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博多の修羅

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現状の説明はカンナがグループチャットに流していた、駅前に集った俺の彼氏は全員事態の深刻さを分かっている。

「別の店にしてればよかった……りゅー、大丈夫かなぁ」

「ぼく……ぼくの、せいで……てんくん……てんくん、ごめ、なさ……」

隣町に行こうと決めたハルと不良に絡まれて原因を作ったカンナは自分を責めている。

「血が騒ぎます、任せてください」

「俺も頑張るぞ水月、柔道の成績はよかったんだ」

シュカと歌見はリュウがさらわれたであろうビルに突入する気満々だ。

「一人で来いとか言われてるんだけど、大丈夫かな。目的のヤツじゃないって分かった途端にリュウが……とか、ないよな?」

「下っ端のフリをしておけば天正さんの安全は確保出来ると思いますよ。下っ端を行かせる時点でナメてはいますが人質を取り返したい気持ちはあると解釈するでしょうから、人質を取ったまま私達を潰して人質を増やしつつ、ボスを引っ張り出そうとするはずです」

「……流石だな。シュカが居てよかったよ。レイ、ビルの場所教えてくれるよな?」

「それとも、場所を吐くまで私に殴られますか?」

レイは深いため息をついた後、案内すると言ってフードを目深に被った。

「場所だけ教えてください。あなたと時雨さん、霞染さん、あと水月も……全員足でまといです」

「くーちゃんのこと知ってるのは俺だけっすよ、下っ端のフリするのに要ると思うっす」

「……では、歌見、あなたは彼を守ってください。水月、あなたはここでその二人をお願いします」

俺も行く! という声がハルと重なる。

「足でまといだっつってんだろトーシロが! 水月! てめぇがナイフ突きつけられでもしてみろ、俺は動けねぇからな、人質増えるだけだっつってんだろ、あぁ!?」

シュカにとって俺が大切な存在なのだと実感出来る言葉だが、感動は後だ。

「俺の方が背が高いし腕も足も太い!」

「だから何だ!」

「早く行かなきゃりゅー死んじゃう! 行こうよぉ! 俺そんなヘマしないからぁ! 俺もりゅー心配だもん、待ってるなんて無理!」

言い争う俺とシュカの間にハルが割って入った。

「……一昔前の洋画でよく見かける変なやる気出して敵に捕まる無能系ヒロイン」

「捕まんないってば! なんてこと言うのみっつん、みっつんも着いてくんなって言われてんだからね!? 俺らは結託しよ!?」

「時間がないのは事実ですからね……歌見、殿しんがりは頼みましたよ」

「あ、あぁ……俺、一応歳上だぞ?」

何故か一人だけ呼び捨てにされている歌見は困惑しつつも最後尾に続いた。体格だけで彼を信用するのなら、俺も信用して欲しいものだ。

「……ここっす」

昼間は眠っているように静かな繁華街を通り抜け、寂れた廃ビルの前にやってきた。中に人が居るとは思えない。

「下から見た感じ、上から見張ってたりはしませんね。入りましょう」

「こ、この中不良が山ほど居るんだよね~……?」

「待っててもいいんですよ」

「やだ!」

「中に入ったら静かにしてくださいね。扉をくぐる時は必ず私が先頭です、私がいいと言ったら入ってきてください」

シュカはそう言うと俺の鞄を奪い取って左手で持ち、鞄で頭を庇うようにしたまま廃ビルの壊れた扉を抜けた──

「死っ……ねぇ!」

──瞬間、棒のような物がシュカの頭を、いや、俺の鞄を叩いた。どうやら入口の影に隠れていた男が殴りかかってきたらしい。それを読んでいたシュカは俺の鞄を使って攻撃を受け流し、素早いカウンターで男を殴り倒した。

「はっ、雑魚が」

一撃で伸びた男を蔑み、シュカは俺に鞄を返した。

「他に居ないのは意外ですね、入口で叩こうとは思っていない……? とりあえず上に行ってみましょうか」

シュカが殴り倒した男は学生服を着ている、俺達と歳が近いのだろう。俺や彼氏達はのんびりと楽しく過ごしているのに、どうして彼らは人を攫って廃ビルに連れ込むような日常を送っているのだろう。

「……やっぱり縄張り狙ってるヤツっすよ、この制服知ってるっす」

「どうでもいいですよ」

「制服着てこなくてよかったっすね、学校バレたらやばかったっすよ」

「それはそうですね……ここで静かに待っていてください」

突然シュカが走り出し、階段を駆け上がる。踊り場で窓の方を向いて喫煙中の男を背後から殴った。喚きながら振り返る男の肩に手を添えて窓の柵にバンと押し付け、腹に膝蹴りを食らわせた。

「来るな!」

シュカを追いかけていた俺に向かってシュカはそう叫び、階段の更に上に居た男に飛びかかる。相手の蹴りを避けて頬を殴り、素早く横を抜けて背後に回り、蹴り落とした。

「……ここにはもう居ねぇな。いいですよ、上がってきてください」

「シュカ、すごいな! 怪我はないか?」

腹を押さえて蹲っている男と階段を転げ落ちてぐったりしている男の横をすり抜け、シュカが手首を痛めたりしていないか確認しようとしたらビンタをくらった。

「ちょっ、しゅー! それみっつん!」

「てめぇ俺の言うこと聞かなかっただろ! 待ってろっつったよな、いいっつぅまで来んなってよぉ! 頭沸いてんのかくらすぞゴラァ」

胸ぐらを掴まれて凄まれて怯えたものの、シュカの怒りの根源は俺を危険に晒したくない気持ちなのだと感じ取れた。

「ご、ごめん……シュカが心配で、つい」

「人を心配出来る立場かてめぇは。ったく……次勝手な真似をしたら私があなたを殴りますからね」

「もう殴ったじゃん……」

何とか許してもらえた。シュカは不機嫌なまま階段を上っていく。

「……人の声がしますね。誰か居ます、勝手な行動は控えてくださいよ」

三階に上がるとシュカがそう呟き、再び俺達に睨みを効かせた。
割れたガラスが散乱した廊下を抜けると話し声は大部屋から漏れているのだと分かった、シュカは俺達に部屋に入らず待つように言い、中途半端に開いていた扉を蹴り壊した。

「ぁ? 何、増援?」

部屋に居た男達がこちらを向く、彼の制服は入口でシュカが倒した男のものとは微妙に違い、入口で倒した男と同じ制服を着た男達は床に転がっている。

「……どういう状況ですか?」

「見てのとーりお仲間は全員ヤっちゃったよ、得物持ってくるとか言って出てったヤツ居るらしいんだけど、それお前? 手ぶらっぽいけど」

違う制服の男は三人のようだ、状況がよく分からない。仲間割れか? 別のグループか?

「んなのどーでもいいっての。レイちゃんどこに隠したんだよ」

「……レイ?」

「とぼけんなよ! 中坊共が連絡くれたんだよ、お前らが金髪このビルに連れ込んだってな」
「ちょっと前からレイちゃん行方不明なんだよ、ずーっと探さされてたんだぜ俺ら」
「とっととレイちゃん返せよ、毎日機嫌取るの大変なんだからよ!」

レイは三人組の顔を見てからフードを強く引っ張って顔を完全に隠し、身を縮めて歌見の影に隠れようとしている。関係者であることは明白だ。
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