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おまけ
おまけ 慰謝料請求請求
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※水月ママ視点 854話~の裏、仕事場でのお話。
今日も大切な家族を養うため張り切ってお仕事! 最近水月は外泊が多くて寂しいけれど、夏休みになり恋人と過ごす時間が増えたのだから仕方ない。全盛期の私ほどではないけれど、結構恋人の数が多いみたいだし。
「鳴雷さん! 今日のランチ御一緒させていただいても……」
「ごめんなさい、お昼ご飯食べる予定があるから出来ないわ」
葉子が嫉妬深くなければ本屋の店長以外の彼女を作ってもいいのだが……まぁ、学生時代と違って自由になる時間もそんなにないし、性欲も減ってきた、二人で十分だろう。
「鳴雷さん、いいバーを見つけたのですが……」
「いいわね、住所教えてくれる? 今度恋人と行くわ」
会社での私の部屋に着くまでに数人の男をフり、ため息をつきながら席に着く。パソコンを立ち上げながらスマホを確認し、水月が毎日こまめに送ってくる食事内容からカロリー計算を行う。
「……ちょっとビタミン足りないわね」
もちろんカロリーだけでなく、栄養の偏りも見る。オススメの食材と訂正した筋トレメニューを送信し、仕事を始める。
昼休憩。パソコンで動画を見ながら自作の弁当をつついていると、専務室の扉がノックもなく開かれた。
「どーもー」
漫才師のような挨拶をした男は何の遠慮もなくキャスター付きの椅子に腰を下ろした。
「乙女の部屋に入る時はノックくらいしなさいよ、つーか来るんじゃないわよ」
「俺用の椅子用意してくれてるくせに~」
「椅子なかったら机に座るからよ。社長に尻尾振ってなくていいわけ? 私に何の用? 仕事の話?」
「子供の話」
男はビリビリと音を立てて包装を剥がし、大きなジャーキーに歯を突き立てた。歯に当たる音が私にまで聞こえるほど硬いそれを食いちぎり、左手の薬指の指輪を輝かせながら、男はニヤリと笑った。
「……九月に子供産まれるんだっけ」
「それは社長のですね。俺とは血縁的にも戸籍的にも親子関係はない……そっちの話もしたいんですが、そっちじゃないですよ、あなたの息子のことです」
「水月……? それとも秋風?」
「水月、そうそうそんな名だった。俺、前に半日休んだでしょ。あの時穂張組の方に顔出してたんです、あの辺で出回ってたヤク見つけたって連絡あったんで……」
穂張と聞いて胸騒ぎがした。水月は確か、あそこの三男坊を口説こうとしていた。一応止めたが、止まったかどうかは分からない。そのことだろうか。
「そしたら三男とその水月くんが一緒に居ましてね、しかもボッコボコだったんですよ。顔。身体は見てないんで知りませんが」
「……は!? ボ、ボコボコ? 水月がっ? 嘘、そんなっ」
今朝のメッセージの返信はいつも通り「ありがとうございまそ、参考にしまっそ~」だった。何の変化もなかった。
「俺あなたに見せられて水月くんの顔知ってたんで声かけたんです、自己紹介もほどほどに俺に一発ヤらせてって言ってきましたね」
「……アンタ無駄に色気あるからね。んなことどうでもいいのよ」
「注意しといた方がいいですよ~? セクハラ発言が大炎上するニュースは一秒間にケチャップはいいけどトマトジュースは嫌いって誰かが呟くよりも多く報道されてますからね、昨今」
「水月がボコボコだった話をしなさい!」
思わず机を叩くと男は目を見開き、髪を逆立たせた。しかしすぐに落ち着き、強ばっていた表情も柔らかい微笑みに戻った。
「水月に何があったの! まさか穂張の連中が何かしたんじゃないでしょうね!」
「違います違います……ウチの弟ですよ。従兄弟の國行、知ってますよね? アイツの元セフレと水月くんがデキてて、別れたつもりはなかった國行が水月くんにセフレちゃん盗られたと思ってキレたっぽいんですよね」
「はぁ……!? ア、アンタんとこの従兄弟って確か、二メートルあったわよね……嘘でしょそんなの水月死んじゃう!」
「前に顔殴られたヤツは顔面陥没したし、腹殴られたら内臓痛めたり破裂したりするんで、早急に病院に行くことをオススメしますね……っていうか勧めといたんですけど、水月くん素直に行ったんでしょうか? その治療費を始めとして慰謝料を請求していただきたいんですが、まだ金額決まってないみたいですね。水月くんから今回のこと聞いてないんですか?」
「聞いてないわよ……何一つ」
水月は私に何でも相談してくれると思っていた。キスの仕方も、デートに着ていく服も聞いてきたから、隠し事なんてしないのだと思い込んでいた。
違った。私は水月の彼氏の元カレの存在すら知らなかった、大切なことは何も相談してくれていなかった。水月はいつもそうだ、イジメられても黙っていた、セイカと付き合い始めたことも黙っていた、黙ったままアイツを家に匿っていた。
「……どうして何でも相談してくれるって思ってたのかしら、あの子は……自分が本当に辛い時は黙り込んじゃうのに。いつも、そうなのに」
毎日顔を合わせて話していれば、殴られるようなことになる前に気付けたかもしれない。外泊に一切制限をかけなかったのは失敗だったのだろうか。
「今回のことは國行にだいぶ非があるんで、いくらでもお支払いしますよ」
「……どーも」
写真でしか見たことがないけれど、ヤツは身長が二メートルもある上に筋骨隆々でもあったはずだ。水月には毎日筋トレをさせているし、ダイエット中はランニングも何十キロとさせていたけれど、その体格差は恐ろしい。
「…………」
心配だ。どこか骨を折ってはいないだろうか、内臓を痛めてはいないだろうか、病院にはちゃんと行ったんだろうか、気になって気になって弁当をつつく手が止まった。
「……そうそう、その場に秋風くんも居たんですよ」
「何、また欲しがるの。いくらでも売らないわよ」
このアルビノマニアの変態は写真を見せて以来ずっとアキを欲しがっている、見せなければよかったとしょっちゅう後悔する羽目になった。
「彼……俺を國行と勘違いしたらしくて、見た瞬間に手元にあった刃物投げてきたんですよね。俺じゃなかったら目潰れてたんじゃないでしょうか、國行俺よりは反射神経悪いし……」
「そうなの……悪かったわね。でもアンタの従兄弟が悪いのよ、何ともなかったんだしいいでしょ」
「ええ、話したいのはそんなことじゃありません」
骨を噛むような音を立ててジャーキーを食いちぎり、飲み込んだ男は人差し指を立てた。
「やっぱりあの子俺にください。人間の急所に刃物を投げ付ける際の躊躇のなさと判断の速さ、投擲の正確さ……才能がありますよ」
「……メイドの?」
男の雰囲気が変わって気味が悪くて、茶化すように言ってみた。
「写真見せてもらっただけの頃は単に俺専用お茶汲みメイドとして欲しかっただけなんですが、今は違います。犬として欲しい。穂張組には俺の仔犬が数人居ます、フタを始めとして彼の弟分数人は俺が拾った仔犬です」
「…………犬、ってのは何の隠語かしら」
「何でも屋ですね。クラッキング得意なヤツも居るし、逆にデジタル壊滅的だけど人の心に入り込むのが上手いヤツも居る……コイツらは情報収集役ですね。フタは恵まれたフィジカルから戦闘要員として調教しましたが、騙されやすくて忘れっぽくて温厚なのでイマイチ扱いにくくて……まぁ疑わず命令を聞いてくれるとこはいいとこですけど」
ヤクザをより強化して専門的にした連中……ってことかしら。何に使ってるの? 産業スパイか何か?
「サンにも稽古をつけてやったんですが、あの子途中で組長辞めちゃいましたし……ヒトは俺の稽古受けてくれなくて。だからアイツ経営下手だしガチのステゴロとなると弱いんですよね」
「……穂張組の連中なんてどうでもいいのよ、アキは渡さないわ」
「殺人、ってのは才能が要る。人を殺しても悪夢を見ない人間……これやったらコイツ死ぬなって時に一瞬も止まらず動ける人間、殺人に抵抗のない人間というのは……案外少ない」
何を至極当然のことをそれらしく話しているんだか、そんな人間ばかりだったら集団が成り立たない。
「フタすら相手を殺すとなると止まっちゃうんですよね、ヒトは悪ぶってるんで俺や子分が居ればカッコつけて殺しますが……予後はフタの方が優秀です、彼はすぐに忘れてしまいますから。ヒトは子分には気取らせませんが結構気にします」
「だから何なのよ、連中の情報なんてどうでもいいのよ! ヤクザのことなんてこれ以上知りたくない! 私は普通に生きたいの、水月にも穂張には近付いて欲しくなかったのに……!」
「アキくんは躊躇なく人を殺せるタイプかもしれない」
「なっ……! なんてこと言うのよ! そんな訳ないじゃない!」
「確証はありませんが、違ったとしてもまぁ優秀そうではあるんでメイドではなく俺の仔犬として欲しいんですよね」
仔犬なんて可愛い言い方をしているが、この男の手駒でしかない。アキをそんなものにさせてたまるか。
「調教してみたいんです、何週間か貸してくれませんか?」
「嫌よ、絶対に」
「……そうですか、残念」
「アキはね、イカれた親父に無理矢理バカみたいな訓練させられてたのよ。自分の息子を歴史に残したいって、白い死神の名前をアキのものにしたいって、伝説の傭兵にするんだって……」
「白い……あー、某国のスナイパーさんでしたっけ」
「せっかく中二病男から逃げられたんだから、あの子は普通に幸せになるんだから、暴力なんかからは足を洗うんだからっ、アンタはもう二度とアキに近付くな!」
「……そういう訳にもいかないんでしょう?」
立ち上がって見下ろしているのに、男は私を見上げているのに、男の目は私を見下している。そう感じる。
「そのお父さん、来るんですよね。近いうちに……日本に。離婚したからってアキと会えなくなるのはおかしいって」
「……ええ」
「話し合いの場に俺を呼んだのはあなたでしょう?」
従軍経験のない単なるミリオタ、中二病の自称軍のスペシャリストとはいえガタイの良さや格闘技術は本物。暴れられたら私と葉子の女二人ではどうしようもない、だから父親が日本に来ると決まった時に私は彼を頼った。頼ってしまった。
「そうなれば自動的に俺はアキくんに会うことになりますよ」
「……そうね、だとしても何もさせないわ」
「そうですか。まぁ俺は國行と違ってそんな実力行使とか強引とか無理矢理とか嫌いなんで大丈夫ですよ。それじゃ俺はこれで」
面倒臭いことにならないよう私に恋愛感情を抱いていないというのを第一条件にして探したのが悪かった。私をエサに何人も男を利用してしまえばよかった。こんなヤツ頼るんじゃなかった。
「……この嘘つきドS野郎」
去っていく彼の背に、本心を語ることのないヤツの背に、人を踏み躙ることが趣味のようなアイツの背に、効くことのない悪口を吐いた。
今日も大切な家族を養うため張り切ってお仕事! 最近水月は外泊が多くて寂しいけれど、夏休みになり恋人と過ごす時間が増えたのだから仕方ない。全盛期の私ほどではないけれど、結構恋人の数が多いみたいだし。
「鳴雷さん! 今日のランチ御一緒させていただいても……」
「ごめんなさい、お昼ご飯食べる予定があるから出来ないわ」
葉子が嫉妬深くなければ本屋の店長以外の彼女を作ってもいいのだが……まぁ、学生時代と違って自由になる時間もそんなにないし、性欲も減ってきた、二人で十分だろう。
「鳴雷さん、いいバーを見つけたのですが……」
「いいわね、住所教えてくれる? 今度恋人と行くわ」
会社での私の部屋に着くまでに数人の男をフり、ため息をつきながら席に着く。パソコンを立ち上げながらスマホを確認し、水月が毎日こまめに送ってくる食事内容からカロリー計算を行う。
「……ちょっとビタミン足りないわね」
もちろんカロリーだけでなく、栄養の偏りも見る。オススメの食材と訂正した筋トレメニューを送信し、仕事を始める。
昼休憩。パソコンで動画を見ながら自作の弁当をつついていると、専務室の扉がノックもなく開かれた。
「どーもー」
漫才師のような挨拶をした男は何の遠慮もなくキャスター付きの椅子に腰を下ろした。
「乙女の部屋に入る時はノックくらいしなさいよ、つーか来るんじゃないわよ」
「俺用の椅子用意してくれてるくせに~」
「椅子なかったら机に座るからよ。社長に尻尾振ってなくていいわけ? 私に何の用? 仕事の話?」
「子供の話」
男はビリビリと音を立てて包装を剥がし、大きなジャーキーに歯を突き立てた。歯に当たる音が私にまで聞こえるほど硬いそれを食いちぎり、左手の薬指の指輪を輝かせながら、男はニヤリと笑った。
「……九月に子供産まれるんだっけ」
「それは社長のですね。俺とは血縁的にも戸籍的にも親子関係はない……そっちの話もしたいんですが、そっちじゃないですよ、あなたの息子のことです」
「水月……? それとも秋風?」
「水月、そうそうそんな名だった。俺、前に半日休んだでしょ。あの時穂張組の方に顔出してたんです、あの辺で出回ってたヤク見つけたって連絡あったんで……」
穂張と聞いて胸騒ぎがした。水月は確か、あそこの三男坊を口説こうとしていた。一応止めたが、止まったかどうかは分からない。そのことだろうか。
「そしたら三男とその水月くんが一緒に居ましてね、しかもボッコボコだったんですよ。顔。身体は見てないんで知りませんが」
「……は!? ボ、ボコボコ? 水月がっ? 嘘、そんなっ」
今朝のメッセージの返信はいつも通り「ありがとうございまそ、参考にしまっそ~」だった。何の変化もなかった。
「俺あなたに見せられて水月くんの顔知ってたんで声かけたんです、自己紹介もほどほどに俺に一発ヤらせてって言ってきましたね」
「……アンタ無駄に色気あるからね。んなことどうでもいいのよ」
「注意しといた方がいいですよ~? セクハラ発言が大炎上するニュースは一秒間にケチャップはいいけどトマトジュースは嫌いって誰かが呟くよりも多く報道されてますからね、昨今」
「水月がボコボコだった話をしなさい!」
思わず机を叩くと男は目を見開き、髪を逆立たせた。しかしすぐに落ち着き、強ばっていた表情も柔らかい微笑みに戻った。
「水月に何があったの! まさか穂張の連中が何かしたんじゃないでしょうね!」
「違います違います……ウチの弟ですよ。従兄弟の國行、知ってますよね? アイツの元セフレと水月くんがデキてて、別れたつもりはなかった國行が水月くんにセフレちゃん盗られたと思ってキレたっぽいんですよね」
「はぁ……!? ア、アンタんとこの従兄弟って確か、二メートルあったわよね……嘘でしょそんなの水月死んじゃう!」
「前に顔殴られたヤツは顔面陥没したし、腹殴られたら内臓痛めたり破裂したりするんで、早急に病院に行くことをオススメしますね……っていうか勧めといたんですけど、水月くん素直に行ったんでしょうか? その治療費を始めとして慰謝料を請求していただきたいんですが、まだ金額決まってないみたいですね。水月くんから今回のこと聞いてないんですか?」
「聞いてないわよ……何一つ」
水月は私に何でも相談してくれると思っていた。キスの仕方も、デートに着ていく服も聞いてきたから、隠し事なんてしないのだと思い込んでいた。
違った。私は水月の彼氏の元カレの存在すら知らなかった、大切なことは何も相談してくれていなかった。水月はいつもそうだ、イジメられても黙っていた、セイカと付き合い始めたことも黙っていた、黙ったままアイツを家に匿っていた。
「……どうして何でも相談してくれるって思ってたのかしら、あの子は……自分が本当に辛い時は黙り込んじゃうのに。いつも、そうなのに」
毎日顔を合わせて話していれば、殴られるようなことになる前に気付けたかもしれない。外泊に一切制限をかけなかったのは失敗だったのだろうか。
「今回のことは國行にだいぶ非があるんで、いくらでもお支払いしますよ」
「……どーも」
写真でしか見たことがないけれど、ヤツは身長が二メートルもある上に筋骨隆々でもあったはずだ。水月には毎日筋トレをさせているし、ダイエット中はランニングも何十キロとさせていたけれど、その体格差は恐ろしい。
「…………」
心配だ。どこか骨を折ってはいないだろうか、内臓を痛めてはいないだろうか、病院にはちゃんと行ったんだろうか、気になって気になって弁当をつつく手が止まった。
「……そうそう、その場に秋風くんも居たんですよ」
「何、また欲しがるの。いくらでも売らないわよ」
このアルビノマニアの変態は写真を見せて以来ずっとアキを欲しがっている、見せなければよかったとしょっちゅう後悔する羽目になった。
「彼……俺を國行と勘違いしたらしくて、見た瞬間に手元にあった刃物投げてきたんですよね。俺じゃなかったら目潰れてたんじゃないでしょうか、國行俺よりは反射神経悪いし……」
「そうなの……悪かったわね。でもアンタの従兄弟が悪いのよ、何ともなかったんだしいいでしょ」
「ええ、話したいのはそんなことじゃありません」
骨を噛むような音を立ててジャーキーを食いちぎり、飲み込んだ男は人差し指を立てた。
「やっぱりあの子俺にください。人間の急所に刃物を投げ付ける際の躊躇のなさと判断の速さ、投擲の正確さ……才能がありますよ」
「……メイドの?」
男の雰囲気が変わって気味が悪くて、茶化すように言ってみた。
「写真見せてもらっただけの頃は単に俺専用お茶汲みメイドとして欲しかっただけなんですが、今は違います。犬として欲しい。穂張組には俺の仔犬が数人居ます、フタを始めとして彼の弟分数人は俺が拾った仔犬です」
「…………犬、ってのは何の隠語かしら」
「何でも屋ですね。クラッキング得意なヤツも居るし、逆にデジタル壊滅的だけど人の心に入り込むのが上手いヤツも居る……コイツらは情報収集役ですね。フタは恵まれたフィジカルから戦闘要員として調教しましたが、騙されやすくて忘れっぽくて温厚なのでイマイチ扱いにくくて……まぁ疑わず命令を聞いてくれるとこはいいとこですけど」
ヤクザをより強化して専門的にした連中……ってことかしら。何に使ってるの? 産業スパイか何か?
「サンにも稽古をつけてやったんですが、あの子途中で組長辞めちゃいましたし……ヒトは俺の稽古受けてくれなくて。だからアイツ経営下手だしガチのステゴロとなると弱いんですよね」
「……穂張組の連中なんてどうでもいいのよ、アキは渡さないわ」
「殺人、ってのは才能が要る。人を殺しても悪夢を見ない人間……これやったらコイツ死ぬなって時に一瞬も止まらず動ける人間、殺人に抵抗のない人間というのは……案外少ない」
何を至極当然のことをそれらしく話しているんだか、そんな人間ばかりだったら集団が成り立たない。
「フタすら相手を殺すとなると止まっちゃうんですよね、ヒトは悪ぶってるんで俺や子分が居ればカッコつけて殺しますが……予後はフタの方が優秀です、彼はすぐに忘れてしまいますから。ヒトは子分には気取らせませんが結構気にします」
「だから何なのよ、連中の情報なんてどうでもいいのよ! ヤクザのことなんてこれ以上知りたくない! 私は普通に生きたいの、水月にも穂張には近付いて欲しくなかったのに……!」
「アキくんは躊躇なく人を殺せるタイプかもしれない」
「なっ……! なんてこと言うのよ! そんな訳ないじゃない!」
「確証はありませんが、違ったとしてもまぁ優秀そうではあるんでメイドではなく俺の仔犬として欲しいんですよね」
仔犬なんて可愛い言い方をしているが、この男の手駒でしかない。アキをそんなものにさせてたまるか。
「調教してみたいんです、何週間か貸してくれませんか?」
「嫌よ、絶対に」
「……そうですか、残念」
「アキはね、イカれた親父に無理矢理バカみたいな訓練させられてたのよ。自分の息子を歴史に残したいって、白い死神の名前をアキのものにしたいって、伝説の傭兵にするんだって……」
「白い……あー、某国のスナイパーさんでしたっけ」
「せっかく中二病男から逃げられたんだから、あの子は普通に幸せになるんだから、暴力なんかからは足を洗うんだからっ、アンタはもう二度とアキに近付くな!」
「……そういう訳にもいかないんでしょう?」
立ち上がって見下ろしているのに、男は私を見上げているのに、男の目は私を見下している。そう感じる。
「そのお父さん、来るんですよね。近いうちに……日本に。離婚したからってアキと会えなくなるのはおかしいって」
「……ええ」
「話し合いの場に俺を呼んだのはあなたでしょう?」
従軍経験のない単なるミリオタ、中二病の自称軍のスペシャリストとはいえガタイの良さや格闘技術は本物。暴れられたら私と葉子の女二人ではどうしようもない、だから父親が日本に来ると決まった時に私は彼を頼った。頼ってしまった。
「そうなれば自動的に俺はアキくんに会うことになりますよ」
「……そうね、だとしても何もさせないわ」
「そうですか。まぁ俺は國行と違ってそんな実力行使とか強引とか無理矢理とか嫌いなんで大丈夫ですよ。それじゃ俺はこれで」
面倒臭いことにならないよう私に恋愛感情を抱いていないというのを第一条件にして探したのが悪かった。私をエサに何人も男を利用してしまえばよかった。こんなヤツ頼るんじゃなかった。
「……この嘘つきドS野郎」
去っていく彼の背に、本心を語ることのないヤツの背に、人を踏み躙ることが趣味のようなアイツの背に、効くことのない悪口を吐いた。
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