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初めてのお泊まり

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歌見を家に招いた次の日の朝、俺は起きてすぐにレイからのメッセージを確認した。昨日の深夜に送られたものだ、俺がテディベアの前でレイに話しかけながら自慰をしたことに対する長文の感想だ。

「随分気に入ってくれてるな……とりあえず返信、返信……んー、こんな感じかな」

朝支度を終えたら返信をしながらキッチンへ。

「おはようございますぞ~」

「おはよう。その話し方やめなさい」

挨拶と共にハリセン攻撃。

「ママ上、今日はわたくし彼氏の家にお泊まりする約束なのですが」

「そうなの? 楽でいいわ。カロリー計算はしっかりしてきなさいね」

「やれたらやりますぞ」

朝食を食べたら自室に戻り、日課の筋トレ。普段はもう少し遅い時間に行うのだが、ハルの家で出来るか分からないので繰り上げだ。

「ふー……ぁ、そうだ。レイ、今日俺ハルの家に泊まるからな。明日の夜くらいまでは見ててもしょうがないぞ」

筋トレを終えたらテディベアに話しかけ、汗を流すためシャワーを浴びる。

「水月、お昼はどうするの?」

「家で食べますぞ」

「帰りはいつ? 晩ご飯いる?」

「多分明日の夜ですな、晩ご飯はどうでしょう……明日で構いません?」

「別にいいわよ。アンタの飯だし、最悪どうなろうと私には関係ないもの」

早めに連絡しなければ晩飯抜きになる可能性があるようだ。意識しておかなくては。おっと、泊まりなら荷物が必要だな。歯ブラシだとかも持っていかなければ。

「タオルは流石に貸してもらえるんじゃない?」

「そうでしょうか……まぁ隙間空いてるんで詰め込みまっそ」

「携帯の充電器持ってきなさい、コンセント要らないヤツ。何かと便利よ」

「ですなー」

「あと、昼飯そろそろ出来るわよ」

昼食中、ハルから電話がかかってきた。母はこういう場合の作法を気にするタイプではないので、遠慮なく電話に出る。

「もしもし」

『あ、もしもしみっつん? やほやほー、初春はつはるさんだよ~。今何してる?』

「お昼ご飯食べてる」

『OK。そろそろ俺ん家来て欲しいから、適当に学校最寄りの駅まで来て。着いたら連絡ちょーだい、迎えに行くから』

「あぁ、分かった」

電話を終えると母がジトっとこちらを睨んでおり、深いため息の後に「もう少し愛想のいい会話をしたらどうだ」と言われてしまった。



オシャレ意識の高いハルに私服を見せるのは緊張する。顔がいいので何を着てもそれなりになるとは思うが、やはり不安だ。

「着いたぞ、っと……」

学校最寄りの駅に到着した。ハルにメッセージを送ってしばらく待つと、こちらに手を振りながら美少女が駆けてくる。

「やっほーみっつん」

「おぅ、ハル……なんか今日背高いな、ヒールのせいか」

赤いメッシュ入りの長い黒髪をハーフアップにした美少女改め女装美少年。今日はパリッとした白シャツにタイトな黒のミニスカート、黒いレースチョーカー、黒いピンヒールといったモノクロコーディネートだ。

「俺とお前の身長差十センチくらいなかったか? 今ほぼ一緒だぞ、何センチの履いてるんだよ」

「えーとね、これは……十二センチ」

ハルが足を大きく上げて初めて気付いたが、ヒールの裏は深い赤色だ。髪の赤いメッシュと合っていていいな。

「よく歩けるな。転ぶなよ? 俺に掴まってもいいぞ」

「慣れてるから平気! でも掴まる~」

俺の二の腕に手を添えた彼を、俺の彼氏だとちゃんと分かる通行人は一体何人居るのだろう。彼は男性らしい部分を完璧に隠している。

「あ、そだそだみっつん。俺みっつんのこと母さんと姉ちゃん達には友達って言ってるから、そのつもりでよろしくね」

「恋人らしくするなってことだな? 分かったよ」

「ごめんねー。みんな俺が男性恐怖症だと思ってるからさー、男子高行ってるのもかなり心配されてんだよね~。彼氏とか言ったらみっつんが俺脅してるとか思われかねないからさ~」

「それは困るな……まぁ、気に入ってもらえるよう頑張るよ」

駅から学校までは毎朝の通学路をなぞり、その先の知らない道はハルに案内してもらった。学校から数分歩いたところで彼は俺の腕を離し、ジャーンと言いながら一戸建ての前で両手を広げた。

「ここが俺の家! どう? 学校から近いっしょ」

「あぁ、いいなぁ遅刻しなさそうで。二階建てか? 大きいな……何LDKなんだ?」

「えーっと、確か……6?」

「俺の家より三多いな」

姉が三人だから住んでいる人数も三多いのか。なら順当だな。

「入って入って~」

「お邪魔します……」

扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは散乱した女性用の靴。玄関から溢れんばかりのそれには「誰が誰のものか分かるのだろうか」と困惑の感想を抱いた。

「俺の部屋こっち~」

ヒール類を押しのけてスペースを作り、どうにかスニーカーを置いてハルに続いた。俺の部屋とそう変わらない広さの部屋には、カミアのグッズがぽつぽつ伺えた。流石にカンナの父親が作っていた部屋ほどではないが。

「えっと……適当に、ぁ、ここに座って」

チェック柄の丸いクッションを渡されたのでそれを床に置き、腰を下ろす。荷物が入った鞄はそのまま隣に置いた。緊張している様子のハルは座りもせずに俺を見つめている。

「……ハル?」

「あっ、ご、ごめんねっ? なんか……みっつんが俺の部屋に居るな~って思ってさ。なんか、変な感じして……ぇへへ」

「そっか。お母さんは今家に居るのか? 挨拶しておきたいんだけど」

「今は買い物中、そのうち帰ってくると思うけど」

なら今感じている扉の隙間からの視線は姉のものか。チラリとそちらに目を向けるとハルも気が付いたようで、怒って文句を言いに向かった。
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