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初めて見る小さな生き物
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硬直してしまった歌見は一旦放置、気になっていたが聞けなかったことをレイに尋ねてみる。
「なぁ、レイ、そういえばなんだけどさ、お前……俺に一目惚れしてくれたんだよな、いつどこで惚れたか聞かせてもらってもいいか?」
レイはフードの端を引っ張って顔を隠しながら俯いた。話しにくいことなのかと不安になって覗き込んでみると顔を赤くしていたので、照れているだけかと安心し胸を撫で下ろす。
「その、SNSでバズってたんす。せんぱいの写真」
「綺麗な顔してるからな、そりゃバズるだろ。自撮り上げてるのか?」
歌見が会話に参加してきた。レイに監視カメラや盗聴器について聞かなくてもいいのだろうか、聞かなかったことにしようと判断したのだろうか。
「客に隠し撮りされて……」
「はぁ? とんでもないヤツも居たもんだな」
「その写真見た時は彼氏んとこに居たんすけど、乱暴な人だしセフレ扱いだしでもう嫌になってて……カッコイイ人、生で見てみたいなって思って来てみたら……すっごい優しくしてもらえたんすよぉ、だからもう惚れちゃって、乗り換えよって、ぇへへへ……」
出会った当初は客として応対したし、その後も後輩扱いだったと思うのだが、どこに優しさを感じたんだ?
「なるほどな。彼氏とはちゃんと別れられたのか? 乱暴でセフレ扱いって……そういうの、大して愛してないくせに執着心すごそうだが」
「俺はセフレ扱いくらいしか聞いてこなかったんだけど、乱暴って……やっぱり殴られたりしたのか?」
心配で問い詰めてみるとレイはふるふると首を横に振り、誤解があると言った。
「乱暴って言っても俺にじゃなくて、周りにっすよ。不良の親玉みたいな人なんす。セックスは激しかったっすけど暴力は振るわれたことないっすよ、でも執着はすごくて俺に手ぇ出そうとした手下の人ぼっこぼこにされてたっす」
「DV被害者じゃなくてヤクザの愛人ってワケだ。よく別れられたな」
「……ハッキリ別れてはないんすよ。まぁ縄張りからは出てるんで見つからないと思うっす。髪の色とファッションもある程度変えましたし」
「おいおいおいおい、それで水月が変なヤツらにボコられたりとかないだろうな」
「大丈夫っすよ。セフレって言ってましたし、他にも居たみたいですからそんな躍起になって探したりはしてないはずっす。見つかったらやばいっすけど見つからないと思うんで」
「……水月、何かあったら俺に言えよ。これでも高校の時は柔道の成績良かったんだ」
喧嘩強いんだとか、武道の心得があるんだとか、そういうのじゃなく必修科目の柔道の成績が良かっただけなのが歌見らしい。
「縄張りってどの辺なんだ? レイとのデート場所は気を付けなきゃだよな」
「えーっと、この辺が半グレと繋がってる不良グループの縄張りじゃないっすか。その隣の縄張りが俺の元カレのとこっす」
「この辺そんな治安悪かったのか!?」
「治安はいいっすよ、縄張りって言っても名義あるくらいっす。隣町はカツアゲとかぼったくりバー多いんで裏通りは行かない方がいいっすけど、まぁ道と店にさえ気を付けてりゃ大丈夫っす」
「まぁ隣町は繁華街あるしな」
今レイが教えてくれた治安情報は明日彼氏達にも広めておこう、危険に巻き込まれないために大切なのは運と情報だ。
「水月はガタイいいしカツアゲとかの心配はないだろ。もう少し身体のラインが出る服の方がいいかもな」
「そういうとこ行かないようにするんで……ガタイにお尻関係ないでしょ、もう」
制服の上から歌見に尻を揉まれる。こういうスキンシップを許すからタチの威厳を示せていないのだと思いつつも触られるのは嬉しいので怒らずにいると、レイが恐る恐る俺の胸板を撫でた。
「…………好きに触っていいぞ?」
「……! マジ愛してるっすせんぱい!」
抱きつかれて歩みが止まる。フード越しの頭を撫でていると歌見に頭を撫でられた。ベタベタ触り合う男三人組は周囲にどんな目で見られているのだろうと視線を二人から外すと、こちらに走ってくる女が見えた。何かを抱えている、赤子か?
「水月? どこを見てるんだ? あっ……」
変わった光景に注いだ視線を歌見が追う。歌見は少し驚いた後「うわぁ」といった反応をし、深いため息をついて俺から手を離した。
「兄貴! バイト終わった?」
兄……あぁ、歌見の妹か。子供が出来て高校中退までしたのに男に逃げられて実家が修羅場だと聞いていたが、彼女自身に悲壮感はないな。赤ちゃんもぷくぷく太って健康そうだ。
「ねぇねぇ兄貴ぃ、隣のヤツがさぁ! ガキの泣き声がうっせぇんだよってぎゃあぎゃあ言ってきてさ、もー殴ってきそうな勢いでマジヤバだから逃げてきたワケ! 兄貴隣のヤツ何とかしてよ、前から壁ドンとかしてきてマジ怖いし!」
「仕方ないだろ……うちのアパートは独身専用で赤ちゃんの声に慣れてなかったり嫌いだったりする人が集まってるんだから。いい加減家に帰れ」
歌見は舌打ちまでして不機嫌を顕にしている。
「ジジイもババアもこれからどうする気だってうるさくて……うわめっちゃイケメン! 何、モデル!? 俳優!? 握手とサインください!」
「一般人です……」
「俺の後輩だ。この綺麗な顔したのが鳴雷、パーカー着てるのが木芽だ」
「あ、こっちもイケメン。カワイイ系」
「へっ? あ、ありがとう……」
不意に褒められて戸惑うレイは可愛らしい。眺めていると歌見に肩をつつかれ、耳元で小さな声で話された。
「あの声がデカくて見るからにバカなのは俺のバカな愚妹だ。アレのせいで大家、隣人からの苦情がすごい。正直赤ちゃんの泣き声よりアイツの金切り声の方が苦情が多い」
「はぁ……」
「あんなののせいでアパートを追い出されそうな上に、水月……お前を家に呼べなくなったと思うと、もう……縁切りたい」
かなり苦労しているようだ。近いうちに家に招いて癒してやらないとな、それが彼氏の務めってものだ。
「…………あの、赤ちゃん見たいんですけど」
「あ? あぁ……頼んでやる。おい、八昼、ちょっと──」
歌見から妹さんに頼んでもらい、赤ちゃんを傍で見せてもらった。
「こんな小さいのにちゃんと爪生えてる……! うわ、睫毛もある、すごい、細かい……!」
「気持ちは分かるが高いフィギュア見てるわけじゃないんだぞ、水月」
「顔にうぶ毛生えてるー!」
「俺も見たいっすせんぱい! わ、ホントに甘い匂いするんすね」
初めて生で見る赤ちゃんにレイと共にはしゃいでしまい、妹を迷惑がっている歌見には複雑な顔をされてしまった。
「なぁ、レイ、そういえばなんだけどさ、お前……俺に一目惚れしてくれたんだよな、いつどこで惚れたか聞かせてもらってもいいか?」
レイはフードの端を引っ張って顔を隠しながら俯いた。話しにくいことなのかと不安になって覗き込んでみると顔を赤くしていたので、照れているだけかと安心し胸を撫で下ろす。
「その、SNSでバズってたんす。せんぱいの写真」
「綺麗な顔してるからな、そりゃバズるだろ。自撮り上げてるのか?」
歌見が会話に参加してきた。レイに監視カメラや盗聴器について聞かなくてもいいのだろうか、聞かなかったことにしようと判断したのだろうか。
「客に隠し撮りされて……」
「はぁ? とんでもないヤツも居たもんだな」
「その写真見た時は彼氏んとこに居たんすけど、乱暴な人だしセフレ扱いだしでもう嫌になってて……カッコイイ人、生で見てみたいなって思って来てみたら……すっごい優しくしてもらえたんすよぉ、だからもう惚れちゃって、乗り換えよって、ぇへへへ……」
出会った当初は客として応対したし、その後も後輩扱いだったと思うのだが、どこに優しさを感じたんだ?
「なるほどな。彼氏とはちゃんと別れられたのか? 乱暴でセフレ扱いって……そういうの、大して愛してないくせに執着心すごそうだが」
「俺はセフレ扱いくらいしか聞いてこなかったんだけど、乱暴って……やっぱり殴られたりしたのか?」
心配で問い詰めてみるとレイはふるふると首を横に振り、誤解があると言った。
「乱暴って言っても俺にじゃなくて、周りにっすよ。不良の親玉みたいな人なんす。セックスは激しかったっすけど暴力は振るわれたことないっすよ、でも執着はすごくて俺に手ぇ出そうとした手下の人ぼっこぼこにされてたっす」
「DV被害者じゃなくてヤクザの愛人ってワケだ。よく別れられたな」
「……ハッキリ別れてはないんすよ。まぁ縄張りからは出てるんで見つからないと思うっす。髪の色とファッションもある程度変えましたし」
「おいおいおいおい、それで水月が変なヤツらにボコられたりとかないだろうな」
「大丈夫っすよ。セフレって言ってましたし、他にも居たみたいですからそんな躍起になって探したりはしてないはずっす。見つかったらやばいっすけど見つからないと思うんで」
「……水月、何かあったら俺に言えよ。これでも高校の時は柔道の成績良かったんだ」
喧嘩強いんだとか、武道の心得があるんだとか、そういうのじゃなく必修科目の柔道の成績が良かっただけなのが歌見らしい。
「縄張りってどの辺なんだ? レイとのデート場所は気を付けなきゃだよな」
「えーっと、この辺が半グレと繋がってる不良グループの縄張りじゃないっすか。その隣の縄張りが俺の元カレのとこっす」
「この辺そんな治安悪かったのか!?」
「治安はいいっすよ、縄張りって言っても名義あるくらいっす。隣町はカツアゲとかぼったくりバー多いんで裏通りは行かない方がいいっすけど、まぁ道と店にさえ気を付けてりゃ大丈夫っす」
「まぁ隣町は繁華街あるしな」
今レイが教えてくれた治安情報は明日彼氏達にも広めておこう、危険に巻き込まれないために大切なのは運と情報だ。
「水月はガタイいいしカツアゲとかの心配はないだろ。もう少し身体のラインが出る服の方がいいかもな」
「そういうとこ行かないようにするんで……ガタイにお尻関係ないでしょ、もう」
制服の上から歌見に尻を揉まれる。こういうスキンシップを許すからタチの威厳を示せていないのだと思いつつも触られるのは嬉しいので怒らずにいると、レイが恐る恐る俺の胸板を撫でた。
「…………好きに触っていいぞ?」
「……! マジ愛してるっすせんぱい!」
抱きつかれて歩みが止まる。フード越しの頭を撫でていると歌見に頭を撫でられた。ベタベタ触り合う男三人組は周囲にどんな目で見られているのだろうと視線を二人から外すと、こちらに走ってくる女が見えた。何かを抱えている、赤子か?
「水月? どこを見てるんだ? あっ……」
変わった光景に注いだ視線を歌見が追う。歌見は少し驚いた後「うわぁ」といった反応をし、深いため息をついて俺から手を離した。
「兄貴! バイト終わった?」
兄……あぁ、歌見の妹か。子供が出来て高校中退までしたのに男に逃げられて実家が修羅場だと聞いていたが、彼女自身に悲壮感はないな。赤ちゃんもぷくぷく太って健康そうだ。
「ねぇねぇ兄貴ぃ、隣のヤツがさぁ! ガキの泣き声がうっせぇんだよってぎゃあぎゃあ言ってきてさ、もー殴ってきそうな勢いでマジヤバだから逃げてきたワケ! 兄貴隣のヤツ何とかしてよ、前から壁ドンとかしてきてマジ怖いし!」
「仕方ないだろ……うちのアパートは独身専用で赤ちゃんの声に慣れてなかったり嫌いだったりする人が集まってるんだから。いい加減家に帰れ」
歌見は舌打ちまでして不機嫌を顕にしている。
「ジジイもババアもこれからどうする気だってうるさくて……うわめっちゃイケメン! 何、モデル!? 俳優!? 握手とサインください!」
「一般人です……」
「俺の後輩だ。この綺麗な顔したのが鳴雷、パーカー着てるのが木芽だ」
「あ、こっちもイケメン。カワイイ系」
「へっ? あ、ありがとう……」
不意に褒められて戸惑うレイは可愛らしい。眺めていると歌見に肩をつつかれ、耳元で小さな声で話された。
「あの声がデカくて見るからにバカなのは俺のバカな愚妹だ。アレのせいで大家、隣人からの苦情がすごい。正直赤ちゃんの泣き声よりアイツの金切り声の方が苦情が多い」
「はぁ……」
「あんなののせいでアパートを追い出されそうな上に、水月……お前を家に呼べなくなったと思うと、もう……縁切りたい」
かなり苦労しているようだ。近いうちに家に招いて癒してやらないとな、それが彼氏の務めってものだ。
「…………あの、赤ちゃん見たいんですけど」
「あ? あぁ……頼んでやる。おい、八昼、ちょっと──」
歌見から妹さんに頼んでもらい、赤ちゃんを傍で見せてもらった。
「こんな小さいのにちゃんと爪生えてる……! うわ、睫毛もある、すごい、細かい……!」
「気持ちは分かるが高いフィギュア見てるわけじゃないんだぞ、水月」
「顔にうぶ毛生えてるー!」
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