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プライスレス

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結腸の手前まで挿入は楽に進んだが、セイカの瞳から一粒の涙が零れた。結腸口をこねるのをやめて上体を倒し、唇を重ねて舌を絡ませ合いながら髪を撫でた。

「ん、んん……はぁっ、ぁ……」

「セイカ、どうだ?」

行為中に感想を聞きまくる男をどう思う? 俺は気持ち悪いと思う。鬱陶しいし、察する能力の低さに辟易する。

「んっ……! 鳴雷、のが……奥まで来てる。これで、寂しく、なぃ……ずっと、寂しかった。今寂しくないっ……うれ、しい……鳴雷、すき」

五日間一人きりで居たのは俺の想像が及ばないほどに寂しかったのだろう。その寂しさが癒されたことへの涙だったようだ。

(痛がってないのならよかったでそ)

セイカの耳元で「動くよ」と囁き、頷いた彼への愛おしさで爆発してしまいそうな気持ちを腰を揺らすことで少しずつ発散していく。

「んぁっ、あんっ、ん、ゔっ……!」

とちゅ、とちゅ、と優しく結腸口を突いてやる。濁った瞳は快楽に歪み、セイカの左手はしっかりと俺の首に絡んでいる。

「鳴雷っ、なるっ、かみぃ……気持ち、ぃ? 俺っ、ぁんっ、ん、んんっ! 気持ちいい? 俺ぇ……どぉっ? 俺、きもちっ、いいっ?」

気持ちいいと感想を言っているのだろうと嬉しく思っていたが、よく聞いてみると疑問形だ。俺が気持ちよくなれているか気にしているのだろうか。

(あ、そっか。トレーニングの成果聞きたいんですな。けなかわ~)

快楽を感じながらも不安そうにもしているセイカとしっかり目を合わせる。

「気持ちいいよっ……すごく、イイ」

「ほんとっ? ほんとにっ、んんっ……!」

「本当だよ、顔見て分からないか?」

頬が熱くなっているのが分かる。意識していなければ口が半開きになってしまうし、きっと快感に歪んだ情けない顔をしているはずだ。

「……もうちょい奥入っていいか?」

「ん……きてっ、ん、んゔっ、ぁ、あぁあっ! は、ぁゔっ……!」

「……っ、はぁ……奥は特にキツいな。先っぽ吸われるのめちゃくちゃイイ」

「ぁ、あっ……んんんっ! こんっ、な、ぁ、奥っ……んんゔっ! は、入っ、んんっ!」

結腸に出入りしてセイカの体内でぐぽぐぽと音を立てる。亀頭をちゅっ、ちゅっと吸われる快感に熱い吐息を漏らす。

「ぁ、ぁんっ! んっ、ゔ、なるっ、かみぃっ! ひっ、ゔ、ぅうっ! んんんっ!」

俺の下で喘ぐセイカの表情はとても悩ましい、俺が居なければ死を望むような彼だからこそ死と正反対の生殖行為もどきがよく似合う。

「セイカは? 気持ちいいか?」

つけさせたコンドームの先端がぷくっと膨れていることから、セイカが射精したのは分かっている。わざわざ聞かなくたって気持ちよくなってくれていることは丸分かりだ。

「……っ、いっ、ひ……きもちっ、ぃっ! きもひっ、ぁんっ! んゔぅ、んんんっ!」

「うん……可愛い、可愛いな。はぁっ……ぁ、出るっ……!」

セイカの中に──いや、コンドームの中に精液を注ぐ。

「ふぅ……」

射精の余韻に浸るにはちょうどいい締め付けだ。アキくらい締め付けが強いと萎えてすぐ強い刺激を与えられて勃たされるから、ゆったりとしたセックスには向かない。セイカはイチャラブ向けの身体をしている。

(個性がイロイロうつくしいね~♪ って感じでそ)

昔大ヒットしたゲームソングを心の中で歌いながら陰茎を抜き、コンドームを外して口を縛る。

「……鳴雷、なんか、二回抜けた感じした」

「え? あぁ、ゴムの精液溜まったとこかな? 感度いいなぁ。セイカのも外すぞ」

「ん……」

セイカの陰茎に被せていたコンドームに溜まった精液は俺のよりも少ない。俺は二発目なのに。射精量の少なさにセイカの不健康さを感じて心配になる。

「気持ちよかったか?」

「うん……鳴雷は?」

「気持ちよかったよ、すごく」

事実だ。先週より締め付けが良くなったのもあり、ちゃんと気持ちよくなれた。百戦錬磨のシュカとのセックスだとかとは比べ物にならないけれど、普通のセックスはこんなものだろう。

「…………何番目?」

「へっ?」

「俺の、その……穴、何番目にいい? 一番下……?」

「そっ、そんな、順位なんてつけたくないし、それにっ、そもそも……まだ抱いてない子、居るし」

「ふーん……抱いてないのって俺より後に付き合ったって二人?」

「も、だし……その他にも。半分くらいは抱いてないよ」

抱いていないのはハル、カミア、歌見、ネザメ、ミフユ、だったかな。

「半分……五人くらいか。なんで抱いてないの?」

「え……? いや……それは、まぁ、な」

「…………俺より前から付き合ってんのにまだ抱いてないってことは、俺にはすぐ手出したってことだよな、なんで?」

そんなこと聞かれても困る、俺にだって分からない。

「俺、が……何してもいいって言ったから? ヤってもいいんだって分かったから?」

「……まぁ、それもあるな。同意がなきゃ嫌だし」

「………………安い? 俺。簡単にヤれるって……ナメてたり、する?」

「なっ、何言うんだよ! そんな訳ないだろ……!」

「……だよ、な。ごめん」

空気が重い。行為中は確かに互いへの愛だけがあったのに、不安や苛立ちなんてなかったのに、どうしてこうなってしまうんだろう。

(あ、ダメでそ。ため息なんかついちゃったらセイカ様泣いちゃいますぞ)

自然な呼吸を意識しながらセイカの隣に座り、右腕で肩を抱く。するとセイカは俺に恐る恐る頭を預け、安心したように深く息を吐いた。

(よっしゃ)

今回はすぐに落ち着かせられた。俺もセイカの扱いに慣れてきた……ってこの言い方はよくないかな。

「鳴雷……」

「ん?」

「…………俺のこと、好き?」

「好きだよ」

左手で顎を支えて濡れた目尻にキスをする。

「……鳴雷に、抱かれるの……好き、なんだ。鳴雷に求められてるみたいで……生きてていいって、言われてるみたいで……すごく、すき」

「みたいじゃなくて、そうなんだよ。俺はセイカを求めてるし、セイカは生きてるべきなんだ」

「…………鳴雷は、俺抱くの……好き?」

「もちろん。大好きな人と繋がれるなんて最高だよ」

「……お金払うならいくらにする?」

「プライスレス、じゃ納得しないかな? お金なんかじゃ買えない時間なんだけど……そうだなぁ、セイカが欲しいだけ払うよ。俺そんなにお金持ってないけどさ」

「言い値? ふぅん……」

どういうつもりの質問だったんだろう。分からないけれど、ハッキリとした数字を言わなかったのはファインプレーだと自分では思っている。たとえば十万とか言っていたら、じゃあ新型スマホ以下なのかという話になってくる訳で……うん、ファインプレーだな、俺。

「俺の処女五千円だったけどな」

「…………」

「俺の取り分で言えばタダ」

「…………」

キレるな。表情を整えろ。舌打ちもするな。顔も知らない買春ジジイとイジメっ子共への憎悪は外に出すな。

「……怒ってる? 嬉しいな。俺なんかにいくらでも払うって言ってくれて……俺に酷いことされたくせに、俺が酷い目に遭った話で自分のことより怒ってさ………………大好き、大好き……鳴雷、大好き…………んっ、鳴雷……? ぁ、んっ……言い値だっけ、じゃあタダで……ぁんっ!」

俺の肩にグリグリと頭を押し付けるセイカの可愛さに、気付けば再び彼を押し倒していた。
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