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異文化交流は適当に
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母はまだ仕事から帰っていない、義母はどこかへ出かけているようだ。家には今アキしか居ない。
「弟さんアキくん言うん?」
「秋風……えっと、マールトだったかな。アキはあだ名だ」
「弟の名前覚えとらんのかいな」
「秋風はカタコトだったのにマールトだけ発音めっちゃよくてさ、多分カタカナにするとマールトなんだろうけど……って感じで。あ、いきなり話しかけるなよ、俺が紹介してからな」
靴を脱ぎながらリュウに諸注意を話す。
「へいへい。紹介って俺が彼氏や言うてくれるん?」
「当たり前だろ。彼氏なんだから」
一対一の付き合いでなくてもいいから……と言い出すくらいに惚れさせてからハーレムについて打ち明けて口説く方が楽なのだが、仕方ない。
「俺は嬉しいんやけど……ロシアやったらキリスト教の子ちゃうん。同性愛アカンのちゃう?」
「え……嘘、マジで? 差別とかに一番うるさいアメリカがキリスト教なのに!?」
「まぁそら昔に比べたら緩なっとるかもしれんけど、恋愛の自由があったら宗教の自由もあるからなぁ。言わんようなってても風潮くらい残っとるかもしれんし、表面上仲良うしてくれても実はめっちゃキモがられとるみたいな感じなれへん?」
心身共に天使のようなアキがそんなふうに振る舞うとは思いたくない。
「俺アキのこと八人目にしようと思ってたんだけど」
「おー……せやったら言わん方がええんちゃう? 事前に彼氏何人も居る言うてたら身構えるやん。惚れてもうたらもう宗教も何股も関係あれへんで」
「うーん……?」
情報を後出しにして歌見を泣かせた経験があるから躊躇していたが、リュウに勧められたからと最低な言い訳も出来たことだし、そうさせてもらおう。
「……じゃあ、とりあえず友達って言うよ」
「おん、分かった」
「…………嫌だなぁ。彼氏なのに」
「何気にしとん。ええて別に」
リュウは本当に気にしていなさそうな目をするから余計に辛い。頬を叩いて表情を整え、気持ちを切り替えてから自室の扉を開けた。
「…………え? 何……そのポーズ」
アキは部屋の真ん中でしゃがんでいた。尻を少し浮かす、俗にヤンキー座りや便所座りなんて呼ばれる姿勢……ではない、よく見ると床に接しているのは右足だけだ。左足は右膝に乗せられている。
(足を組みながらのヤンキー座り……? え、何……ってかその姿勢で静止出来るもんなんですか? アキきゅんバランス感覚どうなってんでそ)
やはりアキは天使で俺には見えない翼で羽ばたいているから奇妙な姿勢でいられるのだろうか、なんて現実逃避を始める。
《おかえり兄貴。後ろの誰?》
アキは奇妙な姿勢をやめて立ち上がり、イヤホンを外した。
「なんか言うとんで水月、俺の紹介してや」
「あ、あぁ……」
翻訳アプリを起動したスマホに「彼は私の友達です」と言い、アキに表示されたロシア語の文章を渡した。
「名前は天正 竜潜だ」
「よろしゅう」
「はじめまして。秋風 マールト、です。よろしく……おねがいしますです」
拙い日本語がとても可愛らしい。やはり天使だ、彼が同性愛がどうこうで対応を変えるとは思えない。だって天使だもん。天使に性別なんかないもん
「えらい白い子やなぁ、これ天然もん?」
「ん、あぁ、先天性色素欠乏症……まぁいわゆるアルビノだな。紫外線が大敵だからあのカーテンつけてて、紫外線じゃなくても明るすぎると目が見えにくくなるみたいだから暗くしてる。カーテン開けたり電気いじったりしないでくれ、そのうち目慣れるだろうから」
「おん、他に注意事項あらへん? ポリエステルは肌荒れるとか、果物食ったらブツブツ出るとか」
「多分ない。あったら聞いてるはずだ」
頷いたリュウはアキに向き直り、にっこりと笑ってみせた。アキも遅れてにっこりと微笑む。なんて可愛らしい空間だろう。
「よろしゅうなぁアキくん。さっき何してたん? えらい変なポーズしとったけど」
「あー……さっきの姿勢は何ですか?」
俺もとても気になっているので翻訳アプリを使って尋ねてみることにした。
『これはダンスの練習です。日中は暇だったので、そこにいたときにオンラインで勉強しました』
「……向こうに住んでた時にやってたダンスの練習だってさ」
「ほー! ダンスやっとったんや」
初耳だ。日本に来ても続けたいと思っているのだろうか? なら母に話して教室でも見つけてもらわないとな。後で詳しく聞こう。
《家でゴロゴロしてると太るからやってただけだけどな、すっかり習慣になっちまった。さっきのポーズしてるだけで足に負荷かかるから健康にいいぜ、日本語のリスニングついでにやってたんだよ》
「ええなぁダンス。そういやテスト終わったら二学期の体育祭に向けて創作ダンスやらされるやん」
「あぁ……体育の先生、何年か前から組体操廃止になったって愚痴ってたな」
「俺ら素人ばっかりやしアドバイスもらおうや」
「そんなのテスト終わってからでいいだろ。俺は勉強するから……アキと話したいなら俺のスマホ貸すよ。ハメ撮りばっかだからライブラリ開くなよ、アキに見られちゃまずい」
本当に見られるとまずいのはカンナのヌード写真だが。
「おおきに。翻訳て標準語のが都合ええんかな。えー……ダンスちょっとだけでええんで見せてもらえまへんか」
コッテコテの関西弁じゃないか、なんてベタなツッコミはしない。俺はリュウ達に背を向けて勉強机に向かった。
「おっ、え、ぉおおっ!? すごっ、え、何、すごっ、重力あらへんの!?」
俺は勉強に集中するんだ。後ろでドタドタされようが、リュウが何を言おうが、俺は口を挟まないぞ。
「はぁー……なんでしゃがんだまんま足上げても倒れへんねんや…………せやなぁ、ロシア言うたらそれやなぁ、忘れとったわ」
《ロシアのもんって言われるけどウクライナの踊りなんだぜ》
「ん? ウクライナ言うた? あぁ、ウクライナのもんなん? へー……知らんかったわ。」
《日本のダンスって何かあんの?》
「やぽ……? あぁ、日本やな。日本のダンスとか聞いてはるん? 日本のダンス……? なんやろ、能とか?」
…………リュウ、翻訳アプリ使ってなくね? 会話のテンポ的に使ってないよな? なんで話せているんだ? 適当言ってるだけか? 気になる。いや、ダメだ、俺は勉強するんだ。歌見の身体を思い出せ、平均点以上を取ったらあの身体を自由に……やばい、勃ってきた。
「弟さんアキくん言うん?」
「秋風……えっと、マールトだったかな。アキはあだ名だ」
「弟の名前覚えとらんのかいな」
「秋風はカタコトだったのにマールトだけ発音めっちゃよくてさ、多分カタカナにするとマールトなんだろうけど……って感じで。あ、いきなり話しかけるなよ、俺が紹介してからな」
靴を脱ぎながらリュウに諸注意を話す。
「へいへい。紹介って俺が彼氏や言うてくれるん?」
「当たり前だろ。彼氏なんだから」
一対一の付き合いでなくてもいいから……と言い出すくらいに惚れさせてからハーレムについて打ち明けて口説く方が楽なのだが、仕方ない。
「俺は嬉しいんやけど……ロシアやったらキリスト教の子ちゃうん。同性愛アカンのちゃう?」
「え……嘘、マジで? 差別とかに一番うるさいアメリカがキリスト教なのに!?」
「まぁそら昔に比べたら緩なっとるかもしれんけど、恋愛の自由があったら宗教の自由もあるからなぁ。言わんようなってても風潮くらい残っとるかもしれんし、表面上仲良うしてくれても実はめっちゃキモがられとるみたいな感じなれへん?」
心身共に天使のようなアキがそんなふうに振る舞うとは思いたくない。
「俺アキのこと八人目にしようと思ってたんだけど」
「おー……せやったら言わん方がええんちゃう? 事前に彼氏何人も居る言うてたら身構えるやん。惚れてもうたらもう宗教も何股も関係あれへんで」
「うーん……?」
情報を後出しにして歌見を泣かせた経験があるから躊躇していたが、リュウに勧められたからと最低な言い訳も出来たことだし、そうさせてもらおう。
「……じゃあ、とりあえず友達って言うよ」
「おん、分かった」
「…………嫌だなぁ。彼氏なのに」
「何気にしとん。ええて別に」
リュウは本当に気にしていなさそうな目をするから余計に辛い。頬を叩いて表情を整え、気持ちを切り替えてから自室の扉を開けた。
「…………え? 何……そのポーズ」
アキは部屋の真ん中でしゃがんでいた。尻を少し浮かす、俗にヤンキー座りや便所座りなんて呼ばれる姿勢……ではない、よく見ると床に接しているのは右足だけだ。左足は右膝に乗せられている。
(足を組みながらのヤンキー座り……? え、何……ってかその姿勢で静止出来るもんなんですか? アキきゅんバランス感覚どうなってんでそ)
やはりアキは天使で俺には見えない翼で羽ばたいているから奇妙な姿勢でいられるのだろうか、なんて現実逃避を始める。
《おかえり兄貴。後ろの誰?》
アキは奇妙な姿勢をやめて立ち上がり、イヤホンを外した。
「なんか言うとんで水月、俺の紹介してや」
「あ、あぁ……」
翻訳アプリを起動したスマホに「彼は私の友達です」と言い、アキに表示されたロシア語の文章を渡した。
「名前は天正 竜潜だ」
「よろしゅう」
「はじめまして。秋風 マールト、です。よろしく……おねがいしますです」
拙い日本語がとても可愛らしい。やはり天使だ、彼が同性愛がどうこうで対応を変えるとは思えない。だって天使だもん。天使に性別なんかないもん
「えらい白い子やなぁ、これ天然もん?」
「ん、あぁ、先天性色素欠乏症……まぁいわゆるアルビノだな。紫外線が大敵だからあのカーテンつけてて、紫外線じゃなくても明るすぎると目が見えにくくなるみたいだから暗くしてる。カーテン開けたり電気いじったりしないでくれ、そのうち目慣れるだろうから」
「おん、他に注意事項あらへん? ポリエステルは肌荒れるとか、果物食ったらブツブツ出るとか」
「多分ない。あったら聞いてるはずだ」
頷いたリュウはアキに向き直り、にっこりと笑ってみせた。アキも遅れてにっこりと微笑む。なんて可愛らしい空間だろう。
「よろしゅうなぁアキくん。さっき何してたん? えらい変なポーズしとったけど」
「あー……さっきの姿勢は何ですか?」
俺もとても気になっているので翻訳アプリを使って尋ねてみることにした。
『これはダンスの練習です。日中は暇だったので、そこにいたときにオンラインで勉強しました』
「……向こうに住んでた時にやってたダンスの練習だってさ」
「ほー! ダンスやっとったんや」
初耳だ。日本に来ても続けたいと思っているのだろうか? なら母に話して教室でも見つけてもらわないとな。後で詳しく聞こう。
《家でゴロゴロしてると太るからやってただけだけどな、すっかり習慣になっちまった。さっきのポーズしてるだけで足に負荷かかるから健康にいいぜ、日本語のリスニングついでにやってたんだよ》
「ええなぁダンス。そういやテスト終わったら二学期の体育祭に向けて創作ダンスやらされるやん」
「あぁ……体育の先生、何年か前から組体操廃止になったって愚痴ってたな」
「俺ら素人ばっかりやしアドバイスもらおうや」
「そんなのテスト終わってからでいいだろ。俺は勉強するから……アキと話したいなら俺のスマホ貸すよ。ハメ撮りばっかだからライブラリ開くなよ、アキに見られちゃまずい」
本当に見られるとまずいのはカンナのヌード写真だが。
「おおきに。翻訳て標準語のが都合ええんかな。えー……ダンスちょっとだけでええんで見せてもらえまへんか」
コッテコテの関西弁じゃないか、なんてベタなツッコミはしない。俺はリュウ達に背を向けて勉強机に向かった。
「おっ、え、ぉおおっ!? すごっ、え、何、すごっ、重力あらへんの!?」
俺は勉強に集中するんだ。後ろでドタドタされようが、リュウが何を言おうが、俺は口を挟まないぞ。
「はぁー……なんでしゃがんだまんま足上げても倒れへんねんや…………せやなぁ、ロシア言うたらそれやなぁ、忘れとったわ」
《ロシアのもんって言われるけどウクライナの踊りなんだぜ》
「ん? ウクライナ言うた? あぁ、ウクライナのもんなん? へー……知らんかったわ。」
《日本のダンスって何かあんの?》
「やぽ……? あぁ、日本やな。日本のダンスとか聞いてはるん? 日本のダンス……? なんやろ、能とか?」
…………リュウ、翻訳アプリ使ってなくね? 会話のテンポ的に使ってないよな? なんで話せているんだ? 適当言ってるだけか? 気になる。いや、ダメだ、俺は勉強するんだ。歌見の身体を思い出せ、平均点以上を取ったらあの身体を自由に……やばい、勃ってきた。
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