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不安に思考が歪められて

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ネザメと別れ、彼氏達と合流。家がリフォーム中であることや、今はレイの家に泊まっていることを知らせた。

「大丈夫なんですか? あの辺り治安が悪いでしょう」

「俺は一応180越えのちょいマッチョだぞ?」

「ぼく……ち、泊ま……も、よか……のに」

「なんだカンナ、泊めてくれるのか? 嬉しい申し出だな、レイにばかり迷惑かける訳にもいかないし、都合がつくなら泊めてくれ。アキも一緒だけどな」

俯いていたカンナがぱぁっと笑顔になり、何度も頷いた。

「俺ん家にも泊まりに来てくれや」

「もちろん。順番に行こうかな。シュカは……」

「嫌です」

「そ、そっか、俺は多少汚部屋でも気にしないからな? むしろ萌えるし」

シュカはぷいっと顔を背けてしまった。見られたくないものでもあるのだろうか? 居候の叔父さんとか。

「……っと、ハルにも話しとかないとな」

「バイト休んどんねんやったら歌見の兄さんにも言うとかな」

「グルチャで送るか……先輩も一人暮らしだから何泊かイケそうだな」

なんて会話をしつつ、いつもとは違う方向の電車に乗って彼氏達と別れた。彼らと居る時間が微妙に減って残念だなと思いつつ、コンビニでフルーツゼリーを買って総合病院に向かった。学校最寄りの駅からはレイの家と総合病院は同じ方向なのだ、降りる駅は違うけれど。

「元気~……?」

な訳ないだろと自分にツッコミつつ病室に入る。

「…………」

「ゼリー買ってきたぞ。これくらいなら食べれるよな? ベッド起こすぞ」

セイカが寝ているベッドにはリモコンが付いており、それを弄ることでベッドが折れ曲がって患者は何もせず身体を起こすことが出来る。拘束具は胸にバツ印を描く形のものと、腰と太腿をベッド固定するものなので、上体を起こすこと自体に不都合はない。

「痛くないか?」

「…………」

「みかんゼリーと桃ゼリーだぞ、アレルギーとかあるか?」

「…………」

「えっと……もしかして俺が誰か分からないのか?」

返事をしないどころか視線も寄越さないセイカを不審に思い、目を開けたまま寝ているんじゃないかと包帯の隙間からはみ出ている髪の毛を優しく引っ張ってみた。本当は肩を揺すりたかったけれど、包帯まみれでどこに怪我をしているか分からなかったからそうした。

「……っ!? ぁ……ほん、もの? ごめ…………幻覚でも、見えてるんだと思ってた」

「えぇ……? 幻覚見えるのか?」

「見えたことないけど……でも、鳴雷、来るわけないと思ってたから……でも来て欲しかったから、だから」

「来るって言ったじゃん」

「………………うん。ごめ……ごめん、なさい、ごめんなさい……嘘、ついてるとか思ってたんじゃなくて……おれ、俺……」

「大丈夫、俺は傷付いてないよ。幻覚見てもおかしくないって思っちゃうくらい待ち遠しかったんだよな、それめっちゃ嬉しい」

明るい笑顔を見せてセイカを安心させようとすると、彼は俺の狙い通り謝るのをやめた。

「……………………帰、て……もう、来ないでくれ」

「え……? な、なんでだよ、来て欲しかったって言ったじゃん。会ったらなんか違ったのか?」

「信、よぉ……してないって、ひどいこと言って、な、なの、なのにっ、気ぃ遣わせて、嬉しいとか言わせて……ゃ、やだ、き、きら、嫌われ……怖…………ぅ、うぅ……嫌われて、来てくんなくなったって、思いたくないっ、ないから…………も、帰って、来ないでくれよぉ……」

「セイカ? 俺は本当に傷付いてないし、本当に嬉しかったんだぞ?」

「ぁ……ま、た……ごめっ、ちが、ぁ、面倒臭い……よなっ、ごめん、ごめ……ぁ、鬱陶しい? や、やだ、嫌わないでっ、嫌……ちが、ぅ、うぅ……こんな、こんなの言いたいんじゃないっ、俺こんなこと言いたいんじゃないぃっ! こんなの俺じゃない!」

「あ、あぁ、分かった! 今のは聞かなかったことにするよ!」

昨日はまだ精神が安定していた方だったのかな……今日は会話も難しいや。お菓子を食べたいとか言ってたからゼリー買ってきたのにな、喜ぶ顔が見れると思ったのに……

「セイカ……」

気を遣わせたとか、面倒臭いとか、鬱陶しいとか、そう俺が思っていると思い込ませてしまうとセイカは俺に嫌われると思い込みを飛躍させて狼狽しだす。これは覚えておかなくては。

(鬱陶しくて面倒臭いですな、めっちゃ気ぃ遣いますぞ。でも嫌われたくないって泣いちゃうとか可愛すぎますぞ~、喜ばせたかったけど泣き顔もなかなかそそりますな)

さて、何を言おうか。下手な励ましは気遣いと取られるし、謝罪もダメだ、ため息はもちろんダメだが過剰な笑顔も危険かもしれない。何すればいいんだよ。

「……セイカ、セイカ……セ、イ、カ。セーイカっ」

「何……?」

「んー? ほら、俺って水に月で水月だろ? 星に火のセイカとはなんか親和性あるなって。なんか呼びたくなった」

バカっぽいのに心に響く発言なら気遣いとも取りにくいし感動してくれるのでは?

「月と、星と……水と、火と…………正反対だな。お前は綺麗になったのに……俺は、ぐちゃぐちゃで………………ぁー……すっごい惨め」

失敗だちくしょう!

「……ゼリー食べるかっ? みかんと桃どっちがいい?」

「ゼリー……? 綺麗だな……」

「ん? うん、半透明でキラキラしてるよな」

「……俺は、綺麗で美味しいものを……腹の中で汚いのにすることしか出来ない。得たエネルギーも、使わない……俺がものを食う意味なんか……ない」

食事という行為をそこまで深く考えるなんて無粋だ。

「だから……綺麗なのは、綺麗な鳴雷が食べるべきだ。ぁ……それちょっと見たいかも」

見たいというポジティブな感情を否定するのはよくない気がする。セイカに食べさせたかったのだが、この際仕方ない。

「ちょうど食べたかったんだよ! あ……ほら、聞こえたか? お腹鳴ったよ、ちょっと恥ずかしいな」

空腹でよかった、気遣いと受け取られずゼリーを食べるところを見せられる。

「んー、ほのかな酸味が甘味を引き立てる。ゴロゴロ入ってる果肉もいい、みかんの薄皮が取られてて舌触りがいい」

「…………へへ」

笑ってくれた。食べさせて笑わせたかったのだが……いや、挑戦してみるか。

「セイカも食べてみろよ。この美味しさを共有したい! 俺は美味しいものを何人かで食べて感想を言い合うのが好きなんだ、自分の食う分が減ったとしてもな! セイカ、食べてくれよ」

「……うん」

よっしゃあ! と心の中で大きなガッツポーズを決め、みかんの果肉とゼリーをスプーンにちょうどいい割合で乗せてセイカに食べさせた。

「どうだ?」

「…………みかん、小学校の時……給食で食べた。ゼリーは、食べたことないかな……」

「美味しいか?」

「……よく、分からない。美味しいのかな……ごめん、こんな感想聞きたくなかったよな……ごめん、鳴雷の好きなこと出来ない……おれ、本当に何も……!」

「もう一口食べたいって思ったら美味しいってことだよ」

「…………じゃあ、美味しくなかった。ごめん……ごめんなさい……ごめん……」

みかんは口に合わないのか。桃ならイケるか?

「あー! 桃ゼリーも食べたくなってきたなぁー! 開けちゃお。ぅん美味しい! 他の人の感想聞きたいな! 美味いでも不味いでも何でもいいからとにかく何か聞きたいなぁ! セイカぁ! 食え!」

「ぇ、あ…………んむ、ん……さっきと味違う……かな?」

ぽかんとしたセイカの口に桃の果肉とゼリーを完璧な比率で突っ込んだ。

「そうかみかんと桃は味が違うかなるほどなぁ!」

「…………気のせいかも」

「おおっと!? もう一口ずつ食べてみればハッキリするな! 知りたい、あー知りたいなぁ!」

「鳴雷が食えば……ん、んー……?」

セイカは遠慮していても口の近くに持っていくと食べてしまうようだ。この習性を利用して色々食べさせて好物を探ろう、明日は何にしようかな。

「…………みかんの方が柔らかいかも」

「なるほどぉ! 他に違いはないのか気になるなぁ~! もう一口いこうか!」

味音痴めと叫びたくなる気持ちを抑え、三口目四口目とセイカにゼリーを食べさせた。
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