冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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行方知れずの異父兄弟

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マンションの一室、レイの自宅に集まって楽しんでいたらいつの間にか窓の外が赤く染まっていた。真っ赤な夕焼けは美しく、思わず見とれてしまう。

(アキきゅんの目みたいな色の空ですな)

解散することになり、レイは久しぶりに自宅で過ごしてみると言い出した。別れのキスをしてレイの家を後にし、赤色が消えていく空の下駅に向かった。

「この分じゃ家に着く頃には真っ暗ですね」

自宅のある駅に一人で降りた時、帰り道でのシュカの呟きを思い出した。繁華街などの遊び場が多い隣町と違い、この近辺は住宅が多く、街灯が少ない。要するに家までの道が暗いのだ。

(ちょっと怖いんですよなー……レイどのに懐中電灯あげちゃいましたし、自分用また買いますかな)

暗さに怯えていると突然背後からポンっと肩を叩かれた。

「びゃあっ!?」

「きゃあっ!?」

悲鳴を上げると俺の肩を叩いた人物も悲鳴を上げた。

「ご、ごめんね驚かして、水月くん今帰り? 私と唯乃もなの」

「あ、葉子さん……と、マ……母さん」

母と義母だ。母は仕事、義母は何をしているのか知らないが今日は朝から出かけていて、仕事帰りの母と合流して一緒に買い物に行っていたらしい。家まで数百メートルの道のりを俺は押し付けられた荷物を両手にぶら下げて歩いた。

「ふぃー、疲れた……」

「キッチンまでお願いねん」

「息子使いが荒い!」

玄関に荷物を置いていくことは許されず、冷蔵庫の手前まで運ばされた。さっさと着替えを終えた母と入れ替わりで義母が脱衣所に入り、母はキッチンに立つ。

「今日はご馳走よ。水月、テスト頑張ったものね」

「結果はまだ分かりませんが、出来は芳しくありませんでしたぞ……」

「留年にさえ気を付けてればどうでもいいわ。水月が勉強頑張ってたのは知ってるし、ご褒美あげなきゃね。アンタは性欲と食欲が人一倍……いえ、五倍くらいかしら、とにかく強いから、ご褒美はご馳走が一番よね」

「ですな、彼氏出来てから二次元グッズは部屋に飾れませんし。あ、そういえばアキきゅんにお土産買ってきてたんでそ、渡しまそ~」

今日は出迎えに来てくれなかったけれど、俺の部屋には居るだろうと自室に戻る──母に止められた。

「水月、アンタその腕どうしたの?」

「え、ぁ、あぁ……はしゃぎすぎて転びまして、ちょっと。ホントーに微かなかすり傷なんですが、マイスイートハニー達は過剰に心配してくださって、手当が大袈裟なんでそ」

レイの家を出る前に血が滲んだ包帯を新品と取り替えた、どんな傷なのかは分からないはずだ。

「…………本当にコケたの? かすり傷なのね?」

「そうですぞ? 何を疑ってらっしゃるんですか」

「……アンタ、ずっとイジメられてるの隠してたじゃない。全然私に悟らせなかった。演技上手いのよ、アンタ、本当に……本当に上手いの、だからあんまり信用してない」

「息子を信用しないとは酷いお母様ですな! ははは……は…………ゃ、本当に、今回はただコケただけなんでそ。彼氏達のわたくしへのベタ惚れっぷり知ってますよな?」

不良に絡まれてナイフで切り付けられたなんて言えない。真剣な顔の母を茶化すのも難しい。

「イジメの主犯格、家に来たことあったじゃない。友達ヅラして」

「……わたくしの彼氏を疑わないでいただきたい! みんな本当にいい子で、わたくしのこと大好きなんでそ! 手当してくれたんでそ!」

「………………本当に、コケただけ?」

「しつこいでそママ上、そう何度も言って……」

真っ直ぐに見つめられて言葉に詰まる、それどころか息が止まった。

「……なら、いいの。ごめんねしつこくして……何かあったらすぐに言いなさいね、私は絶対アンタの味方だから。アンタがもし誰か殺しちゃったって、証拠隠滅してみせるから」

「…………こ、怖いこと言いますな。警察に突き出して罪を償わせるのが本当の愛情というものでそ。ほほほ……で、では、わたくし……部屋に戻ってアキきゅんをハスハスしてきますゆえ、これにて」

廊下に出て扉を閉めて、深いため息をつく。友人のような親子関係を築いているせいか母のああいう一面は苦手だ。と言うよりは──俺がシリアスな空気が苦手過ぎると言った方が正しいか、母もきっとそうなのだろう。

「はぁ……ハグしてもらいまそ。アキきゅーん、ただいまー……?」

薄暗闇の下で「おかえりです」なんて言いながら俺を見上げる赤い瞳を想像していたが、部屋は真っ暗で静かだった。眠っているのかと思い、スマホでベッドを照らしてみる──居ない。部屋の灯りを点けてみる──誰も居ない。

「ア、アキきゅんっ? アキきゅん!」

トイレを開ける、無人。風呂場へ続く脱衣所の扉を開く、部屋着に着替え中の義母を発見。

「……へっ? きゃああっ!?」

トレーナーを脱いで肌着になっていただけでそんなに叫ばないで欲しい、彼女が叫ぶと俺は──

「何してんのよデバガメ小僧! とうとう女に目覚めたか!」

──母にグーで殴られるのだから。

「違う違う違う違います! アキきゅんが居なくてぇ! ぅうぅ脳天にグーはいけませんぞ痛いでそぉ……」

俺の怪我を心配していた母はどこに行ってしまったんだ。

「アキくんならアンタの部屋に居るでしょ」

「居ないんです!」

「あぁそう、じゃあトイレじゃない?」

「居ませんでした!」

「あら……どこ行ったのかしら。っていうか、扉叩かず開けてアキくん居たらどう言い訳する気だったのよ……」

確かに、俺はどう言い訳する気だったのだろう。

「葉子ぉ、アキくん居ないらしいんだけど、あの子どこか行くとか言ってた?」

「聞いてないけど……あの子たまに夜中どっか行くのよ」

「行くのよ、じゃありませんよ! 夜中に出歩くなんてとんでもない、ちゃんと注意しないと!」

「昼間出歩けなくて可哀想とか言って旦那、ぁ、元旦那が夜中に連れ回したのが悪いのよぉ! 癖ついちゃってるの! 私何回か怒ったもん! 聞かないんだから仕方ないじゃない!」

つい大声を出してしまうと倍以上の声量と文章量で返された。

「水月……葉子はポンコツなのよ。そこが可愛いんだけどね。アキくんにも今日はご馳走って言ってるから夕飯までには帰ってくるんじゃない?」

俺の頭の中では今日の昼間、リュウが居なくなった時のことが思い出されていた。見つけた時に怪我をしていた姿も脳裏に浮かび、それがアキに置き換わる。

「楽観的過ぎます! 誘拐でもされてたらえらいことです、私探しに行きますから!」

「えっ、ちょっと水月!」

いても立ってもいられなくなった俺はスマホだけを持って家を飛び出した。
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