冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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打ち上げどうする?

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廃ビルを後にした俺達は薬局に寄り、俺やリュウの手当てをするための物などを買った。手当てと言っても消毒してガーゼを貼り付けただけだ。

「冷ヤスノンも買っておいたけど、殴られたとことって冷やした方がいいのかな……とりあえず渡しておくから、いらなそうだったらやめとけ」

「おおきに。ひんやりして気持ちぃわ。至れり尽くせりやのぉ」

頬に白いガーゼを貼り付けた痛々しい姿で微笑むリュウをいじらしく思い、深いため息をついて彼を抱き締める。

「水月ぃ……? どうしたん」

「……お前がどっか行ったって聞いた時、心臓止まりそうだった。二度と、いいか、二度と、一人で危ない真似すんなよ」

「そないに心配してくれたん? へへ……なんや照れるわ。今めっちゃ嬉しいで俺」

殴られていない方の頬にキスをし、膝から下ろして立ち上がる。腹を蹴られたと話していたが、先程確認したところアザにもなっていなかったのでリュウは軽傷と言えるだろう。

「他に怪我したヤツ居ないか? 特にシュカ。最初の鉄パイプのヤツとか本当に防ぎ切れてたのか気になってるんだけど」

「あなたに怪我の心配されたくないですね」

シュカの切れ長の瞳は包帯を巻いた俺の左腕を見つめている。

「拳剥けてたりしないか?」

「はぁ……水月、誰を心配しているんですか。この私がそんな間抜けな怪我するものですか」

手を払われてしまった。俺の心配はシュカには不愉快だったのだろうか? そんな不安はそっぽを向いた彼の頬が赤く染まっていったことで払拭された。

「先輩は大丈夫ですか?」

「俺はほとんど何もしてない、何ともないよ」

「カンナはカツアゲされた時に殴られたりしなかったか?」

「ぅ、ん……ごめ、なさ…………ぼく、が……ぶつかん、なか……たら、こん、な……」

「カンナは悪くないって。カツアゲしてくるようなヤツが全部悪いんだ、な? リュウも無事だったし、レイの元カレからも隠れられた、全部何とかなっただろ?」

「でも……でもぉ、みーくん……けが、しちゃ……たっ」

ずっと泣いていたカンナの頬はベタベタしている。このまま放置しては肌が荒れてしまいそうなので、ウェットティッシュで軽く拭ってやった。

「俺の怪我なんて気にしなくていいんだよ。目もほっぺも擦るな、俺が拭いてやるから」

「てん、くん……ひどい目、あったし」

「そうでもないで」

「そ、でも……あるもんっ……!」

「ないて。気にしぃなや」

俯いたカンナの頭をそっと撫でる。自分の責任だと思い込んでいるところに怪我をした俺達があまり慰めるのもよくないかもしれない。このくらいでやめておこう。

「じゃあ……カラオケ行くか」

「え、行くの?」

「えっ、行かないのか?」

「いやだって……なんか、ねぇ? そんなに時間は経ってないけど、すっごい濃い時間だったしー……なんか、行く気なくしたかも?」

気持ちは分からないでもないが、まだ真昼間だ。心身共に疲れたからと解散するのは味気ない。

「でも先輩とかは今日わざわざ休み作ってくれた訳だし」

「んー……ナナさん土日とか休みじゃない?」

「土曜はあるが、日曜は本屋自体が休みだ」

「じゃあカラオケは次の日曜にしない? 今日はもうまったり過ごそうよ。みんなカラオケ行きたい? 行く体力ある?」

誰もハルに意見する者は居ない。不良の巣窟に忍び込んだ緊張感、ロッカーの中に閉じ込められたリュウを助け出すという非日常、何よりレイの元カレと相対した際の異常な圧迫感、それらは俺達全員の心身を疲弊させていた。

「ではとりあえずそこのファミレスに入りましょう、お腹が空きました」

「そろそろ昼飯の時間だもんな、行こうか」

カンナとレイの腰に腕を回して歩く。両手に花の快感は何度味わってもいいものだ。

「レイ、歩きスマホは危ないぞ」

「くーちゃんの写真全部消してやるんす。嫌いっす、もうホント、大嫌い、二度と顔見たくないっす」

声と指は震えている。スマホにはきっと珍しいのだろうツーショットの写真があった。元カレは無表情でレイは満面の笑み、そんな写真を見つめてレイはポロポロと涙を溢れさせていた。悔しいが、未練があるとしか思えない。

「ちょっとくらい残しててもいいんじゃないか? 幸せな頃もあったんだろ? 時間が経てばいい思い出になるかもしれないし、消したら後悔するかもしれないぞ」

「……せんぱいは、俺のスマホにくーちゃんの写真あんの平気なんすか?」

「正直に言うと平気じゃない。嫉妬するよ。でも、アイツと付き合ってた経験も含めて今のレイがあるんだ。全否定はしたくない」

「消さなくて、いいんすか? くーちゃんの写真……たまに見ていいっすか?」

「いいよ」

付き合っていた過去ごと消して欲しい。レイの処女が欲しい。そんな欲望、ハーレムを作っている俺が言ってはいけないと思う。

「みっつーん! よさげな店あったよ~!」

先を歩いていたハルとシュカがファミレスを見つけたようだ。

「ほら、もう泣くな。可愛い目が萎んじゃうぞ?」

「泣いたくらいで萎まないっすよ……別に可愛くもないっすし、俺の目があんまり印象よくないの知ってるっす」

死んだ魚のような光のない目は大きく、ぎょろっとしている。その上、意識して目を逸らす以外は大抵俺のことを注視している。

「金魚草みたいで可愛いよ」

「感覚が鬼神だな。木芽は目を見開きすぎだと思うぞ」

「先輩は余計なこと言わないでください、目ぇかっぴらいてるのがレイの可愛いとこなんですから」

「……そんな開いてる気ないんすけどね」

レイはファミレスに入って席に座った後しばらく、スマホの内カメラを起動して自分と見つめ合っていた。
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