは俺に気を遣わせたと落ち込んで自己嫌悪を募らせる。俺もレストランに行けば当然寂しがるし、下手をすれば彼氏達の中で自分の優先順位が低いのだと勘違いしてしまう。
「狭雲もこう言ってくれていることだし……」
「でもっ」
「ご飯食べるするです?」
「最上階のレストランだそうだよ。ハンバーグやオムライスがあるかもしれないね」
「はんばーぐ! ぼく、はんばーぐ食べるする、好きです!」
「ちょっネザメさん、アキを引き入れるのはずるい……」
孤軍奮闘中、ガラガラッと病室の引き戸が開いた。セイカの昼食が届けられたのだ。
「どーも……」
セイカは看護師に会釈をし、右手の先端を見てため息をつき、左手でスプーンを持った。
「せーか、はんばーぐ食べるするしないです?」
「俺の飯はこれなんだよ……お前らだけで行ってこい」
こうなったらもう俺も行った方がいいのだろうか、そっちの方がセイカの精神的ダメージは少なく済みそうだ。どっちにしろ彼は傷付くのだから、俺もいい飯を食べた方が……と食欲にも押されて覚悟を決めたが、アキはベッドの横のパイプ椅子に腰を下ろした。
「……秋風くん? レストラン行くよ」
「нет」
「にぇと……? なんだい?」
「せーか、一緒行くするです。早く食べるするです、せーか。ぼく、はんばーぐ、少しだけです、あげるするです」
どうやらアキはセイカと一緒にレストランに行きたいらしい。病院食をさっさと食べて、五人で行こうと……自分が注文したハンバーグを一口分けてやるとも言っているようだ。我が弟ながら出来た子だ。
「んだよ、四人で行けよ」
「нет……せーか、一緒行くするしない、ぼく嫌です」
「…………なんなんだよ」
迷惑そうに言いながらもセイカはどこか嬉しそうだ。
「……アキはセイカに懐いたみたいだな。ネザメさん、ミフユさん、少しくらい昼食の時間が押してもいいでしょう?」
「僕は構わないよ」
「ネザメ様……まぁ、ネザメ様がそう言うなら。時間のズレ分の摂取カロリーの調整はさせていただきますからね、ネザメ様」
「お堅いねぇ」
特に気にした様子のないネザメと、不服そうなミフユ、いつも通りの光景だ。セイカはミフユの機嫌を気にしているようだが、そんなふうによそ見をしていると──
「あっ、お、おい……お前ハンバーグ食うんだろ」
──アキにオムレツを奪われてしまうぞ、っと、遅かったか。
「せーか、はんばーぐ、少しだけです、あげるするです」
「……俺にハンバーグ寄越す分俺の飯食う気か? 別にいいけどよ」
「…………」
「………………まさかサバも欲しいのか? ったく……好きに食えよ」
無言でセイカの昼食を見つめるアキに、観念したらしいセイカは自身のスプーンを渡した。
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