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バイト再開の報告
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病院の一階にあるコンビニでウェットティッシュを購入、病室に戻ってセイカの下半身周りの精液汚れを拭う。
「ふぅ……何とかカピカピになる前に拭けたな。走った甲斐があった」
額の汗を拭ってゴミ箱に丸まったウェットティッシュを捨て、セイカに手術着を着せて毛布を被せ、ベッドに腰を下ろす。
「…………」
セックス直後というのもあって話すことが思い付かない。しかしただ黙っていてはセイカを不安にさせてしまう。困った末に俺はセイカを再び押し倒して覆い被さり、首筋に舌を這わせた。
「んっ……何、まだすんの? 拭かなくてよかったじゃん」
「……いや、するって言うか……その」
目を逸らすとセイカの右腕が頬をぷにっと押した。包帯の匂いが濁った瞳に似合っている。
「何……?」
中学校一年生一学期、キモオタデブスのまま幸せに過ごしていた数ヶ月の記憶が蘇る優しい声。
「ゆっくりで、自分の中でまとまってからでいいから……鳴雷のしたいこと話してくれ。俺に出来ることなら何でもする」
「…………うん」
腕と足の力を抜いてベッドにうつ伏せに寝転がる。怪我人に全体重をかける訳にはいかないので、横にズレて腕と足を片方ずつセイカに乗せるだけにした。
「……愛してる。俺のものにしたい……ずっと傍に居たい」
「…………ホント、なんで俺なんか気に入ってんだか。もったいねぇなぁ……ふふ」
セイカは両腕で俺の頭を抱き締めてくれる。失っても利き腕という意識が強いのか、右腕でぽんぽんと撫でてくれる。
「月曜日から来れなくなるかもしれない」
「…………えっ?」
「俺、バイト……してるんだ、放課後。肋骨にヒビ入ったから一週間休みもらったけど、月曜からはまたいつも通りに出なきゃいけない。バイト終わる頃には面会時間終わってるし……学校終わってすぐだから先に寄るのも無理だし…………だから、月曜からは来れない」
「……そっか」
泣いて嫌がるんじゃないかと予想していたが、セイカは驚くほどに冷静だった。一言で納得して俺の頭に頭を寄せた。
「嫌いになったとかじゃないんだ、大好きなんだ。でも、バイトが……あっ、電話、電話で話そう。そうだよ電話だよ、スマホ出してくれ、連絡先交換しよう」
「……持ってない」
「えっ、スマホ持ってないのか? 事故で壊したとか?」
「…………元から持ってない」
今時スマホを持っていない男子高校生はかなり珍しいと思う。まぁ、彼から聞く彼の母親からの扱いを考えれば順当か。
「もう、会えないのか? 鳴雷……好きに、なってくれたのに、俺も好きなのに……セックス、したのに。今日で、最後……? やだ、やだ……嫌だ、鳴雷……」
「もう会えないってことはないよ。バイトは土日休みだからさ、他に用事がなかったら必ず来るから……それにさ、ほら、退院したらもう自由だ。色んなとこにデートに行こう、あと二ヶ月もないくらいで夏休みだしさ、その頃には退院してるだろ?」
「退院、したら……俺、家に帰らなきゃ。嫌だよ、鳴雷……死にたくない。鳴雷と一緒に居たい……ただの出来損ないならまだしもっ、手足失くした手間のかかる出来損ないなんてお母さんが生きるの許してくれる訳ない! こ、今度こそっ、おれ……嫌だ、嫌だぁ……やだよ、鳴雷ぃ、退院やだ」
俺に抱きついて死にたくないと泣いている、数日前まで死にたいと呟いていたのがもう懐かしい。
「だ、大丈夫だよセイカ、殺されたりなんて、そんな」
「逆らえる気がしないんだよぉ! お母さんにっ、死ねって言われたら……おれ、おれ、多分……死んじゃう。今度こそ、死んじゃう」
「そんな……」
「そ、それに、退院したら……学校行かなきゃ。嫌だよ……今までは報いだって思ってられたけど、鳴雷が大事にしてくれた俺を、殴られるの嫌だ。変なおっさんに変なことされるのも嫌ぁ……俺は、俺は鳴雷のなのに……」
痛いのが嫌という単純な恐怖ではなく、俺の独占が穢されるのが嫌だという奇妙でややこしい恐怖。自分で自分の価値を見出せないセイカの可愛らしさが詰まった泣き言だった。
「鳴雷ぃ……どうしよう、どうしよぉ……鳴雷のでいられないよぉ……ごめんなさい、ごめんなさいぃ…………もう、ここで、殺して……そしたら永遠に鳴雷のものでいられる。鳴雷……鳴雷に殺されたい、他の人は嫌だ……」
「…………俺が必ず助けてやる。どうにかするから、諦めないでくれ」
「どうにかって、何……無理だろ、どうすんの」
「可能な限り足掻いてみせるよ。だからすぐに死ぬだの殺せだの言わないで欲しい、俺頑張るから」
「……ぅ、ん。頑張ってね、鳴雷……がんばって」
そこは「助けて」じゃないのか? とは思ったが、セイカにとっては自分が助かりたいから俺を応援しているのではなく、俺が俺の所有物であるセイカを失わないために頑張ると言っているのだから応援している……なのかなとすぐに納得した。
(自分のことなのに全部わたくし基準で考えてるんですか? あぁもう可愛い、可愛すぎますぞ)
その後俺は面会時間が終わって看護師に注意されるまでセイカのベッドでセイカを愛でて過ごした。今日の彼は泣き喚くことなく手を振ってくれた。
「明日からバイトが入っててお見舞い来れないんですよね。セイカ、スマホ持ってないって言うし……」
「共用スペースの脇に公衆電話がありますよ。メッセージのやりとりやビデオ通話は当然出来ませんが、電話だけなら可能です」
「本当ですか!? あのっ、セイカに電話番号だけ教えてきていいですか? あ、あと十円玉何枚か渡して……すぐ戻りますから!」
「あっ、公衆電話を使うには専用のカードが必要です」
「俺が買います! どこで売ってるんですか? 今買って電話番号と一緒にセイカに渡してきます」
「受付時間は過ぎております……」
エレベーターの前で膝から崩れ落ちた俺を見かねた看護師はある提案をしてくれた。俺はその提案に乗り、彼女に五百円玉と電話番号をメモした紙を渡した。
「では明日、カードを買ってメモと一緒に狭雲様にお渡しします」
「ありがとうございますっ! 本当にありがとうございます……!」
超絶美形でよかった案件なのかな? 単純に看護師がいい人だっただけかな?
「いえ、推しカプ…………入院患者様の快適な生活のご支援も看護師の仕事ですから」
なんだナマモノ好きの腐女子か。
「ふぅ……何とかカピカピになる前に拭けたな。走った甲斐があった」
額の汗を拭ってゴミ箱に丸まったウェットティッシュを捨て、セイカに手術着を着せて毛布を被せ、ベッドに腰を下ろす。
「…………」
セックス直後というのもあって話すことが思い付かない。しかしただ黙っていてはセイカを不安にさせてしまう。困った末に俺はセイカを再び押し倒して覆い被さり、首筋に舌を這わせた。
「んっ……何、まだすんの? 拭かなくてよかったじゃん」
「……いや、するって言うか……その」
目を逸らすとセイカの右腕が頬をぷにっと押した。包帯の匂いが濁った瞳に似合っている。
「何……?」
中学校一年生一学期、キモオタデブスのまま幸せに過ごしていた数ヶ月の記憶が蘇る優しい声。
「ゆっくりで、自分の中でまとまってからでいいから……鳴雷のしたいこと話してくれ。俺に出来ることなら何でもする」
「…………うん」
腕と足の力を抜いてベッドにうつ伏せに寝転がる。怪我人に全体重をかける訳にはいかないので、横にズレて腕と足を片方ずつセイカに乗せるだけにした。
「……愛してる。俺のものにしたい……ずっと傍に居たい」
「…………ホント、なんで俺なんか気に入ってんだか。もったいねぇなぁ……ふふ」
セイカは両腕で俺の頭を抱き締めてくれる。失っても利き腕という意識が強いのか、右腕でぽんぽんと撫でてくれる。
「月曜日から来れなくなるかもしれない」
「…………えっ?」
「俺、バイト……してるんだ、放課後。肋骨にヒビ入ったから一週間休みもらったけど、月曜からはまたいつも通りに出なきゃいけない。バイト終わる頃には面会時間終わってるし……学校終わってすぐだから先に寄るのも無理だし…………だから、月曜からは来れない」
「……そっか」
泣いて嫌がるんじゃないかと予想していたが、セイカは驚くほどに冷静だった。一言で納得して俺の頭に頭を寄せた。
「嫌いになったとかじゃないんだ、大好きなんだ。でも、バイトが……あっ、電話、電話で話そう。そうだよ電話だよ、スマホ出してくれ、連絡先交換しよう」
「……持ってない」
「えっ、スマホ持ってないのか? 事故で壊したとか?」
「…………元から持ってない」
今時スマホを持っていない男子高校生はかなり珍しいと思う。まぁ、彼から聞く彼の母親からの扱いを考えれば順当か。
「もう、会えないのか? 鳴雷……好きに、なってくれたのに、俺も好きなのに……セックス、したのに。今日で、最後……? やだ、やだ……嫌だ、鳴雷……」
「もう会えないってことはないよ。バイトは土日休みだからさ、他に用事がなかったら必ず来るから……それにさ、ほら、退院したらもう自由だ。色んなとこにデートに行こう、あと二ヶ月もないくらいで夏休みだしさ、その頃には退院してるだろ?」
「退院、したら……俺、家に帰らなきゃ。嫌だよ、鳴雷……死にたくない。鳴雷と一緒に居たい……ただの出来損ないならまだしもっ、手足失くした手間のかかる出来損ないなんてお母さんが生きるの許してくれる訳ない! こ、今度こそっ、おれ……嫌だ、嫌だぁ……やだよ、鳴雷ぃ、退院やだ」
俺に抱きついて死にたくないと泣いている、数日前まで死にたいと呟いていたのがもう懐かしい。
「だ、大丈夫だよセイカ、殺されたりなんて、そんな」
「逆らえる気がしないんだよぉ! お母さんにっ、死ねって言われたら……おれ、おれ、多分……死んじゃう。今度こそ、死んじゃう」
「そんな……」
「そ、それに、退院したら……学校行かなきゃ。嫌だよ……今までは報いだって思ってられたけど、鳴雷が大事にしてくれた俺を、殴られるの嫌だ。変なおっさんに変なことされるのも嫌ぁ……俺は、俺は鳴雷のなのに……」
痛いのが嫌という単純な恐怖ではなく、俺の独占が穢されるのが嫌だという奇妙でややこしい恐怖。自分で自分の価値を見出せないセイカの可愛らしさが詰まった泣き言だった。
「鳴雷ぃ……どうしよう、どうしよぉ……鳴雷のでいられないよぉ……ごめんなさい、ごめんなさいぃ…………もう、ここで、殺して……そしたら永遠に鳴雷のものでいられる。鳴雷……鳴雷に殺されたい、他の人は嫌だ……」
「…………俺が必ず助けてやる。どうにかするから、諦めないでくれ」
「どうにかって、何……無理だろ、どうすんの」
「可能な限り足掻いてみせるよ。だからすぐに死ぬだの殺せだの言わないで欲しい、俺頑張るから」
「……ぅ、ん。頑張ってね、鳴雷……がんばって」
そこは「助けて」じゃないのか? とは思ったが、セイカにとっては自分が助かりたいから俺を応援しているのではなく、俺が俺の所有物であるセイカを失わないために頑張ると言っているのだから応援している……なのかなとすぐに納得した。
(自分のことなのに全部わたくし基準で考えてるんですか? あぁもう可愛い、可愛すぎますぞ)
その後俺は面会時間が終わって看護師に注意されるまでセイカのベッドでセイカを愛でて過ごした。今日の彼は泣き喚くことなく手を振ってくれた。
「明日からバイトが入っててお見舞い来れないんですよね。セイカ、スマホ持ってないって言うし……」
「共用スペースの脇に公衆電話がありますよ。メッセージのやりとりやビデオ通話は当然出来ませんが、電話だけなら可能です」
「本当ですか!? あのっ、セイカに電話番号だけ教えてきていいですか? あ、あと十円玉何枚か渡して……すぐ戻りますから!」
「あっ、公衆電話を使うには専用のカードが必要です」
「俺が買います! どこで売ってるんですか? 今買って電話番号と一緒にセイカに渡してきます」
「受付時間は過ぎております……」
エレベーターの前で膝から崩れ落ちた俺を見かねた看護師はある提案をしてくれた。俺はその提案に乗り、彼女に五百円玉と電話番号をメモした紙を渡した。
「では明日、カードを買ってメモと一緒に狭雲様にお渡しします」
「ありがとうございますっ! 本当にありがとうございます……!」
超絶美形でよかった案件なのかな? 単純に看護師がいい人だっただけかな?
「いえ、推しカプ…………入院患者様の快適な生活のご支援も看護師の仕事ですから」
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