冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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テスト三日目には打ち上げに

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何とかしろ、でも方法は分からない、とにかく何とかしろ、早急にだ。
嫌な上司のようなセリフを吐くのは俺の心、俺を疲れさせるのはテストでも新しい家族でもなく、俺の心だ。

「ただいまー……」

「おかえり、です。にーに」

たた、と小走りでアキが玄関まで迎えに来てくれた。部屋から出てくるとは思っていなかったから表情を作っていなかった、慌ててキリッと美形っぽい表情を作って返事をしようとしたその時、昨日のリュウの言葉を思い出した。

(外国人はよくハグをするってホントなんだな……みたいなこと言ってましたよな)

アキはリュウとの別れ際にハグをしていた。俺を兄と認めてくれているなら、リュウに特別懐いて抱きついた訳じゃないなら、本当にハグ文化がアキの癖になっているのなら、今してくれるんじゃないか?

「ア、アキ……」

気味悪がられる覚悟もして恐る恐る腕を広げる。吐きそうな緊張感を一蹴するように、アキはすぐに抱きついてきた。

《んだよ兄貴ぃ、ハグいいんじゃん! 俺に慣れてきた? アンタの弟だぜ、もっとスキンシップさせてくれよな、寂しいじゃねぇかよ》

アキがはしゃいでいるような、喜んでいるような……気のせいだろうか。俺の都合のいい思い込みでないのなら、とても嬉しいのだが。

《この国には親父も知り合いも居ねぇんだ、おふくろはユノが離してくれねぇし、ホントに寂しいんだよ。期待できんのは兄貴だけなんだ、テスト終わったでいいから俺と遊んでくれよ。もっとハグさせてくれよ。な? 兄貴》

俺の腕の中で長々と話し、ハグをやめたかと思えば俺の手を握ってにっこりと笑った。

「へや、行くです?」

「あぁ」

手を繋いだまま部屋に入り、クッションに腰を下ろしたアキの隣に座ってスマホを持つ。

「……アキ、出前何にするか決めようか」

勉強は昼食の後でもいいだろう。今はアキと仲を深めよう。



アキとのコミュニケーションをたっぷり取ったことはいい息抜きになったようで、昼食後の勉強は昨日までより捗った。
そしてテスト三日目──最終日がやってくる。朝食はカツカレーだった。

「にーに、いってらっしゃいです」

「……あぁ、行ってきます」

玄関でアキのお祈りを受け、いざ学校へ。今日のテストは総合英語と数学1の二つだけ、普段よりも早く終わる──

「総合英語なんも分からんかったけど、数1はもう全部解けたわ。満点や」

──終わった。今日も下駄箱に溜まって各々テストの出来を話し合う。

「数学は死んだけど、英語は俺ワンチャン満点あるかも~。しぐとしゅーは?」

リュウとハルは得意教科が対照的だな。俺は英語も数学も苦手だ、赤点を取った気がする。

「はち、わり……は、たぶん、いけた」

「……半分は取れたと思います」

「二人とも全教科それ言ってない? しゅーってもしかして見た目ほど頭よくないの? メガネなのに」

シュカは全教科八十点以上を当然のように取りそうな見た目だが、もしかしたらそれほどでもないのかもしれないとは勉強会の時から薄々思っていた。

「元ヤンが頭ええわけあれへんやん」

その発想はあったが──

「てめぇの脳みそすすって数学得意になってやろうか!」

──口に出せば怒らせるのは目に見えていたから黙っていた。

「どういうことやねん怖いわ!」

「まぁまぁ……半分取れたってのは謙遜かもしれないし。本当は九十くらい取れてるかもしれないぞ、なぁシュカ」

「…………はい」

謙遜、一切していないんだろうな。今の反応で分かった。

「はい、もうテストの話終わり~! 打ち上げ行くよ打ち上げ! カラオケ行くよ~!」

「では前に決めた通り、一旦家に帰って着替えてから集合ということで」

「学生証忘れないでね、学割つくから。お昼はカラオケで食べるとして~、集合場所どうする? もうカラオケにしちゃう? 駅前とかがいい?」

「カラオケということになりませんでしたか?」

グループチャットにカラオケの位置情報が送られているため、マップアプリを使えば迷う心配はない。

「そうなんだけど~、迷わない? 隣町って結構ごちゃごちゃしてるからさ~……俺は何回も行ってるから平気だけど~」

「私も多分平気ですよ」

「……俺はしぐと行くわ。水月どないする?」

「ん、じゃあそっちに先に合流しようかな」

カンナが自信なさげにもじもじしていたのに一番に気付けなかった。こんな調子じゃ彼氏失格だ。

「このめんとナナさんも今日は予定合わせてくれてるから~、すぐ来るってさ~。この人数なら絶対大部屋通されるって~、楽しみ~」

「アキくんは来ぉへんの?」

「誰ですか?」

「水月の弟さん」

「歌どころか日本語も知らないのに連れてかれても楽しくないだろ。昼間はあんまり外に出ない方がいいみたいだしな」

アキを連れて行ったら彼氏達と友人として振る舞わなければならない。カラオケでたっぷりイチャつきたいのが一番の理由だが、口には出さなかった。

「まぁじゃあそんな感じで。かいさ~ん」

「……解散なのは霞染さんだけですけどね」

裏門へ向かうハルに手を振り、四人で正門を抜ける。

「せんぱい! お疲れ様っす」

「あ、レイ……! なんか久しぶりだなぁ、ちょっと痩せたか?」

門の脇にフードを目深に被った黒パーカーの少年、数日ぶりの光景に胸が温まる。しかし、フードの下の顔がやつれているように見えて胸が冷える。

「お仕事一段落したっすよ。痩せ……あぁ、そういえば食べるの何回か忘れたっすね」

「おいおい……飯食ったか確認の電話入れてやろうか?」

「へへへ、それいいっすね」

「冗談じゃないぞ。ったく……」

久しぶりに五人で電車に乗り、日常が戻ってきたような気がした。レイと共に自宅へ帰ると今日もアキが玄関まで出迎えに来てくれた。ぎこちないハグを済ませ、レイを紹介して自室に入った。

「真っ白……すごいっすねー、ガチビノ生で初めて見たっす。資料になるかも……」

《ピンク……めっちゃピンク》

着替えのために一旦部屋に出て戻ると二人は互いを興味深そうに眺めていた。先住猫に新しく迎え入れた仔猫を見せたような、そんな雰囲気がある。可愛い。

《アンタも俺のマブダチになってくれる感じ?》

「ロシア語っすね。ロシアキャラって結構人気出るんすよ、やっぱ資料によさげっす。取材とデッサンさせて欲しいっす」

「また今度な。アキ、俺今から友達と遊んでくるよ。夜には多分戻るからな」

翻訳アプリを開いたスマホを渡すとアキは一瞬眉をひそめた。

《コイツとここで遊ぶんじゃないのかよ。今日ユノもおふくろも居ねぇんだぞ、寂しいじゃん》

「アキ? 何か言いたいならアプリ使ってくれ、分かんないよ」

《誘ってくんねぇんだな。そりゃそっか、よく知らねぇし何言ってるかも分かんねぇ弟なんか邪魔なだけだもんな。クソが。寂しい。クソ、置いてくなよちくしょう、クソ》

「アキ……?」

散々何かを言った後でアキは俺が差し出したスマホを受け取り、呟き、返した。スマホには「どうぞ楽しんできてください」と表示されている。

「あぁ、楽しんでくるよ。なんかお土産買ってくるからな、いい子で待ってろよ」

「にーに、いってらっしゃいです」

アキも四六時中俺と一緒で辟易しているだろう。一人の時間を満喫してくれるはずだ。帰ってきたらもっと仲良くなれると信じ、俺はレイと手を繋いで家を出た。

「блядь……」

アキへのお土産は何にしようか。
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