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花言葉は「私のものになって」らしい
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泣き止んだのを確認してセイカを抱き締めるのをやめ、濡れて冷えた頬にキスをして頭を撫でる。
「あのさ、看護師さんに栞受け取ったかって聞かれたんだけど、セイカ何のことか分かるか?」
「へっ……? い、言ったのかあの人……ふざけんなよ、クソっ、もう渡さないつもりだったのに」
「セイカ?」
「何でもない、何もない、忘れろよ」
俺はその反応で栞とやらが何なのか察してしまった。
「……欲しい、くれ。誕生日プレゼントだろ? 電話で話してたヤツだよな。俺のこと考えて用意してくれたんだよな、その時のセイカ想像するだけで幸せになれるよ。俺どんな物でも喜べるから、くれ」
「……………………そこの棚、一番上の引き出し開けてくれ」
言われた通りにすると引き出しの中にポツンと栞が置かれていた。小さく切った画用紙にクローバーを置いてラミネート加工したものだ。上部には穴が開けられ、緑混じりの綺麗な水色のリボンが結ばれていた。
「これか? 栞って……え、思ってたよりオシャレ。どうやって手に入れたんだ?」
「……中庭に出ていいって言ってもらったから……詰んで……押し花にでもしようと思って、押し花ってどう作るのか相談したんだ。そしたら、小児病棟でやった体験教室の余りがあるから、せっかくなら栞にしたらって」
「あの看護師さんか。ファインプレーだなぁ」
裏側には横書きで2025.6.6とあった。昨日の日付、俺の十六歳の誕生日だ。その下には筆記体で【Loved one】と……ダメだ、俺の壊滅的な英語力ではどういう意味か分からない。Loveだけは分かるが、その後に付いているのをどう翻訳していいか分からない。
「鳴雷、よく本読むから……栞、喜ぶかなって、早く渡したいなって……でも、しばらくしたらなんかすっごくみっともない物に思えてきて……こ、こんなっ、こんなしょぼいの渡したって、困らせるだけって気付いて……俺、俺こんなのしか用意出来ないダメな奴だって、何も出来ないんだって……くるしく、なってきて」
「もう……変なとこバカだなぁ、嬉しいよ。欲しい。くれるだろ?」
「……気ぃ遣うなよ」
「遣ってない。四葉のクローバーだぞ? オシャレじゃん。紙の本好きだから栞は普通に使うしな」
本心だ、セイカの手作りというだけでも欲しいのに、実用的でオシャレと来れば欲しがらない理由がない。
「……本当は四葉じゃない。探したけど三葉しか見つからなくて……無理矢理四葉にしたんだ」
「そうなのか? まぁ見ても分かんないし、作るくらい俺に四葉あげたかったんだなーって思うとセイカが可愛くってキュンキュンしちゃうよ」
「……本当に嬉しいのか? そっか……趣味悪ぃな。粗大ゴミが作った可燃ゴミ喜ぶとか……ふふ、趣味悪……ふふふ」
ホッとした顔で悪態をついたセイカを見て俺も安堵する。自虐は訂正させたいけれど、機嫌が良さそうだし今は口を挟まないでおこう。
「あのさ、セイカ。栞に書いてる【Loved one】ってどういう意味なんだ? ラブが愛してるなのは分かるんだけど、その後ろのがちょっと分かんなくて」
「…………マジで? 嘘だろ……説明要る? うわ……」
「あ、恥ずかしがってる? 顔赤い……可愛い……これはセイカの口から聞かなきゃダメだな!」
「………………さ……あぃ、の……人」
「んー? 声ちっちゃいよセイカぁ」
一言一句逃さず聞こえていたけれど、もう一度聞きたくて聞こえなかったフリをする。
「だからっ、さ、最愛の、人……」
「最愛! 俺が! わたくしこそがセイカの最愛! ィイヤッホッホッホォウ!」
「……俺お前という人間を理解出来る気しねぇわ」
「ミステリアスで魅力的って言ったか!?」
「意味不明で怖ぇって言ってる」
毒の混じった乱暴な口調に俺はかつてのセイカらしさを感じていた。俺を虐めていた時は苛烈な暴言ばかり履いていたけれど、俺と仲良くしてくれていた時はちょっと笑える悪口を会話に混ぜていたのだ。
「……あのさ、セイカ。大事な話していいかな」
今のセイカになら話しても大丈夫だろう。そう考えた俺は彼からもらった栞を折ってしまわないよう気を付けながら握り締め、覚悟を決めた。
「なんだよ……改まって。本当に怖いぞ」
「俺の彼氏のことなんだ」
「うん……? 俺?」
「うん、セイカは俺の彼氏だよ。九人目、の……」
ジト目のまま不思議そうな顔をしていたセイカは、九人目と聞いた瞬間その厭世的な目を見開いた。
「何人も付き合っては別れてるってことじゃない、浮気してるってことだ。今、十一人居る……セイカはその九人目。セイカと付き合ってから、更に二人口説き落としたってこと。ごめん、早く話さなきゃって思ってたんだけど、タイミング見つからなくて、遅くなって……本当にごめん」
本来なら付き合う前に、最低でもキスをする前に、どんなクズでもセックスの直前には言うべきだった。なのに俺は何も言わずにセイカを口説いて唇も既に失われていた処女も奪った。許される行為ではない。
「…………思考が、追い付かないんだけど。え……何、十一……? 三人くらいなら分かるけどっ、じゅ……えぇ……?」
「浮気なんだけど浮気じゃないんだ、セイカ以外の十人は全員仲良くしてくれてる。急にエロい話するけど複数プレイだってした。ハーレムなんだよ! 俺は美少年ハーレムを作りたいんだ!」
「……エロ本の読み過ぎだろ、お前。そういやなんか話してたよな、可愛い男に囲まれて過ごしたいとか何とか」
ハーレム願望はずっと抱いていたが、セイカに昔それを話したことなんて覚えていない。
「それで……あの、いいかな? 十一人のうちの一人で。もちろん寂しい思いはさせない! 普通の人が一人に注ぐ愛情と時間と手間をちゃんとかけてみせる、割り算じゃなくて掛け算なんだよ俺の愛は!」
「…………何が言いたいの? お前」
やはり怒らせたか?
「ごちゃごちゃ言ってないで俺にどうして欲しいのか言えよ」
「……俺は十一人も彼氏が居て、その浮気を隠そうともせず、今後も全員と付き合っていきたいと思ってるクズだけど……これからもよろしくお願いします」
「おぅ……? いや、だから俺にどうして欲しいんだってば」
「え? あ、あぁ、このままの関係でいたい……話しておきたかったんだ、他にも彼氏が居るって。いいかな、セイカ……こんな俺を好きなままでいてくれるか?」
セイカは不思議そうな顔をした後、首を傾げた。
「何……? 報告……?」
「え、う、うん、まぁ、報告と言えば報告かな」
「……じゃあ疑問形にすんなよ紛らわしい。彼氏他にも居んのね、はいはい分かった、覚えておきます、これでいいか?」
「…………いいのか? 他に彼氏居ても」
意外だ、もっと怒ったり嫌がったり泣いたりすると思っていた。自惚れだったのだろうか。
「いいのかって、何……嫌だって言ったらどうすんの? 俺と別れんの? 他の十人と別れんの?」
「……嫌だよ。みんな俺の可愛い彼氏だ、頑張って説得する」
「説得出来なかったら?」
「…………その時は、悪いけど……数の多い方を」
「へぇー……ハーレム受け入れねぇヤツはいらねぇって? 偉くなったもんだなおい、まぁそうだよな、痩せて綺麗になったんだもんなぁ!」
声を張り上げたセイカの目には涙が滲んでいる。
「なんなんだよクソっ、ふざけんなよぉ……顔に釣られたようなヤツらっ……俺は、俺はっ、お前があのままでも……」
「……セイカ」
俺の母親に嫉妬して虐めを始めたなんて言い出すほど独占欲が強いセイカが納得してくれるはずがなかった。俺は後何度セイカを泣かせてしまうのだろう。
「あのさ、看護師さんに栞受け取ったかって聞かれたんだけど、セイカ何のことか分かるか?」
「へっ……? い、言ったのかあの人……ふざけんなよ、クソっ、もう渡さないつもりだったのに」
「セイカ?」
「何でもない、何もない、忘れろよ」
俺はその反応で栞とやらが何なのか察してしまった。
「……欲しい、くれ。誕生日プレゼントだろ? 電話で話してたヤツだよな。俺のこと考えて用意してくれたんだよな、その時のセイカ想像するだけで幸せになれるよ。俺どんな物でも喜べるから、くれ」
「……………………そこの棚、一番上の引き出し開けてくれ」
言われた通りにすると引き出しの中にポツンと栞が置かれていた。小さく切った画用紙にクローバーを置いてラミネート加工したものだ。上部には穴が開けられ、緑混じりの綺麗な水色のリボンが結ばれていた。
「これか? 栞って……え、思ってたよりオシャレ。どうやって手に入れたんだ?」
「……中庭に出ていいって言ってもらったから……詰んで……押し花にでもしようと思って、押し花ってどう作るのか相談したんだ。そしたら、小児病棟でやった体験教室の余りがあるから、せっかくなら栞にしたらって」
「あの看護師さんか。ファインプレーだなぁ」
裏側には横書きで2025.6.6とあった。昨日の日付、俺の十六歳の誕生日だ。その下には筆記体で【Loved one】と……ダメだ、俺の壊滅的な英語力ではどういう意味か分からない。Loveだけは分かるが、その後に付いているのをどう翻訳していいか分からない。
「鳴雷、よく本読むから……栞、喜ぶかなって、早く渡したいなって……でも、しばらくしたらなんかすっごくみっともない物に思えてきて……こ、こんなっ、こんなしょぼいの渡したって、困らせるだけって気付いて……俺、俺こんなのしか用意出来ないダメな奴だって、何も出来ないんだって……くるしく、なってきて」
「もう……変なとこバカだなぁ、嬉しいよ。欲しい。くれるだろ?」
「……気ぃ遣うなよ」
「遣ってない。四葉のクローバーだぞ? オシャレじゃん。紙の本好きだから栞は普通に使うしな」
本心だ、セイカの手作りというだけでも欲しいのに、実用的でオシャレと来れば欲しがらない理由がない。
「……本当は四葉じゃない。探したけど三葉しか見つからなくて……無理矢理四葉にしたんだ」
「そうなのか? まぁ見ても分かんないし、作るくらい俺に四葉あげたかったんだなーって思うとセイカが可愛くってキュンキュンしちゃうよ」
「……本当に嬉しいのか? そっか……趣味悪ぃな。粗大ゴミが作った可燃ゴミ喜ぶとか……ふふ、趣味悪……ふふふ」
ホッとした顔で悪態をついたセイカを見て俺も安堵する。自虐は訂正させたいけれど、機嫌が良さそうだし今は口を挟まないでおこう。
「あのさ、セイカ。栞に書いてる【Loved one】ってどういう意味なんだ? ラブが愛してるなのは分かるんだけど、その後ろのがちょっと分かんなくて」
「…………マジで? 嘘だろ……説明要る? うわ……」
「あ、恥ずかしがってる? 顔赤い……可愛い……これはセイカの口から聞かなきゃダメだな!」
「………………さ……あぃ、の……人」
「んー? 声ちっちゃいよセイカぁ」
一言一句逃さず聞こえていたけれど、もう一度聞きたくて聞こえなかったフリをする。
「だからっ、さ、最愛の、人……」
「最愛! 俺が! わたくしこそがセイカの最愛! ィイヤッホッホッホォウ!」
「……俺お前という人間を理解出来る気しねぇわ」
「ミステリアスで魅力的って言ったか!?」
「意味不明で怖ぇって言ってる」
毒の混じった乱暴な口調に俺はかつてのセイカらしさを感じていた。俺を虐めていた時は苛烈な暴言ばかり履いていたけれど、俺と仲良くしてくれていた時はちょっと笑える悪口を会話に混ぜていたのだ。
「……あのさ、セイカ。大事な話していいかな」
今のセイカになら話しても大丈夫だろう。そう考えた俺は彼からもらった栞を折ってしまわないよう気を付けながら握り締め、覚悟を決めた。
「なんだよ……改まって。本当に怖いぞ」
「俺の彼氏のことなんだ」
「うん……? 俺?」
「うん、セイカは俺の彼氏だよ。九人目、の……」
ジト目のまま不思議そうな顔をしていたセイカは、九人目と聞いた瞬間その厭世的な目を見開いた。
「何人も付き合っては別れてるってことじゃない、浮気してるってことだ。今、十一人居る……セイカはその九人目。セイカと付き合ってから、更に二人口説き落としたってこと。ごめん、早く話さなきゃって思ってたんだけど、タイミング見つからなくて、遅くなって……本当にごめん」
本来なら付き合う前に、最低でもキスをする前に、どんなクズでもセックスの直前には言うべきだった。なのに俺は何も言わずにセイカを口説いて唇も既に失われていた処女も奪った。許される行為ではない。
「…………思考が、追い付かないんだけど。え……何、十一……? 三人くらいなら分かるけどっ、じゅ……えぇ……?」
「浮気なんだけど浮気じゃないんだ、セイカ以外の十人は全員仲良くしてくれてる。急にエロい話するけど複数プレイだってした。ハーレムなんだよ! 俺は美少年ハーレムを作りたいんだ!」
「……エロ本の読み過ぎだろ、お前。そういやなんか話してたよな、可愛い男に囲まれて過ごしたいとか何とか」
ハーレム願望はずっと抱いていたが、セイカに昔それを話したことなんて覚えていない。
「それで……あの、いいかな? 十一人のうちの一人で。もちろん寂しい思いはさせない! 普通の人が一人に注ぐ愛情と時間と手間をちゃんとかけてみせる、割り算じゃなくて掛け算なんだよ俺の愛は!」
「…………何が言いたいの? お前」
やはり怒らせたか?
「ごちゃごちゃ言ってないで俺にどうして欲しいのか言えよ」
「……俺は十一人も彼氏が居て、その浮気を隠そうともせず、今後も全員と付き合っていきたいと思ってるクズだけど……これからもよろしくお願いします」
「おぅ……? いや、だから俺にどうして欲しいんだってば」
「え? あ、あぁ、このままの関係でいたい……話しておきたかったんだ、他にも彼氏が居るって。いいかな、セイカ……こんな俺を好きなままでいてくれるか?」
セイカは不思議そうな顔をした後、首を傾げた。
「何……? 報告……?」
「え、う、うん、まぁ、報告と言えば報告かな」
「……じゃあ疑問形にすんなよ紛らわしい。彼氏他にも居んのね、はいはい分かった、覚えておきます、これでいいか?」
「…………いいのか? 他に彼氏居ても」
意外だ、もっと怒ったり嫌がったり泣いたりすると思っていた。自惚れだったのだろうか。
「いいのかって、何……嫌だって言ったらどうすんの? 俺と別れんの? 他の十人と別れんの?」
「……嫌だよ。みんな俺の可愛い彼氏だ、頑張って説得する」
「説得出来なかったら?」
「…………その時は、悪いけど……数の多い方を」
「へぇー……ハーレム受け入れねぇヤツはいらねぇって? 偉くなったもんだなおい、まぁそうだよな、痩せて綺麗になったんだもんなぁ!」
声を張り上げたセイカの目には涙が滲んでいる。
「なんなんだよクソっ、ふざけんなよぉ……顔に釣られたようなヤツらっ……俺は、俺はっ、お前があのままでも……」
「……セイカ」
俺の母親に嫉妬して虐めを始めたなんて言い出すほど独占欲が強いセイカが納得してくれるはずがなかった。俺は後何度セイカを泣かせてしまうのだろう。
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