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交互にあーん

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バイブのスイッチを切り、リュウに肩を貸そうとしたが足腰が立たないようで上手くいかなかった。

(ふむ、これは……お姫様抱っこチャンス!)

失敗すれば気まずいが、成功すれば俺はこの上なくカッコイイ。毎日筋トレを欠かさない俺はきっとリュウを抱き上げられる、出来る、イケる、大丈夫。

「……っ、と……! よし、イケた。リュウ、首に手回せ」

背中と膝の裏に腕を回してお姫様抱っこをしてやり、首にぶら下がるように腕を回したリュウに微笑みかけて職員室を後にした。

「…………水月ぃ、こないな運ばれ方するん俺初めてや。ええなぁ、カッコええわ、水月……ええ男や」

「ありがとな」

「……先生ん前で動かすやなんて酷いやないの」

「ごめんごめん、ちょっとしたイタズラのつもりだったんだよ。まさか腰抜かすとは思ってなかった」

かなり感度が上がっているようだなと嬉しくなり、自然と足が弾む。

「今度から手加減するよ、授業遅れるのはまずいもんな」

「……俺は別にええんやけど」

「よくないよ、本当ごめん」

「…………うん」

教師に言ってしまった手前、リュウを保健室へ連れて行かない選択肢はない。俺は彼を保健室のベッドに寝かせた後、屋上の扉前の踊り場へと向かった。

「みんなお待たせ、もう食べちゃったか?」

「みぃくんっ……!」

「おっと……カンナ? 珍しいな、結構大きな声出てたぞ」

踊り場へと着いた途端にカンナに抱きつかれた。もう全員食べ終わっているようだ。

「みぃくんっ、みぃくんっ……おべ、と……」

「あぁ、俺の弁当持っててくれたか?」

「とり、く……ねら、て……」

「シュカが狙ってたのか?」

平静を装っていたシュカに視線を移すと、彼はふいっと顔を背けた。

「はは……そっか、守ってくれてありがとな」

カンナの肩を撫で、シュカの隣に屈む。

「シュカ、お腹すいてるのか?」

「……別に。抱いてもらえない腹いせに弁当食ってやろうと思っただけですよ。お腹は、まぁ、その程度のお弁当ならペロリですが……別に食べるほどではありません。それでは、私は家庭科室の鍵をもらっておかないといけませんので……ちゃんとチャイムまでに全員連れてきてくださいね? 委員長」

「あ、あぁ……」

副委員長のシュカは先に家庭科室に向かって家庭科教師と授業の準備をする仕事が、委員長の俺には教室の戸締りとクラス全員を家庭科室へ連れていく仕事が、それぞれ割り振られている。

(ペロリです……って言いましたか? 今。余裕とか、食べられますとか、そういうのではなく……ペロリって言いましたよな今! 何その言葉のチョイス意外すぎますぞ訳分かりません)

本人としては何の気なしに言った擬態語なのだろうが、俺にとっては爆弾発言だ。脳がショートしてしまう。

「みっつんみっつんみっつんつん、ご飯食べないの?」

「な、何その呼び方……食べるよ、もちろん」

いつの間にか左右がハルとカンナに埋められていた。ここまで接近されているのに気付けないなんて、いくらなんでもボーッとし過ぎだ。ボロを出さないよう気を引き締めなければ。

「……ハル?」

弁当の蓋を開け、箸を出そうとしたその時、ハルが箸入れを掠め取った。

「何してるんだ、おふざけにしても子供っぽいぞ」

「俺がアーンしてあげる! みっつんは手ぇ楽にしてていいよ」

「……! ぼく、も……」

「思い付いたのも箸持ったのも俺だもーん」

ケラケラと笑うハルに対抗したいらしいカンナは俺の弁当箱を奪い、自らの箸を出して卵焼きをつまみ、俺に突き出した。

「みーくん……あーん」

「ありがとう。あーん……」

「はぁー!? 何それずっる! 他人の箸で食べるのなんか嫌だよねみっつん!」

「ん……いや、正直興奮する」

照れるカンナ、ナイロン袋を漁るハル。ハルの昼食は今日もサラダだけだったらしく、彼はサラダを食べるのに使ったのだろうドレッシングまみれのフォークを恐る恐る俺に見せた。

「……ドレッシング味付くのはちょっと」

「くっ……!」

ドレッシングは結構カロリーがあるのだ、母の完璧な計算を下手に崩す訳にはいかない。

「しぐしぐ、弁当箱抱え込むのやめてよー。俺もみっつんに食べさせたいんだからさぁ」

「……ゃ」

「カンナ、俺の弁当箱振り回すのやめてくれ……ひっくり返す未来が見える。俺が持つから交互に食べさせてくれないか?」

「ぅん……」

俺の言うことなら素直に聞いてくれるカンナの赤い頬を撫で、弁当箱を受け取ってハルに向かって突き出す。ハルは卵焼きをつまんだ。

「ハル、俺おかず満遍なく食べていく派なんだ。米が欲しいな」

「……こんなもん?」

「そうそう」

「あ、あーん……」

ハルは顔を真っ赤にして目を逸らしながら、手を震わせて俺にひとつまみの米を食べさせてくれた。

「ん、ありがとう。カンナ、次はほうれん草がいいな」

「うん。みぃくん、あーん……」

カンナも頬を赤らめてはいるが、俺をまっすぐに見つめているし、手も震えていない。普段から引っ付いているからか、以前カンナの家に遊びに行った経験が活きているのか……どっちだとしても萌えるな。

「ん、ありがとうな。なんか二人に食べさせてもらうと普段より美味しく感じるよ」

「そ、な……! ぇへへ……」

「もー、みっつん上手いなぁ」

照れる二人を肴に麦茶をあおり、幸せを噛み締めた。
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