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ハルチャンカワイー
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握った手は細く、けれど骨張っていて「男」を確かに感じた。きめ細やかな肌からはほんのりと果実の香りがする、ハンドクリームか何かだろう。
「お邪魔しまーす……」
廊下を踏んだ足は半透明の黒い布に包まれていた、タイツだろうか? ファッションには詳しくない。今日は女装の気分なのか赤いチェック柄のミニスカートを履いている。左肩が露出するデザインのシャツのベースは黒色で、禍々しい絵が描かれている。
「はい、スリッパ」
「ありがとー」
今日の髪型はツーサイドアップ、オタク心を騒がせるツーサイドアップだ。ツインテールではない、ツーサイドアップだ。ツーサイドアップは最高過ぎて語彙が消える。ちなみに髪留めは赤いチェック柄の小さなリボンだ。
「お、爪綺麗だな」
緊張をほぐすのと好感度を稼ぐ狙いで赤い色のマニキュアを褒めてみる。
「……あっ、分かっちゃうー? 新作なんだよね~、発色がいいでしょ。足の爪にも塗ってるんだよ~」
「じゃあ後で見せてもらおうかな」
ハルの首には太いチョーカーが巻かれている。十字架がぶら下がったそれは彼の喉仏を隠している。女性らしくない鎖骨から肩幅のがっしりしたところは丸見えだが、ハルは骨細なのもあって見ただけでは性別の判断がつきにくくなっている。
少女というには男らしく、少年というにはあまりに女々しい、女装としては完璧な塩梅と言えるだろう。
「うん……ぁ、ねぇ、このめん居る? 家主には挨拶しとかなきゃね~」
「レイの部屋はここだ。レイ、入るぞ」
「やほやほ~、お邪魔してる初春さんだよ~」
「ハルせんぱい! お久しぶりっす。俺忙しいんでお構い出来ないっすけど、ゆっくりしてってくださいっす」
「うん、ありがと~。何忙しいのか知らないけど頑張ってね~」
イラストレーターとしての仕事をしているレイへの挨拶を終え、ハルは寝室の前で止まった俺を不思議そうな顔で俺を見つめた。
「どったのみっつん」
「えっとな……アキはアルビノっていう生まれつき色素の薄い子で、眩しいのが苦手だから部屋が今ちょっと薄暗いけど、いいか?」
「知ってるよ~、ってか俺の今日の用事分かってるよね? 弟くん居ていいの?」
「さっきまで玩具でしてた、ってかアキは今も一人でしてるはずだ」
ハルは綺麗な目をまん丸に見開き、それから呆れたような視線を俺に向けた。
「みっつんさぁ……」
「結構性にオープンで積極的な子っぽいから大丈夫だし、ぁ、ハル……俺以外に見られるの嫌か?」
「いや、もう……なんか慣れた。人前でもいーよ」
「だよな。じゃあ入ってくれ」
寝室の扉を開けるとアキは自慰を中断し、後孔からアナルパールを垂らしたまま顔を上げた。ハルを見つめる赤い瞳はぼんやりと濡れている。
「…………すみっぞ……?」
「あ、霞染覚えてくれてたの~? あはっ、霞染は長いっしょ。ハルでいいよ。あだ名、ハル、ぁー……ニックネーム、ハル、OK?」
「アキは英語そんなに分かんないからニックネームもOKもそんなに意味ないぞ」
けれど、ハルが自分を指して何度も「ハル」と言うのでアキはそれが愛称だと理解したようで、可愛らしい笑顔で「ハル」と拙く呼んだ。
「……! 可愛い。アキくん超可愛い~、連れて帰っていい?」
「ダメだよ、俺の弟だぞ」
「こんなに可愛いのに服ダサい~、もっと可愛いの着せよー?」
「それは分かる……」
アキの服は別にダサくはないけれど安物感丸出しだ。スーパーの服売り場のワゴンに突っ込まれているアレなのだ。ほとんど外出しないし、部屋着なのだからこれでいいのだが……もったいないという意見はよく分かる。
《前も思ったけどコイツ男だよな? 骨格的に男っぽいけど怪しいんだよな》
「あ、なんか言ってる。みっつん通訳して」
「……ハルチャンカワイー」
「もっと長かったって絶対! もー……でもすっごい見てくる、なんだろ…………女装気持ち悪いとか言わないよね?」
「何言ってるんだよ、こんなに可愛いのに気持ち悪がるヤツなんて居ないよ」
「そっ、そういうのいいから! 結構居るし。あーどうしよ、短パンにしてくりゃよかったかな~……ねー聞いてみてよみっつん、嫌われてないか不安~、カラオケであんま話せなかったしさぁ~」
ミニスカートだろうとホットパンツだろうと女装に違いないと思うのだが。
「大丈夫だと思うけどなぁ……アキ、ハル……どう、思う?」
「ゴリゴリの日本語じゃん」
「結構勉強してくれてるからゆっくり区切って言えば伝わるんだよ」
アキは返答することなく首を傾げている。
「伝わってなくない?」
「ほ~ん~や~く~ア~プ~リ~」
「何とかしてよミツえもーん」
「仕方ないなぁハル太くんは……ふふ、ノってくれて嬉しい」
流石に国民的な作品ならアニメネタでも大丈夫だな……いや、ハルは姉の影響で結構漫画読んでるんだっけ?
「えーっと、このドレスは最高です……だってさ」
「はぁ? ドレスぅ? みっつんちゃんと聞いた?」
「た、多分翻訳の精度の問題だよ……その服イイって言ってるんだよ。な、アキ。ハルの服、可愛いよな?」
「Хорошо!」
この世の憂いを全て取り除くような満面の笑みだ、不安がっていたハルも救われるだろう。
「はらしょーだそうだ」
「聞こえたことまんま言われても~……訳してよーみっつん」
「え、はらしょーは……アレだ、なんか、いい意味。ナイスみたいな感じ? すごいとか、よいとか……」
「褒めてくれてんの? よかったぁ~」
「……そんな禍々しい服どこに売ってるんだ?」
燃え盛る十字架の絵と手首が赤い花びらまみれの髑髏を掲げているイラストが服に……燃え盛る十字架ってキリスト教徒のアキ的にOKなのか? ダメじゃないか? ホントにはらしょー?
「姉ちゃんが好きなデスメタバンドのライブTシャツ。サイズ間違えたからって俺にくれたんだ~」
「へぇ……あ、そういえばアキ、デスメタ好きだったっけ」
じゃあ何教徒とか関係ないのかな。
「アキくん知ってるバンドなのかな? スカートは気にしてない感じ? えへへ……よかったぁ」
心の底から安堵したらしいハルの笑顔はとても愛らしいものだった。
「お邪魔しまーす……」
廊下を踏んだ足は半透明の黒い布に包まれていた、タイツだろうか? ファッションには詳しくない。今日は女装の気分なのか赤いチェック柄のミニスカートを履いている。左肩が露出するデザインのシャツのベースは黒色で、禍々しい絵が描かれている。
「はい、スリッパ」
「ありがとー」
今日の髪型はツーサイドアップ、オタク心を騒がせるツーサイドアップだ。ツインテールではない、ツーサイドアップだ。ツーサイドアップは最高過ぎて語彙が消える。ちなみに髪留めは赤いチェック柄の小さなリボンだ。
「お、爪綺麗だな」
緊張をほぐすのと好感度を稼ぐ狙いで赤い色のマニキュアを褒めてみる。
「……あっ、分かっちゃうー? 新作なんだよね~、発色がいいでしょ。足の爪にも塗ってるんだよ~」
「じゃあ後で見せてもらおうかな」
ハルの首には太いチョーカーが巻かれている。十字架がぶら下がったそれは彼の喉仏を隠している。女性らしくない鎖骨から肩幅のがっしりしたところは丸見えだが、ハルは骨細なのもあって見ただけでは性別の判断がつきにくくなっている。
少女というには男らしく、少年というにはあまりに女々しい、女装としては完璧な塩梅と言えるだろう。
「うん……ぁ、ねぇ、このめん居る? 家主には挨拶しとかなきゃね~」
「レイの部屋はここだ。レイ、入るぞ」
「やほやほ~、お邪魔してる初春さんだよ~」
「ハルせんぱい! お久しぶりっす。俺忙しいんでお構い出来ないっすけど、ゆっくりしてってくださいっす」
「うん、ありがと~。何忙しいのか知らないけど頑張ってね~」
イラストレーターとしての仕事をしているレイへの挨拶を終え、ハルは寝室の前で止まった俺を不思議そうな顔で俺を見つめた。
「どったのみっつん」
「えっとな……アキはアルビノっていう生まれつき色素の薄い子で、眩しいのが苦手だから部屋が今ちょっと薄暗いけど、いいか?」
「知ってるよ~、ってか俺の今日の用事分かってるよね? 弟くん居ていいの?」
「さっきまで玩具でしてた、ってかアキは今も一人でしてるはずだ」
ハルは綺麗な目をまん丸に見開き、それから呆れたような視線を俺に向けた。
「みっつんさぁ……」
「結構性にオープンで積極的な子っぽいから大丈夫だし、ぁ、ハル……俺以外に見られるの嫌か?」
「いや、もう……なんか慣れた。人前でもいーよ」
「だよな。じゃあ入ってくれ」
寝室の扉を開けるとアキは自慰を中断し、後孔からアナルパールを垂らしたまま顔を上げた。ハルを見つめる赤い瞳はぼんやりと濡れている。
「…………すみっぞ……?」
「あ、霞染覚えてくれてたの~? あはっ、霞染は長いっしょ。ハルでいいよ。あだ名、ハル、ぁー……ニックネーム、ハル、OK?」
「アキは英語そんなに分かんないからニックネームもOKもそんなに意味ないぞ」
けれど、ハルが自分を指して何度も「ハル」と言うのでアキはそれが愛称だと理解したようで、可愛らしい笑顔で「ハル」と拙く呼んだ。
「……! 可愛い。アキくん超可愛い~、連れて帰っていい?」
「ダメだよ、俺の弟だぞ」
「こんなに可愛いのに服ダサい~、もっと可愛いの着せよー?」
「それは分かる……」
アキの服は別にダサくはないけれど安物感丸出しだ。スーパーの服売り場のワゴンに突っ込まれているアレなのだ。ほとんど外出しないし、部屋着なのだからこれでいいのだが……もったいないという意見はよく分かる。
《前も思ったけどコイツ男だよな? 骨格的に男っぽいけど怪しいんだよな》
「あ、なんか言ってる。みっつん通訳して」
「……ハルチャンカワイー」
「もっと長かったって絶対! もー……でもすっごい見てくる、なんだろ…………女装気持ち悪いとか言わないよね?」
「何言ってるんだよ、こんなに可愛いのに気持ち悪がるヤツなんて居ないよ」
「そっ、そういうのいいから! 結構居るし。あーどうしよ、短パンにしてくりゃよかったかな~……ねー聞いてみてよみっつん、嫌われてないか不安~、カラオケであんま話せなかったしさぁ~」
ミニスカートだろうとホットパンツだろうと女装に違いないと思うのだが。
「大丈夫だと思うけどなぁ……アキ、ハル……どう、思う?」
「ゴリゴリの日本語じゃん」
「結構勉強してくれてるからゆっくり区切って言えば伝わるんだよ」
アキは返答することなく首を傾げている。
「伝わってなくない?」
「ほ~ん~や~く~ア~プ~リ~」
「何とかしてよミツえもーん」
「仕方ないなぁハル太くんは……ふふ、ノってくれて嬉しい」
流石に国民的な作品ならアニメネタでも大丈夫だな……いや、ハルは姉の影響で結構漫画読んでるんだっけ?
「えーっと、このドレスは最高です……だってさ」
「はぁ? ドレスぅ? みっつんちゃんと聞いた?」
「た、多分翻訳の精度の問題だよ……その服イイって言ってるんだよ。な、アキ。ハルの服、可愛いよな?」
「Хорошо!」
この世の憂いを全て取り除くような満面の笑みだ、不安がっていたハルも救われるだろう。
「はらしょーだそうだ」
「聞こえたことまんま言われても~……訳してよーみっつん」
「え、はらしょーは……アレだ、なんか、いい意味。ナイスみたいな感じ? すごいとか、よいとか……」
「褒めてくれてんの? よかったぁ~」
「……そんな禍々しい服どこに売ってるんだ?」
燃え盛る十字架の絵と手首が赤い花びらまみれの髑髏を掲げているイラストが服に……燃え盛る十字架ってキリスト教徒のアキ的にOKなのか? ダメじゃないか? ホントにはらしょー?
「姉ちゃんが好きなデスメタバンドのライブTシャツ。サイズ間違えたからって俺にくれたんだ~」
「へぇ……あ、そういえばアキ、デスメタ好きだったっけ」
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