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みんな違ってみんな可愛い

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生徒会役員選挙とやらの詳細を知り、来週から更に忙しくなるのかとため息をつく。しかし今日はまだバイトが残っているし、そこで歌見に平均点以上を取れなかったことを知らさなければならない。気が重い。

「ばいばーい、また明日なー」

「じゃあな、カンナ」

カンナと別れても電車の中には大勢の人が居るのに、リュウと二人きりになった気分になる。

「のぅ水月ぃ、お願いあるんやけどええ?」

「内容による」

「……テストのご褒美で散歩してもらうやん? 俺、そん時に水月との初めてしたいねん……せやから、その……もう三つ目慣れたから、四つ目欲しゅうて……もう今日欲しいねんけど、家行ってええ?」

そんな可愛いお願い、二つ返事に決まっている。初めてはベッドの上でしたいものだが、そもそも俺の童貞は床の上で奪われているし、リュウに理想の処女喪失があるのならそれを演出してあげたい。

「ええのん? おおきになぁ。あ、今日バイトあるんちゃうん。終わるまで待とか?」

「いや、終わる頃夜だし……まぁ二~三十分遅れても学校がちょっと長引いたって言えば大丈夫だよ」

「テキトーやなぁ」

「店長緩くて優しい人だからさ」

そういえば母と店長の関係はどうなっているのだろう。本命は同居に成功した訳だし、もう別れてしまうのかな? 本屋での居心地が悪くなるから変なフり方はしないで欲しいものだ。

「あ……そうだ、アキが部屋に居るんだ。大人の玩具は見せたくないな……ローターならまだしもディルドはモロちんこだし」

「俺が引き付けとくわ」

「出来るか? じゃあ頼む、俺も出来るだけ素早くやるから」

しかし、簡単なことではないだろう。ディルドそのものを見られなくても、ベッドの下の収納にアキが興味を抱いたら俺の不在時に漁るかもしれない。理想はベッドの下を探っている姿すら見られないことだが、可能だろうか?

「にーに、おかえりです」

可能そうだ。アキはサングラスをかけまでして出迎えに来てくれた、リュウにこの場でアキを抑えてもらえばいい、多少不自然になろうとも部屋で何をしていたか全く分からないなら無問題だ。

「ただいま、アキ」

数秒のハグを終えたら一歩横にズレてリュウの姿を見させる。

「よぉ、アキくん」

「テンショー! おはよう、です」

「こんにちはちゃうか?」

「ハグしてやれよ、アキ。リュウ……頼むぞ」

リュウが両手を大きく広げるとアキは嬉しそうにハグに応える。本当にハグが好きなんだなと関心しつつ、靴を脱ぎ捨てて部屋に走る。

「にーに……?」

「アキくん! アキくん、えー……名前、名前なんやったっけ、あだ名で呼んでるから分からんようなってもうたわ!」

背後から聞こえてくる焦った様子のリュウの質問に、いくらなんでも無茶苦茶過ぎだろと思いつつ部屋に飛び込む。

「テンショー……?」

「アキくんの、な、ま、え」

「なまえ……名前? ぼく?」

ベッド下の収納を開け、四本セットになっていたディルドの箱を引っ張り出す。

「そうそうそう」

「秋風 マキシモヴィチ マールト」

「おー……なんや水月に聞いてたんより多いなぁ」

ディルドをそのまま渡すところを見られるのはまずいので、適当な袋を探して……適当な袋がない!

《日本は父称ねぇんだっけ? 親父とは離婚したんだからっつって、父称捨てろっつーんだよ。めちゃくちゃだろ。アンタらの夫婦関係解消と、俺の親父なのは関係ねぇってのに。アイツ居ねぇ時はマキシモヴィチ名乗ってくぜ、そういや兄貴に父称教えてなかった気がするなー……》

「お、おぉ? めっちゃ喋るやん、全然何言うとるか分からへんけどなんか愚痴ってはる雰囲気はあんな、なんか嫌なことあったん?」

《……あっ? 日本って名前と苗字逆なんだっけ? 聞いたのに忘れてた、やっべ。テンショーってもしかしてテンショー名前じゃない? 苗字? 後ろ忘れた……名前なんだっけ》

「お? 俺の名前呼んどる? なんや?」

ようやく見つけたのはアニメショップの紺色のビニール袋。サイズも不透明度もピッタリだが俺がオタクだとバレかねない、いや、リュウはアニメに疎い、アニメショップの袋なんて知らないだろう。もしもバレたら本屋のバイトを言い訳にすればいい。

「リュウ! はいこれ」

「おー、さんきゅ。ほなな、アキくん」

何の疑問も抱くことなくリュウはすぐに袋を鞄に詰め、アキに手を振って玄関扉を開けた。

「アキ、お兄ちゃんこれからバイト行くからな」

靴を履き直してリュウが開けて待っていてくれている扉へ向かおうとすると、アキに手を握られた。

「にーに……? どこ、行くです? 学校、終わるしたです」

「バイト……えっと、お仕事、分かる?」

「テンショーと遊ぶです? 家で遊ぶするです、ぼく……一人、嫌いです」

「…………寂しいのか?」

濃い色のサングラスのせいでアキの目の様子は分からない。

「じゃあ……お兄ちゃんと一緒に来るか? えー……外、行く?」

母も義母も居ないようだし、家に置いて行くより本屋に連れて行った方がマシだろう。仕事中はバックヤードに居させればいい、店長やレイが構ってくれるはずだ。

「……! 行くです。準備するです、にーに、待つするです」

「あぁ、待っとくよ」

アキは嬉しそうに笑うと俺の私室に走った。外出の準備を整えるようだ。

「ええのん?」

「ダメでもとりあえず今日だけは許してもらえるだろ、普段は学校帰りに直接行くし……アキ連れてくことなんて今日くらいだろうから、何とかなるよ」

「無茶言うてすまんのぉ」

「リュウは何も…………いや、そうだな、お前が無茶言ったせいだ、今度またたっぷりお仕置きしてやるから、出来るようにその欲しがり穴調整しとけよ?」

「はぁい……ご主人様ぁ」

緩んだ笑顔を浮かべるリュウの尻をスラックス越しに揉みしだき、夏服の薄いスラックスの素晴らしさを痛感する。

「にーに、待つするありがとうです。行くです」

アキが部屋から出てきたので慌ててリュウの尻から手を離した。

「……えらいカッコやな」

リュウはアキの完全防備に驚いているようだ。長袖長ズボンに黒手袋、サングラスに黒マスク、薄手のマフラーに貴婦人のような鍔の大きな黒い帽子。

「まぁ、ちょっと透明人間っぽいよな」

身体が透けているから全身を隠す透明人間と、日に焼かれてしまうから肌を隠すアキ、今初めて似ていると思った。

「傘……ネコ、かわいーです。にーに、ありがとうです」

日傘を持ったアキは俺がプレゼントしたネコ型の傘タグを愛おしそうに撫でた。

「傘まで差すん……!?」

俺が贈った物を気に入っている様子のアキも可愛いし、完全防備の上に日傘を差そうとしているアキに驚くリュウも可愛い、みんな違ってみんないいとはまさにこのことだ。
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