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美少年の美脚の威力

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思わず家を飛び出してしまったが、アキの行きそうなところが分からず途方に暮れた。

(これからお兄ちゃんになっていくところなんでそ、このイベントは早すぎまっそ! もう少し仲を深めてからでなくては見当つきませんぞ)

行方知れずになった兄弟を探すというのは創作物ではありがちな展開だ。大抵は思い出の場所に行ったりして、居なくなった方も「兄さんなら見つけてくれると思ってた」みたいなことを言う。だが、俺達にはそこまでの絆はない。

「……アキきゅんに電話すりゃいいだけじゃあーりませんか」

文明の利器に気付いた俺は自宅の前でスマホを持った。電話はあっさりと繋がり、可愛らしい声が聞こえた。

『……にーに?』

「アキっ!? アキ、よかった、無事か? ぁ……えっと、今、どこに、居る?」

聞き取りやすいようにゆっくりと尋ねた。

『どこ……? 遊ぶ、です』

遊ぶ場所に居ると言いたいのだろうか? この辺りには廃業寸前のゲーセンくらいしかないぞ。

「……今、何を、してる?」

『坂、滑るするです。次、座るするです、揺れるです』

「…………滑り台とブランコか? 今から行くからそこから動くなよ!」

住宅街だから遊び場が少ない、それは高校生の考え方だった。住宅街だからこそ公園という遊び場があるじゃないか。
俺は小さい頃によく母の恋人に連れてきてもらっていた近所の公園へ走った。記憶にある昼間の楽しい雰囲気とはまるで違う、不気味な雰囲気漂う真っ暗な公園へ。

「はぁっ、はぁ……アキ!」

静かな公園に響く、キィキィというブランコを漕ぐ音。ブランコには白い人影。そのままホラーゲームのスチルに使えそうな光景だ。

「……にーに!」

白い人影が俺に気付いて走ってくる。ホラーゲームなら逃げなければいけない場面だが、ここは現実、白い人影はお化けなどではなく俺の可愛い弟だ。太陽が沈んだからと日傘もサングラスも必要としていない、可愛い顔を隠していない大切な弟──

《日本の夜は暗くていいな! 向こうは雪降るからさー、地面が真っ白で月の光が反射するから夜でも明るいんだよ。親父は夜なら暗いから平気だろとか言ってたけどさー……その点日本は雪降らねぇからイイな、夜のお散歩が捗るぜ》

「何言ってんのか全然分かんねぇよバカっ! こんな時間に一人で出歩くな! 誘拐されたらどうするんだよ! お前可愛いんだから身代金目的とかじゃないから絶対帰してもらえないんだぞ、変なおっさんに変なことされるんだぞ! 分かってんのか!」

《兄貴? 何、うっせぇんだけど。どったの? 肩掴むなよクソが。痛いんだけど》

「このっ、バカぁ……無事でよかった」

説教もどきの大声は個人的な感情を発散させるだけでアキには分からない、突然叫んだ俺を不審な目で見ながら首を傾げて身をよじるだけだ。

《うぉ、何、ハグ?》

「よかった……アキ、アキぃ……誰にも何もされてなくて、よかった」

思いが高まってアキを抱き締めてしまう。すぐにまずいと思って離れようとしたが、アキの方からも抱きついてきて昂った。

《兄貴からハグとか珍しいなぁ。ん? 泣いてんの? 兄貴マジでメンタルやばくね?》

ぽんぽんと背中を叩いてくれている。俺が泣いているからだろうか? 俺の涙の理由も分からないくせに、優しい子だ。

《まさか俺にハグして欲しくてわざわざここまで来たのか? ウケる。俺置いて友達と遊びに行ったくせになんでそんなメンタルボロボロなんだよ。はぁ……もう、ちょっと拗ねてたのにそんな気失くしたじゃねぇか》

「アキ……」

《おぅ、アキだぜ。よしよし……そんなんになるんならもう遊びになんか行くなよ、俺と遊ぼうぜ。俺ならメンタルダメージ与えたりしねぇよ》

「アキぃ……」

天使だ、天使が俺の腕の中に居る。突然消えて心配させて、何もなかったような顔をして現れて、俺に抱き締められて笑うイタズラ好きな天使だ。

「……何があっても俺が絶対に守ってやるからな」

《ったくか弱い兄貴だぜ。弟の俺が守ってやんねぇとか? しっかりしなくていいぜ、俺が居るからな》

互いに微笑み合い、手を繋いで帰路につく。道中、俺は翻訳アプリを使ってアキに提案をした。

「今度から夜中に出かける時は言えよ、俺も一緒に行くから」

《……おっ、一緒に遊ぶ気になったかよ兄貴。もちろんいいぜ》

アキは笑顔でスマホを受け取って返事をしてくれる。返ってきたスマホの画面には「一緒にいよう」の文字があった。

(一緒に居る? 了承してくれたってことでいいんでしょうか)

夜中に出歩くなら補導対策が必要だな、なんて思いながらアキの手と体温の差がなくなってきたことを嬉しく思う。
そんな幸せな時間は街灯の下に佇む二人の高校生らしき人影が俺を指したことで崩れた。

「なぁなぁ、薄紫のシャツで、腕に怪我……アイツじゃね?」
「しかもムカつく通り越すレベルのイケメン……絶対アイツだな」

二人はずんずんと近寄ってくる、俺はすぐにアキの手を離して背に庇った。

「だ、誰だお前ら」

「てめぇがボコったヤツらのオトモダチ、って言えば分かるか?」
「紫の服着たイケメンの腕刺したっつってたんだよ、てめぇだろ」

あの廃ビルに集まっていた不良の仲間か? そういえば連中の本拠地は隣町ではなくこの町だとレイが話していた。だが、だからと言ってこんなに早く──俺が生きたいのは不良漫画じゃなくBLエロ漫画の世界なのに、なんでこんなことに。

「人違い……」

「なワケあるかコラァっ! 一緒に来てもらうぞ」
「後ろのは何だ? コスプレ? 気持ち悪ぃ」

「この子は関係ない! あの場に居なかった」

「にーに、にーに、ともだち?」

クイクイと俺の服の裾を引っ張り、可愛らしく俺の影から顔を出す。まずい、アキには状況が理解出来ていない。

「違う、悪いヤツらだ! 家まで走るぞ!」

「逃がすかよ!」

アキの手を掴み、不良達の横を抜けて走り出したが、走ると分からなかったらしいアキが遅れ、もう片方の手を掴まれてしまった。

「アキ! えっ……?」

その瞬間、アキの手を掴んだ不良が真下から顎を蹴り上げられてよろけた。アキの足がピンと伸びたまま上がって足の裏が真上を向いているのは関係があるのだろうかと混乱する俺の目に、不良の顔に踵落としを決めるアキの姿が映った。

「……はっ?」

赤い瞳は素早くもう一人の不良を捉え、不用心に開いていた足の間を蹴り上げた。つまり金的だ。股間を押さえて丸まる不良の腹と顎を不良が倒れ込むまでにそれぞれ蹴り上げると、アキは俺の手を両手で握った。

《びっくりしたー。日本って治安いいって聞いてたんだけどなぁ。さっさと帰ろうぜ兄貴、腹減った》

「……アキ? 今……何」

「にーに、食べるしたいです」

「…………あっ、あぁ、腹減ってるよな。うん……家に帰ろう」

俺とアキの顔は不良達に知られてしまっただろうか、街灯の下とはいえ暗かったから平気だろうか、顎を蹴られて脳が揺れただろうし──アキ、何者なんだ?
様々な疑問が生まれたが、尋ねてみようとアキを見下ろす度に赤い瞳の上目遣いの可愛さにデレッとしてしまい、全て忘れた。
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