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テスト二日目にしてお疲れ
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テスト二日目の朝、アキは俺の見送りに来て十字をかいてくれた。昨日リュウにしていなかったからもうしないのかと思っていたが、今朝はあった。
(朝限定とか? それとも家族限定なんでしょうか? 家族……アキきゅんはわたくしを家族と認めてくれているのでしょうか。不安でそ。でもきっとアキきゅんはわたくし以上に不安なのでそ、わたくしが海より深い心で受け止めなくてはいけないのでそ)
いつも通りに駅に着き、いつも通りにリュウに出会う。いつも通りにカンナと合流し、シュカとも合流する。
そして『いつも』を試すテストが始まる。
休憩時間もめいっぱい使って復習に励んだが、それでも半分も解けた気がしなかった。平均点どころか赤点を心配しなければいけない。
「はぁ……」
「みっつーん、落ち込んでるねー。テスト上手くいかなかった感じ?」
三つのテストが終わり、教室で集めた課題を職員室まで運び終えた。下駄箱の辺りで待っているだろう彼氏達の元へ行くまでに表情と態度を整えなければと思いつつもため息をついていると、いつの間にかハルに近寄られていた。
「ハル……! いや、別に落ち込んでなんて……なんでここに?」
「みっつん居るかなーって。ほら、俺通学路一緒じゃないし、こういうタイミングは逃したくないんだよねー。みっつんのレア顔も見れたしね。テストで疲れちゃった? でも明日は最終日、泣いても笑ってもカラオケ行ってもらうよ! ちょっと歌えばすぐ元気になるって」
「そんな単純じゃねぇんだよ…………ぁ、ちがっ、違うぞ? カラオケ行きたくないとかそういうのじゃないからな? いやー、明日が楽しみだなー……ははは」
超絶美形なのだから秀才でなければと自分に言い聞かせ、母は誰しもが過剰と認めるスペックの持ち主なのだからと自分を追い詰め、平均点以上を取れなかったら歌見を筆頭として彼氏達に嫌われるかもしれないと身勝手に怯えている。そんな精神的負荷から失言をしてしまったが、自分に対する言い訳でも「ストレスが……」なんて使いたくない。
「……おいで、みっつん」
勝手にストレスを溜め込んで勝手に限界に近付いたどこまでも勝手な俺に対し、ハルは両手を広げてくれた。昨日アキがリュウを誘った際とは込められた気持ちの重みが違うように感じた。
「またなんか一人で抱え込んでんでしょ。もー……ストレス管理が下手だなぁみっつんは。初春さんの癒しタイム入りまーす」
ハルの薄い胸板に頭を寄せると鼓動が伝わってきた。今俺は手を動かすつもりはないが、撫でて肋骨の本数を数えることだって可能だろう。そのくらいハルは華奢だ。
「よしよし……んふふ、役得~。みっつんが甘えられんの俺だけとか、さいこー」
ハルは俺の頭をぎゅっと抱き締め、顎を俺の頭頂部に当てて囁いた。
「……ねぇみっつん、玩具……借りたじゃん? ぜんりつ、なんとか。アレさぁ、その……使おうと思ったんだけど~……お尻入れんの怖いし、なんか上手くいかなくて~……だからさぁ~、木曜日あたり? 金曜でも休みでもいいけど~、みっつんしてくんない?」
「…………してって」
「お尻……アレ入れんの、手伝ってくんない? みっつん的にもテスト頑張ったごほーび的な感じになっていい感じじゃない? ウィンウィンってヤツ? ごほーび……なる、よね?」
なるに決まっている。ならない訳がない。
男にトラウマのあるハルに対しては主導権を握るべきではないと考えていたのに、向こうから提案してくれるだなんて感動だ。だが、不安もある。
「そりゃ、なるよ、なる……なるけど、いいのか? 怖く……ないか?」
抱きつくのをやめて向かい合い、見つめ合う。
「みっつんの何が怖いの? 俺、爪伸ばしてるから自分のが怖いよ。みっつんは深爪だもんね~、安心安心」
白いマニキュアとパールで飾られたハルの指先はとても美しい。彼は俺の右手を掴み、中指と薬指の先端を指の腹で撫でてイタズラっぽく笑った。
「…………俺に襲われたりとかは考えないのか?」
「みっつんそんなことしないよ」
赤いメッシュ入りの黒髪を揺らし、愛らしい笑顔を浮かべたハルには俺への確かな信頼を感じた。第一印象の軽薄で尻軽なギャルらしさは見た目に残ったままなのに、聖処女のような純粋さが確かにある。
「ハル……」
細い腰を労わるように腕を回すとハルの痩身はビクリと跳ね、長い睫毛が細かく震えた。俺への信頼は嘘ではないだろうが、条件反射に近い恐怖は治らないらしい。
「元気出た? みっつんってさ、えっちなこと想像すると顔色よくなるよね~」
「……俺が元気になるようにって言ってくれたんだな、ありがとう。俺、そんなに疲れた顔してたかな?」
「してたしてた。もう大丈夫そうだけど~。でもでもっ、お尻ので困ってんのはマジだから……時間、取ってね?」
「あぁ、分かってるよ」
疲れ、か。やはり家族が増える一大イベントがテスト期間と重なったのが大きいかもしれないな。部屋に誰も連れ込めないし、自慰もろくに出来ないし……自分の身体の管理不行き届きをアキのせいにしているみたいだ、やめよう。きっとアキの方が俺よりも強いストレスを感じている。
「あ、りゅーに聞いたんだけどさ~、みっつんの新しい弟めっちゃ可愛いんだって?」
「あぁ、うん……可愛いよ」
「なになに、狙ってんの? 弟まで狙っちゃうの~?」
「かなり消極的にだけどな」
アキを彼氏にしてしまえば彼氏達の存在を隠さなくてもいいし、一緒に住んでいるからいつでも抱ける。消極的とは言ったが今後も彼氏達を家に連れ込んでヤるためにはアキの懐柔は必須と言える。
「あ、またため息。もしかして弟くんの悩みごと? 問題児だったり?」
「いや、いい子だよ。ただ俺が勝手に気ぃ遣っちゃって、勝手に疲れてるだけだ」
「みっつんってそういうとこあるよね~。傍から見てると心配だよ? 同じ家に居るなら弟くんもみっつんが張り切り過ぎてんの分かっちゃうと思うから~……んー、なんて言うんだろ、無理しないでね? えへへ……ありきたりになっちゃった」
「……ううん、響いたよ。ありがとうな、ハル」
俺の緊張や疲れがアキや彼氏達に伝わるなんてあってはいけない、何とかしなくては。
(朝限定とか? それとも家族限定なんでしょうか? 家族……アキきゅんはわたくしを家族と認めてくれているのでしょうか。不安でそ。でもきっとアキきゅんはわたくし以上に不安なのでそ、わたくしが海より深い心で受け止めなくてはいけないのでそ)
いつも通りに駅に着き、いつも通りにリュウに出会う。いつも通りにカンナと合流し、シュカとも合流する。
そして『いつも』を試すテストが始まる。
休憩時間もめいっぱい使って復習に励んだが、それでも半分も解けた気がしなかった。平均点どころか赤点を心配しなければいけない。
「はぁ……」
「みっつーん、落ち込んでるねー。テスト上手くいかなかった感じ?」
三つのテストが終わり、教室で集めた課題を職員室まで運び終えた。下駄箱の辺りで待っているだろう彼氏達の元へ行くまでに表情と態度を整えなければと思いつつもため息をついていると、いつの間にかハルに近寄られていた。
「ハル……! いや、別に落ち込んでなんて……なんでここに?」
「みっつん居るかなーって。ほら、俺通学路一緒じゃないし、こういうタイミングは逃したくないんだよねー。みっつんのレア顔も見れたしね。テストで疲れちゃった? でも明日は最終日、泣いても笑ってもカラオケ行ってもらうよ! ちょっと歌えばすぐ元気になるって」
「そんな単純じゃねぇんだよ…………ぁ、ちがっ、違うぞ? カラオケ行きたくないとかそういうのじゃないからな? いやー、明日が楽しみだなー……ははは」
超絶美形なのだから秀才でなければと自分に言い聞かせ、母は誰しもが過剰と認めるスペックの持ち主なのだからと自分を追い詰め、平均点以上を取れなかったら歌見を筆頭として彼氏達に嫌われるかもしれないと身勝手に怯えている。そんな精神的負荷から失言をしてしまったが、自分に対する言い訳でも「ストレスが……」なんて使いたくない。
「……おいで、みっつん」
勝手にストレスを溜め込んで勝手に限界に近付いたどこまでも勝手な俺に対し、ハルは両手を広げてくれた。昨日アキがリュウを誘った際とは込められた気持ちの重みが違うように感じた。
「またなんか一人で抱え込んでんでしょ。もー……ストレス管理が下手だなぁみっつんは。初春さんの癒しタイム入りまーす」
ハルの薄い胸板に頭を寄せると鼓動が伝わってきた。今俺は手を動かすつもりはないが、撫でて肋骨の本数を数えることだって可能だろう。そのくらいハルは華奢だ。
「よしよし……んふふ、役得~。みっつんが甘えられんの俺だけとか、さいこー」
ハルは俺の頭をぎゅっと抱き締め、顎を俺の頭頂部に当てて囁いた。
「……ねぇみっつん、玩具……借りたじゃん? ぜんりつ、なんとか。アレさぁ、その……使おうと思ったんだけど~……お尻入れんの怖いし、なんか上手くいかなくて~……だからさぁ~、木曜日あたり? 金曜でも休みでもいいけど~、みっつんしてくんない?」
「…………してって」
「お尻……アレ入れんの、手伝ってくんない? みっつん的にもテスト頑張ったごほーび的な感じになっていい感じじゃない? ウィンウィンってヤツ? ごほーび……なる、よね?」
なるに決まっている。ならない訳がない。
男にトラウマのあるハルに対しては主導権を握るべきではないと考えていたのに、向こうから提案してくれるだなんて感動だ。だが、不安もある。
「そりゃ、なるよ、なる……なるけど、いいのか? 怖く……ないか?」
抱きつくのをやめて向かい合い、見つめ合う。
「みっつんの何が怖いの? 俺、爪伸ばしてるから自分のが怖いよ。みっつんは深爪だもんね~、安心安心」
白いマニキュアとパールで飾られたハルの指先はとても美しい。彼は俺の右手を掴み、中指と薬指の先端を指の腹で撫でてイタズラっぽく笑った。
「…………俺に襲われたりとかは考えないのか?」
「みっつんそんなことしないよ」
赤いメッシュ入りの黒髪を揺らし、愛らしい笑顔を浮かべたハルには俺への確かな信頼を感じた。第一印象の軽薄で尻軽なギャルらしさは見た目に残ったままなのに、聖処女のような純粋さが確かにある。
「ハル……」
細い腰を労わるように腕を回すとハルの痩身はビクリと跳ね、長い睫毛が細かく震えた。俺への信頼は嘘ではないだろうが、条件反射に近い恐怖は治らないらしい。
「元気出た? みっつんってさ、えっちなこと想像すると顔色よくなるよね~」
「……俺が元気になるようにって言ってくれたんだな、ありがとう。俺、そんなに疲れた顔してたかな?」
「してたしてた。もう大丈夫そうだけど~。でもでもっ、お尻ので困ってんのはマジだから……時間、取ってね?」
「あぁ、分かってるよ」
疲れ、か。やはり家族が増える一大イベントがテスト期間と重なったのが大きいかもしれないな。部屋に誰も連れ込めないし、自慰もろくに出来ないし……自分の身体の管理不行き届きをアキのせいにしているみたいだ、やめよう。きっとアキの方が俺よりも強いストレスを感じている。
「あ、りゅーに聞いたんだけどさ~、みっつんの新しい弟めっちゃ可愛いんだって?」
「あぁ、うん……可愛いよ」
「なになに、狙ってんの? 弟まで狙っちゃうの~?」
「かなり消極的にだけどな」
アキを彼氏にしてしまえば彼氏達の存在を隠さなくてもいいし、一緒に住んでいるからいつでも抱ける。消極的とは言ったが今後も彼氏達を家に連れ込んでヤるためにはアキの懐柔は必須と言える。
「あ、またため息。もしかして弟くんの悩みごと? 問題児だったり?」
「いや、いい子だよ。ただ俺が勝手に気ぃ遣っちゃって、勝手に疲れてるだけだ」
「みっつんってそういうとこあるよね~。傍から見てると心配だよ? 同じ家に居るなら弟くんもみっつんが張り切り過ぎてんの分かっちゃうと思うから~……んー、なんて言うんだろ、無理しないでね? えへへ……ありきたりになっちゃった」
「……ううん、響いたよ。ありがとうな、ハル」
俺の緊張や疲れがアキや彼氏達に伝わるなんてあってはいけない、何とかしなくては。
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