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四人で
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今晩はネザメ、ハル、レイ、アキにベッドを譲ることにした。
「いいのかい? 僕がここで眠って」
「四人はギリギリ入りますから、今日はちゃんとしたベッドで寝てください」
「君と鳥待くんは?」
そこでミフユの名前が出ないところが、ネザメに対する唯一の不満だ。
「……私は他人と一緒だと眠れないので」
「俺はソファででも寝ますよ」
ミフユは昨日と同じように寝袋で眠るつもりらしい、ネザメがベッドで寝るのだから昨日ネザメに使わせていたエアーベッドを使えばいいと俺は思うのだが。
「おやすみなさい」
寝室の扉を閉じ、三人でリビングに戻る。ミフユは手帳を開いてネザメの今日の体温や摂取カロリーなどのメモを整理し、備考欄をスラスラと埋めていく。
(……金持ちのお坊ちゃまってみんなこんなことしてるんでしょうか)
俺がミフユの立場だったら一週間とかからず備考欄に「昨日と同じ」と書くことになるだろうに、何年もこれを続けているだろうミフユが何行も何かを書いているのは本当にすごいことだ。
「…………よし。鳴雷一年生、自分は明日の準備をしたらもう眠る。貴様らもあまり騒がず、早めに寝るんだぞ」
「待ってください、ミフユさん。丸一日経ちましたけど、俺の彼氏を続けるかどうか結論は出ましたか? もう少し待ちましょうか」
「……すまない。もう少し、もう少しだけ……待ってくれ」
「分かりました。俺はどちらでもミフユさんの意思を尊重します、結論が出たら遠慮せず教えてくださいね」
「…………君の心遣いに感謝する」
ネザメの服の準備など、俺なら明朝慌ててやるだろう明日の準備をテキパキと整えたミフユは寝室に向かった。おそらく寝袋に潜り込んだのだろう。
「俺達も寝るか。シュカも眠いだろ。昨日も今日の昼も寝てないもんな」
「ええ、人の気配があると……どうしても」
どれほど殺伐とした日常を送ればそんな性質になってしまうのだろう、俺には想像もつかない。
「でも、俺が居ても眠れるんだよな?」
「……むしろ一人で眠るよりも快眠です。不思議ですよね」
眼鏡を外した寝間着のシュカと共にソファに寝転がる。もちろんシュカが背もたれ側だ。
「リビングの照明、消してくれ」
「……スマートスピーカーあったんですね、この家」
部屋が暗くなってもシュカの体温と香りは常に腕の中にある。
「あぁ、レイは一人だとなんか恥ずかしくて声出せないとかで使ってないらしいけどな。買ったんじゃなくてもらったとか当たったとか言ってたなぁ……」
「……電気なんていちいち命令するよりスイッチ押した方が早いと思ってましたけど、こういう時は便利ですね。にしても……やっぱり不思議です。あなたと居ると眠くなれる」
真っ暗闇で顔こそ見えていないものの、シュカが俺の胸に顔を寄せて甘えてくれている。
「俺のこと信頼してくれてるんだな、嬉しいよ。おやすみ、シュカ」
「おやすみなさい、水月……」
頭や背を撫でているとシュカはすぐに眠り始めた。二日寝ずに過ごしたのは辛かっただろう、この先学校での宿泊学習もあるだろうし、対処法を考えなければいけないな。
トースターの音と卵の焼ける匂いで目が覚めた。朝だ。シュカを揺り起こして机の上の眼鏡を渡し、顔を洗って髪型を整え、キッチンへ。
「ミフユさん、今日もありがとうございます。起こしてくれてもいいのに」
「おはよう、鳴雷一年生」
「おはようございます。今朝はスクランブルエッグですか……美味しそうですね」
ミフユはスクランブルエッグを皿に盛り付ける前にフライパンからスプーンで少しだけすくい、そのスプーンを俺に向けた。
「な、鳴雷一年生……味見を、頼めないだろうか……嫌なら、断ってくれても構わない」
頬を赤らめて俯き加減になっていることから、これが彼にとって愛情表現のようなものだと分かる。
「もちろんです!」
昨晩はまだ結論が出ていないと話していたが、俺の彼氏になってくれるのはほぼ確定だろう。
「ん、美味しい……! すごく美味しいです、ミフユさん」
「そ、そうか? よかった……」
ミフユはさっさとフライパンに向き直り、スクランブルエッグを皿に移し始めた。
ミフユが用意してくれた朝食を食べ終え、病院に行く四人は昼前に家を出た。
「完全防備だねぇ……」
UVカットの長袖長ズボンの服、手袋、マスクにサングラス、日傘と全身黒づくめのアキを見てネザメがため息をつく。
「そろそろ本格的に暑くなってくる頃だと言うのに肌の露出が出来ないとは、アルビノも大変だな」
「今日は外を歩かなくていいよ、喜んでくれるかい? 秋風くん」
マンションの外にタクシーが停まっている。どうやらミフユが呼んでおいたらしく、彼は助手席へ、俺とアキとネザメは後部座席に乗り込んだ。
「ありがとうこざいます。わざわざタクシー呼んでくださるなんて……」
「貴様のためではなくネザメ様のためだ、ネザメ様に公共交通機関など使わせられん」
修学旅行の飛行機とかどうする気なんだろう。
「そういえばネザメさん、アキには慣れました? 初対面の頃はまともに話せなかったみたいですけど」
「二、三言葉を交わす程度なら。けれど……微笑まれると未だに少し、ね」
「妬けちゃいますね。俺があなたの恋人なのに、あなたの心を乱すのはアキだなんて」
「ふふっ、君にも十分乱されているよ。ミフユの提案で君を遠くから見つめ、君の美顔に慣れたとはいえ、多彩な表情は物陰からでは伺えなかったからね。態度には出ていないかもしれないけれど、いつもときめいているよ」
その言葉と微笑みだけで俺もときめいてしまう。やはりネザメには敵わないな。
「いいのかい? 僕がここで眠って」
「四人はギリギリ入りますから、今日はちゃんとしたベッドで寝てください」
「君と鳥待くんは?」
そこでミフユの名前が出ないところが、ネザメに対する唯一の不満だ。
「……私は他人と一緒だと眠れないので」
「俺はソファででも寝ますよ」
ミフユは昨日と同じように寝袋で眠るつもりらしい、ネザメがベッドで寝るのだから昨日ネザメに使わせていたエアーベッドを使えばいいと俺は思うのだが。
「おやすみなさい」
寝室の扉を閉じ、三人でリビングに戻る。ミフユは手帳を開いてネザメの今日の体温や摂取カロリーなどのメモを整理し、備考欄をスラスラと埋めていく。
(……金持ちのお坊ちゃまってみんなこんなことしてるんでしょうか)
俺がミフユの立場だったら一週間とかからず備考欄に「昨日と同じ」と書くことになるだろうに、何年もこれを続けているだろうミフユが何行も何かを書いているのは本当にすごいことだ。
「…………よし。鳴雷一年生、自分は明日の準備をしたらもう眠る。貴様らもあまり騒がず、早めに寝るんだぞ」
「待ってください、ミフユさん。丸一日経ちましたけど、俺の彼氏を続けるかどうか結論は出ましたか? もう少し待ちましょうか」
「……すまない。もう少し、もう少しだけ……待ってくれ」
「分かりました。俺はどちらでもミフユさんの意思を尊重します、結論が出たら遠慮せず教えてくださいね」
「…………君の心遣いに感謝する」
ネザメの服の準備など、俺なら明朝慌ててやるだろう明日の準備をテキパキと整えたミフユは寝室に向かった。おそらく寝袋に潜り込んだのだろう。
「俺達も寝るか。シュカも眠いだろ。昨日も今日の昼も寝てないもんな」
「ええ、人の気配があると……どうしても」
どれほど殺伐とした日常を送ればそんな性質になってしまうのだろう、俺には想像もつかない。
「でも、俺が居ても眠れるんだよな?」
「……むしろ一人で眠るよりも快眠です。不思議ですよね」
眼鏡を外した寝間着のシュカと共にソファに寝転がる。もちろんシュカが背もたれ側だ。
「リビングの照明、消してくれ」
「……スマートスピーカーあったんですね、この家」
部屋が暗くなってもシュカの体温と香りは常に腕の中にある。
「あぁ、レイは一人だとなんか恥ずかしくて声出せないとかで使ってないらしいけどな。買ったんじゃなくてもらったとか当たったとか言ってたなぁ……」
「……電気なんていちいち命令するよりスイッチ押した方が早いと思ってましたけど、こういう時は便利ですね。にしても……やっぱり不思議です。あなたと居ると眠くなれる」
真っ暗闇で顔こそ見えていないものの、シュカが俺の胸に顔を寄せて甘えてくれている。
「俺のこと信頼してくれてるんだな、嬉しいよ。おやすみ、シュカ」
「おやすみなさい、水月……」
頭や背を撫でているとシュカはすぐに眠り始めた。二日寝ずに過ごしたのは辛かっただろう、この先学校での宿泊学習もあるだろうし、対処法を考えなければいけないな。
トースターの音と卵の焼ける匂いで目が覚めた。朝だ。シュカを揺り起こして机の上の眼鏡を渡し、顔を洗って髪型を整え、キッチンへ。
「ミフユさん、今日もありがとうございます。起こしてくれてもいいのに」
「おはよう、鳴雷一年生」
「おはようございます。今朝はスクランブルエッグですか……美味しそうですね」
ミフユはスクランブルエッグを皿に盛り付ける前にフライパンからスプーンで少しだけすくい、そのスプーンを俺に向けた。
「な、鳴雷一年生……味見を、頼めないだろうか……嫌なら、断ってくれても構わない」
頬を赤らめて俯き加減になっていることから、これが彼にとって愛情表現のようなものだと分かる。
「もちろんです!」
昨晩はまだ結論が出ていないと話していたが、俺の彼氏になってくれるのはほぼ確定だろう。
「ん、美味しい……! すごく美味しいです、ミフユさん」
「そ、そうか? よかった……」
ミフユはさっさとフライパンに向き直り、スクランブルエッグを皿に移し始めた。
ミフユが用意してくれた朝食を食べ終え、病院に行く四人は昼前に家を出た。
「完全防備だねぇ……」
UVカットの長袖長ズボンの服、手袋、マスクにサングラス、日傘と全身黒づくめのアキを見てネザメがため息をつく。
「そろそろ本格的に暑くなってくる頃だと言うのに肌の露出が出来ないとは、アルビノも大変だな」
「今日は外を歩かなくていいよ、喜んでくれるかい? 秋風くん」
マンションの外にタクシーが停まっている。どうやらミフユが呼んでおいたらしく、彼は助手席へ、俺とアキとネザメは後部座席に乗り込んだ。
「ありがとうこざいます。わざわざタクシー呼んでくださるなんて……」
「貴様のためではなくネザメ様のためだ、ネザメ様に公共交通機関など使わせられん」
修学旅行の飛行機とかどうする気なんだろう。
「そういえばネザメさん、アキには慣れました? 初対面の頃はまともに話せなかったみたいですけど」
「二、三言葉を交わす程度なら。けれど……微笑まれると未だに少し、ね」
「妬けちゃいますね。俺があなたの恋人なのに、あなたの心を乱すのはアキだなんて」
「ふふっ、君にも十分乱されているよ。ミフユの提案で君を遠くから見つめ、君の美顔に慣れたとはいえ、多彩な表情は物陰からでは伺えなかったからね。態度には出ていないかもしれないけれど、いつもときめいているよ」
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