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あーん行脚

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ぽてっ、ぽて、と皿にタコ焼きが五つずつ配られた。リュウはすぐに鉄板に油を塗り直し、生地を流し込んでタコを入れて……と次のタコ焼きを作り始めた。

「おぉ~……パリパリ、これなら油二度塗りでもいいかも~」

タコ焼きを二つに割ったハルは箸から伝わる感触に感嘆している。

「中トロトロ~、美味しそ。いっただっきまーす」

かなり熱そうだし、割って冷ましてから食べるべきだろうと考えて割っていると、アキが突然口を押さえて呻いた。どうやら丸々一個口に放り込んだらしい。

「アキくん? どないしたん、大丈夫か? 水飲み」

タコ焼きに馴染みがないとああなるのかとアキを心配しつつも横目でネザメの様子を確認すると、ミフユが彼の分のタコ焼きを割り、息を吹きかけて冷まし、ネザメの口に運んでいた。ネザメは箸を持っていない。

「アレやりたい……カンナ、カンナ、ふーふーして食べさせてくれ」

右隣のカンナにそうねだりながら皿を差し出すと、カンナは僅かに頬を赤らめて頷き、俺が割ったタコ焼きを一つ箸でつまむと艶やかな唇を尖らせてふぅふぅと息を吹きかけた。

「あっづ!」

カンナの顔の下半分に夢中になっていると、左隣から悲鳴が上がった。

「レイ? 大丈夫か? アキも似たようなことなってるんだから気を付けろよ、氷齧るか?」

「ぅー……一応割って冷ましたんすよぉ? 思ったより熱かったんすぅ……」

「みぃくん、あーん」

「ん、あーん……」

美少年に食べさせてもらうと十倍程度美味しくなる。そう確信した俺はレイにも「あーん」をねだった。

「はい、せんぱい、あーんっ……」

「んー……! 美味い、確実に十倍は美味くなってる」

席を立っていいだろうか? 五つのタコ焼きを二つに割っているから彼氏全員に食べさせてもらっても一切れ余る、席を回れという思し召しに違いない。

「ちょっと行ってくる……シューカっ、あーんしてくれ」

皿を持ってシュカの隣に立つ。

「はぁ? はぁ……いいですよ、誕生日ですものね、多少のワガママは聞いてあげます。オラ、口開けろ」

顎を掴まれてタコ焼きを口の中に放り込まれる。割ってからしばらく経ったからか程よく冷めていて、外はパリパリ中はトロトロでとても美味しい。

「ソースとかいらないんだな、このままで美味い」

「だし粉入れとりますから」

「一応買っといたんだけどなぁ~」

ミフユの隣に身を屈め、大きな猫目に俺の顔を映させた。

「ミフユさん、俺にもあーんしてください」

「何故自分がそんなことを……食事中に席を立つな」

「ネザメさんにはして俺にはしないって酷いじゃないですか、俺達恋人同士でしょう?」

「あっ……そ、そういえばそうだったな……仕方ない。口を開けろ」

「そういえばそうだったな……!?」

ミフユの方から告白してくれたのに、どうして忘れているんだ。️ネザメが本命なのだろうとは察しているし、我慢もするつもりだけれど、付き合っていること自体を忘れるなんて流石に許容出来ない。

「ん、美味しいです」

後で自分が俺の恋人であると身体で理解させてやろう。

「ネザメさんっ、ネザメさんにもあーんして欲しいんですけど……」

「ふふ、もちろんいいよ。僕にもしてくれるかな?」

「はい!」

互いに箸を持ち、程よく冷めたタコ焼きを互いの口にそっと入れる。見つめ合ったまま咀嚼し、ほぼ同時に喉の奥へと落とす。

「……美しい。たまらないよ鳴……水月くん、どんな表情をしても全く損なわれることのない君の美幌はこの世界の宝だ。目を閉じて口を開いた君を見ていると邪な発想が生まれてしまうけれど、あまりにも美しいから手を出そうという気は失せてしまうね」

「えっと……ありがとうございます、ネザメさんもすごく綺麗で、可愛かったですよ」

頬を撫で、ウェーブがかった前髪にキスをすると、ネザメは頬を赤らめて俯いた。少し間を置いて俺を見上げ、眉尻を下げ目を細めて微笑む。

「嬉しいよ」

俺の手に頬を擦り寄せながらの言葉には嘘も演技もないと思いたい。照れてくれてもネザメの真意は分からない、この胡散臭さがただそう見えるだけならいいのだが。

「ありがとうございました先輩方。さて……せーんぱいっ、流れ分かってますよね? あーんしてください」

「言うと思ったよ。霞染やアキくん辺りなら分からなくもないが、こんな厳つい男にあーんされて何が嬉しいんだか……ほら、あーん」

「あーん……んっ、美味しい。せんぱいが食べさせてくれたら何だって美味しいですよ。デザートの雄っぱい予約していいですか?」

「………………後でな」

「よっしゃあ誕生日最高っ!」

シュカが言っていた通り今日は多少のワガママが許される日だ。普段様々なプレイが断られがちなシュカや歌見の身体を堪能するには打って付けの日だ。

(パイセンの雄っぱい吸いつつシュカたまにしゃぶらせたりなんて……ぶほほほほほっ)

食欲を満たしている最中に性欲から成る妄想を楽しみつつ、ハルの元へ。

「ハールっ」

「あーん」

「おっ、理解が早くて助かる……ん、美味しい」

「へへー……みっつんみっつん、俺にも~」

学校に居た時と変わらないポニーテールかと思っていたが、近くでよく見ると毛先が僅かにくりんっと巻いている。

「……ハル、髪なんかしたか? くりんってなってる」

「あ、分かった~? 帰ってから急いでカールかけたんだぁ~、せっかくだしオシャレしたくって! 服も見て見て、今日はスカート長めなの。パーティだからさぁ、お上品な方がいいかなーって」

黒いフレアスカートはハルにしては珍しく膝下の丈、白いシャツには襟や裾に地味なレースが施されており、確かに上品っぽい格好だった。

「あぁ、大人のお姉さんって感じだな。すごく可愛いよ。後で立ってくるんって回ってみてくれ、スカートのひらみをしっかり見たい」

「いいよ~!」

鉄板料理は服に匂いが染みやすいからこういった服は避けそうなものだが、俺の誕生日だからとオシャレを考えてくれたハルは全力で愛でなければならない。彼に対してのワガママは抑えめでいこう。

「リュウ、分かるな? ご主人様に食べさせるんだ」

肩をポンと叩き、皿を差し出す。

「はぁい……へへ、俺犬やから箸使われへんけど堪忍な? ご主人様ぁ」

リュウはタコ焼きを回していた串で俺のタコ焼きを刺し、咥え、顔を突き出した。俺は彼の後頭部に手を添えてキスをする時のようにタコ焼きを受け取り、食べた。口移しとはまた嬉しいことを……これもみんなにして欲しい、もう一周行こうかな。

「ん、美味い。美味いもん作れて偉いな、お前は俺の愛犬だよ」

「はぁあぁん……なでなで気持ちええわぁ、ご主人様ぁ……もっとぉ」

「犬は撫でて欲しい時なんて言うんだ?」

「なんて……? あっ……くぅん、わん……わふ……?」

「正解。よしよし……ふふふ」

両手で頭を撫で回してやるとリュウは満足し、タコ焼きをひっくり返す業務に戻った。さて、最後の一人は最難関だな。

「……アキ、お兄ちゃんに食べるするさせて欲しいんだけど……分かるかな?」

みんなの元を回っている最中チラッとアキの方を見てみたが、彼は俺を見ずリュウと話したりリュウの手つきに夢中になったりしていたから、多分俺のあーん行脚には気付いていない。
なので俺は一切れ余るタコ焼きを既に自分の分は食べ終えているアキの箸を使ってつまみ、アキに食べさせてみた。

「ん……ありがとーです、にーに」

「お兄ちゃんにもしてくれるか?」

アキに箸を返し、残り一切れのタコ焼きと俺自身の口を指す。するとアキは俺の要求を理解してくれた。

「あーん……ん、美味しい。どぅふふふ……ありがとうなアキ、美味しいよ」

優しく頭を撫でてやると俺の要求を達成出来たと分かったようで、無邪気な笑顔を見せてくれた。
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