冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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焼肉とは関係ないバトル

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家へ帰ると既に母が鉄板の準備を終えてくれていた。椅子四脚に対して八人居るという問題は、バーベキュー用の簡易椅子、俺の勉強机に備え付けのキャスター付きの椅子、母が私室で使っているらしい椅子、脚立によって無理矢理解決されていた。

「おかえりなさい、早速だけど椅子争奪戦よ。ジャンケンでもしなさい、私はこの椅子に座るから」

母は私室で使っているらしい椅子を取った。

「脚立は嫌ですね……普通の椅子、もしくは水月の椅子を取りたいところです」

「ほなやんでー。いーんじゃんほいっ!」

「ちょ、普通にじゃんけんって言ってよタイミングズレた!」

七人で行ったにも関わらずリュウの一人勝ちだ。運だろうか、それとも突然始めたのが功を奏したのだろうか。ハルは後者として仕切り直しを求めている。

「勝ちは勝ちや。みーつきぃ、ちょっとええ?」

「ん?」

手招きをしたリュウのために身を屈め、耳を貸す。リュウは彼らしい要求をしてきた。俺も彼氏達も助かる素晴らしい要求だったが、気が引ける。

「はぁ……お前はホント……」

「ええやろ? なっ? なっ?」

「…………脚立にでも座ってろマゾ豚野郎」

「はぁ~い! ご主人様の仰せの通りにぃ! はぁあ冷たい硬い座り心地悪い最高やわぁ!」

リュウがドMだと知っている歌見以外の者は何も言わず、人気ワーストだっただろう脚立が一番に売れたことに安堵していた。だが、歌見だけは呆然とした様子でリュウを見つめていた。

「……ああいう子なんです」

「え……?」

「ほらほら続きやっちゃうよナナさん。行っくよー」

またジャンケンが始まる。何度かのあいこの後、今度は歌見が一人勝ちだ。

「じゃあ俺はこれにしようかな」

歌見が選んだのはバーベキューなどで使う折りたたみ式の簡易椅子だ。沈み込むような座り心地は悪くはないものの、長時間座っていると腰や背に不調が出るため不人気だった。

「なんか嫌なのから売れてくねー。ナナさんもしかして気ぃ遣ってくれた感じ?」

「ある意味そうかもな。これは座面が低いだろう? この中で一番背が高いのは俺だからな」

「なる~。ありがとねナナさん」

「では次……と言ってももう普通のと水月のだけですね。水月の椅子の方がいいという方はいらっしゃいますか?」

シュカは予めどちらでもいいと言っていたし、ハルもそのようだ、俺もそうだ。しかしカンナとレイは違った。

「せんぱいが普段使ってる椅子……! 座りたいっす!」

「みー、く……の、渡さ、ない……!」

俺のために争わないで! 違うな、俺の椅子のために争わないで? カッコつかない。しかし椅子なんて間接的なものまで奪い合うなんて、俺としては嬉しい限りだ。

「ではお二人で好きなだけバトってください」

「俺らは普通の椅子座るも~ん」

シュカとハルが机とセットになっている四脚のうちの二脚を取る、俺もそのつもりだが椅子の持ち主としてここで勝負を見守らない訳にもいかない。

「えっと……二人とも、掛け声俺がやろうか?」

睨み合うばかりでジャンケンが始まらなかったので言ってみたが、無視された。おかしいな、俺が原因で争ってるんだよな?

「お、まえっ……みぃくんの手、二回も取った!」

「早い者勝ちっす!」

「ぼくっ、一番最初に……みぃくんの彼氏っ、なったもん!」

「はぁ~!? それ言い出すんすか、そっすか、僕は抱かれてるっすけどぉ~? カンナせんぱいどうなんすか、処女っしょ!」

対決方法がジャンケンではなくなっている。これはいけない、勝負の後まで険悪な空気が残る勝負なんてあってはいけない。

「二人ともストップ! 罵り合いは禁止だ」

「カルビ焼きます」

「お、おい! 三人を待て!」

「嫌です、お腹がすきました。あ、ちょっと! トング返してください!」

「ダメだ、全員揃うのを待て! メガネのくせに腹ぺこキャラになるな!」

まずい、歌見とシュカまで喧嘩を始めた。全員揃うまで待とうという主張は正しいが、後半のメガネのくせに云々はどうかと思う。俺も思ったことがあるけれども。

「あーもうほらみんな待たせちゃって。ワガママ言わないで欲しいっす、もう高校生なんだからいつまでもガキ気分でいるんじゃないっすよ」

二十三歳……いや、やめよう。

「ぅ……じゃ、ん……けんっ……で、決め……る」

「……いやジャンケンは公平じゃない気がするんで嫌っす、このままレスバトルっすよ」

「レイ! 確実に勝てないからってジャンケン嫌がるな、もう俺が言うからな。ほら、最初はグー」

ジャンケンの掛け声を俺が言い始めると二人とも慌てて拳を握る。二人ともグーであいこだ、その後もしばらくあいこが続く。

「しょ! しょ! しょっ……お前らすごいな」

「暗黒武術会の時の……」

「後で存分に語りましょう先輩! はい、しょ! しょ、しょ! しょっ、ぁ、待て待て今カンナチョキだったよな!」

レイはグーだった。レイの勝ちだ、俺の椅子はレイの物となった。夕食の間だけなのにああまで本気になってくれるなんて、嬉しいけれど少し引くな。

「……ぁー、カンナ? 俺の隣座るか」

「い、の……?」

あまりにも落ち込んでいて見ていられなかったので、シュカがトングを取り返しに行っている隙にカンナに席を奪わせた。

「えっ……ちょ、ズルいっす! 俺がジャンケン勝ったのに!」

「椅子はレイのだよ。あんまり大人気ないこと言うな」

「でもぉ! ぅー……シュカせんぱいいいんすか? せんぱいの隣取られたっすよ?」

「水月の隣なんかクソどうでもいい! トングだよトング! 寄越せウドの大木がぁあっ! スネ折るぞクソっ!」

歌見はシュカよりも少しだけ高い身長を利用し、トングを天高く掲げていた。

「み、水月……メガネとは思えないほど凶暴なんだが」

「シュカは元ヤンなんですよ」

「メガネ敬語腹ぺこ元ヤンとか属性過多だろ!」

「甘いですね先輩、博多弁にツンデレ、ビッチなのに恋愛初心者までありますよ! 俺のシュカは最高です!」

「……っ!? 殺す!」

歌見の腕にぶら下がってまで取り返したくせに、シュカはトングを俺の顔目掛けて投げつけた。

(照れ隠しですか、可愛いでそぉ~!)

トングが当たった痛みに顔を押さえつつも、俺はしぶとく萌え続けた。
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