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相似の歌声

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一時間目は移動教室だ。最低限の筆記具を持って各々で移動し、五人の班を作る。この班は決められたものではなく、自由だ。もし俺がキモオタデブスのままなら詰んでいた。

「理科の実験ってなんかワクワクするよね~」

「テスト二週間前に実験……あまり段取りがいいとは思えませんね」

「手厳しいな。そういえば中間テストで点数勝負するんだっけ?」

テストの存在をすっかり忘れていた。歌見やレイなどの歳上組に教えを乞うのもいいかもな。

(勉強よりも大切なこと、教えてください……ありがち過ぎますな……方程式よりあなたの性感帯が知りたい……ちょっと下品ですな、うぅむ……む? わたくしは何故セックスになだれ込む際のセリフを考えているのでしょう)

俺は勉強に向いていないのかもしれない。客観的に考えて、俺の顔なら勉強なんて出来なくてもいいのではなかろうか。

「絶対勝ったるわ」

「勝つのは俺!」

「二人とも特化型だよな。シュカはオールラウンダーだったな。カンナは?」

「ぼ、く……得、なの……な……」

「得意なのない? そっか、俺とお揃いだな」

彼氏達の中で一番点数が低いなんてことになったら、ハーレム主としての沽券に関わる。頭がよさそうなシュカはともかく、アホキャラの位置についているリュウやハルには負けられない。

「チャイムそろそろ鳴りますよ、座りましょう」

今日の実験は、実験と言うよりは工作に近い。分子模型の制作だ。発泡スチロールや竹串を使う図画工作のような時間にクラスメイト達は浮き足立っている。

「分子とかよく分かんないんだよな……目に見えないし」

「みっつんに同意~。これ一億倍モデルっしょ? 一億倍とかもう想像も出来なーい。小学生が言ってそう」

何だか頭の悪い会話をしてしまったな。

「鳥待、それ酸素用のボールや。俺ら作っとるんアンモニア分子やで」

「おや」

「窒素用のボールこっちや。水月ー、自分ら水分子担当やろ、酸素用ボールそっちや」

「あ、あぁ……ありがとう」

リュウが理数系得意なの納得いかないんだよな。
水分子担当とアンモニア分子担当に別れたのはいいが、五人を二つで割ったせいでカンナがオロオロしているし、俺も混乱しているせいでカンナに仕事を振れないし、今日は調子が悪い。



手先の器用さには自信がある。模型自体は上手く出来たが、すっかり自信を砕かれてしまった。二時間目は音楽だ、移動教室が続くせいで彼氏とイチャつけなくて更に落ち込んでしまう。

「音楽か~。リコーダーのミニテスト前やったよね?」

「今日は声楽だと先生が先週話していたでしょう」

「声楽って……え、歌うん? 嫌やなぁ」

「カミアの歌なら自信あるんだけどな~、学校でやるのって聞いたことない合唱曲とか童謡とかばっかでさぁ~、つまんないよねー」

カミアの名を聞いてついカンナを見下ろしてしまう。俺の腕にぎゅっと抱きついている彼は照れくさそうに頬を赤らめた。

(カンナたそがカミアどのの双子の弟だと知ったらハルどのはどんな反応するんでしょうなぁ。ま、カンナたそは知られるの嫌がりそうなので言いませんが、気にはなりますな)

赤くなった頬に触れるとほんのりと温かい。柔らかい頬をふにふにと弄んでやると、カンナは小さく高い声で「んー」と嬉しそうに声を漏らした。

「ま、カラオケは九十点以上しか取ったことないし? 俺の美声聞かせたげるって感じ?」

「うっわムカつくわー。鳥待自分歌どうなん」

「音程に自信はありませんが、肺活量には自信がありますよ」

「音程あかんかったらもう全部あかんわ。俺も音程あかんけど」

シュカとリュウは音痴なのか? まぁ、ああいうこと言ってるヤツこそ上手かったりするものだが。

(わたくしもアニメやエロゲーの歌なら自信あるのですが)

課題曲はどうせ聞いたこともない合唱曲だろう。そう思っていた俺達に配られたプリントには、一昔前に流行ったJポップソングの楽譜が書かれていた。

「CMで聞いたことあるー! こういうのやるんだ」

「合唱ではなくグループ歌唱のテストらしいですよ。五人グループだそうですが……組み方、どうします?」

「決まっとるやろ」

俺達は再び授業中に集まることが出来た。歌の練習と称してのお喋りも楽しめる。

「二部合唱ですね。上と下どうします?」

「みっつんとしゅーは低い方っしょ。りゅーと俺は高い方ね」

「俺高い方でええのん?」

「地声高めだし、俺だけじゃバランス悪いもん」

ハルは自然とカンナを頭数から外している。わざとではないのだろうが、だからこそ心象が悪い。

「カンナ、カンナも高い方やるか? 声高めだもんな」

「ぅ、ん……」

「リュウ、カンナ頼むよ」

「俺教えたりは出来へんで? 歌は苦手や」

「隣で歌って釣らせてやってくれ」

教師は音楽室内を歩き回っている。いつまでもお喋りを楽しんでいては成績を下げられてしまう。そろそろ練習しなければ。

「一回最後まで流します、歌えそうなら歌ってください」

配られたノートパソコンから音楽が再生される。CMなどで聞き覚えはあるが、Aメロあたりは知らないので楽譜を見ながら音を聞きながら小さく歌ってみる。

「…………?」

小さいが、非常に綺麗な歌声が聞こえた。

「……っ!? ちょっと音楽止めて今歌ったの誰!?」

「ちょっと……一回通すと言ったでしょう。皆さん歌ってますよ、他のグループも」

「カミアにめっちゃ似てたんだって! 声も! 歌い方も! 今の誰!?」

「知らんがなもう鬱陶しいのぉ。ええから続け、鳥待」

「あなたに指図されなくても続けますよ」

音楽の再生が再開される。ハルは歌わずに耳を澄まし、リュウとシュカは小さな声でテンポを覚え、カンナは口を噤んで楽譜を持つ手を微かに震わせていた。

「…………カンナ」

左手に楽譜を移し、カンナの腰に右腕を回す。すると彼は少し落ち着いた様子で、けれども声は発さず、俺に擦り寄った。

「ここまで、ですね。テスト範囲は。なかなか難しい曲です……テンポが掴みにくい」

「何回か聞いとったら慣れるやろ」

「二回目居なかった……めっちゃ似てたのになぁー、モノマネ動画撮ったら確バズレベルで似てたのにぃー。マジで誰? 他のグループかなー」

「幻聴じゃないか?」

「なわけないじゃん! みっつんのバカ!」

授業が終わるまで何度か練習をしたが、カンナは一切声を上げず、四人だけが少し上達した。
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