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クラス委員長になる (水月+リュウ・カンナ・シュカ)

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配布された教科書に名前を書く。鳴雷なるかみ 水月みつき……結構カッコイイ名前だよな、水はもうちょい画数多くてカッコイイ漢字にして欲しかったけど。

「ん……? 誰か、天正てんしょう知らないか?」

教科書を配り終えた教師はようやく天正の不在に気付いた。

(彼ならさっきトイレで踏んできましたぞ! とか言えませんなぁ……)

心の中で笑いつつ名前を書き続ける。しばらくすると教室の引き戸が開いた、リュウが戻ってきたようだが俺は無関係を装ってペンを走らせる。

「天正、どこ行ってたんだ」

「自分には関係ないわ」

踏まれて射精して遅れたくせに強がっているリュウが面白い。ダメだ、顔に出すな。でも強がるリュウの顔は見たい……顔を上げるとリュウと目が合った。

「……何見てんねん死ねやっ!」

机を蹴られ、油性ペンで教科書の裏表紙にカッコ悪い縦線を描いてしまった。

「こら天正! 何してるんだ謝りなさい!」

「うっさい触んな!」

また机を蹴られる。カンナが俺とリュウを交互に見て慌てている。愛しい俺が絡まれているので口出ししたいが勇気が出ないって? 可愛いヤツめ。

「天正、お前のせいで変な線引いちゃっただろ。ちょっと見ただけで蹴るなよ」

リュウは一瞬口元を緩ませ、教師の手を振り払って俺の机に乗っていたものを全て落とした。新品の教科書はもちろん、筆箱の中身も散乱する。

「そらえらいすまんかったのぉ……なんて誰が謝るかボケ、死ね」

「天正……」

立ち上がり、焦るカンナの可愛さを視界の端で堪能する。

「なんや、殴るんか……? そらええわ、やってみぃ。さっきの本気ちゃうかったやろ、本気でこいや」

しかしこんな大勢の前で殴ったりしたら俺の株が下がる、それが狙いか? いや、本物のドMで殴られ待ちという線もあるか。どちらにせよ今はダメだ。

「そんなことする訳ないだろ、落ちたから拾うだけだ」

リュウの前に屈んで落ちた教科書類を拾い集める。そうするとカンナを始めとして周りの生徒が手伝ってくれる。

「ありがとう、みんな」

微笑みをばら撒き、ホコリを払った教科書類を机に置いてリュウに向き直る。

「そんなに苛立ってどうしたんだ、何か嫌なことでもあったのか? いつでも相談乗るぞ」

教師の前だし好青年を演じておこう。

「はっ! 優男演技しくさってキショいわカス、死ね」

「演技じゃないよ、本当に……何でも相談してくれ。俺に出来ることなら手伝ってやるから」

リュウの肩に手を置くとクラスメイトの一部が「羨ましい」と漏らす。俺に早速ファンがついたらしい、超絶美形だから仕方ないな、抱いてやるから名乗り出ろ。

「な? 竜潜りゅうせん。クラスメイト頼れよ」

「……クソ八方美人が、俺は自分の本性知っとるわ。死ね」

リュウはべーっと舌を突き出し、中指を立て、俺のスネを蹴って教室を出ていった。すぐに教師が彼を追う。

「痛ぁ……フルコンボだドン……」

小声でボヤきながら蹴られた足を軽く揺らす。蹲りたいが、クラスメイトの手前そうはいかない。

「みぃ、くんっ……! ぁ、し……」

「カンナ、ありがとう、大丈夫だよ」

心配してくれたカンナに微笑むと彼は頬を赤くし、周囲からはまた「羨ましい」との声が上がった。

「えっ、と……先生行っちゃったな。確か、教科書の配布とクラス委員決めやるって言ってたよな。よし、みんな! 先生帰ってくるまでに委員決めちゃおうか!」

教卓に立って教師が置いていったメモを見る、クラス委員の役職と各人数が書かれている。

「誰かメモ頼めないか?」

「ぁ…………ぼく、や……る」

「カンナ、ありがとう。頼んだよ」

誰も俺に反対しない、俺はこのクラスで今一番輝いている、支配者になれる。中学の頃とは違うんだ。

「じゃあ、クラス委員長から決めるかな」

「鳴雷以外居ないだろ!」
「お前だって絶対!」
「多数決取るまでもねぇよ!」

「……一応決は取るよ。じゃ、俺が委員長でいいと思う人手挙げて……うん、全員だな! ありがとうみんな!」

ですぞなんて言わないよう気を付けるのは当然ながら、少々コミカルに話した方がウケはいいだろう。加減が難しいな。

「じゃあ副委員長は……」

「私が立候補します」

クイッと眼鏡を上げながら手を挙げたのは、耳にかかる程度で切り揃えられた綺麗な黒髪をセンター分けにした生徒。眼鏡の下の切れ長の瞳が魅力的な美人だ。

(おぉっ……眼鏡っ子キター! その大事な眼鏡にぶっかけてやりたいですな。ふほほ……一人称私、敬語キャラ、理想的な真面目くん。ああいうのは一回快楽を知ると堕ちるの早いのでそ~)

クラスメイト達はまだお互いのことがよく分かっていない、多数決で決めようなんて言っても票がバラけるのは分かりきっているし、俺恋しさに全員が立候補するかもしれない。

「いかにもまとめ役って感じだな、みんなどうする?」

それとなく民意を誘導し、同意を得て眼鏡ボーイを副委員長に指名。

「じゃあ頼むよ、えっと……名前書かないといけないから漢字教えてくれるか?」

名前を知らないと言うよりはこちらの方が印象がいいだろう。

鳥待とりまち 首夏しゅかです。鳥に待つ、首に夏です」

「ありがとう。カンナ、書いておいてくれ。じゃあ、次は──」

他のクラス委員を決めていく、美化委員だとか飼育委員だとか、そういったものだ。

「……飼育か。この高校って何か飼ってるのか?」

「知らないんですか? ウサギ四羽にニワトリ二羽、カピバラ三匹ですよ」

「カピバラ……? えっと、飼育委員誰かー……居ないな、後回しだ。次……」

早速頼りになる副委員長だ。俺は少し彼との距離を詰め、教卓の影で太腿を触れ合わせた。

「じゃあ、図書委員誰かー……お、カンナか」

カンナが図書委員──

(図書室でこっそりヤるのもまた青春ですぞぉ~!)

──興奮してきた。

「よし、だいたい決まったな。後は……?」

委員は順調に決まっていき、後回しにした飼育委員が余ってしまった。

「天正を飼育委員に入れとくか」

「責任感のない彼に生き物の世話を任せるなんて言語道断です。立候補者を募るべきでは?」

「天正がサボるなら俺が代わりにやるよ、嫌な人に無理にさせてもよくないだろ? 生き物苦手な人も居るだろうし」

「……鳴雷くんは生き物が好きなんですか?」

「ニワトリはちょっと怖いかな……小学校の時につつかれてさ」

正確にはニワトリのエサになれと言われて飼育小屋に閉じ込められた、だ。

「そうですか、ではニワトリは私が担当しましょう。副委員長ですから、委員長の至らぬ所は私が補います」

「ありがとう、鳥待。いい相棒になれそうだな」

教卓の影でそっと鳥待の腰を抱く。

「……ええ、仲良くしてください」

鳥待は顔色を全く変えずに俺を見つめ返し、社交辞令の笑みを浮かべた。

(むむ、手強いですぞ。カンナたそならこれで堕ちてるでしょうに……)

手強くてこそ、攻略しがいがあると言うもの。
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