冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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デスクライトとお買い物

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とうとうテストが明日に迫った。月火水とテストが続き、水曜日の放課後はカラオケで打ち上げ、木曜日には夏服に更衣、金曜日には委員会……忙しい一週間になりそうだ。


朝食後の勉強前にスマホを確認してみると、俺の彼氏達で作ったグループに「時雨」というウサギアイコンの人物が増えていた。カンナの弟としてみんなに挨拶しているが、カミアが正体を隠して本当に参加しているとは考えにくい。カンナのサブアカウントだと考えるのが妥当だろう。

(……まぁ今はどうでもいいですかな。今度カンナたんに聞いてみましょうか。それより勉強勉強、パイセンの肉体を貪るチャンスなのでそ~)

テスト勉強のモチベーションはもっぱら歌見との約束だ。自分で言うのもなんだが、俺は単純な奴だと思う。

(にしても暗いですな)

電灯がオレンジ色に変わる寸前の薄明かりの下で勉強するのは疲れる。感覚的には目はもうすっかり慣れているのだが、いつもより早く疲れがやってくる。

「アキ、この灯り使っていいかな?」

イヤホンをしてスマホを弄っているアキに翻訳アプリを使って話しかけた。デスクライトを見せ、光量を抑えて点けてみる。

《……そっか、兄貴はこの明るさじゃ不便か。いいぜ別に、部屋の灯り強くしてもさぁ。俺サングラスかけとくから》

「このくらいの灯りでも眩しいかな? アキが嫌なら点けないけど、大丈夫そうか?」

「Ты добр……ぼく、元気、にーに」

机の上だけを照らすデスクライトなら大丈夫なのかな? よかった。教科書も宿題も全てタブレットで管理出来るような近未来の学校ならライトなんて必要ないのだが、紙とペンには一定の光量はどうしても必要だ。

「そっか、よかった……ついでになんだけどさ、何聞いてるんだ?」

「日本語、です」

ロシアで流行りの音楽か何かだろうと思っていたが、画面を覗かせてもらったところ日本語のリスニング教材のようだった。

「にーに、話す、早くです」

「……早く俺と話したいって? 嬉しいよアキ、すごく嬉しい。上達してからでなくたっていいんだぞ、俺が勉強中でも遠慮するな、たくさん話しかけてくれ」

拙い話し方が可愛らしくて、神秘的な見た目も相まって「天使」と形容するのに全く抵抗がない。これほどまでに触れたいと焦がれたのは初めてだ。

(弟なら頭撫でてもいいですかな? でも頭触るのは侮辱って国もあるんですよな、ロシアどうなんでしょう……お母様は日本人ですし、頭撫でられたりくらいはしてそうなもんですが)

俺と同じ遺伝子を持つだけあってアキもとてつもない美形だ。歳下と拙い日本語によって増やされた可愛さは俺の鉄のような自制心を容易く揺さぶり、下ろそうとしていた手を震えながら上げることになってしまった。

《何してんの兄貴、パントマイム?》

赤い瞳は丸っこく開かれている。サングラスで隠してしまったり、細めてしまったりしていないのは部屋を暗いままにしている俺の功績だと思う。薄暗い部屋を許してやっているのだから頭を撫でるくらい──とあまりよくない考え方で結論を出してしまい、ぽんとアキの頭に手を乗せた。しかし、一瞬で払われてしまった。

「え、ぁ……ごめん、嫌だったか?」

《……そんな情けない顔すんなよ、そんなに俺の髪触りたいのか? 変わってんなぁ。仕方ねぇな……ちょっとだけだぞ》

アキは俺の右手首を掴み、頭を撫でさせた。頭を撫でられるのは嫌いではないのだろうか?

《もういいか? 満足か? はい、もう終わり》

パッと俺の手を離し、ベッドに腰を下ろしてスマホを弄り始めた。よく分からない。明確に微笑みかけてくれることもあるのだが、それ以外は大抵無表情だから感情が読み取りにくい。過ごしていけば分かるようになるだろうか、ひとまず今は勉強だな。



昼食後の勉強中、アキが部屋を出ていって数分後、母が部屋に入ってきた。

「水月、今手離せない?」

「見ての通り勉強中ですぞ、テストは目前ですからな」

「アキが買い物行きたいって言ってて、夕飯の買い出しのついでに連れて行こうと思ってるんだけど……アンタは来ない?」

「アキきゅんと買い物!? 行きまっそ! おば様は?」

「葉子のこと? しばらく立てないと思うわ」

何をしたのかは聞かないでおこう。買い物イベントは重要だ、好感度爆上げのチャンス! 勉強にも息抜きは必要だと自分に言い訳し、服を着替えて部屋を出た。

「お待たせ致しましたぞ~、アキきゅんは?」

「洗面所よ」

「アキきゅ~ん、にーにがお着替えお手伝いしますぞ~」

デレッとした笑顔をキリッと整えてから洗面所に入る。既に着替えを終えていたアキは髪をヘアバンドで押さえ、顔に日焼け止めを塗っていた。

「アキ……」

前髪を後ろへやっているから顔がよく見える。俺の母の遺伝子は相当強いようで、あまり白人らしい顔立ちではない気がする。俺に似ているが、俺よりも少し目が丸っぽく、口が小さい。俺に負けず劣らずの素晴らしい美顔だ。

《よ、兄貴。洗面所使う?》

首や手にもしっかりと日焼け止めを塗り込み、それを終えるとヘアバンドを外し、軽くブラシをかけて髪を整えた。アキの透き通るような白い髪は細く柔らかく、少しのことで癖がついてしまうようだ。

「にーに、ぼく、買い物行くです」

眉にかかる程度、耳を半分隠す程度、うなじが少し隠れる程度の中途半端な短髪だ。チラリズムがたまらない。

「俺も行くよ。一緒に行こうな」

髪も肌も白いが、肌の方には赤みが差しているため黒髪ほどではないものの境界はしっかり見える。俺と同じ超絶美を宿した造形をじっくり見ていたかったが、アキはサングラスと帽子で顔を隠してしまった。

「準備出来たー?」

「はい! アキ、行くぞ」

手を差し伸べる。口元はピクリとも動かず、サングラスで隠れた目の表情は分からない。けれど、一瞬の硬直の後アキは俺の手を握ってくれた。

「……! よっしゃ」

ようやく触れられた喜びが全身を駆け巡る。右手に全神経を集中させてアキの肌のキメ細やかさを堪能し、ついスリスリとアキの手を撫でてしまわないように注意を払いつつ、手汗が出ないように祈った。
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