292 / 2,046
行方知れずの異父兄弟
しおりを挟む
マンションの一室、レイの自宅に集まって楽しんでいたらいつの間にか窓の外が赤く染まっていた。真っ赤な夕焼けは美しく、思わず見とれてしまう。
(アキきゅんの目みたいな色の空ですな)
解散することになり、レイは久しぶりに自宅で過ごしてみると言い出した。別れのキスをしてレイの家を後にし、赤色が消えていく空の下駅に向かった。
「この分じゃ家に着く頃には真っ暗ですね」
自宅のある駅に一人で降りた時、帰り道でのシュカの呟きを思い出した。繁華街などの遊び場が多い隣町と違い、この近辺は住宅が多く、街灯が少ない。要するに家までの道が暗いのだ。
(ちょっと怖いんですよなー……レイどのに懐中電灯あげちゃいましたし、自分用また買いますかな)
暗さに怯えていると突然背後からポンっと肩を叩かれた。
「びゃあっ!?」
「きゃあっ!?」
悲鳴を上げると俺の肩を叩いた人物も悲鳴を上げた。
「ご、ごめんね驚かして、水月くん今帰り? 私と唯乃もなの」
「あ、葉子さん……と、マ……母さん」
母と義母だ。母は仕事、義母は何をしているのか知らないが今日は朝から出かけていて、仕事帰りの母と合流して一緒に買い物に行っていたらしい。家まで数百メートルの道のりを俺は押し付けられた荷物を両手にぶら下げて歩いた。
「ふぃー、疲れた……」
「キッチンまでお願いねん」
「息子使いが荒い!」
玄関に荷物を置いていくことは許されず、冷蔵庫の手前まで運ばされた。さっさと着替えを終えた母と入れ替わりで義母が脱衣所に入り、母はキッチンに立つ。
「今日はご馳走よ。水月、テスト頑張ったものね」
「結果はまだ分かりませんが、出来は芳しくありませんでしたぞ……」
「留年にさえ気を付けてればどうでもいいわ。水月が勉強頑張ってたのは知ってるし、ご褒美あげなきゃね。アンタは性欲と食欲が人一倍……いえ、五倍くらいかしら、とにかく強いから、ご褒美はご馳走が一番よね」
「ですな、彼氏出来てから二次元グッズは部屋に飾れませんし。あ、そういえばアキきゅんにお土産買ってきてたんでそ、渡しまそ~」
今日は出迎えに来てくれなかったけれど、俺の部屋には居るだろうと自室に戻る──母に止められた。
「水月、アンタその腕どうしたの?」
「え、ぁ、あぁ……はしゃぎすぎて転びまして、ちょっと。ホントーに微かなかすり傷なんですが、マイスイートハニー達は過剰に心配してくださって、手当が大袈裟なんでそ」
レイの家を出る前に血が滲んだ包帯を新品と取り替えた、どんな傷なのかは分からないはずだ。
「…………本当にコケたの? かすり傷なのね?」
「そうですぞ? 何を疑ってらっしゃるんですか」
「……アンタ、ずっとイジメられてるの隠してたじゃない。全然私に悟らせなかった。演技上手いのよ、アンタ、本当に……本当に上手いの、だからあんまり信用してない」
「息子を信用しないとは酷いお母様ですな! ははは……は…………ゃ、本当に、今回はただコケただけなんでそ。彼氏達のわたくしへのベタ惚れっぷり知ってますよな?」
不良に絡まれてナイフで切り付けられたなんて言えない。真剣な顔の母を茶化すのも難しい。
「イジメの主犯格、家に来たことあったじゃない。友達ヅラして」
「……わたくしの彼氏を疑わないでいただきたい! みんな本当にいい子で、わたくしのこと大好きなんでそ! 手当してくれたんでそ!」
「………………本当に、コケただけ?」
「しつこいでそママ上、そう何度も言って……」
真っ直ぐに見つめられて言葉に詰まる、それどころか息が止まった。
「……なら、いいの。ごめんねしつこくして……何かあったらすぐに言いなさいね、私は絶対アンタの味方だから。アンタがもし誰か殺しちゃったって、証拠隠滅してみせるから」
「…………こ、怖いこと言いますな。警察に突き出して罪を償わせるのが本当の愛情というものでそ。ほほほ……で、では、わたくし……部屋に戻ってアキきゅんをハスハスしてきますゆえ、これにて」
廊下に出て扉を閉めて、深いため息をつく。友人のような親子関係を築いているせいか母のああいう一面は苦手だ。と言うよりは──俺がシリアスな空気が苦手過ぎると言った方が正しいか、母もきっとそうなのだろう。
「はぁ……ハグしてもらいまそ。アキきゅーん、ただいまー……?」
薄暗闇の下で「おかえりです」なんて言いながら俺を見上げる赤い瞳を想像していたが、部屋は真っ暗で静かだった。眠っているのかと思い、スマホでベッドを照らしてみる──居ない。部屋の灯りを点けてみる──誰も居ない。
「ア、アキきゅんっ? アキきゅん!」
トイレを開ける、無人。風呂場へ続く脱衣所の扉を開く、部屋着に着替え中の義母を発見。
「……へっ? きゃああっ!?」
トレーナーを脱いで肌着になっていただけでそんなに叫ばないで欲しい、彼女が叫ぶと俺は──
「何してんのよデバガメ小僧! とうとう女に目覚めたか!」
──母にグーで殴られるのだから。
「違う違う違う違います! アキきゅんが居なくてぇ! ぅうぅ脳天にグーはいけませんぞ痛いでそぉ……」
俺の怪我を心配していた母はどこに行ってしまったんだ。
「アキくんならアンタの部屋に居るでしょ」
「居ないんです!」
「あぁそう、じゃあトイレじゃない?」
「居ませんでした!」
「あら……どこ行ったのかしら。っていうか、扉叩かず開けてアキくん居たらどう言い訳する気だったのよ……」
確かに、俺はどう言い訳する気だったのだろう。
「葉子ぉ、アキくん居ないらしいんだけど、あの子どこか行くとか言ってた?」
「聞いてないけど……あの子たまに夜中どっか行くのよ」
「行くのよ、じゃありませんよ! 夜中に出歩くなんてとんでもない、ちゃんと注意しないと!」
「昼間出歩けなくて可哀想とか言って旦那、ぁ、元旦那が夜中に連れ回したのが悪いのよぉ! 癖ついちゃってるの! 私何回か怒ったもん! 聞かないんだから仕方ないじゃない!」
つい大声を出してしまうと倍以上の声量と文章量で返された。
「水月……葉子はポンコツなのよ。そこが可愛いんだけどね。アキくんにも今日はご馳走って言ってるから夕飯までには帰ってくるんじゃない?」
俺の頭の中では今日の昼間、リュウが居なくなった時のことが思い出されていた。見つけた時に怪我をしていた姿も脳裏に浮かび、それがアキに置き換わる。
「楽観的過ぎます! 誘拐でもされてたらえらいことです、私探しに行きますから!」
「えっ、ちょっと水月!」
いても立ってもいられなくなった俺はスマホだけを持って家を飛び出した。
(アキきゅんの目みたいな色の空ですな)
解散することになり、レイは久しぶりに自宅で過ごしてみると言い出した。別れのキスをしてレイの家を後にし、赤色が消えていく空の下駅に向かった。
「この分じゃ家に着く頃には真っ暗ですね」
自宅のある駅に一人で降りた時、帰り道でのシュカの呟きを思い出した。繁華街などの遊び場が多い隣町と違い、この近辺は住宅が多く、街灯が少ない。要するに家までの道が暗いのだ。
(ちょっと怖いんですよなー……レイどのに懐中電灯あげちゃいましたし、自分用また買いますかな)
暗さに怯えていると突然背後からポンっと肩を叩かれた。
「びゃあっ!?」
「きゃあっ!?」
悲鳴を上げると俺の肩を叩いた人物も悲鳴を上げた。
「ご、ごめんね驚かして、水月くん今帰り? 私と唯乃もなの」
「あ、葉子さん……と、マ……母さん」
母と義母だ。母は仕事、義母は何をしているのか知らないが今日は朝から出かけていて、仕事帰りの母と合流して一緒に買い物に行っていたらしい。家まで数百メートルの道のりを俺は押し付けられた荷物を両手にぶら下げて歩いた。
「ふぃー、疲れた……」
「キッチンまでお願いねん」
「息子使いが荒い!」
玄関に荷物を置いていくことは許されず、冷蔵庫の手前まで運ばされた。さっさと着替えを終えた母と入れ替わりで義母が脱衣所に入り、母はキッチンに立つ。
「今日はご馳走よ。水月、テスト頑張ったものね」
「結果はまだ分かりませんが、出来は芳しくありませんでしたぞ……」
「留年にさえ気を付けてればどうでもいいわ。水月が勉強頑張ってたのは知ってるし、ご褒美あげなきゃね。アンタは性欲と食欲が人一倍……いえ、五倍くらいかしら、とにかく強いから、ご褒美はご馳走が一番よね」
「ですな、彼氏出来てから二次元グッズは部屋に飾れませんし。あ、そういえばアキきゅんにお土産買ってきてたんでそ、渡しまそ~」
今日は出迎えに来てくれなかったけれど、俺の部屋には居るだろうと自室に戻る──母に止められた。
「水月、アンタその腕どうしたの?」
「え、ぁ、あぁ……はしゃぎすぎて転びまして、ちょっと。ホントーに微かなかすり傷なんですが、マイスイートハニー達は過剰に心配してくださって、手当が大袈裟なんでそ」
レイの家を出る前に血が滲んだ包帯を新品と取り替えた、どんな傷なのかは分からないはずだ。
「…………本当にコケたの? かすり傷なのね?」
「そうですぞ? 何を疑ってらっしゃるんですか」
「……アンタ、ずっとイジメられてるの隠してたじゃない。全然私に悟らせなかった。演技上手いのよ、アンタ、本当に……本当に上手いの、だからあんまり信用してない」
「息子を信用しないとは酷いお母様ですな! ははは……は…………ゃ、本当に、今回はただコケただけなんでそ。彼氏達のわたくしへのベタ惚れっぷり知ってますよな?」
不良に絡まれてナイフで切り付けられたなんて言えない。真剣な顔の母を茶化すのも難しい。
「イジメの主犯格、家に来たことあったじゃない。友達ヅラして」
「……わたくしの彼氏を疑わないでいただきたい! みんな本当にいい子で、わたくしのこと大好きなんでそ! 手当してくれたんでそ!」
「………………本当に、コケただけ?」
「しつこいでそママ上、そう何度も言って……」
真っ直ぐに見つめられて言葉に詰まる、それどころか息が止まった。
「……なら、いいの。ごめんねしつこくして……何かあったらすぐに言いなさいね、私は絶対アンタの味方だから。アンタがもし誰か殺しちゃったって、証拠隠滅してみせるから」
「…………こ、怖いこと言いますな。警察に突き出して罪を償わせるのが本当の愛情というものでそ。ほほほ……で、では、わたくし……部屋に戻ってアキきゅんをハスハスしてきますゆえ、これにて」
廊下に出て扉を閉めて、深いため息をつく。友人のような親子関係を築いているせいか母のああいう一面は苦手だ。と言うよりは──俺がシリアスな空気が苦手過ぎると言った方が正しいか、母もきっとそうなのだろう。
「はぁ……ハグしてもらいまそ。アキきゅーん、ただいまー……?」
薄暗闇の下で「おかえりです」なんて言いながら俺を見上げる赤い瞳を想像していたが、部屋は真っ暗で静かだった。眠っているのかと思い、スマホでベッドを照らしてみる──居ない。部屋の灯りを点けてみる──誰も居ない。
「ア、アキきゅんっ? アキきゅん!」
トイレを開ける、無人。風呂場へ続く脱衣所の扉を開く、部屋着に着替え中の義母を発見。
「……へっ? きゃああっ!?」
トレーナーを脱いで肌着になっていただけでそんなに叫ばないで欲しい、彼女が叫ぶと俺は──
「何してんのよデバガメ小僧! とうとう女に目覚めたか!」
──母にグーで殴られるのだから。
「違う違う違う違います! アキきゅんが居なくてぇ! ぅうぅ脳天にグーはいけませんぞ痛いでそぉ……」
俺の怪我を心配していた母はどこに行ってしまったんだ。
「アキくんならアンタの部屋に居るでしょ」
「居ないんです!」
「あぁそう、じゃあトイレじゃない?」
「居ませんでした!」
「あら……どこ行ったのかしら。っていうか、扉叩かず開けてアキくん居たらどう言い訳する気だったのよ……」
確かに、俺はどう言い訳する気だったのだろう。
「葉子ぉ、アキくん居ないらしいんだけど、あの子どこか行くとか言ってた?」
「聞いてないけど……あの子たまに夜中どっか行くのよ」
「行くのよ、じゃありませんよ! 夜中に出歩くなんてとんでもない、ちゃんと注意しないと!」
「昼間出歩けなくて可哀想とか言って旦那、ぁ、元旦那が夜中に連れ回したのが悪いのよぉ! 癖ついちゃってるの! 私何回か怒ったもん! 聞かないんだから仕方ないじゃない!」
つい大声を出してしまうと倍以上の声量と文章量で返された。
「水月……葉子はポンコツなのよ。そこが可愛いんだけどね。アキくんにも今日はご馳走って言ってるから夕飯までには帰ってくるんじゃない?」
俺の頭の中では今日の昼間、リュウが居なくなった時のことが思い出されていた。見つけた時に怪我をしていた姿も脳裏に浮かび、それがアキに置き換わる。
「楽観的過ぎます! 誘拐でもされてたらえらいことです、私探しに行きますから!」
「えっ、ちょっと水月!」
いても立ってもいられなくなった俺はスマホだけを持って家を飛び出した。
10
お気に入りに追加
1,239
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる