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俺がお前に渡すもの
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レイからの返信はあったが、レイ自身は来ないまま夕飯の時間になった。ソワソワしてしまって料理の味が堪能出来ない。
「……ママ上、わたくし肉じゃがの玉ねぎはトロットロ派なのですが」
「あらそう。私はジャキジャキ派」
「ジャキジャキ食感は肉じゃがにはノイズでそぉ……」
まぁ、俺は食い意地が張っているので普段以下だろうと平均以上に料理を味わっているのだが。
「ん、インターホン鳴ったわよ。彼氏来たんじゃない?」
「ですな。見てきますぞ」
「新しい彼氏楽しみ~」
辛みが残る玉ねぎを飲み込み、玄関へと早歩き。一応覗き窓で外を確認してから扉を開けた。
「いらっしゃい、レイ」
「ぁ、せ、せんぱい……こんばんはっす」
ボストンバッグをぶら下げたレイは目深にフードを被っていたが、顔が真っ赤になっていることは容易に分かった。
「上がってくれ」
「あっ……待っ、ぁうぅ…………お邪魔しますっす」
「母さん居るけど気にしないでくれ。あぁ、お前が彼氏ってことは言ってあるから」
「へっ?」
素っ頓狂な声を上げるレイを放ってリビングの扉を開ける。そろそろと静かにリビングに入ったレイは酷く緊張している様子で、それでも礼儀としてなのかフードを脱いだ。
「こっ、こんばんは……お邪魔、してます」
「こんばんは、水月の母です。お名前は?」
「レイ、です。木芽 麗です……あ、あの、これ」
レイはボストンバッグの影に隠れていた紙袋を母に手渡した。近所のケーキ屋のものだ。
「クッキー? そんな気ぃ遣わなくてもいいのに~。ふふっ、ありがとうね。ゆっくりしていって、レイちゃん」
「は、はい……」
「レイ、飯買ってきたか? 準備手伝うよ」
これまたボストンバッグの影に隠れていたビニール袋の中を覗くと、コンビニ弁当が一つ入っていた。もっと準備に手間がかかる健康的なものを想定していたのだが……まぁいいか。
「レンジこっちだ、おいで」
「は、はいっす」
キッチンに誘導し、レンジを教える。弁当が温まるのを待つ間、俺はレイの背を軽く叩いた。
「そんな緊張すんなよ。母さん別に礼儀に厳しくないし、放任主義だからさ……レイ?」
俯いていたレイの顔を覗き込んでみると、彼の頬に涙が伝っていた。
「えっ!? ぁ……つ、強く叩き過ぎたか!? そんなつもりはっ、クソ、鍛え過ぎか……!」
「ち、違いますっす……せんぱい、違うんすよ、どこも痛くないっす。家呼んでくれてっ、ご飯ここで食べさせてもらえてっ……ご家族の方に、彼氏って言ってもらえて……僕嬉しくて、嬉しすぎて、涙が……」
「…………当然の対応をしてるだけのつもりなんだけどな」
今まで一体どんな恋愛をしてきたんだ? 自然にしているだけなのに泣かれては、こっちも対応に困る。
「ほら、弁当あったまったぞ」
「はい……」
席に着いた後もレイはぐすぐすと鼻を鳴らし、目を擦り、なかなか箸が進まない。そんなレイを気にしつつ肉じゃがをつついていると、机の下で母に足を蹴られた。
「……ねぇ、ちょっと、なんで泣いてんの? 水月、あんた何かしたんじゃないでしょうね」
「違うよ……なんか、家に招かれたのとか、ちゃんと家族に紹介されたのが嬉しいとか言ってて……」
「何、元カレDV系?」
セフレ扱いされていたとしか聞いていない、暴力までは受けていないと思いたいが……この喜びようじゃ過去に何があっても驚けないな。
「……ね、レイちゃん。レイちゃんは水月にどんな風に口説かれたの?」
「ちょっ」
「ぁ……か、可愛いって……彼氏にならないかって、言って、もらえて」
「あら何それ。色気ないわね~、もっと気の利いたこと言いなさいよ」
「状況が状況だったんだよ!」
母が上手く話題を振ってくれてレイは涙目ではあったが騒がしく楽しい時間を過ごすことが出来た。そのおかげかレイを部屋に連れ込むのも比較的スムーズにこなせた。
「せんぱいのお部屋……!」
レイもすっかり元気になって俺の部屋の写真を撮りまくっている。
「えーっと……レイ? 一旦止まってくれ、話がしたい」
「はいっす! お話って何っすか?」
「プレゼント、渡すって言ったろ?」
俺はバイト帰りに寄った靴屋で作ってもらった物をポケットから取り出し、レイの手のひらに落とした。
「……何っすか? これ。鍵っ……すか?」
今日行った靴屋は合鍵制作もやっている店だ。そう、レイに渡したのはこの家の合鍵だ。
「この形……まさか、この家の鍵っすか?」
なんで形で分かるんだよ怖いな。
「そうだよ。レイ、いつも朝早くから外で待っててくれてるだろ? 今日、本当に早くから居るんだなって思ってさ……そんなに長く外で待たせるのは悪いから、着いたら勝手に上がって、家の中で待ってて欲しくてな」
「合鍵……合鍵っ、合鍵なんてっ、そんなせんぱいっ、せんぱい、せんぱいっ……せんぱいに合鍵、家の鍵っ、せんぱいが鍵くれた、僕に家の鍵っ……せんぱい、せんぱいせんぱい、せんぱいせんぱいせんぱい……!」
「落ち着け落ち着け。そんな感激することじゃないだろ……あ、分かってると思うけど俺と母さんが外出中に上がり込んで家探しとかはやめてくれよ」
「しっ、しないっすよそんなこと!」
なんか怪しい返事だな。まぁ、見られて困るものはもう見られる場所には存在しないから、俺個人としては別にいいけど。
「……せんぱい、俺のこと信用してるんすね。合鍵なんか渡して……俺が泥棒とかしちゃったらどうするんすか」
「レイはそんなことしない」
「俺のこと、ほとんど何も知らないくせに……」
「本名と本職と実年齢は知ってるぞ」
「ふふっ……最初、顔だけで惚れたんすけど……後から後からどんどん好きになってくっす。こんなの初めてっすよ」
過去の酷い男共なんて忘れられるように優しく優しく接してやろうと決めた俺は、早速レイの頬を手の甲で撫でた。
「せんぱい……」
するとレイは目を閉じて少し俺の方を向き、僅かに唇を突き出した。キスの誘いのつもりはなかったのだが、彼の勘違いは僥倖だ、してしまおう。
「……ママ上、わたくし肉じゃがの玉ねぎはトロットロ派なのですが」
「あらそう。私はジャキジャキ派」
「ジャキジャキ食感は肉じゃがにはノイズでそぉ……」
まぁ、俺は食い意地が張っているので普段以下だろうと平均以上に料理を味わっているのだが。
「ん、インターホン鳴ったわよ。彼氏来たんじゃない?」
「ですな。見てきますぞ」
「新しい彼氏楽しみ~」
辛みが残る玉ねぎを飲み込み、玄関へと早歩き。一応覗き窓で外を確認してから扉を開けた。
「いらっしゃい、レイ」
「ぁ、せ、せんぱい……こんばんはっす」
ボストンバッグをぶら下げたレイは目深にフードを被っていたが、顔が真っ赤になっていることは容易に分かった。
「上がってくれ」
「あっ……待っ、ぁうぅ…………お邪魔しますっす」
「母さん居るけど気にしないでくれ。あぁ、お前が彼氏ってことは言ってあるから」
「へっ?」
素っ頓狂な声を上げるレイを放ってリビングの扉を開ける。そろそろと静かにリビングに入ったレイは酷く緊張している様子で、それでも礼儀としてなのかフードを脱いだ。
「こっ、こんばんは……お邪魔、してます」
「こんばんは、水月の母です。お名前は?」
「レイ、です。木芽 麗です……あ、あの、これ」
レイはボストンバッグの影に隠れていた紙袋を母に手渡した。近所のケーキ屋のものだ。
「クッキー? そんな気ぃ遣わなくてもいいのに~。ふふっ、ありがとうね。ゆっくりしていって、レイちゃん」
「は、はい……」
「レイ、飯買ってきたか? 準備手伝うよ」
これまたボストンバッグの影に隠れていたビニール袋の中を覗くと、コンビニ弁当が一つ入っていた。もっと準備に手間がかかる健康的なものを想定していたのだが……まぁいいか。
「レンジこっちだ、おいで」
「は、はいっす」
キッチンに誘導し、レンジを教える。弁当が温まるのを待つ間、俺はレイの背を軽く叩いた。
「そんな緊張すんなよ。母さん別に礼儀に厳しくないし、放任主義だからさ……レイ?」
俯いていたレイの顔を覗き込んでみると、彼の頬に涙が伝っていた。
「えっ!? ぁ……つ、強く叩き過ぎたか!? そんなつもりはっ、クソ、鍛え過ぎか……!」
「ち、違いますっす……せんぱい、違うんすよ、どこも痛くないっす。家呼んでくれてっ、ご飯ここで食べさせてもらえてっ……ご家族の方に、彼氏って言ってもらえて……僕嬉しくて、嬉しすぎて、涙が……」
「…………当然の対応をしてるだけのつもりなんだけどな」
今まで一体どんな恋愛をしてきたんだ? 自然にしているだけなのに泣かれては、こっちも対応に困る。
「ほら、弁当あったまったぞ」
「はい……」
席に着いた後もレイはぐすぐすと鼻を鳴らし、目を擦り、なかなか箸が進まない。そんなレイを気にしつつ肉じゃがをつついていると、机の下で母に足を蹴られた。
「……ねぇ、ちょっと、なんで泣いてんの? 水月、あんた何かしたんじゃないでしょうね」
「違うよ……なんか、家に招かれたのとか、ちゃんと家族に紹介されたのが嬉しいとか言ってて……」
「何、元カレDV系?」
セフレ扱いされていたとしか聞いていない、暴力までは受けていないと思いたいが……この喜びようじゃ過去に何があっても驚けないな。
「……ね、レイちゃん。レイちゃんは水月にどんな風に口説かれたの?」
「ちょっ」
「ぁ……か、可愛いって……彼氏にならないかって、言って、もらえて」
「あら何それ。色気ないわね~、もっと気の利いたこと言いなさいよ」
「状況が状況だったんだよ!」
母が上手く話題を振ってくれてレイは涙目ではあったが騒がしく楽しい時間を過ごすことが出来た。そのおかげかレイを部屋に連れ込むのも比較的スムーズにこなせた。
「せんぱいのお部屋……!」
レイもすっかり元気になって俺の部屋の写真を撮りまくっている。
「えーっと……レイ? 一旦止まってくれ、話がしたい」
「はいっす! お話って何っすか?」
「プレゼント、渡すって言ったろ?」
俺はバイト帰りに寄った靴屋で作ってもらった物をポケットから取り出し、レイの手のひらに落とした。
「……何っすか? これ。鍵っ……すか?」
今日行った靴屋は合鍵制作もやっている店だ。そう、レイに渡したのはこの家の合鍵だ。
「この形……まさか、この家の鍵っすか?」
なんで形で分かるんだよ怖いな。
「そうだよ。レイ、いつも朝早くから外で待っててくれてるだろ? 今日、本当に早くから居るんだなって思ってさ……そんなに長く外で待たせるのは悪いから、着いたら勝手に上がって、家の中で待ってて欲しくてな」
「合鍵……合鍵っ、合鍵なんてっ、そんなせんぱいっ、せんぱい、せんぱいっ……せんぱいに合鍵、家の鍵っ、せんぱいが鍵くれた、僕に家の鍵っ……せんぱい、せんぱいせんぱい、せんぱいせんぱいせんぱい……!」
「落ち着け落ち着け。そんな感激することじゃないだろ……あ、分かってると思うけど俺と母さんが外出中に上がり込んで家探しとかはやめてくれよ」
「しっ、しないっすよそんなこと!」
なんか怪しい返事だな。まぁ、見られて困るものはもう見られる場所には存在しないから、俺個人としては別にいいけど。
「……せんぱい、俺のこと信用してるんすね。合鍵なんか渡して……俺が泥棒とかしちゃったらどうするんすか」
「レイはそんなことしない」
「俺のこと、ほとんど何も知らないくせに……」
「本名と本職と実年齢は知ってるぞ」
「ふふっ……最初、顔だけで惚れたんすけど……後から後からどんどん好きになってくっす。こんなの初めてっすよ」
過去の酷い男共なんて忘れられるように優しく優しく接してやろうと決めた俺は、早速レイの頬を手の甲で撫でた。
「せんぱい……」
するとレイは目を閉じて少し俺の方を向き、僅かに唇を突き出した。キスの誘いのつもりはなかったのだが、彼の勘違いは僥倖だ、してしまおう。
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