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弟の話と弟の話

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今日も昨日と同様俺の家に彼氏全員が集まった。いや、訂正が必要だな、レイは来ないし歌見は後からの合流だ。

「勉強俺が見たろか? 数学やったら自信あんで」

「やだ。りゅー自分が分かってるってだけで教え方下手だもん」

四人は早速勉強道具を広げている。テストで平均点以上を取れば歌見が言いなりになってくれるという約束を交わしたので、俺も勉強しておきたいところだが、今はそれよりも緊急の用事がある。

「カンナ、ちょっと」

「お、今日は指名制か。俺いつやろ」

「水月、準備しておくので何時から私を抱く気かだけ教えてもらっていいですか?」

ペンを置いたカンナは俺の側まで来て首を傾げる。俺は彼の腰に腕を回して部屋に連れ込み、早速押し倒す──ことなくベッドに座らせ、自分は床に胡座をかいてカンナを見上げた。

「……カンナ、カミアの件なんだけど……本っ当にごめん。謝って済むことじゃないって分かってる、でも謝らせてくれ。ごめん」

「いぃ、よ……も……べつ、に」

「カンナ…………許してくれ」

「い……てば。おこ、て……な……から」

怒っていないと首を横に振られる度、不安が募る。カミアだとバレるような言い方は誰にもしていないという言い訳も、今後もバレないよう細心の注意を払うという約束も、口裏を合わせておこうという相談も、やろうと思ってはいるのに出来ず、ただ俯く。

「みぃ、くん……」

カンナの膝が俺のすねの手前に降りて驚き、顔を上げるとうるうると輝くつぶらな瞳があった。カンナはカツラを脱いでいた、爛れた皮膚が顕になって俺の劣情を煽る。

「ほん、とに……へーき。あれ、くら……もんだ、な……から。ね? カミア……ちゃんと、ごまか……言っとく、から、ね? おこ、て……な、から……みぃくん…………泣かな、い、で? ね?」

目元を手のひらで拭われて初めて自分が泣いていたことに気付いた。

「…………ぇ、あ……ご、ごめん。俺が悪いのに泣いちゃって、ほんとにごめん……カッコ悪いよな、ごめん……違うんだ、こんなの俺じゃない、違う」

素を見せるのは歌見だけだ。弱みを見せていいのはハルだけだ。カンナには彼を守る強くてカッコイイ俺だけを見せていなくちゃダメなんだ。
そもそも不安になったの自体ダメだった、安心して泣くなんてもっとダメだ、ほら、カンナの爛れた皮膚が目の前にあるんだから欲情して涙を引っ込ませろ。

「だい、じょぶ…………みぃくん……よし、よし。みぃくん、優し……から。無理、しちゃ……ダメ、だよ?」

シュカに対しては童貞臭を漏らしてもよくて、でもオタクらしさはあまり出さないようにして、顔と男性器の出来の良さをアピールする。
リュウに対しては横暴で乱暴なご主人様として振る舞う。でもそう振る舞おうと頑張っている感を漏らすくらいは許されている。
ハルに対しては弱みを見せて甘えてもよくて、ひたすら無害に振る舞って愛情深さと誠実さを示す。

「してない、よ。無理なんて……」

レイに対しては歳上らしく優しく振る舞うのを前提に、たまに歳下らしく独占欲などのワガママを出して、絶倫さと多様なプレイで熟れた身体を満足させる。
歌見に対しては素でいい。これは決して楽ではない、嘘や隠し事は一発アウトだから一挙一動に気を使わなければならない。どこまでが嘘や隠し事に認定されるのか分からないからいつも怖い。

「これは、俺がやりたくてやってることだから……そんな、気にしなくていいよ、俺は大丈夫だから」

「みぃくん……」

七人も彼氏を作っておいてそれぞれの相手をするのが大変だなんて、疲れるなんて、絶対に言えない。
相手にするの自体には本当に無理はしていない、楽しいんだ。けれど、もし失敗したらと思うと足がすくむし、実際に失敗してしまった今は会話が怪しくなって泣いたりしてしまう。

(クソ厄介な完璧主義、ですな)

目を拭って深いため息をつき、失敗を引きずらないようにとメンタルリセットを試みる。しかしカンナのキスによってその作業は中断させられた。

「……あん、なの……ミスじゃ、ないから……大丈夫、ね? みぃくん……一旦抜いて忘れよっ★」

完璧な振る舞いが出来なかった落ち込みからか俺はカンナに逆らえず、ベッドに腰を下ろして彼にフェラをされてしまった。蕩けるような快感に僅かながら声を漏らしてしまったのが悔やまれる。

「ん……」

「いつも言ってるけど、無理して飲まなくていいんだぞ?」

俺に白く汚れた口内を見せてくれた後、ごくりと音を立てて飲み込む。そんな丁寧な行為がカンナのフェラには付属している。

「……みーくんの、飲むの、すき」

「ならいいけど……」

「…………たま、さむ……から……かぶ、て、いい?」

「え? あ、あぁ、もちろん」

カンナがカツラを被る間に俺も露出させていた陰茎を下着の中に戻し、ズボンも履き直した。みんなのところへ戻ろうかと二人で立ち上がったその時、玄関の扉が開く音がした。歌見に合鍵は渡していないし、バイトが終わるにはまだ早い。

「おかえり」

母だと予想し、カンナを連れて出迎えに向かう。

「ただいま水月、今日はカンナちゃん来てるのね。ん……靴いっぱい、他の子達も居るの?」

「とりあえず四人、後で先輩も来るから五人になるよ。にしても早いね」

「アンタに話があるって言ったでしょ」

仕事用の鞄とスーパーの袋を受け取り、先にダイニングへ向かう。扉を開けてくれたカンナに礼を言って荷物を置き、立ち上がって母に挨拶をする三人を微笑ましく見守る。

「んー……どうしようかしら」

「あー、みんな、ちょっと母さんと大事な話があるからここに居てくれるか? 母さん、母さんの部屋で話そ」

「…………ゃ、別にいいわ。聞いてて。どうせ後で説明することになりそうだし、手間が省けるでしょ」

彼氏達に聞かせてもいい大事な話? 予想がつかない。

「どこから説明しようか迷うわね……長くなりそう…………あー、面倒くさい。要点だけ話すから質問ちょうだい」

五人で頷いてみせると母はあっけらかんとしたまま衝撃の事実を言い放った。

「水月には弟が居るわ。その子が来週くらいから一緒に住むことになったから、シクヨロ! って話よ。どうよ水月、重くも暗くもないけど大事な話でしょ?」

「…………えっ、え、ぇ、え……ぇええっ!? ど、どど、どういうことですか!? わ、私の弟!?」

「ええ、私が産んだんじゃないけど」

「あ、じゃあお父さんが一緒なんだ。異母兄弟ってやつっしょ、アタリ?」

「ハズレよハルちゃん。父親は別の人ってハッキリしてるし、水月の父親が誰かは私知らないもの」

ナゾナゾでも出されているのか? 母が産んでいないのに父も別の人ならそれはもう弟ではないだろう。再婚する相手の連れ子だとかなら「弟が居る」なんて言い方はしないだろうし……ダメだ、全く分からない。

「……トリックを教えてくださいませお母様」

「あら、何よ水月。もうギブ? アンタらは?」

「皆目見当もつきまへん」

リュウに視線を送られたシュカも黙って首を横に振る。

「あぁ、そう……足りないのは発想力不足かしら、知識不足かしら。ま、どっちでもいいわ」

ぶつぶつと失礼なことを呟く母に答えを催促する。

「卵子提供って知らない?」

すると、テレビか何かで聞いたことがあるような気もする言葉を発した。
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