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327 / 2,016

マイク一巡

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カンナを連れて部屋に戻るとリュウが歌っている真っ最中だった。いや、ちょうど終わってしまった。

「ふーっ……お、水月、しぐ、俺の美声聞かれへんくて残念やったな」

「76だよ~? 微妙じゃなーい?」

「いやいやすごいよ、ちゃんと聞きたかったな」

今デンモクは歌見のところか、彼もオタクだがアニソンを入れたりするのだろうか? 参考にしたいな。

「私はあなたの歌い方割と好きですよ、バンドの方も歌ってください」

「俺ソロ曲しか聞いとらへんからサビくらいしか歌われへんよ」

シュカとリュウが話しているな、喧嘩にならないか耳を傾けておこう。もちろんレイの可愛らしい歌声を聞きつつ。

「……そうですか。別にどっち派とかないんですけど、車で母がかけていたのがそうだったので、あまりソロ曲は知らないんですよね」

「おー、俺も車でおとんがかけとってん」

「……なぁ、どっち派とか言ってたけどさ」

リュウが見ていた食事のメニューを覗くついでに話に首を突っ込む。

「歌ってる人同じだよな?」

「せやけどちょっとちゃうねん、ソロのがなんか、こう……攻めてる気ぃすんねん。あ、水月ぃ、このパフェ頼んでええ?」

「じゃあ私もパスタ欲しいです」

奢らないぞと主張しつつ許可を出し、ハルとカンナの間に戻ろうとすると歌見の隣で退屈そうにしていたアキに腕を掴まれた。

「アキ、アキも歌うするか? おいで」

アキを連れてハルとカンナの元に戻る。ハルが隙間を空けてくれたのでアキをそこに座らせ、歌見からデンモクが回ってくるのを待つ。



レイが歌い終え、俺に感想を求める。採点は83点だったが俺にとっては5000兆点の素晴らしい歌声だった、歌詞はちょっと病んでたけど。

「めちゃくちゃ可愛かったよ」

「嬉しいっす~、十八番なんすよこの曲。あ、次シュカせんぱいっすよ」

マイクを受け取ったシュカが間奏を待つ間、俺は回ってきたデンモクを片手にアキに尋ねる。

「アキ、何か歌いたい歌あるか?」

アキはスマホを取り出してプレイリストを見せてくれた、彼が指した曲のタイトルは英語のようだ。

(ロシア語タイトルだったらどうしようかと……デンモクではひらがなカタカナに英語しか打てませんからな)

代わりに曲を予約してやるとアキは満面の笑みで俺に礼を言い、俺の頬にキスをしてくれた。

(どんな曲なんでしょう、アキきゅんのかわゆいゆいな歌声が楽しみですなぁ)

シュカの歌声は予想通りと言うべきか、ドスの効いたものだった。普段の猫被りな敬語に使う温和な声色ではなく、一段低い素の声……下腹に響くイイ声だ。

「77点……微妙ですね」

「俺よりは上やんけ。しかし、なんや伏字なかった?」

「放送禁止用語ですからね、仕方ありません。音源によってはドラムを大きくして消されてることも……まぁ何言ってるか分かる程度には聞こえるんですけどね」

「ほーん。これも車で?」

「ですね、生まれる前のバンドです」

次は歌見の番だ。彼が何を歌うのか見てから無難に流行曲を入れるかアニソンを入れるか選ぼう。

「あれ? ナナさん、歌詞表示されないって書いてるけど」

「問題ない、ドイツ語部分も完璧だ」

アニソンはアニソンだが超有名どころだな、カラオケで歌われたアニソンランキング五位以内に必ず入るような……三位以内かな?

「あ、聞いたことある~。姉ちゃんが漫画揃えてたな~」

俺も有名どころを叩き込んでおこう。紅蓮揃えで見映えも……おっと、間にアキの洋楽が入ってるんだったな。

「……っしゃ89点! 俺の最高点だ、今日は調子がいいなぁ。次は誰だ?」

「アキです。マイクください」

歌見からマイクを受け取ってアキに渡す。拙い発音で「ありがとーです」と言い、立ち上がったアキは両手でマイクを握った。

「うわ、両手持ち可愛い……俺もやればよかったなぁ~」

天使のような清純な美しさを持つアキはマイクを両手で握ってもぶりっ子っぽさがなくて──ん? 天使が入れた曲めちゃくちゃ激しくない?

(お、歌詞出た。英語ですかな? 英語20点付近のわたくしには何書いてあるか全く分かりませんのことよ)

アキの歌声はどんなものだろうと澄ませていた耳に獣が唸るような重低音が聞こえてきた。慌てて振り向けばアキはマイクを握り込んでいる、今聞いているのは本当にアキの声なのか? 信じられない。

「デスボイス出るのか……いいなぁ、なかなか出ないんだぞアレ」

「デ、デスボイス……? death?」

「デスメタルとは意外ですね」

「deathメタル……!?」

天使のような顔を見つめ、悪魔のような歌声を聞く。呆然とアキを見つめていると彼は突然頭を振り始めた。

「わ、生ヘドバン初めて見た~」

「ヘドバン……!? く、首大丈夫なんだよな、アレ」

「メタルの人て首ヘルニア多いらしいで、知らんけど」

兄として心配なので止めたいが、ノリノリで歌っているのを邪魔するのもはばかられるし、テンションが上がっている今ヘタに近付くと蹴られるんじゃないかという恐怖もあって曲が終わるまで少しも動けなかった。

「お、82点。すごいじゃんアキくん、音程あったのかなかったのかよく分かんなかったけど~」

「ふー…………とーかいです!」

「爽快とちゃうかアキくん」

「……! そーかいです! そーかい聞くするしたでした。ありがとーですてんしょー」

歌い終えたアキは天使のような甲高く可愛らしい声で話し始めた。渡されたマイクを握りはしたが、俺はまだボーッとしてしまっている。

「みっつーん? 始まるよ~」

「あ、あぁ……」

立ち上がり、歌い出す。有名なアニソンということで入れてみたが、ちゃんと歌ったことはそういえばなかった。まぁ一時期どこの店でも聞いたので歌えるだろう。

「……これも確か人を食べるアニメでしたよね?」

「あぁ、両方とも人は食われるしネームドキャラがバンバン死ぬぞ。観てたか?」

「いえ全く」

「アニソンなんや。親戚の子ぉが一時期めっちゃ歌ぉてたわこれ。丸めた新聞紙振り回してなぁ」

それなりにウケは良さそうだ。しかしアニソンを歌うことによる精神的負担は非常に重いため、次からは大人しく流行曲を歌おう。
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