冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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鳴り響くクラッカー

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セイカの様子が気になる。レイと居るのに彼のことばかり考えてしまう。明日、萎れた野花が病室のゴミ箱に捨てられてあったら拾って喜んで見せようか、気遣いだと思われるだろうか、たとえ萎れた野花だってセイカが贈ってくれるなら俺は本当に嬉しいのに。

「せんぱいっ、着いたっすよ」

「……あぁ、うん」

「元気ないっすね?」

「今日は体育あったし……ちょっと疲れたかもな」

レイは大人だからと散々相談した後で何だが、悩んでいると悟られたくなくて笑顔を作った。練習に練習を重ねた笑顔は自然だったらしく、レイは俺の疲れは身体だけのものだと勘違いしてくれた。

「おうち帰ったらきっと癒されるっすよ」

「……うん」

おうち、か。俺はただの居候なのに、同棲カップルのような気分になっていいのだろうかと罪悪感を覚えながらもレイの可愛さに甘え、自宅に入るかのような厚かましい態度でレイの家の扉を開けたその瞬間──パンパパパンッ! と破裂音が響いた。

「おかえり!」
「お誕生日おめでとう」
「おめでと~!」
「おかえりなさい」
「誕生日おめでとう」

カラフルな紐やスパンコールが降り注ぐ。クラッカーだ、初めて受けた。

「……バラッバラやないかい! 言うたやんせーので「お誕生日おめでとう」やて! 誰やおかえり言うたん!」

「まぁまぁいいじゃん、もうやり直しとか無理だし」

「みー、くん……? び、くり……した? だい、じょぶ……?」

呆然と立ち尽くしたまま動けないでいる俺を心配したカンナが一歩前に出て、俺の髪に絡まった紐を取った。その瞬間、俺の腕はトラバサミのようにカンナを捕らえた。

「……っ!? み、みぃくん……?」

「みんな……何、何だよ、今日何もないのかってちょっと落ち込んでたのに……何だよこのサプライズ、最高かよ……!」

サプライズが嫌いだと言ったな? アレは撤回させてもらおう。落として上げるは素晴らしい流れだ。

「え……全員集まってるのか?」

「見りゃ分かるっしょ~? みっつんの誕生日なんだからそりゃ彼氏大集合するって!」

「入院中の彼と時雨さんの弟以外は揃っていますよ」

九人か、大所帯だな。俺も入れて十人? 部屋が狭いな。既に玄関前はぎゅうぎゅうだ。

「さっさと着替えて早く来てね~」

「夕飯の準備は出来ているよ」

「紅葉さん何もしとらんかったやないですか」

「じゃ、せんぱい、俺は先に行ってるっす」

俺の後ろに居たレイは彼氏達に混ざってダイニングへ向かった。今日の夕飯は買わなくてもいいと言っていたから、誕生日のご馳走を用意してくれているのではと疑ってはいたが、まさかここまでのパーティが企画されていたとは……

「みぃくん……? そろ、そ……はな、して」

「これいつから計画立ててたんだ?」

カンナを抱き締めたまま寝室に入り、カンナに尋ねる。

「ちょ、と……前。みぃくん……なし、ぐるーぷ……つく、て、話しあってた。ザメ、さ……達、にも、すぐ……せつめ、して」

「俺抜きのグループってそういうことだったのか……スッキリしたよ」

「ごめ……ね? きょーも……どき、ど……がっか……させ、た?」

「まぁドキドキもガッカリもしたけど、この前フリのためなら納得だし嬉しいが勝った! ありがとうな、カンナ」

ちゅっと唇を触れ合わせるだけのキスをしてからカンナを離し、着替え始める。制服からカッコよさめの部屋着に着替えているだけなのに、それを眺めているカンナはモジモジと太腿を擦り合わせている。

「……晩ご飯食べてから、な?」

九人集まっているとはいえ一発抜いてやるくらいは出来るだろう。そう想定した俺はカンナの尻を軽く揉んでからダイニングに向かった。

「たこ焼きか?」

大きな長方形のホットプレートと、丸型の小さめのホットプレートには半球の凹みが規則正しく並んでいる。タコ焼き用の鉄板だ。

「大人数ならタコパっしょ」

「よぉ言うわ、鉄板持ってきたん俺やで」

「ありがとうございますっす、タコ焼き用のはないんすよ」

長方形の方は鉄板が取り外し可能なようで、通常の鉄板と取り替えれば焼肉なども出来そうだ。だが、丸型の方は側面にタコのイラストが描いてあることからも分かる通りタコ焼き専用のホットプレートだ。

「なんで家に二つもホットプレートあるんですか?」

「知らんがな、あるもんはあんねん」

事前に作っておいてくれたというペールオレンジの液体……タコ焼き粉と水、卵などを混ぜ合わせたものが鉄板に流し入れられる。

「みっつんチョコとマシュマロどっちにする~?」

「い、いや……まずは普通のタコ焼き食べたいな」

どうやらタコ焼き生地だけでなく、デザート用のホットケーキミックスまで用意済みらしい。

「水月は焼けるんゆっくり待っとってな」

「あ、俺紅しょうが嫌いなんで入ってないの何個か作っといて欲しいっす」

「キャベツ入れないのか?」

「キャベツ入れたらお好み焼きやないですか兄さん。あ、アキくんはしょうがええか? 避けといたろか?」

丸型の穴に流し込まれた生地に、穴一つごとにタコの切り身が一つずつ入れられていく。ネギと天かすが散りばめられ、青のりが振られる。

「海外ではあまりタコは好かれないと聞くけれど、秋風くんは大丈夫なのかい?」

「昔の話でしょう。マグロだのが高くなってくのは外国でも捕るようになったからですよ」

「それも結構前の話じゃなーい? 聞いてみりゃいいじゃん。ぁ、俺席ちょっと遠い……りゅー、アキくんタコ食べるか聞いてよ~」

アキはリュウの隣に座っている。やはり一番懐いているのだろう。アキの斜め前に座ってアキを眺めて時折ため息をついているネザメには流石としか言いようがない……ん? 俺もちょくちょく見てるな、あの人。

「アキくん、タコ平気やんな?」

「……? 焼くするしたです?」

「や、まだ焼けてへん。タコ食べれるか聞いてんねんけど」

首を傾げているアキの皿にリュウはタコを一切れ置いた。アキは躊躇なくタコを口にし、咀嚼して上機嫌そうに微笑んだ。美味しかったようだ。

「食うたで」

「いいのかいその確認の仕方で……豚を騙して食べさせて殺された人も居るんだよ? 文化の違いというのは舐めてはいけない」

「それ宗教やろ。アキくんタコこれやねんけど」

リュウはスマホでタコを検索し、動画を見せた。

《お、日本のエロ漫画でよく見るヤツだ。イイよな同時に色んなとこ攻められんの……マジでヤれねぇかなー触手プレイ》

楽しそうに見ている。

「好きそうやで」

「そうかい? まぁ……それならいいんだ」

「そろそろ焼けたんじゃないか?」

「お、ひっくり返さな。誰か手伝ぉてや」

リュウは串のような物を持ち、くるくるとタコ焼きを回していく。串を受け取ったミフユと歌見も彼の動きを真似る。

「……む、案外上手く回らないものだ」

「天正は流石に上手いな」

リュウは一秒とかからずタコ焼きを半回転させていくが、ミフユ達は四分の一回転ずつが限度のようだ。見ている分には簡単そうだが、案外難しいらしい。

「そういえばタコ焼きって店の以外食べたことないなぁ」

「俺もそうっすよ」

「僕はタコ焼き自体初めてだなぁ」

ネザメはいわゆるB級グルメをほとんど食べないのだろう、ミフユが許可を出すなら食べ歩きに連れ出しても楽しいかもしれない。

「あはっ、ナナさん下手くそ~。ぐちゃってなってる~」

「ぅ……し、仕方ないだろ。端っこは火の通りが悪いんだ」

「棒真ん中にぶっ刺しちゃダメだよ~? 焼けて皮が出来てるから~、鉄板との隙間に刺して~、ペリって剥がす感じで、くいってやんの~。はーい端っこ出来た~!」

「……任せる」

「あっナナさんずっる」

ハルも手馴れているようだ。タコパは定番みたいなことを言っていたからよくやっているのかもな。

「おっしゃひっくり返せたな」

「え、油二度塗りすんの~? 天かすも入れてんのにぃ~、油っぽくなんなーい?」

「パリッパリのがええやろ。なぁ兄さん」

「なんで俺に振るんだ……」

「そら最年長やからですわ」

チラリとレイの方に目をやる。レイは俺の視線の意図に気付いたのかあえてにっこりと微笑んだ。
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