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湯上がりはズルい
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ハルと入れ替わりに風呂を出て着替えを済ませ、髪を乾かし終える頃には喉が渇いていたのでキッチンへ向かった。
「あ、水月くん。どうしたの?」
エプロンをつけたままのハルの母親が焼酎瓶片手に微笑んだ。
「お風呂をいただいたら喉が渇いたので、お水を一杯いただけないかと」
「おっけおっけ~」
ハルの母親は食器棚から出したコップに透明の液体を注ぐ。
「あの、それお酒ですよね。俺まだ高校生なので……お水……コップ借りますねっ」
かなり酔っているようだ、自分で用意しよう。棚からコップを取って水道水を汲んでいると、母親が俺の腕に絡みついた。
「ほんとカッコイイ子ね~……ねぇー、ウチの子誰か一人適当に持ってってよ。一人と言わず全員でもいいけど」
「あはは……それじゃハルさんをお願い出来ますか? なんて……」
「えー? ハルはダメよぉ。あたしはぁ、君似の孫が欲しいのぉ~」
「……そう、ですか。ゃ、あの……俺恋人居るんで」
コップ一杯の水を飲み干し、母親をそっと振りほどいてハルの部屋へ急ぐ──また姉とエンカウントした。黄メッシュに青メッシュか、下二人だな。
「やっほー水月くぅん、お姉ちゃんにお風呂突撃されたってほんと~?」
「えげつないことするよね~、お姉ちゃん。六歳も下の子にさぁー?」
本当だよ、成人女性が男子高校生に裸見せつけとか普通に逮捕案件だろ。
「水月くんもっと若い子がいいよね~、私とかどぉ? 水月くんの三つ上だよ~」
「大学生なんて年増だよねー? 私は一つ上、もう同い歳みたいなもんだよね~」
襟ぐりの広いシャツにホットパンツ、ノンケの男にとってはたまらない格好なんだろうな。俺の身長なら彼女達の胸元が覗けてしまうし、今の俺は世の男性方の嫉妬を一身に受けてしまうだろう……その嫉妬が拗れて俺に抱かれてくれたりしないかなぁ。
「すいません、俺……恋人居るんです。だからあんまり引っ付かれるのは……困るというか」
「えー! 居るのー!? そりゃ居るかぁ……別れる予定とかなーい?」
「……ぶっちゃけ私より美人なわけなくなーい? 乗り換えてよー」
諦め悪いなぁ。俺だったら好みの男に「恋人が居るから」とか言われても破局を待って傷心につけ込むくらいしかしないぞ、だってしつこくすると嫌われそうだし。
「すいません……ほんとすいません……」
明るく積極的な女性は苦手なんだ。彼女達のせいではないのだが、中学時代彼女達のような女性に虐められた記憶が蘇って苦しい。
(ちなみにそれが原因で男に走ったとかじゃありませんぞ。男にも普通にボコられてましたからな、リーダー格は赤髪のイケメンさんでした……それで興奮して勃ってもっと酷い目に……うっ、頭が)
嫌な記憶がぐるぐると回って頭が痛くなってきた。
「すいません……すいません……」
謝りながら強引に二人を押しのけてハルの部屋に入り、床に座り込んでクッションを抱え、蹲る。
「…………はぁ、超絶美形になれて、もう虐められることなんてないんだから……もう、もう忘れてくだされ……わたくしの脳みそさん、お願いしますぞ」
頭痛が治まるのを待つうちにハルが風呂から出たようで、俺が気付かないうちに部屋に帰ってきた彼に肩をつつかれた。
「みっつーん? もうおねむー?」
「……っ、ハル……!」
嫌な記憶を振り切れずにいたけれど、湯上がりのハルを見た瞬間に中学時代の嫌な記憶もハルの家族に絡まれた嫌な思いも全て吹っ飛んだ。ハルを抱き締めたくなって腕を広げた、その一瞬は性欲なんて欠片もなかった。
「ひっ……!?」
だが、ハルは怯えて身体を跳ねさせ、硬直した。
「あ……ち、違うよみっつん。びっくりしただけ、怖がってないよ~? なーに手ぇ広げて、ハグ? ハグっしょ、ハーグ。ぎゅ~っ」
心細かったから、本心からのハグ要求だった。だから怯えられたショックを表情に出してしまった。ハルに気遣わせてしまった。でもハグが出来たのは嬉しい。
「ハル……」
「みっつんもぎゅ~していいよ? マジで大丈夫だから!」
細い身体に恐る恐る腕を回す。なんて華奢な肩だろう、厚みも幅も俺の七割くらいじゃないか? 肩甲骨が浮いているし、肌の真下に肋骨があるのが分かるし……細過ぎる。ハグをしても欲情よりもリラックスよりも心配が勝つ。
「……ありがとう、ハル。落ち着いたよ。こういう言い方は嫌だけどさ……ハルのお姉さん達に気に入ってもらえたのは嬉しいんだけどさ……その」
「がっつりモーションかけられたんキツかった~って話ぃ? 興味ないヤツにベタベタされるとか恐怖だよね~。俺はおっきいおっぱい腕に押し付けられたらラッキーって思っちゃうけどさぁー、みっつんはガチでマジで欠片も興味ないんだもんね~。俺で言うと汚いおっさんに引っ付かれる感じ? あはっ、キッツぅ~」
「……まぁ流石に汚いおっさんの方が不快度は高そうだけど。ハルじゃ力で勝てない相手だし、汚いって時点でプラス点ある……お姉さん達一応清潔ではあるし若いから」
「あははっ、細かいこと気にしないでよー。よしよし、初春さんに癒されちゃいなさーい」
ハルは俺の足の間に足をねじ込んで膝立ちになり、俺の首に腕を回し、俺の後頭部をわしわしと撫でた。
「……どぉ? 癒された?」
「めちゃくちゃ癒されるぅ……」
明るく発声したつもりだったのに、俺の声は震えていた。
「えっ、ちょ、泣くほど!? どんだけストレス溜めてたの……!? 姉ちゃん何したの!?」
「ち、ちが……今日だけじゃなくて、今までの全部が……ブワッて」
「えぇぇ……? イケメンもストレス溜まるんだね~」
「ストレスが溶ける音がすりゅぅ~……」
ハルの胸に顔をぐりぐりと押し付けてもハルは全く怯えず、くすくすと笑って俺の声は頭を撫でてくれる。あまりにも情けない姿を見せているから男らしさが薄くて怯えずにいられるのだろうか……使えるな、この手。今後は俺のプライドには犠牲になってもらおう。
「あ、水月くん。どうしたの?」
エプロンをつけたままのハルの母親が焼酎瓶片手に微笑んだ。
「お風呂をいただいたら喉が渇いたので、お水を一杯いただけないかと」
「おっけおっけ~」
ハルの母親は食器棚から出したコップに透明の液体を注ぐ。
「あの、それお酒ですよね。俺まだ高校生なので……お水……コップ借りますねっ」
かなり酔っているようだ、自分で用意しよう。棚からコップを取って水道水を汲んでいると、母親が俺の腕に絡みついた。
「ほんとカッコイイ子ね~……ねぇー、ウチの子誰か一人適当に持ってってよ。一人と言わず全員でもいいけど」
「あはは……それじゃハルさんをお願い出来ますか? なんて……」
「えー? ハルはダメよぉ。あたしはぁ、君似の孫が欲しいのぉ~」
「……そう、ですか。ゃ、あの……俺恋人居るんで」
コップ一杯の水を飲み干し、母親をそっと振りほどいてハルの部屋へ急ぐ──また姉とエンカウントした。黄メッシュに青メッシュか、下二人だな。
「やっほー水月くぅん、お姉ちゃんにお風呂突撃されたってほんと~?」
「えげつないことするよね~、お姉ちゃん。六歳も下の子にさぁー?」
本当だよ、成人女性が男子高校生に裸見せつけとか普通に逮捕案件だろ。
「水月くんもっと若い子がいいよね~、私とかどぉ? 水月くんの三つ上だよ~」
「大学生なんて年増だよねー? 私は一つ上、もう同い歳みたいなもんだよね~」
襟ぐりの広いシャツにホットパンツ、ノンケの男にとってはたまらない格好なんだろうな。俺の身長なら彼女達の胸元が覗けてしまうし、今の俺は世の男性方の嫉妬を一身に受けてしまうだろう……その嫉妬が拗れて俺に抱かれてくれたりしないかなぁ。
「すいません、俺……恋人居るんです。だからあんまり引っ付かれるのは……困るというか」
「えー! 居るのー!? そりゃ居るかぁ……別れる予定とかなーい?」
「……ぶっちゃけ私より美人なわけなくなーい? 乗り換えてよー」
諦め悪いなぁ。俺だったら好みの男に「恋人が居るから」とか言われても破局を待って傷心につけ込むくらいしかしないぞ、だってしつこくすると嫌われそうだし。
「すいません……ほんとすいません……」
明るく積極的な女性は苦手なんだ。彼女達のせいではないのだが、中学時代彼女達のような女性に虐められた記憶が蘇って苦しい。
(ちなみにそれが原因で男に走ったとかじゃありませんぞ。男にも普通にボコられてましたからな、リーダー格は赤髪のイケメンさんでした……それで興奮して勃ってもっと酷い目に……うっ、頭が)
嫌な記憶がぐるぐると回って頭が痛くなってきた。
「すいません……すいません……」
謝りながら強引に二人を押しのけてハルの部屋に入り、床に座り込んでクッションを抱え、蹲る。
「…………はぁ、超絶美形になれて、もう虐められることなんてないんだから……もう、もう忘れてくだされ……わたくしの脳みそさん、お願いしますぞ」
頭痛が治まるのを待つうちにハルが風呂から出たようで、俺が気付かないうちに部屋に帰ってきた彼に肩をつつかれた。
「みっつーん? もうおねむー?」
「……っ、ハル……!」
嫌な記憶を振り切れずにいたけれど、湯上がりのハルを見た瞬間に中学時代の嫌な記憶もハルの家族に絡まれた嫌な思いも全て吹っ飛んだ。ハルを抱き締めたくなって腕を広げた、その一瞬は性欲なんて欠片もなかった。
「ひっ……!?」
だが、ハルは怯えて身体を跳ねさせ、硬直した。
「あ……ち、違うよみっつん。びっくりしただけ、怖がってないよ~? なーに手ぇ広げて、ハグ? ハグっしょ、ハーグ。ぎゅ~っ」
心細かったから、本心からのハグ要求だった。だから怯えられたショックを表情に出してしまった。ハルに気遣わせてしまった。でもハグが出来たのは嬉しい。
「ハル……」
「みっつんもぎゅ~していいよ? マジで大丈夫だから!」
細い身体に恐る恐る腕を回す。なんて華奢な肩だろう、厚みも幅も俺の七割くらいじゃないか? 肩甲骨が浮いているし、肌の真下に肋骨があるのが分かるし……細過ぎる。ハグをしても欲情よりもリラックスよりも心配が勝つ。
「……ありがとう、ハル。落ち着いたよ。こういう言い方は嫌だけどさ……ハルのお姉さん達に気に入ってもらえたのは嬉しいんだけどさ……その」
「がっつりモーションかけられたんキツかった~って話ぃ? 興味ないヤツにベタベタされるとか恐怖だよね~。俺はおっきいおっぱい腕に押し付けられたらラッキーって思っちゃうけどさぁー、みっつんはガチでマジで欠片も興味ないんだもんね~。俺で言うと汚いおっさんに引っ付かれる感じ? あはっ、キッツぅ~」
「……まぁ流石に汚いおっさんの方が不快度は高そうだけど。ハルじゃ力で勝てない相手だし、汚いって時点でプラス点ある……お姉さん達一応清潔ではあるし若いから」
「あははっ、細かいこと気にしないでよー。よしよし、初春さんに癒されちゃいなさーい」
ハルは俺の足の間に足をねじ込んで膝立ちになり、俺の首に腕を回し、俺の後頭部をわしわしと撫でた。
「……どぉ? 癒された?」
「めちゃくちゃ癒されるぅ……」
明るく発声したつもりだったのに、俺の声は震えていた。
「えっ、ちょ、泣くほど!? どんだけストレス溜めてたの……!? 姉ちゃん何したの!?」
「ち、ちが……今日だけじゃなくて、今までの全部が……ブワッて」
「えぇぇ……? イケメンもストレス溜まるんだね~」
「ストレスが溶ける音がすりゅぅ~……」
ハルの胸に顔をぐりぐりと押し付けてもハルは全く怯えず、くすくすと笑って俺の声は頭を撫でてくれる。あまりにも情けない姿を見せているから男らしさが薄くて怯えずにいられるのだろうか……使えるな、この手。今後は俺のプライドには犠牲になってもらおう。
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