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ここに居るのは一人の人間
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店の中でギャン泣きしていたこともあり、今日はバイトを早めに上がらせてもらえた。けれど俺は歌見と話したかったから店の裏で彼と立ち話をした。
「パイセンが前にカラコンつけてた漫画なんですが、アレ読み切りより前に同人時代があったんですぞ。キャラとかはだいぶ違いますが世界観設定は同じでして、何より武装変形の見開きは下手すりゃ週刊連載のより力入ってまして……」
「へぇ……! それは知らなかったな、同人か……それじゃ今は手に入れられないのか?」
「そうですなぁ。再録は予定すらありませんしWEB公開もないでしょうし通販もありませんし」
「そうか……」
「ですがわたくしは三作全て揃えておりますぞ」
「読ませてくれ!」
「でーっそっそっそ……いいでしょう! 今度わたくしの家に来てくだされ。しかし売れっ子漫画家の絶版同人を見せるのですからそれなりの対価はいただきますぞ、身体でお支払いくだされ!」
「ふふっ……いいぞ、こんな身体でよければな」
歌見は俺の右手を掴んで自分の胸を触らせる。少し力を入れたただけでも柔らかい筋肉に指が沈み、手のひらに体温が伝わってくる。
「ふぉおお雄っぱぁい……!」
「ふふふ……可愛いなぁお前。カッコつけてるのよりそっちの方が好きだ」
「マジですか、パイセン趣味悪いでそ」
おふざけ半分で返しながらも、俺は素の自分を好きになってくれる人間なんてこの世には居ないと考えていたから、シュカに性格を気に入られたり歌見に本性を好かれたりという最近のラッシュに頭がどうにかなりそうだった。
「なぁ、俺は六番目だって言ってたが……七番目は居るのか?」
「いえ、まだ居ません」
「まだって……まだ作る気なのか? 昨今のハーレムアニメでも四~五人が限度だろ」
「食える可愛い男子が居るなら食っときたいじゃないですか、同じ男なら分かりましょう?」
「……据え膳食わぬは、って? ははっ……ま、もうお前が何股しようとどうでもいいさ、俺を蔑ろにしなければな」
数が増えても愛を割ることはない、俺の愛は常に掛け算だ。そう演説すると歌見は太陽のような笑顔を見せてくれた。
「くふふ……ん? どうした、水月。ぼーっとして」
「……先輩の笑顔、すっごい好きです」
「…………お前と居ると自己肯定感が育つよ」
抱き締められ、唇が重なる。キスは一瞬で抱き返す暇すらなかった。顔が赤いと互いに指摘し合って微笑んで、バイクの走行音に互いから視線を外す。
「お疲れ様っすせんぱい! もうお帰りっすか?」
バイクを停めてヘルメットを脱ぎ、乱れたピンクの髪に手櫛を通しながら少し照れくさそうに笑う。
「あぁ、今日は早めに上がらせてもらえた。レイは? もう終わりか?」
「はいっす。もう着替えて帰るだけっす、ちょっぱやで着替えてくるんで待ってて欲しいっす!」
「分かった。待ってるよ」
軽く手を振って見送り、歌見に視線を戻す。
「レイは五番目です」
「やっぱり……しかし、お前の男の趣味が分からんな。髪染めてるヤツがいいのか? 金髪にピンク頭、俺も一応染めてるしな……」
「別に染めてる子が好きって訳じゃありませんが、三番目の子もメッシュ入れてまっそ」
染めていないのはシュカだけだな、カンナはヅラだからノーカウントだ。
「あの学校染めていいのか? 意外と緩いんだな」
「偏差値高いんで」
「あぁ、自称進学校は校則キツくて本当に頭がいいとこは緩いって言うな……ムカつくんだよなぁ、その顔」
ドヤ顔をしていたら歌見に頬をつままれてしまった。
「……ん? 待て、あの金髪も同じ学校なのか? あんなにバカっぽいのに? あの名門校入ってるのか?」
「近くで見たわけでもないのにバカっぽいバカっぽいって……ま、確かにリュウどのはバカっぽいんですが。彼、特待生ですぞ。数学の」
「特待生!? 数学の!? スポーツ以外で特待ってあるんだな……」
「初めて聞いた時のわたくしと同じリアクションですな」
いぇーい、と特に意味もなく手を叩く。そんなじゃれ合いを楽しんでいると着替えを終えたレイが裏口から出てきた。今日も黒いパーカー姿だ。
「お待たせしましたっすせんぱい。今日は歌見せんぱいも一緒なんすか?」
「あぁ、構わないかな」
「全然大丈夫っすよ!」
目深にフードを被ったレイは満面の笑みを浮かべ、舌ピアスをチラリと見せた。
「えっと、木芽……だったよな」
「はい。なんすか?」
「……お前は水月が浮気しているのは平気なのか?」
「あ、歌見せんぱいに言ったんすねせんぱい」
俺からハーレムについて打ち明けたわけではなく、間抜けにも浮気がバレたという形だったということは言わないでおこう。説明が長くなるからであって、俺がカッコ悪く見えるからとかそんな理由ではない。
「俺はせんぱいのこと傍で見れたらそれで十分だったんす。なのに見つめ返してもらえて、触れてもらえて、愛してもらえて……不満なんてないっすよ」
「……そうか」
相変わらず健気なレイの頭を撫でて愛でる。
「歌見せんぱいは不満あるんすか? 心配しなくてもせんぱいは彼氏多いからって一人一人を雑に扱ったりしないっすよ。非処女の俺でも丁寧に丁寧に食べてくれたっす。監視カメラも盗聴器も置かせてくれましたし、愛してるとか好きとかしょっちゅう言ってくれますし、キスも多いっす」
「えっ……?」
歌見はレイの歳を知らないようで、俺と同い年もしくはそれより歳下に見えるレイが「元から非処女だった」というのは歌見の中では爆弾発言だったらしい。その上に監視カメラや盗聴器なんて犯罪アイテムの話をされたら硬直してしまっても仕方のないことだ。
「パイセンが前にカラコンつけてた漫画なんですが、アレ読み切りより前に同人時代があったんですぞ。キャラとかはだいぶ違いますが世界観設定は同じでして、何より武装変形の見開きは下手すりゃ週刊連載のより力入ってまして……」
「へぇ……! それは知らなかったな、同人か……それじゃ今は手に入れられないのか?」
「そうですなぁ。再録は予定すらありませんしWEB公開もないでしょうし通販もありませんし」
「そうか……」
「ですがわたくしは三作全て揃えておりますぞ」
「読ませてくれ!」
「でーっそっそっそ……いいでしょう! 今度わたくしの家に来てくだされ。しかし売れっ子漫画家の絶版同人を見せるのですからそれなりの対価はいただきますぞ、身体でお支払いくだされ!」
「ふふっ……いいぞ、こんな身体でよければな」
歌見は俺の右手を掴んで自分の胸を触らせる。少し力を入れたただけでも柔らかい筋肉に指が沈み、手のひらに体温が伝わってくる。
「ふぉおお雄っぱぁい……!」
「ふふふ……可愛いなぁお前。カッコつけてるのよりそっちの方が好きだ」
「マジですか、パイセン趣味悪いでそ」
おふざけ半分で返しながらも、俺は素の自分を好きになってくれる人間なんてこの世には居ないと考えていたから、シュカに性格を気に入られたり歌見に本性を好かれたりという最近のラッシュに頭がどうにかなりそうだった。
「なぁ、俺は六番目だって言ってたが……七番目は居るのか?」
「いえ、まだ居ません」
「まだって……まだ作る気なのか? 昨今のハーレムアニメでも四~五人が限度だろ」
「食える可愛い男子が居るなら食っときたいじゃないですか、同じ男なら分かりましょう?」
「……据え膳食わぬは、って? ははっ……ま、もうお前が何股しようとどうでもいいさ、俺を蔑ろにしなければな」
数が増えても愛を割ることはない、俺の愛は常に掛け算だ。そう演説すると歌見は太陽のような笑顔を見せてくれた。
「くふふ……ん? どうした、水月。ぼーっとして」
「……先輩の笑顔、すっごい好きです」
「…………お前と居ると自己肯定感が育つよ」
抱き締められ、唇が重なる。キスは一瞬で抱き返す暇すらなかった。顔が赤いと互いに指摘し合って微笑んで、バイクの走行音に互いから視線を外す。
「お疲れ様っすせんぱい! もうお帰りっすか?」
バイクを停めてヘルメットを脱ぎ、乱れたピンクの髪に手櫛を通しながら少し照れくさそうに笑う。
「あぁ、今日は早めに上がらせてもらえた。レイは? もう終わりか?」
「はいっす。もう着替えて帰るだけっす、ちょっぱやで着替えてくるんで待ってて欲しいっす!」
「分かった。待ってるよ」
軽く手を振って見送り、歌見に視線を戻す。
「レイは五番目です」
「やっぱり……しかし、お前の男の趣味が分からんな。髪染めてるヤツがいいのか? 金髪にピンク頭、俺も一応染めてるしな……」
「別に染めてる子が好きって訳じゃありませんが、三番目の子もメッシュ入れてまっそ」
染めていないのはシュカだけだな、カンナはヅラだからノーカウントだ。
「あの学校染めていいのか? 意外と緩いんだな」
「偏差値高いんで」
「あぁ、自称進学校は校則キツくて本当に頭がいいとこは緩いって言うな……ムカつくんだよなぁ、その顔」
ドヤ顔をしていたら歌見に頬をつままれてしまった。
「……ん? 待て、あの金髪も同じ学校なのか? あんなにバカっぽいのに? あの名門校入ってるのか?」
「近くで見たわけでもないのにバカっぽいバカっぽいって……ま、確かにリュウどのはバカっぽいんですが。彼、特待生ですぞ。数学の」
「特待生!? 数学の!? スポーツ以外で特待ってあるんだな……」
「初めて聞いた時のわたくしと同じリアクションですな」
いぇーい、と特に意味もなく手を叩く。そんなじゃれ合いを楽しんでいると着替えを終えたレイが裏口から出てきた。今日も黒いパーカー姿だ。
「お待たせしましたっすせんぱい。今日は歌見せんぱいも一緒なんすか?」
「あぁ、構わないかな」
「全然大丈夫っすよ!」
目深にフードを被ったレイは満面の笑みを浮かべ、舌ピアスをチラリと見せた。
「えっと、木芽……だったよな」
「はい。なんすか?」
「……お前は水月が浮気しているのは平気なのか?」
「あ、歌見せんぱいに言ったんすねせんぱい」
俺からハーレムについて打ち明けたわけではなく、間抜けにも浮気がバレたという形だったということは言わないでおこう。説明が長くなるからであって、俺がカッコ悪く見えるからとかそんな理由ではない。
「俺はせんぱいのこと傍で見れたらそれで十分だったんす。なのに見つめ返してもらえて、触れてもらえて、愛してもらえて……不満なんてないっすよ」
「……そうか」
相変わらず健気なレイの頭を撫でて愛でる。
「歌見せんぱいは不満あるんすか? 心配しなくてもせんぱいは彼氏多いからって一人一人を雑に扱ったりしないっすよ。非処女の俺でも丁寧に丁寧に食べてくれたっす。監視カメラも盗聴器も置かせてくれましたし、愛してるとか好きとかしょっちゅう言ってくれますし、キスも多いっす」
「えっ……?」
歌見はレイの歳を知らないようで、俺と同い年もしくはそれより歳下に見えるレイが「元から非処女だった」というのは歌見の中では爆弾発言だったらしい。その上に監視カメラや盗聴器なんて犯罪アイテムの話をされたら硬直してしまっても仕方のないことだ。
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