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分厚く高い言語の壁
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目を閉じて眠ろうとしてしまう。嫌な目に遭った子供がその日は早く寝るとするのと同じ、現実逃避だ。けれど、アキに結合部をじっくりと見られているのは寝たくらいでは逃げられない現実だ。
《怪しいと思ってたんだよなぁ……風呂場から変な声聞こえたしさ? そんくらいなら目ぇ瞑っててやろうと思ってたのにさ、横でゴソゴソと……》
全く聞き取れない。アキは何を喋っているのだろう、流石に今俺とレイがセックス中だと分かっていないほどピュアじゃないよな? 十四歳なら分かるよな? 言い訳は不可能だと思うべきだろう。
《弟横に居んのにおっ始めるとかよぉ、アンタ結構だな兄貴。ずっぷり入っちまって。ははっ、ホモセックス初めて見た。痛そ》
アキは今の俺を見て何を感じたのだろう。懐いてくれていた、頼ってくれていた、良き兄だと思ってくれていたはずだ、その信頼は壊れてしまっただろうか? 幻滅したのだろうか? アキの可愛らしい真っ赤な瞳から侮蔑の視線を向けられるなんて耐えられない、彼がどんな目をしているのか怖くて顔を上げられない。
「あ……バレ、ちゃったんすか? あっ……は、んんっ……! アキ、くん……せんぱい、どうするっすか?」
どうすればいいんだろう。
《ま、よろしくヤってろ。俺リビングで寝るから》
回らない頭で無駄に悩んでいた俺の耳に部屋の扉の開閉音が届いた。慌てて顔を上げると既にベッドにアキは居らず、彼が居た痕跡がベッドの凹みとして残っていた。
「んぁあっ……! せんぱいっ、せんぱい……」
「あ、ごめん急に起きて……アキ、アキどこ行ったんだ?」
「知らないっすよ。バレちゃったのは残念っすけど、席外してくれたんすから続きするっすよ」
席を外してくれた? 気遣いで? 俺はそうとは思えない。
「…………ごめん」
「……だろうと思ったっす」
「ほんとにごめん、この埋め合わせは必ず……」
「もういいっすから、早く行ってあげてくださいっす」
謝りながら陰茎を抜き、コンドームはつけたまま下着とズボンを履き直して部屋を出た。玄関をまず確認しに向かったが、玄関扉にはドアチェーンがかかったままだったのでアキは家からは出ていないと思われる。
「アキー……?」
トイレや風呂場の電気は点いていない、母の部屋に入るのははばかられたのでまずリビングを確認した。
(ビンゴ! でももうちょい考える時間欲しかったでそ)
リビングのソファの上にアキは居た。持ち去った毛布に包まっている。近寄ると起き上がり、赤い瞳をこちらに向けた。
「……眩しい、です」
「あ、あぁ、ごめん」
暗闇を歩くためにスマホのライト機能をオンにしていた。オフにしてソファの傍に屈み、何を言おうか迷う。
「アキ……その、さっきのは……えっと」
レイのことをアキには友達だと紹介していた。まずその嘘を謝り、次に真横で行為に及んだ倫理観のなさを謝罪しよう。もうハーレムのことを暴露してしまってもいいだろうか? 玉砕覚悟でアタックしてみるか? フラれたら今後家族としてとても気まずくなるかもしれないが、しないで後悔するよりやって後悔した方がマシだ。
「にーに、男の人、好きです?」
謝罪と告白をすると決め、伝わりやすい言い方を考えているとアキが先に話し始めてしまった。
「……うん。俺は男の人が好きだよ、男しか好きになれない」
この流れで先に告白してしまおうか? いや、やっぱり謝罪が先だろう。
「…………にーに、僕、好きです?」
「え……」
チャンス!? 好きだと言って抱き締めてしまえばアキは俺のもの──いや、違う、落ち着け、アキとの関係性と、レイとのセックスを見られた直後という状況をよく理解した上でよく考えろ。
「にーに、僕好き、言ったです。家族ちがう好きでしたです?」
多分、義母と同じだ。俺が実弟が寝ている真横で行為に及ぶような倫理観のない同性愛者だから、襲われるんじゃないかと怯えているんだ。そんなこと、絶対にしないのに。
「……家族として好きだよ」
アキのことは諦めよう。アキを彼氏にするなんて最初から無理な話だったんだ、最初からワンチャンあるかもくらいに考えていたんだ、さっさと諦めよう。
「ごめん。怖いんだもんな。宗教的にもタブーなんだろ? 理解しろなんて言わないよ、受け入れろなんて言わない。虐めないでくれたらそれでいい、放っておいてくれたらそれだけでありがたい……本当にごめん、もうアキの目につくところで男とイチャついたりしない、彼氏家に呼んだりしないから、そんな怯えた目で見ないでくれ」
「にーに?」
信頼した兄に身体を狙われていたんじゃないかと怯えているのはアキの方なのに、泣いていいのはアキの方なのに、なんで俺が泣きそうなんだよ。ダメだ、泣くな、まだ考えるべきことがある、長い言葉ではダメだ、もっと簡潔に俺の安全性をアピールしないとアキが安眠できない。
《何言ってんのか分かんねぇよ兄貴、そのスマホ使えよいつもみたいにさぁ!》
「……っ、ごめん。えっと……あのな? 俺は、アキのこと襲ったりしないから……えっと、なんて言えば……ぁ、スマホ、そうだ翻訳……ちょっと待ってくれ」
スマホを握り締めていることに気付き、すぐに翻訳アプリを開いて文字を打った。俺はたくさん嘘をついた。
レイが唯一無二の彼氏であること、アキを性的な目で見たことは一度もないこと、隣でセックスをしたことへの謝罪を打ち込み、翻訳してアキに見せた。
《アイツだけが好き、俺は性愛の対象外…………あっ、そ》
「アキ? 分かってくれたか? 俺はアキのこと襲ったりしないよ、これからも隣で寝ててくれて大丈夫だ」
《対象外って、そんなドストレートに言うことねぇだろ。じゃあ何、めちゃくちゃ心配してくれて公園まで迎えに来てくれたのも、俺とのハグやキス嬉しそうにしてたのも、全部全部完全に家族愛だったってことかよふざけんなよっ! なんで俺が対象外なんだよっ、んなわけねぇだろ俺はこんなに可愛いのに!》
「ア、アキ? どうしたんだ?」
今触るのはまずいだろう。何故叫び出したのか分からない以上はどう声をかければいいのか分からない。俺には何も出来ない。
《顔がいいだろ俺はよぉ! 身体もいいはずだ、手足長いし鍛えてる! なんで俺じゃ興奮しないんだよクソ兄貴! バカ兄貴! スキンシップいっぱいしたのに、祝福だって嘘ついてまでキスしたのにぃっ、ちょっとはそういう目で見てくれてるって思ってたのにっ、対象外ってなんだよクソバカっ、そんな望み薄どころかゼロな言い方すんなよ! さては人の心とか持ってねぇな!? 冷血クソ野郎!》
「アキっ、どうしたんだよ本当に……」
ソファを下りて立ち上がり、俺を睨んで喚き始めたアキに困り果てた俺も立ち上がったが、抱き締める訳にもいかずオロオロとしていると──
《クソ、クソクソっ、クソっ! クソっ……! 死ねっ!》
──股間を思いっきり蹴り上げられた。立つんじゃなかった。
「はぐっ!? ぅ……男としての俺が、今死んだ」
《俺で勃たねぇチンポなんざある意味ねぇんだ潰れちまえ!》
俺が急に立ち上がったから、オロオロしながら手を伸ばしたから、襲われるとでも思ったのだろうか? 翻訳アプリを使っての俺の安全性アピールは失敗だったのか? どうすればよかったのか俺には分からない。
《怪しいと思ってたんだよなぁ……風呂場から変な声聞こえたしさ? そんくらいなら目ぇ瞑っててやろうと思ってたのにさ、横でゴソゴソと……》
全く聞き取れない。アキは何を喋っているのだろう、流石に今俺とレイがセックス中だと分かっていないほどピュアじゃないよな? 十四歳なら分かるよな? 言い訳は不可能だと思うべきだろう。
《弟横に居んのにおっ始めるとかよぉ、アンタ結構だな兄貴。ずっぷり入っちまって。ははっ、ホモセックス初めて見た。痛そ》
アキは今の俺を見て何を感じたのだろう。懐いてくれていた、頼ってくれていた、良き兄だと思ってくれていたはずだ、その信頼は壊れてしまっただろうか? 幻滅したのだろうか? アキの可愛らしい真っ赤な瞳から侮蔑の視線を向けられるなんて耐えられない、彼がどんな目をしているのか怖くて顔を上げられない。
「あ……バレ、ちゃったんすか? あっ……は、んんっ……! アキ、くん……せんぱい、どうするっすか?」
どうすればいいんだろう。
《ま、よろしくヤってろ。俺リビングで寝るから》
回らない頭で無駄に悩んでいた俺の耳に部屋の扉の開閉音が届いた。慌てて顔を上げると既にベッドにアキは居らず、彼が居た痕跡がベッドの凹みとして残っていた。
「んぁあっ……! せんぱいっ、せんぱい……」
「あ、ごめん急に起きて……アキ、アキどこ行ったんだ?」
「知らないっすよ。バレちゃったのは残念っすけど、席外してくれたんすから続きするっすよ」
席を外してくれた? 気遣いで? 俺はそうとは思えない。
「…………ごめん」
「……だろうと思ったっす」
「ほんとにごめん、この埋め合わせは必ず……」
「もういいっすから、早く行ってあげてくださいっす」
謝りながら陰茎を抜き、コンドームはつけたまま下着とズボンを履き直して部屋を出た。玄関をまず確認しに向かったが、玄関扉にはドアチェーンがかかったままだったのでアキは家からは出ていないと思われる。
「アキー……?」
トイレや風呂場の電気は点いていない、母の部屋に入るのははばかられたのでまずリビングを確認した。
(ビンゴ! でももうちょい考える時間欲しかったでそ)
リビングのソファの上にアキは居た。持ち去った毛布に包まっている。近寄ると起き上がり、赤い瞳をこちらに向けた。
「……眩しい、です」
「あ、あぁ、ごめん」
暗闇を歩くためにスマホのライト機能をオンにしていた。オフにしてソファの傍に屈み、何を言おうか迷う。
「アキ……その、さっきのは……えっと」
レイのことをアキには友達だと紹介していた。まずその嘘を謝り、次に真横で行為に及んだ倫理観のなさを謝罪しよう。もうハーレムのことを暴露してしまってもいいだろうか? 玉砕覚悟でアタックしてみるか? フラれたら今後家族としてとても気まずくなるかもしれないが、しないで後悔するよりやって後悔した方がマシだ。
「にーに、男の人、好きです?」
謝罪と告白をすると決め、伝わりやすい言い方を考えているとアキが先に話し始めてしまった。
「……うん。俺は男の人が好きだよ、男しか好きになれない」
この流れで先に告白してしまおうか? いや、やっぱり謝罪が先だろう。
「…………にーに、僕、好きです?」
「え……」
チャンス!? 好きだと言って抱き締めてしまえばアキは俺のもの──いや、違う、落ち着け、アキとの関係性と、レイとのセックスを見られた直後という状況をよく理解した上でよく考えろ。
「にーに、僕好き、言ったです。家族ちがう好きでしたです?」
多分、義母と同じだ。俺が実弟が寝ている真横で行為に及ぶような倫理観のない同性愛者だから、襲われるんじゃないかと怯えているんだ。そんなこと、絶対にしないのに。
「……家族として好きだよ」
アキのことは諦めよう。アキを彼氏にするなんて最初から無理な話だったんだ、最初からワンチャンあるかもくらいに考えていたんだ、さっさと諦めよう。
「ごめん。怖いんだもんな。宗教的にもタブーなんだろ? 理解しろなんて言わないよ、受け入れろなんて言わない。虐めないでくれたらそれでいい、放っておいてくれたらそれだけでありがたい……本当にごめん、もうアキの目につくところで男とイチャついたりしない、彼氏家に呼んだりしないから、そんな怯えた目で見ないでくれ」
「にーに?」
信頼した兄に身体を狙われていたんじゃないかと怯えているのはアキの方なのに、泣いていいのはアキの方なのに、なんで俺が泣きそうなんだよ。ダメだ、泣くな、まだ考えるべきことがある、長い言葉ではダメだ、もっと簡潔に俺の安全性をアピールしないとアキが安眠できない。
《何言ってんのか分かんねぇよ兄貴、そのスマホ使えよいつもみたいにさぁ!》
「……っ、ごめん。えっと……あのな? 俺は、アキのこと襲ったりしないから……えっと、なんて言えば……ぁ、スマホ、そうだ翻訳……ちょっと待ってくれ」
スマホを握り締めていることに気付き、すぐに翻訳アプリを開いて文字を打った。俺はたくさん嘘をついた。
レイが唯一無二の彼氏であること、アキを性的な目で見たことは一度もないこと、隣でセックスをしたことへの謝罪を打ち込み、翻訳してアキに見せた。
《アイツだけが好き、俺は性愛の対象外…………あっ、そ》
「アキ? 分かってくれたか? 俺はアキのこと襲ったりしないよ、これからも隣で寝ててくれて大丈夫だ」
《対象外って、そんなドストレートに言うことねぇだろ。じゃあ何、めちゃくちゃ心配してくれて公園まで迎えに来てくれたのも、俺とのハグやキス嬉しそうにしてたのも、全部全部完全に家族愛だったってことかよふざけんなよっ! なんで俺が対象外なんだよっ、んなわけねぇだろ俺はこんなに可愛いのに!》
「ア、アキ? どうしたんだ?」
今触るのはまずいだろう。何故叫び出したのか分からない以上はどう声をかければいいのか分からない。俺には何も出来ない。
《顔がいいだろ俺はよぉ! 身体もいいはずだ、手足長いし鍛えてる! なんで俺じゃ興奮しないんだよクソ兄貴! バカ兄貴! スキンシップいっぱいしたのに、祝福だって嘘ついてまでキスしたのにぃっ、ちょっとはそういう目で見てくれてるって思ってたのにっ、対象外ってなんだよクソバカっ、そんな望み薄どころかゼロな言い方すんなよ! さては人の心とか持ってねぇな!? 冷血クソ野郎!》
「アキっ、どうしたんだよ本当に……」
ソファを下りて立ち上がり、俺を睨んで喚き始めたアキに困り果てた俺も立ち上がったが、抱き締める訳にもいかずオロオロとしていると──
《クソ、クソクソっ、クソっ! クソっ……! 死ねっ!》
──股間を思いっきり蹴り上げられた。立つんじゃなかった。
「はぐっ!? ぅ……男としての俺が、今死んだ」
《俺で勃たねぇチンポなんざある意味ねぇんだ潰れちまえ!》
俺が急に立ち上がったから、オロオロしながら手を伸ばしたから、襲われるとでも思ったのだろうか? 翻訳アプリを使っての俺の安全性アピールは失敗だったのか? どうすればよかったのか俺には分からない。
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