冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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泣き喚く俺の腰に左腕を回してベルトを掴み、右手でもベルトを掴み、少し持ち上げながら引きずる。動く気のない俺を運ぶ歌見は艶やかな吐息を漏らしているが、それに俺が気付くことはない。

「ごめんなさいっ、ごめんなざいぃぃっ……!」

「重いっ、な……お前。一旦落ち着け、とりあえずバックヤードに……」

「うっ、うぅ……ふっ……ぅあぁあああんっ!」

「うるさい!」

「ごべんなじゃいぃい……」

「……店長! 休憩入ります!」

「えっ!? ぁ、うん、いいよ!」

バックヤードに引きずり込まれて長椅子に座らされ、ペットボトル入りの麦茶を与えられる。

「ほら、飲め……一人で飲めないのか? ったく」

「んゔ」

蓋を外して口に押し付けて傾けてもらい、哺乳瓶でミルクを飲ませてもらうように麦茶を飲む。

「落ち着いたか?」

「ぜんばい……」

「そんなに泣いて。せっかくの綺麗な顔が台無し……でもないな、クソ、綺麗な顔しやがって」

「ごべんなざい……」

歌見は舌打ちの後ため息をつき、俺の隣に腰を下ろして麦茶を一口飲んだ。

「……まず、お前何で泣いてるんだ」

「ぜんばいが、ぎらいっでぇ……ぅう……」

「…………お前が浮気するからだろ」

麦茶が入ったペットボトルをぐしゃっと強く握り、深いため息をついてへこんだペットボトルを脇に置いた。

「……俺が本命なのか?」

「ちぎゃう……みんな本命……」

「あぁ!?」

「ひぃっ!?」

「あっ……いや、すまん。って何で俺が謝るんだ、俺が何をした……ちくしょう、クソ、これが惚れた弱みか」

再び麦茶を要求し、へこんだペットボトルを渡され、今度は自分で飲んだ。

「話、しようと思ったんです……でもぜんばいにぎらいっで言われでもぉわげ分がんにゃぐでっ……ぅ、うぅっ、ふ……うぁああんっ! やだあぁああっ! フラないでぇえっ!」

「泣くな! クソっ、話したいなら話せ!」

「ぎらわにゃいでごべんなざいぃい……」

「……っ、嫌ってない! 嫌いに、なれない。嘘だ、嫌いなんて」

「うっ、ぅ……ふ…………彼氏でいてくれますか?」

「…………お前がする話次第だ」

頷いて、麦茶を飲んで、咳き込んで、背をさすられて、深呼吸をして、混乱したままだけれど話すと決めて歌見を見つめた。

「……まず、あの男は誰だ?」

「彼氏です……二番目の」

「最初の彼氏と別れて、って意味じゃなさそうだな……俺が一番目とも思えないし、三股か?」

「ぜんばい六番目でず」

「はぁ!? なんっ、何、な、何……なんなんだお前」

歌見はもう怒ってはいない、呆れている。どう押せば彼氏に戻ってくれるのかの計算も、演技すらもろくに出来ない。このまま話せばボロを出してしまう、分かっているけれど話さなければならない。

「わたくし……ごうご、れびゅーなんれず」

「…………高校デビューなんです、って言ったのか? わたくし……? なんで急にかしこまったんだ」

「ぢゅーがぐのころれぶすでぇ……」

「中学の頃はデブス? ははっ……面白い冗談だ」

「痩ぜでっ、ぎんどれぢで、がんばって、カッコよくなったからぁ……ちょーしっ、乗って……ハーレム作っでやるっで……」

「……はー、れむ? ラノベの読み過ぎだろお前」

急に超絶美形になったのだ、異世界チートハーレムものラノベの主人公と大して変わらない。

「この顔すごい……いくらでも落とせる……」

「ムカつくなお前」

「だから感覚麻痺してっ……っていうかいきなりイケメンになって現実感持てって方が無茶ですぞ! プレイヤー気分でイケメン落としまくってゲーム感覚で楽しんでぇっ……そしたら、そじだらぁっ、しぇんぱい泣かせぢゃっだぁぁごべんなざいぃいぃぃ……」

「…………なんなんだ、もう……意味が分からない」

「六番目でずげど六分の一じゃないですからぁっ、どんな男や女よりぜんばいのごど愛じでましゅからぁっ、幸せにするからぁ……約束、するから……フラないでぇ」

深いため息をついた歌見はティッシュを一枚出し、半分に折ると俺の鼻を挟んだ。

「……ちーん」

「んんゔ……」

「ったく、綺麗な顔してるんだから涙はともかく鼻水はやめろ」

「いげめんでも人間なんれしゅ」

「いい加減に滑舌どうにかしろ、聞き取りにくい。あとイケメンの自覚あるのムカつく、自覚なくてもムカつくがな! クソっ……」

俺の鼻水と涙をある程度拭い、何枚ものティッシュをくずかごに捨て、戻ってきた歌見は俺にいくつも質問をした。俺は泣きながらそれに答えた、嘘偽りなく答えていれば彼氏に戻ってくれるかもしれないと淡い期待を抱いていた。

「──まとめると、お前は……中学卒業前に入院して激ヤセし、痩せるとイケメンになるタイプのデブスだと気付いたから筋トレなどで整えてそのルックスを手に入れたものの、イマイチ現実感がないので大好きなBLゲームの攻め様エミュをしてハーレムルートの如く気に入った男を貪っていたが、俺が泣いていたことでようやく事態の大きさに気付いて怖くなり、泣いている……ということか」

「自分が怖くて気持ち悪いですぞ……」

「美形を持て余したただのゲイのオタクだったって訳だ。はぁ……深刻さに怯えて泣くって、ガキか……クソっ、高一のガキだったな」

隠し通すつもりだった秘密まで全て話してしまった。歌見が腹いせに俺の過去を他の彼氏達に話したら俺の薔薇色生活は終わりを迎えるだろう。

「水月、歯を食いしばれ」

「はい……」

言われた通りにすると脳天に拳骨が振り下ろされた。頭どころか首にまで衝撃が響いた。あまりの痛みに呻きながら蹲ると、歌見に顔を掴まれて無理矢理彼の方を向かされた。

「……今のはお前が現実を見ていなかった分だ」

「痛いでそ……」

「…………俺はお前が好きだ。現実と妄想の区別がイマイチついてないバカなガキでも、お前の言葉と愛撫は嬉しかった。何より顔がいい」

面食いなのかな。

「……だから、別れない。別れたいくらいムカついてるけど、別れたくない。嫌いになれない、好きなんだ。だからな水月、約束しろ。今後一切俺に嘘や隠し事をするな、お前にそのつもりがなくても俺がそう感じたら次こそ別れる」

「分かりました……ありがとうございます、ありがとうございますぅっ、ありがどぉごじゃいまずぅゔぅぅ……」

「…………もう泣くな。ほら、キスしてやるから」

再び鼻水と涙を拭った後、歌見は俺の冷えた唇に一瞬だけの口付けをしてくれた。フラれたと思っていた彼からのキスはとても嬉しくて自然と口角が上がってしまう。

「……! ははっ……俺なんかにキスされて本当に喜ぶんだな。お前みたいな顔のいいヤツが……ぁあ、もう……好きだ、ちくしょう」

抱き締められたけれど抱き返していいのかどうか分からなくて、手をふらふらさせながら歌見に直接聞いてみた。彼は笑いながら許可をくれて、俺達は強く抱き締め合った。
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