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在る方? 無い方?
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深いため息をついて俺を軽く罵ったカンナもどきは前髪に隙間を作り、キラキラと輝く宝石のように美しい瞳を覗かせた。カンナにそっくりなその目にはカンナとは違い、長い睫毛に飾り立てられている。
「あーぁ残念、まさか爪の白斑なんかでバレるとは思わなかったよ」
「それは決め手だな。その前から話し方とか触り心地とか何か違うと疑ってたぞ」
「触り心地って……」
丸っこい瞳が少し形を歪ませて「うわぁ」を表現してくる。カンナにはない眉毛も不快そうに歪んでいる。
「いや、ほら……お前の方が手が硬いし、頬っぺたすべすべだし、それだけだぞ? 抱きついてこないのも変だったし、ちょっとガタイいいし……」
「ガタイって……身長一緒だよ?」
「……体重は?」
「…………りんごやっつぶん」
某猫よりは重いな。真実よりは軽いだろうけれど。
「……アイドルは身体が資本、インドア男子高校生より鍛えてて当然だろ?」
「はぁ……もう…………えっと、カミアだよな」
「ううんっ? カンナだよ?」
「そうしとくよ」
カミアという名前を他人に聞かせること自体まずい、今日はとりあえずカンナと呼ぼう。
「……タメ口でいいよな?」
「タメだもん」
「だよな、うん……お前なんでこんなところ来てるんだよ、仕事は? 人気アイドルだろ? 休みなんてあるのか?」
「今日は休日で、趣味のゲーム配信~……って設定のお仕事だから、入れ替わってても大丈夫」
カンナにゲームなんて出来るのか? 彼の家にはゲーム機なんてなかったぞ。プレイ動画じゃないよな? プレイしながら雑談でもするんだろ? 生配信ならコメントに答えたりもあるだろ? 何年も会っていなかったのに突然入れ替わるなんて……何を考えているんだ、絶対に失敗しているぞ。
「……互いのことちゃんと分かってないと入れ替わりなんか出来ないだろ」
「やだなぁ、僕達双子だよ?」
「言いたくはないけど、ブランクがありすぎる。現に俺にバレただろ。カンナの代わりに学校に来るくらいなら、学校なんか休ませて一緒に居てやれよ。カンナはお前に会いたがってたのに……仕事の肩代わりなんて」
「はぁ……? 何、説教してるの? この僕に?」
カミアの手が左肩に乗る、柔道着だけをぎゅっと掴んでいる。目の前の彼にハルが語っていたような天然さはない気がして、アイドルなんてそんなもんだよなとため息をついた。
「あぁ、そうだ、説教してやるよ。俺にとってはお前よりカンナの方が大切だからな」
「カンナの方が大切? 面と向かって言うなんて……大胆。照れちゃうなぁ」
「……ふざけるなよ、真面目に聞け。お前も色々大変かもしれないけど、カンナとちゃんと話してやってくれ。お前とろくに話せないうちにお前が仕事で忙しくなってカンナが寂しがるなんて嫌なんだよ、だからちゃんと話して──」
「うるさい」
右二の腕にカミアのもう片方の手がやってきた、やはり柔道着だけを掴んでいる。
「僕のこともお兄ちゃんのことも何にも知らないくせに知ったふうな口きいて……」
「……お兄ちゃんはお前の方だろ?」
「…………本当にこれが恋人? あの面食い野郎」
「おい? カンナに見せられた記事にはカミアが兄貴だって書いてたんだけど……誤植か?」
「……受け身ガンバ!」
カミアの右足に右足を後ろ側から刈り取られ、右足が宙に浮く。同時にカミアは腕に力を込めたようで自然と上体のバランスも崩れ、俺は自分の意思ではなく天井を見た。
「……っ!?」
「ちゃんと受け身取った? ふふ……大外刈は慣れてないと危ないんだから、ちゃんと受け身取らなきゃ頭打って死んじゃうぞ☆」
「お前っ……なぁ……いったぁ……背中っ、息が……肺の空気全部抜けたぞ……」
カミアは走ってきた体育教師に指導していないことをやるなと怒鳴られた。俺は慌てて俺がやってみたいと誘ったんだと庇った。二人揃って叱られ、解放されるとカミアは不思議そうな顔で俺を見上げてきた。
「……カンナの評価下げるなよ、体育得意じゃないから態度点に気を付けてるんだぞ」
「えっ? 体育得意じゃない? そんなバカな……」
「子供の頃はどうだったか知らないが、今のカンナは運動音痴だ。入れ替わる前にちゃんと話しておくべきだったなぁ?」
「…………ムカつく顔」
「見蕩れるの間違いだろ? カンナはこの顔好きだぞ、お前は?」
ワンチャンあるかと微笑みかけてみたが、返ってきたのは舌打ちだった。
(……こんなアイドルは嫌だ、第五位の行動ですぞ舌打ちは! ちなみに一位は傷害事件、二位は麻薬、三位はひき逃げ、四位は社長orマネージャーとデキてる、でそ。個人的なランキングですがな!)
授業が終わり、制服に着替えるとカミアはコンパクトを取り出して前髪を整えた。ヅラを借りているのだと思っていたが、地毛なのだろうか……カンナのヅラは出来がいいから見ても分からないんだよな。
「……なぁ、それ地毛か?」
「カツラ。僕お兄ちゃんと同じで天パだよ、昨日見たでしょ?」
「ライブ中のアイドルの髪質なんか信用しねぇよ」
カンナ、天パなのか……もうくるくる巻く髪の毛はないけれど、天パだという事実だけでなんか可愛いな。やっぱりカンナは可愛い、カンナに会いたい。
「はー……カンナに会いたい」
「…………お兄ちゃんのこと好きなのは本当みたいで安心したよ、僕が偽物だって確証持つまでは優しかったし、ずっとお兄ちゃんの心配してるもんね」
「……やっぱりカンナがお兄ちゃんなのか?」
双子の上に長期間離れ離れじゃ兄属性も弟属性も微妙だが、双子なのに兄ぶって強がるカンナとか弟ぶって甘えるカンナとか……うわっ、可愛い! 鼻血出そう!
「配信あるからどうせまともに話せないし、お兄ちゃんの学校生活大丈夫かなーって……今日は短いみたいだし、ちょっと見に来たんだ。彼氏に六股されてるとか心配過ぎるし」
「……そっか、ごめんな偉そうに説教して。で、カンナがお兄ちゃんなのか?」
「お兄ちゃん、他に仲良い子居るの? 嫌がらせしてくる子とか居ない?」
「仲良いのは俺の彼氏達かな、特にリュウとは仲良いぞ、金髪のヤツな。嫌がらせなんて俺がさせないよ。ところで俺の質問に答える気あるか?」
「……? どうして僕が君の質問に答えなきゃいけないの?」
「俺は何個も答えてるだろ?」
「え? それは当然だろ? この僕が聞いてるんだから」
そういうタイプかコイツ……
「そんな顔しないで、冗談だよ冗談。僕そんな自己中じゃないから。僕は弟、カンナだよ。お兄ちゃんがお兄ちゃん」
「はいはいお前は今カンナだな、んでカンナがお兄ちゃんなんだな。じゃあ雑誌の誤植か……カンナも言ってくれればよかったのに。ずっとお兄ちゃんに会いたがってるんだと思ってたよ」
「……ふふふ、僕がカンナだよ」
「はいはい」
「本当だよ? ふふふふっ……」
機嫌良さげに笑う姿を見下ろすとやっぱりカンナそっくりで、でも雰囲気だとかがカンナとは違って、ときめきつつも寂しくなった。
「あーぁ残念、まさか爪の白斑なんかでバレるとは思わなかったよ」
「それは決め手だな。その前から話し方とか触り心地とか何か違うと疑ってたぞ」
「触り心地って……」
丸っこい瞳が少し形を歪ませて「うわぁ」を表現してくる。カンナにはない眉毛も不快そうに歪んでいる。
「いや、ほら……お前の方が手が硬いし、頬っぺたすべすべだし、それだけだぞ? 抱きついてこないのも変だったし、ちょっとガタイいいし……」
「ガタイって……身長一緒だよ?」
「……体重は?」
「…………りんごやっつぶん」
某猫よりは重いな。真実よりは軽いだろうけれど。
「……アイドルは身体が資本、インドア男子高校生より鍛えてて当然だろ?」
「はぁ……もう…………えっと、カミアだよな」
「ううんっ? カンナだよ?」
「そうしとくよ」
カミアという名前を他人に聞かせること自体まずい、今日はとりあえずカンナと呼ぼう。
「……タメ口でいいよな?」
「タメだもん」
「だよな、うん……お前なんでこんなところ来てるんだよ、仕事は? 人気アイドルだろ? 休みなんてあるのか?」
「今日は休日で、趣味のゲーム配信~……って設定のお仕事だから、入れ替わってても大丈夫」
カンナにゲームなんて出来るのか? 彼の家にはゲーム機なんてなかったぞ。プレイ動画じゃないよな? プレイしながら雑談でもするんだろ? 生配信ならコメントに答えたりもあるだろ? 何年も会っていなかったのに突然入れ替わるなんて……何を考えているんだ、絶対に失敗しているぞ。
「……互いのことちゃんと分かってないと入れ替わりなんか出来ないだろ」
「やだなぁ、僕達双子だよ?」
「言いたくはないけど、ブランクがありすぎる。現に俺にバレただろ。カンナの代わりに学校に来るくらいなら、学校なんか休ませて一緒に居てやれよ。カンナはお前に会いたがってたのに……仕事の肩代わりなんて」
「はぁ……? 何、説教してるの? この僕に?」
カミアの手が左肩に乗る、柔道着だけをぎゅっと掴んでいる。目の前の彼にハルが語っていたような天然さはない気がして、アイドルなんてそんなもんだよなとため息をついた。
「あぁ、そうだ、説教してやるよ。俺にとってはお前よりカンナの方が大切だからな」
「カンナの方が大切? 面と向かって言うなんて……大胆。照れちゃうなぁ」
「……ふざけるなよ、真面目に聞け。お前も色々大変かもしれないけど、カンナとちゃんと話してやってくれ。お前とろくに話せないうちにお前が仕事で忙しくなってカンナが寂しがるなんて嫌なんだよ、だからちゃんと話して──」
「うるさい」
右二の腕にカミアのもう片方の手がやってきた、やはり柔道着だけを掴んでいる。
「僕のこともお兄ちゃんのことも何にも知らないくせに知ったふうな口きいて……」
「……お兄ちゃんはお前の方だろ?」
「…………本当にこれが恋人? あの面食い野郎」
「おい? カンナに見せられた記事にはカミアが兄貴だって書いてたんだけど……誤植か?」
「……受け身ガンバ!」
カミアの右足に右足を後ろ側から刈り取られ、右足が宙に浮く。同時にカミアは腕に力を込めたようで自然と上体のバランスも崩れ、俺は自分の意思ではなく天井を見た。
「……っ!?」
「ちゃんと受け身取った? ふふ……大外刈は慣れてないと危ないんだから、ちゃんと受け身取らなきゃ頭打って死んじゃうぞ☆」
「お前っ……なぁ……いったぁ……背中っ、息が……肺の空気全部抜けたぞ……」
カミアは走ってきた体育教師に指導していないことをやるなと怒鳴られた。俺は慌てて俺がやってみたいと誘ったんだと庇った。二人揃って叱られ、解放されるとカミアは不思議そうな顔で俺を見上げてきた。
「……カンナの評価下げるなよ、体育得意じゃないから態度点に気を付けてるんだぞ」
「えっ? 体育得意じゃない? そんなバカな……」
「子供の頃はどうだったか知らないが、今のカンナは運動音痴だ。入れ替わる前にちゃんと話しておくべきだったなぁ?」
「…………ムカつく顔」
「見蕩れるの間違いだろ? カンナはこの顔好きだぞ、お前は?」
ワンチャンあるかと微笑みかけてみたが、返ってきたのは舌打ちだった。
(……こんなアイドルは嫌だ、第五位の行動ですぞ舌打ちは! ちなみに一位は傷害事件、二位は麻薬、三位はひき逃げ、四位は社長orマネージャーとデキてる、でそ。個人的なランキングですがな!)
授業が終わり、制服に着替えるとカミアはコンパクトを取り出して前髪を整えた。ヅラを借りているのだと思っていたが、地毛なのだろうか……カンナのヅラは出来がいいから見ても分からないんだよな。
「……なぁ、それ地毛か?」
「カツラ。僕お兄ちゃんと同じで天パだよ、昨日見たでしょ?」
「ライブ中のアイドルの髪質なんか信用しねぇよ」
カンナ、天パなのか……もうくるくる巻く髪の毛はないけれど、天パだという事実だけでなんか可愛いな。やっぱりカンナは可愛い、カンナに会いたい。
「はー……カンナに会いたい」
「…………お兄ちゃんのこと好きなのは本当みたいで安心したよ、僕が偽物だって確証持つまでは優しかったし、ずっとお兄ちゃんの心配してるもんね」
「……やっぱりカンナがお兄ちゃんなのか?」
双子の上に長期間離れ離れじゃ兄属性も弟属性も微妙だが、双子なのに兄ぶって強がるカンナとか弟ぶって甘えるカンナとか……うわっ、可愛い! 鼻血出そう!
「配信あるからどうせまともに話せないし、お兄ちゃんの学校生活大丈夫かなーって……今日は短いみたいだし、ちょっと見に来たんだ。彼氏に六股されてるとか心配過ぎるし」
「……そっか、ごめんな偉そうに説教して。で、カンナがお兄ちゃんなのか?」
「お兄ちゃん、他に仲良い子居るの? 嫌がらせしてくる子とか居ない?」
「仲良いのは俺の彼氏達かな、特にリュウとは仲良いぞ、金髪のヤツな。嫌がらせなんて俺がさせないよ。ところで俺の質問に答える気あるか?」
「……? どうして僕が君の質問に答えなきゃいけないの?」
「俺は何個も答えてるだろ?」
「え? それは当然だろ? この僕が聞いてるんだから」
そういうタイプかコイツ……
「そんな顔しないで、冗談だよ冗談。僕そんな自己中じゃないから。僕は弟、カンナだよ。お兄ちゃんがお兄ちゃん」
「はいはいお前は今カンナだな、んでカンナがお兄ちゃんなんだな。じゃあ雑誌の誤植か……カンナも言ってくれればよかったのに。ずっとお兄ちゃんに会いたがってるんだと思ってたよ」
「……ふふふ、僕がカンナだよ」
「はいはい」
「本当だよ? ふふふふっ……」
機嫌良さげに笑う姿を見下ろすとやっぱりカンナそっくりで、でも雰囲気だとかがカンナとは違って、ときめきつつも寂しくなった。
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