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現在に変わりはなし

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俺はややこしい真実を理解するため、入れ替わりの動機なども含めて昼飯を食べながら二人から詳しく聞いた。ちなみにチーズインハンバーグはカンナの好物で合っていた。

「あー……つまり、何? 硫酸かけられたのはカミア(現在カンナ)で、無事だったのはカンナ(現在カミア)で、ダンスも歌も上手くて人気があったカミアの方がこうなってちゃ不都合があるからって、事務所が逆として発表したんだな?」

「……の日……衣装、同じ……った、から……ちょーど、い……って」

「色違いとかも多かったけど、全く同じ服ってことも結構あったもんね。どーっちだとかやってさ」

「…………すごい話だな。そこの事務所結局辞めたんだろ? なのに入れ替わったまま……ったく、大人は身勝手だな」

「そうさせちゃうくらいお兄ちゃんは天才なんだよ! 神に愛された子でカミアだからね! カンナは……カンナは、何の才能もない、神無だもん……名前からして無いもん」

にわかに信じ難いが、恋人の話だ。真偽がどうあれ信じるしかないだろう。

「それ……ら、性格とかも……がんば、て……演技、て……交換、した。カンナは……人見知り、で……話すの、苦手」

「カミアは自信家でちょっとワガママ☆」

「演技……」

「……! みぃくんっ、ちが、う……ぼく、もぉ……本当に……人、苦手で…………いっぱい、いっぱい……うらぎ、られ……り、いじめられ、たり……した、から……もぉ、カミア戻れない」

「あ、あぁ、別にカンナが今まで演技してたのかーなんて思ってないよ、大丈夫。よしよし……カンナは可愛いよ、どんなカンナでも可愛い……カンナって呼び続けていいんだよな?」

今にも泣き出しそうなカンナの頭を撫でるとポロポロと涙を零し、フォークを置いて俺に抱きついてきた。

「……僕は演技だなー。才能はどうしようもないし……上手く出来ないから自信つかないしトーク下手だし…………でも自分はカミアだって言い聞かせると何故か上手く出来るんだよねっ☆」

カミアの方が重症では……? いや、今この場では自分でネタにしているレベルだからむしろ平気なのか? 芸能人には演技が付き物だしな。

「…………カンナ、やり……だした、後……襲わ……たの、カンナで……よか、た……って…………知らな、人……話して、の、いっぱ……聞いて、カンナ、そんなふ……思われてたの……ぼくっ、お兄ちゃんなのに……きづ、て、なくてぇっ……くやし、くてっ……! カンナ可愛いのにっ、ぼくの……じま、の……おとーとっ、なのにぃっ」

落ち着いたかと思われたカンナがまた泣きじゃくり出した。慌てて涙を拭いつつ「カンナが言ってるカンナはカミアのことだよな……?」とかややこしいことを考えて言葉での慰めが遅れた。

「お、おぉ……よしよし、分かってるよ。二人ともすごく可愛い、俺にとってはやっぱりよく知ってるカンナの方が可愛いけどな……カミアは今トップアイドルなんだから、もう誰もそんなこと言わないよ。カミア、お前も才能ないとか言うなよ」

「……だって歌もダンスもお兄ちゃん新しいのすぐ出来たのに、僕ものにするのに時間かかるもん」

「歌やダンスの才能がそれなりでも、上手くなれるくらい努力出来るのはそれも才能だよ。普通の人は諦めちゃうし……上手くたって人気出ないこともある、万人に愛される才能があるんだよ、カミア」

「…………君が六人も落とせた理由分かっちゃったなぁ」

おっ? 七人目になるか?

「ぅんっ、カンナ……昔、から……可愛げ、あった!」

「カンナ、悪いけどさ、ややこしいから今名乗ってる名前で呼んでくれないか? もう元に戻る気もないんだろ?」

「ぅん……カミア、昔から……可愛げ、ぼくよりあった」

「そ、そう?」

「できない子、ほど……可愛い」

「えぇ……? あぁ、お兄ちゃんだなぁ、この感じ懐かしいよ、お兄ちゃん……」

昔のカンナは意外と毒舌気味だったのかな?

「……カンナ、ほら、泣き止んだらご飯食べようか」

「ぅんっ、ちーはん……すき」

「可愛いっ……!? ちーはん好きかぁ、俺はちーはん好きなカンナが大好きだぞ~! 可愛い可愛い可愛い可愛い……」

「ぁ、う……ゃ、みぃくんっ、離して……ちーはん、冷め、ちゃ……」

「ダメだダメだもう離さないぞ~、カンナはもう俺の膝の上で食え! なっ? 嫌か?」

抱き締めたカンナの顔を覗き込む。いつも白くてふにふにと柔らかい頬は真っ赤になっており、身体もじんわりと熱を上げていくように感じた。

「…………やだっ」

「えっ?」

断られるとは思っていなかった。

「照れ、てっ……味、分かんな……なる、から……ゃ」

自惚れだったのかと落ち込む俺にカンナは可愛さによる追撃を行った。

「可愛いよカンナぁ~!」

「ぅあぁぅ……んゃ、ほっぺ、吸わ、な……でぇ…………カミアぁ、助けろ……」

「水月くん、お兄ちゃん離して! お兄ちゃん困ってる!」

カミアの手伝いもあってカンナは俺の腕の中から見事逃げ出し、俺の隣に寄せてあった椅子と食事を引きずってカミアの隣に逃げた。

「なんだよカミア……ひょっとして嫉妬か?」

冗談半分で腕を広げてみる。

「そんな訳ないだろ! もぉ……お兄ちゃん、なんで六股してるような男に引っかかっちゃったの? 確かに顔も性格もいいけど六股してるんだよ」

「……みぃくん、本気で……ぼく、愛してくれてるから」

「六人のうちの一人で本当にいいの? それ大っぴらにしてるような男で本当にいいの? お兄ちゃん自信家だったのに……そんなとこまで俺っぽく控えめになっちゃったの?」

「一対一の人達よりも愛し合えてる自信、あるよ」

「…………お兄ちゃんが納得してるなら何も言えないよ」

いい感じにまとまったかな?

「まだまだ彼氏募集中だぞ、応募しないか? カミア」

「しない!」

……と、こんな具合におふざけで俺の恋人という選択肢を刷り込みつつ、さっき「才能がある」と褒めた時のようにときめきを累積させる。そうしていけばアイドルと言えど案外簡単に落とせるのでは……と、カミアの頬の紅潮を見て思った。
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