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追いつきたい

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抱きついてきたレイを抱き返し、顔を包むように上を向かせて唇を重ねる。

「んっ……! ん、ぅ……」

レイはすぐに力を抜いて俺に身を任せる。受け身に慣れた対応に僅かな苛立ちを覚えた。

「わっ……! せんぱい? どうしたんすか? 遅刻しちゃうっすよ?」

ピンク色なんて奇抜な染髪が似合ってしまう、歳下にすら見える童顔。装飾品のための穴だらけの細くしなやかな肢体。レイの全ては美しく可愛らしい、そんな彼を男に抱かれることに慣れさせた過去の男が憎い。

「あ、朝からなんて……そんなっ、嬉しいっすけどダメっす! 遅刻しちゃうっす!」

レイの瞳が生きていた頃もあったんじゃないのか? 死んだ魚のような目は萌え要素ではあるが、嫉妬と憐憫が萌えを凌駕する。

「……一発抜かないと治まんない感じっすか? せんぱい」

「…………っ、いや、ごめん……そうだよな、遅刻しちまう……早く行かないと」

「お供するっす!」

押し倒してしまったレイに手を貸して起き上がらせ、自らの頬をパンッと叩いて表情を整える。

「えへへー、せぇーんぱい、俺とキスしてムラムラしちゃったんすよね? 朝っぱらから押し倒しちゃうなんて、このケダモノー……っす」

「はは、いやぁレイがあんまり可愛くて……ごめんな、乱暴な真似して」

「俺、結構乱暴なの好きなんすよ。お気になさらずっす」

それも元彼の仕込みか? なんてイラついてしまうほど、今の俺には余裕がない。表に出すほど余裕をなくしてはいないのがせめてもの救いだな。

「俺は気にするよ。レイのこと大切にしたい」

「リュウせんぱいにはあんなに酷いのにっすか?」

「アレはプレイみたいなもんだからなぁ……優しくすると嫌がるんだよアイツ。レイは大事にされるの嫌か?」

「大好きっす!」

「俺も彼氏は大切に大事に壊れ物を扱うみたいにしたいんだ。乱暴に……は、まぁ……そういうプレイしたいならしようか、でも普段からは無理だぞ」

「それでいいっす。色んなプレイして欲しいっす!」

元気に淫らなレイを見ていると浄化される。嫉妬も苛立ちもとりあえず治まって、彼を腕に抱きつかせて駅へ向かった。他の彼氏達と合流し、校門前でレイと別れる。

「じゃ、せんぱい、また店でっす!」

「おぅ、またなー」

「……のぅ水月、水月もう研修とかやのぉて普通に働いとるん?」

「ん? うん」

「ほーん……何やっとるん?」

レジはセルフなので、品出しや検品が主な業務だ。客からの質問やクレームに応えるのも仕事かな。

「──って、前にも言わなかったっけ」

「店遊びに行こ思とってなぁ、行ったら居るん?」

「店先に居るかどうかは微妙だけど……遊びにって、遊ぶ場所じゃないぞ、本選んで買ったらすぐ帰れよ」

「今日行くわ、ちょうど欲しい本もあるし……誰か一緒に来やん?」

シュカはテスト勉強、カンナは動物病院とそれぞれ断った。教室に居るだろうハルに聞く気はないようで、リュウは一人で行くと決めた。

「じゃあ待ってるよ、あんまり絡んでくるなよ? 俺は仕事中なんだから」

「分かっとるて、俺そこそこ常識人やねんで」

「それはまぁ……そうかもな」

元ヤンだの、盗聴器とカメラを仕掛けたテディベアを贈るヤツだの、とんでもないのが居るからな。ただドMなだけのリュウはマシな方だ。

「水月、今日の昼休みは分かっていますよね?」

「あぁ、分かってるよ。二日分だろ?」

シュカと昼休みのセックスの約束を取り付け、教室に入る。さて、憂鬱な授業の始まりだ。


一時間目の授業を終え、二時間目の授業の準備を終わらせる。つんつん、と肩をつつかれる。

「ハルか、珍しいな。どうした?」

「んー……ちょっと、内緒な話」

「内緒? 分かった」

二人で話したいようだったので、いつも活用している屋上への扉前の踊り場へ。

「それで? 話って? 日曜のライブの話か?」

「うん、それも……なんだけど」

「それも?」

「うん、土曜日なんだけどさ、みっつん……俺ん家来ない? 俺ん家泊まって、一緒に日曜ライブ行こうよ」

魅力的な提案だ。ウブなハル相手ではお泊まりだからと性行為は期待出来ないけれど。

「いいなそれ。そうしようか」

「やった! ご飯気合い入れるよう言っとくね」

「いやいや悪いよ……いつも通りでいいよ」

両親に挨拶することになるかもしれないなら、礼儀正しい服装にしなければな。もちろんダサくてはいけないが、オシャレ過ぎないように母に相談しなければ。

「それで、他の話は?」

「あ、えーっとね……その、もうちょい深めたいなーって。みっつんとの関係? ってやつ? 俺だけ方向違うから一緒にも帰れてないしさぁー」

「……疎外感、あるのか?」

「そこまでじゃないけどぉー」

むずむずと言いようのない焦りを感じているようだ。俺が何を言っても解消し切れるものじゃないだろうと、頭を撫でようと手を伸ばし──思うところがあって手を止める。

「……ん?」

赤いメッシュが混じった長い黒髪は今日は綺麗な編み込みが施されている。下手に頭に触れては崩してしまうかもしれない。

「んー? どったのみっつん。何この手」

「……あぁ、いや、撫でようとしたんだけど、髪型崩しちゃうかもなって」

「あははっ、途中で気付いて正解だよみっつん。崩されたら俺ブチ切れちゃうかもー」

「じゃあどこ撫でればいいかな?」

ハルは先程までの複雑な表情を捨て、ニコニコ笑顔で俺の手を握り、自身の顎に俺の手の甲を擦り寄せた。
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