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誕生日なんですけど
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昼休みが終わった。ミフユが恋人になってくれたという嬉しいことはあったけれど、ネザメからプレゼントやお祝いの言葉が贈られることはついぞなかった。
(何か欲しかったって訳じゃないんですけど……いや欲しいっちゃ欲しいんですけど、せめて誕生日おめでとうくらいは言って欲しかったですな)
五時間目、六時間目と過ぎていっても誰も何も言ってくれない。忘れられているのだろうか。
「カーンナっ」
六時間目は体育だった。制服に着替え終えたカンナを背後から抱き締め、首筋に顔を押し付けて匂いを嗅いだ。
「ゃ……! ぁ、せっ……かいた、からぁっ……」
「だからだよ。どこが一番かいた? 見せて嗅がせて舐めさせて~」
「やだぁ……!」
抱っこを嫌がる猫のように俺の顔を手で押し返そうとしているが、その力はとても弱い。嫌だと口で言っているだけでスキンシップを喜んでくれているのだろう。
「ちょっとみっつんそれは変態過ぎ、しぐ嫌がってんじゃんやめたげなよ~」
「……ハルぅ~!」
「ギャーこっち来た!」
俺の腕を引っ張ったハルに飛びかかるような仕草を見せる、叫ぶだけ叫んで逃げも怯えもしていなかったので、そうっと抱き締めてうなじに口元を押し付けた。
「ポニーテールはダメだぞ~? 男の劣情煽るんだからな~」
「どこのブラック校則だっつーの」
「……すっごい制汗剤の匂い」
「いい匂いっしょ? 嗅いでていーよん」
「いや、いい……なんかテンション下がった。シュカぁ~!」
「えっ」
ぽかんとしているハルを離してシュカに抱きつく。昼休みのセックスでも汗をかいていたのもあり、今日はそれなりに濃い。
「はぁ……最高。なぁ、腋舐めさせて」
「嫌ですよ」
「水月ぃ、俺も今日はよおけ汗かいてんけど……」
「犬は汗かかないだろ? 嘘つくな。ま、それはそれとして……ペットを吸うのは飼い主の特権だよなぁ~」
一瞬ガッカリした顔になったリュウを抱き締め、汗の粒が見えていた首筋に舌を這わせる。髪を鼻でかき分け、深呼吸をする。そんなふうに幸せな時間を過ごしてから教室に戻り、ホームルームを過ごした。
裏門から帰るハルと別れ、いつも通りに彼氏達と帰る。特に俺の誕生日についての話はない。今日はもう諦めるべきなのだろうか。
「……ん、電話だ、ごめん。もしもし、鳴雷……あ、セイカ? うん、大丈夫、電話ありがとう」
セイカから電話がかかってきた。彼の誕生日は五月だと中学の時に聞いたから覚えていたけれど、彼は俺の誕生日なんて覚えていないだろうな。改めて言いもしなかったし。
『外……出ていいことになって、ぁ、退院とかじゃなくてリハビリのアレで、中庭とかに』
「そうなのか、いつまでも部屋の中じゃ気が滅入るもんな。どうだった? 久々の外の空気は」
『別に……ぁ、あのさ、鳴雷……』
「ん?」
言いにくそうな口ぶりだ、もしかして「愛してる」とでも言おうとしているのかな? だとしたら可愛いな。
「なんだ? 何も遠慮なんかいらないぞ?」
『ん…………あのさ、誕生日、おめでとう』
「え? あ、あぁ……ありがとう。覚えててくれたんだ」
『まぁ……ゾロ目で覚えやすいし』
五月五日生まれのセイカがそれを言うか。
「嬉しいよ、すっごく。今日初めて言われた、今年はもう誰にも祝われないんじゃないかって思ってたからさ、言ってくれて超嬉しい」
『そ、か……ぁ、お母さんは? お前お母さんに好かれてるじゃん』
「今家リフォーム中でさ、母さんとは別のところ泊まってるから。多分後日何か言ったりくれたりはすると思うけど……当日に何もないのって、ちょっと、な」
今思い出した、セイカに誕生日を教えたのは六月六日だった。そういえば今日誕生日なんですぞ~とか言って、当日に言うなって叱られたっけ。来年はちゃんと当日にプレゼントを渡すと約束してくれたけど、イジメが始まって反故になったっけ。
『今日は来ないんだよな? 当日にはプレゼント渡せないな……』
「うん……うん? えっ、用意してくれてるのか?」
病院内では何も用意出来ないだろうから今年もセイカからのプレゼントはナシだなと諦めていた。
『うん…………ぁ、いや、ない、用意してない、ない、ない』
「え? いや……サプライズとか気にしてるなら、俺そういうの嫌だから事前に言っといてくれていいけど」
『違うっ! こんなしょぼいの渡せるわけっ……ちが、ない! ないから! 何もない! 明日も明後日も来なくていい! もう来なくていい、俺がお前にやれるもんなんか何にもない! 俺には何にもないっ……手もっ、足も、何にもぉっ……』
「セイカ? どうしたんだ急に。泣いてるのか? 大丈夫、落ち着いて、俺はセイカを愛し──セイカ? セイカ……」
電話が切れている。セイカが切ったのだろうか。多分、プレゼントを用意してくれたんだと思う。渡すつもりもあったんだろう。けれど病院から出られず病室から自由に出られる訳でもなく、金すら持たない彼が用意出来るプレゼントはとても粗末な物だろう。
(わたくしはどんな物でも嬉しいのでそ、本当に、わたくしを想うあなたの心がこもっていればそれで……)
中庭に出たとわざわざ伝えてくれたのはただの報告ではなく、そこで何かを摘んだと続けるつもりだったと考えるべきか? プレゼントは野花? 摘んだ時は俺に渡すことで頭がいっぱいだったけど、時間を置いてプレゼントを見たらくだらなく見えた?
どうして今日、すぐに病院に行けないんだろう。セイカは多分泣き出してしまったのに、せっかく用意してくれたプレゼントを捨ててしまうかもしれないのに、今すぐ彼を抱き締めるために駆け出したいのに、どうして俺はバイトなんかに……
「水月、何してるんですか、改札ですよ」
「パス落としたんか?」
「えっ、ぁ、いや、あるある。ごめんボーッとしてた」
誕生日なのに誰にもプレゼントをもらえないし、唯一お祝いの言葉をくれたセイカは勝手に落ち込んでしまったし、今日は厄日だな。
(何か欲しかったって訳じゃないんですけど……いや欲しいっちゃ欲しいんですけど、せめて誕生日おめでとうくらいは言って欲しかったですな)
五時間目、六時間目と過ぎていっても誰も何も言ってくれない。忘れられているのだろうか。
「カーンナっ」
六時間目は体育だった。制服に着替え終えたカンナを背後から抱き締め、首筋に顔を押し付けて匂いを嗅いだ。
「ゃ……! ぁ、せっ……かいた、からぁっ……」
「だからだよ。どこが一番かいた? 見せて嗅がせて舐めさせて~」
「やだぁ……!」
抱っこを嫌がる猫のように俺の顔を手で押し返そうとしているが、その力はとても弱い。嫌だと口で言っているだけでスキンシップを喜んでくれているのだろう。
「ちょっとみっつんそれは変態過ぎ、しぐ嫌がってんじゃんやめたげなよ~」
「……ハルぅ~!」
「ギャーこっち来た!」
俺の腕を引っ張ったハルに飛びかかるような仕草を見せる、叫ぶだけ叫んで逃げも怯えもしていなかったので、そうっと抱き締めてうなじに口元を押し付けた。
「ポニーテールはダメだぞ~? 男の劣情煽るんだからな~」
「どこのブラック校則だっつーの」
「……すっごい制汗剤の匂い」
「いい匂いっしょ? 嗅いでていーよん」
「いや、いい……なんかテンション下がった。シュカぁ~!」
「えっ」
ぽかんとしているハルを離してシュカに抱きつく。昼休みのセックスでも汗をかいていたのもあり、今日はそれなりに濃い。
「はぁ……最高。なぁ、腋舐めさせて」
「嫌ですよ」
「水月ぃ、俺も今日はよおけ汗かいてんけど……」
「犬は汗かかないだろ? 嘘つくな。ま、それはそれとして……ペットを吸うのは飼い主の特権だよなぁ~」
一瞬ガッカリした顔になったリュウを抱き締め、汗の粒が見えていた首筋に舌を這わせる。髪を鼻でかき分け、深呼吸をする。そんなふうに幸せな時間を過ごしてから教室に戻り、ホームルームを過ごした。
裏門から帰るハルと別れ、いつも通りに彼氏達と帰る。特に俺の誕生日についての話はない。今日はもう諦めるべきなのだろうか。
「……ん、電話だ、ごめん。もしもし、鳴雷……あ、セイカ? うん、大丈夫、電話ありがとう」
セイカから電話がかかってきた。彼の誕生日は五月だと中学の時に聞いたから覚えていたけれど、彼は俺の誕生日なんて覚えていないだろうな。改めて言いもしなかったし。
『外……出ていいことになって、ぁ、退院とかじゃなくてリハビリのアレで、中庭とかに』
「そうなのか、いつまでも部屋の中じゃ気が滅入るもんな。どうだった? 久々の外の空気は」
『別に……ぁ、あのさ、鳴雷……』
「ん?」
言いにくそうな口ぶりだ、もしかして「愛してる」とでも言おうとしているのかな? だとしたら可愛いな。
「なんだ? 何も遠慮なんかいらないぞ?」
『ん…………あのさ、誕生日、おめでとう』
「え? あ、あぁ……ありがとう。覚えててくれたんだ」
『まぁ……ゾロ目で覚えやすいし』
五月五日生まれのセイカがそれを言うか。
「嬉しいよ、すっごく。今日初めて言われた、今年はもう誰にも祝われないんじゃないかって思ってたからさ、言ってくれて超嬉しい」
『そ、か……ぁ、お母さんは? お前お母さんに好かれてるじゃん』
「今家リフォーム中でさ、母さんとは別のところ泊まってるから。多分後日何か言ったりくれたりはすると思うけど……当日に何もないのって、ちょっと、な」
今思い出した、セイカに誕生日を教えたのは六月六日だった。そういえば今日誕生日なんですぞ~とか言って、当日に言うなって叱られたっけ。来年はちゃんと当日にプレゼントを渡すと約束してくれたけど、イジメが始まって反故になったっけ。
『今日は来ないんだよな? 当日にはプレゼント渡せないな……』
「うん……うん? えっ、用意してくれてるのか?」
病院内では何も用意出来ないだろうから今年もセイカからのプレゼントはナシだなと諦めていた。
『うん…………ぁ、いや、ない、用意してない、ない、ない』
「え? いや……サプライズとか気にしてるなら、俺そういうの嫌だから事前に言っといてくれていいけど」
『違うっ! こんなしょぼいの渡せるわけっ……ちが、ない! ないから! 何もない! 明日も明後日も来なくていい! もう来なくていい、俺がお前にやれるもんなんか何にもない! 俺には何にもないっ……手もっ、足も、何にもぉっ……』
「セイカ? どうしたんだ急に。泣いてるのか? 大丈夫、落ち着いて、俺はセイカを愛し──セイカ? セイカ……」
電話が切れている。セイカが切ったのだろうか。多分、プレゼントを用意してくれたんだと思う。渡すつもりもあったんだろう。けれど病院から出られず病室から自由に出られる訳でもなく、金すら持たない彼が用意出来るプレゼントはとても粗末な物だろう。
(わたくしはどんな物でも嬉しいのでそ、本当に、わたくしを想うあなたの心がこもっていればそれで……)
中庭に出たとわざわざ伝えてくれたのはただの報告ではなく、そこで何かを摘んだと続けるつもりだったと考えるべきか? プレゼントは野花? 摘んだ時は俺に渡すことで頭がいっぱいだったけど、時間を置いてプレゼントを見たらくだらなく見えた?
どうして今日、すぐに病院に行けないんだろう。セイカは多分泣き出してしまったのに、せっかく用意してくれたプレゼントを捨ててしまうかもしれないのに、今すぐ彼を抱き締めるために駆け出したいのに、どうして俺はバイトなんかに……
「水月、何してるんですか、改札ですよ」
「パス落としたんか?」
「えっ、ぁ、いや、あるある。ごめんボーッとしてた」
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