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平日お泊まり

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始まるまでに散々騒いだ結果、最中は静かになったり──しなかった。流石男子高校生。

「ちょっ、それ俺が育ててたウインナーっすよ!」

「割れたら食べなきゃやばいって~。肉汁全部流れてパサパサなるじゃん」

「割れ目に焼き目つくまで焼くんす! 今度こそ触らないで欲しいっす」

いや、母を除いての最年長が一番騒がしいな。

「しぐ、シメジそろそろ上げな焦げてまうで。届かへんか、皿貸し、取ったるわ」

「水月、テッチャン焼けたぞ」

「やばいよやばいよ~、リアルガチでヒートだよ~」

リュウはカンナのためにシメジを取りつつ、歌見の言葉に反応してモノマネという小ボケを挟んだ。あまり面白くはなかったが見事だ。

「ありがとうございます先輩。ん……意外とクセないですね」

「テッチャンは初心者向けだからな。ハツも買ってきたが、そっちも食うか?」

「心臓でしたっけ。ちょっと抵抗ありますねー……」

「ちょっと! 俺のバジルチキンに豚擦り付けないでよ!」

「ちょっとくらいバジル分けてくれたっていいじゃないっすか!」

人生初ホルモンを済ませ、ホルモン道を歩み始めた俺の思考を邪魔したハルとレイを見やり、彼らには「騒がしい」よりも「姦しい」の方が似合うなと感想を抱いた。

「みぃ、くん……ぁーん」

「ん? シメジくれるのか? ありがとう、あーん…………ん! 焼肉のタレ合うなぁ、美味しいよ」

「水月ぃ、豚トロいらんか」

「あー……俺はいいや」

「豚で一番上手いとこやのに」

俺は当然肉の脂身が大好物なのだが、母が睨みをきかせている今は何を言われた訳でもないのにヘルシーな食材ばかり選んでしまう。

「いや、豚の一番はフィレ肉だろ」

「……ヘレ肉のことフィレ肉言うんなんか嫌や」

「えっ、いや……フィレだろ? ヒレはまだ聞くが、ヘレは聞いたことないぞ」

「はー! 何がフィレやオシャレぶり腐りよって、ちっさいアイウエオ使うなやうっといわぁ!」

「そんなに嫌がるか!? 小文字に何されたんだ!」

豚肉談義には俺も豚バラ肉を持って突貫したいところだが、ボロ負けするのが目に見えているのでやめておこう。

「……カンナ、ラム肉って上手いのか? 俺食ったことないんだよ」

断面がまだ赤いラムチョップを齧るカンナに視線を移す。

「ぁま、み……ある」

「へぇ……? なんか、カンナが骨付き肉好きって意外だな。齧り付いてるの可愛いよ」

「…………み、くん、食べる? らむ、ちょ……へるし、だよ。みーくん……へるし、好き……で、しょ?」

「あ……気付かれてたか、すごいなカンナ。うん、ヘルシーなの好きなんだよ。全然無理してるとかじゃなくて、好きなものがたまたまヘルシーだったって言うか」

俺がヘルシー系の肉ばかり選んでいるのにカンナは気付いていたようだ。隠していた訳でもないが、なんだか恥ずかしくて真の意図を必死に隠した。

「じゃあ、あーん……」

一齧りのラム肉を咀嚼し、カンナの言う甘味とやらを見つけるために目を閉じて舌に全神経を集中させる。カンナが感じたものを感じたいという性欲が根源の集中力は、これまでただ彼氏達の騒ぎを見守っていた母の質問で途切れた。

「たまにはこんな騒がしいのもいいわね、家族が増えたみたい。ふふ、手のかかる息子達……ぁ、アンタ達って本当に息子になるの? それとも高校生の間だけのお遊び?」

彼氏達の騒ぎも途切れた。一番に返事をしたのは意外なことにカンナだった。

「ぼくっ……ずっと、みぃくんと……いたい! で、す……」

「あら~、カンナちゃん、水月と結婚する気? 親御さん嫌がるでしょ、孫の顔も見れないし」

その質問は母の実体験が元になっていたりするのだろうか? 母は俺が産まれるまではバイとして男も女も食い漁っていたが、女の方が本気になりやすいと話していたし、性別を理由に自分や相手の親に『心配』された経験はあるだろう。

「ぼく、の……と、好き……ってくれ、の……みぃく……だけ、です……から」

「うん……? そうなのね?」

さては今カンナが何を言ったか分からなかったな?

「俺かて水月に忠誠誓っとんで」

「……私も、水月以上の男が居るとは思えませんし」

「お、俺だって……そう、思ってる」

リュウとシュカは本気で言っているようだったが、ハルには躊躇いを感じた。

「俺もせんぱい一筋っす!」

信じたいのに、レイの言葉は胡散臭く聞こえてしまう。

「……俺は、歳下の男に入れ上げるようなことはしたくなかった。それも浮気相手を一気に集めるようなヤツにはな。けれど……何故か、水月からは離れ難い」

歌見は誤魔化すようにジュースを口に含んだ。

「ふーん……ま、モテててよかったわね水月。こんなに居るなら一人くらいは学生終わっても残っててくれるでしょ、羨ましいわぁ……」

「ははは……」

本気になった相手も居たらしいのにその人を俺が知らないということは、母は添い遂げてくれる相手を見つけられなかったということで、羨ましいとはつまりそういうことで──あぁ、返事に迷う。

「…………あの子、元気かしら」

「み、みんな、塩タン焼くぞ塩タン。欲しかったら取れよ」

母の話から逃げるようにトングを手に取った。



上手く逃げることが出来た、母は酒の量を増やしたがあれ以降俺に絡んできていない。

「みんなこれ食べた後はどうするんだ? 帰るのか?」

「泊まってええんか?」

「俺は別にいいけど寝る場所ないし、明日も学校だからな」

翌日が平日なのに彼氏の家に泊まるのは難しいと皆も考えているようで、四人とも学校を理由に断った。前回は朝帰りをしたシュカも今回は遠慮するようだ。

「レイは泊まるのか?」

書店のバイトはここから直接行く方が早いし、学生のように教科書などの準備をする必要もない。レイは泊まってくれるだろう。

「……実は納期がヤバいんすよね。ソシャゲのキャラのイベントスキン描かないと……差分もいるし、帰って描かないと死ぬっす」

「そ、そうか……頑張ってくれ。後、そのソシャゲとキャラまた今度教えてくれ」

「イベントに出るって早バレになっちゃうんでイベント始まったらでいいすよね? それならOKっす」

「ありがとう。歌見先輩はどうします?」

誰も泊まってくれないなんて寂し過ぎる、歌見がダメならシュカに「朝まで抱いてやるから」とか言いながら土下座する羽目になってしまう。

「問題はないが……その、条例違反な年齢差だし」

「全然いいわよ。私も中学の頃は教師と付き合ってたし、存分にヤんなさい」

「ありがとうございます……? じゃあ、水月……泊まらせてもらおうかな?」

「大歓迎です!」

母の爆弾発言を華麗に聞き流した俺は、今日こそ歌見の後孔の開発を始めてやるぞと意気込んだ。
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