323 / 1,942
痩せたら美人って知ってたから
しおりを挟む
肋骨にヒビが入っていた。
「軽いものだから全治には一ヶ月もかからないと思うよ」
「はぁ……どうも。この、なんでしたっけ、コルセットみたいなの」
「バストバンド。出来る限り外さないようにしてね」
アキの付き添いで病院に来て治療を受ける羽目になるとは……ちなみにアキは予定通りに検査を受けている。ヒビが入ったと言ったら気にしてしまうだろうか、余計なことをしてしまったな。
「……あの、飛び降りた人って」
「あぁ! 本当にありがとうね、君のおかげで尊い命が救われたんだよ。また後日改めてお礼をさせてね、表彰があるんじゃないかなぁ」
「俺はむしろアキの邪魔した感じですけどね……」
いや、アキは彼に気付いていなかった。俺が行動したからアキが人を救えたのだ。アキの着地点に滑り込んだのは本当にただただ邪魔で無駄な行為だったけれど。
「…………よかったんでしょうか。俺、何も考えずに助けちゃって……あの人、俺のこと恨まないかな」
「自殺未遂で運ばれてきた人も、人を大勢殺した殺人鬼も、病院では全力の治療が行われるんだ。それが医療なんだよ。君は正しいことをした、誇っていい、私達は君を尊敬するよ。恨まれて暴言を吐かれたって、君の正しさと気高さには傷は付かない」
「……ありがとうございます」
治療もカウンセリングもどきも終えて俺は一旦開放された。アキの検査が終わるまではまだ時間がある。
「……痛い」
四階に行ってみようかな。
飛び降りがあったというのに慌ただしさはなく、階段も四階の廊下も静かだった。俺がヒビの検査をしている間に彼への対処は終わったのだろうか。
(別に会いたかないんですがね)
表彰なんてされたくない、あまり目立ちたくない、俺はひっそりと美少年ハーレムを作りたいだけなのだ。
表彰を辞退する方法はないのかななんて考えながら、俺はほとんど無意識に飛び降りた彼を探して四階を歩き回った。見舞い人だとでも思われているのか、誰にも咎められることはない。
「…………そろそろ昼飯の時間かぁ」
大量の食事を詰んだワゴンが廊下を走っている。ワゴンから目逸らすと、開いた引き戸の向こうに車椅子が見えた。何も考えず、何となくその病室に入った。
「……あ。えっと、こんにちは」
四人部屋のようだが、今は一人しか居ない。しかもその一人と言うのがアキが先程救った男だった。なんという偶然、あまり嬉しくない運命、素晴らしい俺の嗅覚。
「俺は、その……いや、すいません、部屋間違えました」
「……お前、随分痩せたなぁ」
話すことを思い付く訳もなく部屋を出ようとしたが、その言葉に足が止まった。
「そんなとこで何してんだよ、こっち来いよ」
ベッドの隣に移動しながら俺はベッドに付いているはずの名札を探した。同時に彼の顔を見たが、少し腫れている上に包帯まみれでよく分からない。
「えっと、失礼します」
俺には手足を失った知り合いは居ない。知り合いが事故に遭ったとも聞いていない。そもそも太っていた頃の俺を知っているヤツが今の俺を見て分かる訳がない。多分、人違いだろう。
「………………告白は?」
「へっ?」
「お前痩せたら俺に告白するって言ってたじゃん」
「え、と……」
そんなこと誰かに言った覚えはない。こんなふうに気さくに話しかけてくる知り合い、優しい声で話しかけてくる知り合い、キモオタデブスだった頃の俺には居ない。人違いを確信する。
「あの……多分」
「なんだよ緊張してんのか? 今起きるから……あれ」
俺と彼は同時に彼がベッドに拘束されていることを知った。自殺対策なのだろうか。
「え?」
肘下数センチから先がない右腕の先端を見つけだ彼は、包帯の隙間から僅かに見えている目を見開き、左手でそこを掴んだ。
「えっ? な、何っ、なんで、もっとあった、俺の手なんで…………あ、ぁ、あぁあああああっ!?」
大声で叫びながら左手で右手の先端を引っ掻き始めた。
「……っ!」
右手の包帯がほどけて再び血が滲んだのが見えて俺は咄嗟にナースコールを押し、彼の左手首を掴んで押さえ付けた。
「ちがうっ、ちがうぅっ! 俺、おれっ、あんなことしたかったんじゃ、ぁああぁああっ! なんでっ、やだ、ちがうっ!」
「落ち着いてください! 落ち着いて!」
「お、おれっ、ま、まもっ、守りたくてっ、なのにっ、だって裏切るからっ、ちが、ぁ、あぁっ! ごめっ、ちが、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺が悪いっ、全部俺がぁっ!」
「落ち着いてくださいって!」
バタバタと足音が近付いてくる。看護師が数人入ってきて、俺は病室の外に出された。俺は自分が救った人がどんな具合が気になってつい探してしまい、彼が右手を引っ掻いていたので止めたのだと不足が過ぎる説明を行った。無意識の保身だったのだろう。
腹と胸をベッドに固定する拘束に加えて腕の拘束が足されたらしい。
「…………」
看護師は秘密なんだけどと言って彼のことを少し教えてくれた。大きなトラックに轢かれて大怪我をししたこと、事故の影響なのか今は記憶が混濁しているらしいということ──なるほど、それで俺を誰かと間違えていたのか。
「助けてくれてありがとうね。心と体が健康になったらまた会ってあげて、その頃にはあなたにお礼を言いたくなっているだろうから」
「…………はい」
帰ったら表彰を辞退する方法を調べよう。アキの付き添いは次から断ろう。病院からの電話には出ないようにしよう。俺は美少年ハーレムを作って気楽に幸せに生きていきたい、人の生死になんて関わりたくない。
壮絶な人生を送る名も知らぬ人には、どうか幸せになれますようにと雑なお祈りでもしておこう。
「……っと、電話か」
スマホが震えた。電話可能なスペースに移動し、電話に出る。
『にーに、どこ居るするです? ぼく検査終わるするしたです。にーに怪我治すするまだです?』
「ごめんごめん、すぐそっち行くよ」
可愛い弟の可愛い声を聞き、俺は美少年好きの超絶美形の総攻め様へと意識を切り替えた。胸の痛みを感じながら。
「軽いものだから全治には一ヶ月もかからないと思うよ」
「はぁ……どうも。この、なんでしたっけ、コルセットみたいなの」
「バストバンド。出来る限り外さないようにしてね」
アキの付き添いで病院に来て治療を受ける羽目になるとは……ちなみにアキは予定通りに検査を受けている。ヒビが入ったと言ったら気にしてしまうだろうか、余計なことをしてしまったな。
「……あの、飛び降りた人って」
「あぁ! 本当にありがとうね、君のおかげで尊い命が救われたんだよ。また後日改めてお礼をさせてね、表彰があるんじゃないかなぁ」
「俺はむしろアキの邪魔した感じですけどね……」
いや、アキは彼に気付いていなかった。俺が行動したからアキが人を救えたのだ。アキの着地点に滑り込んだのは本当にただただ邪魔で無駄な行為だったけれど。
「…………よかったんでしょうか。俺、何も考えずに助けちゃって……あの人、俺のこと恨まないかな」
「自殺未遂で運ばれてきた人も、人を大勢殺した殺人鬼も、病院では全力の治療が行われるんだ。それが医療なんだよ。君は正しいことをした、誇っていい、私達は君を尊敬するよ。恨まれて暴言を吐かれたって、君の正しさと気高さには傷は付かない」
「……ありがとうございます」
治療もカウンセリングもどきも終えて俺は一旦開放された。アキの検査が終わるまではまだ時間がある。
「……痛い」
四階に行ってみようかな。
飛び降りがあったというのに慌ただしさはなく、階段も四階の廊下も静かだった。俺がヒビの検査をしている間に彼への対処は終わったのだろうか。
(別に会いたかないんですがね)
表彰なんてされたくない、あまり目立ちたくない、俺はひっそりと美少年ハーレムを作りたいだけなのだ。
表彰を辞退する方法はないのかななんて考えながら、俺はほとんど無意識に飛び降りた彼を探して四階を歩き回った。見舞い人だとでも思われているのか、誰にも咎められることはない。
「…………そろそろ昼飯の時間かぁ」
大量の食事を詰んだワゴンが廊下を走っている。ワゴンから目逸らすと、開いた引き戸の向こうに車椅子が見えた。何も考えず、何となくその病室に入った。
「……あ。えっと、こんにちは」
四人部屋のようだが、今は一人しか居ない。しかもその一人と言うのがアキが先程救った男だった。なんという偶然、あまり嬉しくない運命、素晴らしい俺の嗅覚。
「俺は、その……いや、すいません、部屋間違えました」
「……お前、随分痩せたなぁ」
話すことを思い付く訳もなく部屋を出ようとしたが、その言葉に足が止まった。
「そんなとこで何してんだよ、こっち来いよ」
ベッドの隣に移動しながら俺はベッドに付いているはずの名札を探した。同時に彼の顔を見たが、少し腫れている上に包帯まみれでよく分からない。
「えっと、失礼します」
俺には手足を失った知り合いは居ない。知り合いが事故に遭ったとも聞いていない。そもそも太っていた頃の俺を知っているヤツが今の俺を見て分かる訳がない。多分、人違いだろう。
「………………告白は?」
「へっ?」
「お前痩せたら俺に告白するって言ってたじゃん」
「え、と……」
そんなこと誰かに言った覚えはない。こんなふうに気さくに話しかけてくる知り合い、優しい声で話しかけてくる知り合い、キモオタデブスだった頃の俺には居ない。人違いを確信する。
「あの……多分」
「なんだよ緊張してんのか? 今起きるから……あれ」
俺と彼は同時に彼がベッドに拘束されていることを知った。自殺対策なのだろうか。
「え?」
肘下数センチから先がない右腕の先端を見つけだ彼は、包帯の隙間から僅かに見えている目を見開き、左手でそこを掴んだ。
「えっ? な、何っ、なんで、もっとあった、俺の手なんで…………あ、ぁ、あぁあああああっ!?」
大声で叫びながら左手で右手の先端を引っ掻き始めた。
「……っ!」
右手の包帯がほどけて再び血が滲んだのが見えて俺は咄嗟にナースコールを押し、彼の左手首を掴んで押さえ付けた。
「ちがうっ、ちがうぅっ! 俺、おれっ、あんなことしたかったんじゃ、ぁああぁああっ! なんでっ、やだ、ちがうっ!」
「落ち着いてください! 落ち着いて!」
「お、おれっ、ま、まもっ、守りたくてっ、なのにっ、だって裏切るからっ、ちが、ぁ、あぁっ! ごめっ、ちが、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 俺が悪いっ、全部俺がぁっ!」
「落ち着いてくださいって!」
バタバタと足音が近付いてくる。看護師が数人入ってきて、俺は病室の外に出された。俺は自分が救った人がどんな具合が気になってつい探してしまい、彼が右手を引っ掻いていたので止めたのだと不足が過ぎる説明を行った。無意識の保身だったのだろう。
腹と胸をベッドに固定する拘束に加えて腕の拘束が足されたらしい。
「…………」
看護師は秘密なんだけどと言って彼のことを少し教えてくれた。大きなトラックに轢かれて大怪我をししたこと、事故の影響なのか今は記憶が混濁しているらしいということ──なるほど、それで俺を誰かと間違えていたのか。
「助けてくれてありがとうね。心と体が健康になったらまた会ってあげて、その頃にはあなたにお礼を言いたくなっているだろうから」
「…………はい」
帰ったら表彰を辞退する方法を調べよう。アキの付き添いは次から断ろう。病院からの電話には出ないようにしよう。俺は美少年ハーレムを作って気楽に幸せに生きていきたい、人の生死になんて関わりたくない。
壮絶な人生を送る名も知らぬ人には、どうか幸せになれますようにと雑なお祈りでもしておこう。
「……っと、電話か」
スマホが震えた。電話可能なスペースに移動し、電話に出る。
『にーに、どこ居るするです? ぼく検査終わるするしたです。にーに怪我治すするまだです?』
「ごめんごめん、すぐそっち行くよ」
可愛い弟の可愛い声を聞き、俺は美少年好きの超絶美形の総攻め様へと意識を切り替えた。胸の痛みを感じながら。
0
お気に入りに追加
1,213
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~
雷音
BL
全12話 本編完結済み
雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ
一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。
※闇堕ち、♂♂寄りとなります※
単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。
(登場人物は全員成人済みです)
ポチは今日から社長秘書です
ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。
十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。
これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。
サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕!
仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能!
先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決!
社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です!
※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。
※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。
※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。
※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。
※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。
※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。
※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。
含まれる要素
※主人公以外のカプ描写
※攻めの女装、コスプレ。
※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。
※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。
※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。
※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる