冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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もう何もかもどうでもいい

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昼食前に検査があるとかでセイカが病室から運び去られていった。俺は一階のコンビニに向かい、昼食として食べる弁当を吟味して時間を潰し、病室に戻った。

「……お、セイカ、おかえり」

買った弁当のカロリーをスマホアプリにメモしているとセイカが車椅子に乗せられて病室に戻ってきた。

「あれっ、包帯だいぶ減ったなぁ」

「治ったとこ外れたっぽい……」

全身に巻いていた包帯がほとんど外されていた。普通こういうものは段階を経て減っていくものじゃないのかと思いつつ、ひとまず包帯が外れたことを祝う。

「…………変、かな? 縫い目とかはまだ……目立つし」

顔と身体の包帯がなくなり、残るは失った手足の先端から十数センチを包む包帯だけとなっている。美しい顔が見られるのは喜ばしいのだが、その顔に虐められた記憶が蘇ってしまうので、喜びと吐き気が半々と言ったところだな。

「京都編のラスボスが炎殺拳の使い手になったって感じだ」

「なるほど……」

看護師が漫画、もしくはアニメ好きなこととある程度の年齢が分かってしまったな。

「え、何……どういうこと?」

「顔が見られて嬉しいよ、表情分かりにくかったし……何よりセイカは綺麗な顔してるからな」

「綺麗とかお前に言われてもなぁ……虚しいっつーか、なんつーか」

セイカを車椅子からベッドへ移した看護師に二人で礼を言い、彼女が去った瞬間にセイカの唇を奪った。

「んっ……リップ剥がれちゃうじゃん」

「リップくらい何度だって塗ってやるよ」

昼食が運ばれて来るまで俺はセイカの唇に啄むようなキスを繰り返した。決して舌は入れず、セイカに唇は開かせず、ちゅっちゅっと音を鳴らして気分を高めた。

「俺も一緒に食べるぞ。机半分貸してくれ」

ベッドの柵に板を置く形で机が現れた。セイカは病院食、俺はコンビニ弁当をそこに置く。

「持ってきてたのか?」

「んゃ、さっきコンビニで買ってきた」

「あ、じゃあこれがコンビニ弁当なのか。へぇー……こんな近くで見るの初めて」

物珍しそうに弁当を眺めるセイカに箱入り息子に対して抱くような萌えを感じた。しかし、俺の記憶の中のセイカは時々コンビニ弁当を食べていた気がする。

「初めてって……中学ん時よく食べてなかったっけ」

「え? あー……それ多分スーパーのやつ。ほら、夜中に行くと半額で買えるだろ? あれ。コンビニのって割引されないじゃん、そんな高いの買えないよ」

「……セイカ、塾とか行ってたから金持ちなんだと思ってたけど」

「あぁ、お母さんはお金の使い方分かってるから」

「…………」

唐揚げ一個あげようかな。

「あ、そうそう、俺にも弟出来たんだ。えっとな……母さんが昔卵子提供した人の子。離婚して行くあてがないってことで今家に居て、だから……父親も母親も違うんだけど、遺伝子は半分同じっていう変な弟」

「へぇー……ややこしいことになってるんだな。そういえば……俺のこと助けたの弟だって言ってたよな、鳴雷には弟居なかったよなーって不思議に思ってたけど……そういうことか」

「つい最近存在を知ったからな、中学の時は秘密にしてたとかじゃないぞ」

「ふぅん……お礼言いたいな。退院したら会わせてくれよ」

当然だと微笑みながら、ふとセイカの何気ない一言に引っかかる。助けられたことに礼を言いたいということは、セイカは助けられてよかったと思っているということではないか?

「……セイカ、あの時死ななくてよかったって思ってるのか?」

「え……? そりゃそうだろ、鳴雷にこんなに大事にしてもらえてるんだから。死ななくてよかったよ」

死ななくてよかった、その言葉がハッキリとセイカの口から出たことに俺は感動を覚えていた。牛や羊の出産動画を見た時と似た感動だ。

「……ん? 俺受け止めたの弟なんだよな。お前肋骨折ったの俺のせいだと思ってたんだけど……俺の落ち込み返せよ」

軽口を叩けるようにもなっているようで嬉しい。同時に俺を虐めていた時のセイカに戻っていくような気がして少し怖い。



昼食が回収された後、俺は過去の記憶から産まれる恐怖を克服するためセイカと触れ合うことにした。

「ん……ふふ、くすぐったい……」

靴を脱いでベッドに上がり、頬や首筋を撫で回す。セイカは俺の手に肉欲が宿っていると分からないのか、包帯が外れたばかりの顔に無垢な笑みを浮かべていた。

「鳴雷がしたいならいいけど……俺触って楽しいのか?」

「……うん、楽しい。もっと触っていい?」

「鳴雷なら俺に何したっていい……」

腰に跨るとセイカの表情が僅かに強ばった。流石に俺の性欲に気が付いたのだろうか。縫った跡が目立つ耳と頬以外、顔に目立つ傷はない。俺が覚えているセイカのままだ。髪型と髪色という違いはあれど、俺を虐めて楽しんでいたあの顔がここにある。

「好き……生まれて初めて、素直になれてる」

両頬を包むように手を添えるとセイカは幸せそうに微笑んで俺の手の甲に手と腕の先端を触れさせた。

「……プライド折れちゃったからだろうな。俺は手足なくなって、お前は綺麗になって、分かりやすく差がついたからかな……惨めなのにサッパリしてる。ネガティブ通り過ぎてポジティブっつーか、諦めの境地? 出来損ないは俺だって分かったからさ、もう全部どうでもよくなって……鳴雷、鳴雷と居れれば俺は幸せだったんだって気持ちに、ようやく素直になれた。虐めて本当にごめんなさい……大好きです、だから」

「…………」

「殺してもいいよ」

真っ直ぐな目でそう言われて初めて気が付いた、頬を撫でていた手が首に降りていたことに。セイカの首を絞めようとしてしまっていたことに。

「ち、違うよ……殺すって、何、俺が? 何言ってるんだよ、俺はセイカが大好きなんだぞ!」

そうだ、好きなんだ。その気持ちに嘘はない。俺はセイカを愛しているはずだ。けれど、憎くて怖くてこの世から消えて欲しい気持ちも抱えている。矛盾した感情を持つのは普通のことだ。

「首、その……細いなーって、握ってみただけ。殺されると思った? はは……怖、ごめんごめん、大丈夫」

「…………そっか。じゃあ、それでもいいけど……本当に何してもいいからな? 俺の自殺防いだのは鳴雷で……鳴雷は俺に虐められてたんだから、俺の命は鳴雷のもので、鳴雷は俺に何してもいいんだよ」

「じゃ、じゃあ、服脱がしちゃおっかな~?」

「ふふ……えっち。いいよ……何でもして、何されても嬉しい……大好き、鳴雷」

セイカが着ている手術着は脇腹辺りにある紐を一つほどくだけで簡単に脱がせる優れものだ。俺はセイカの裸を見て欲情することで、セイカへの復讐願望を無理矢理薄れさせることに成功した。
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